『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』水上勉(1919-2004)1978年・文化出版局1982年・新潮文庫++++「承弁や。またお客さんが来やはった。こんな寒い日は、畑に相談してもみんな寝てるやもしれんが、二、三種類考えてみてくれ」承弁というのはぼくの僧名だった。酒の方が第一だから、先ず、燗をした徳利を盆に、昆布の揚げたのをつまみにのせて出しておいてから、台所で考える。くわいを焼くのは、この頃か . . . 本文を読む
『ふくろう女の美容室』テス・ギャラガー(米:1943-)橋本博美訳"At The Owl Woman Saloon" by Tess Gallagher(1997)2008年・新潮社 ++++最終的に、三人の男が法廷に引きずり出された。私は、はるばるミズーリ州のボリヴァーまで出かけ、両親と合流し、裁判を傍聴した。しかし、私たちがこの目で見たのは、主犯と思われた容疑者が無罪放免となり、共犯を自供した . . . 本文を読む
『長いお別れ』レイモンド・チャンドラー(米:1888-1959)清水俊二訳"The Long Goodbye" by Raymond Chandler(1954)1976年・ハヤカワ文庫++++車は丘を登って、私の家のアメリカ杉の階段の前で停まった。私は車を降りた。「乗せてもらって助かった。何か飲まないか」「この次にするよ。一人の方がいいだろう」「ずっと一人でいたんだ。もうあきてる」「さよならを言 . . . 本文を読む
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ もっとも嫌われもっとも影響力のあったアルバム』ジョー・ハーヴァード中谷ななみ訳"Velvet Underground's Velvet Underground Ahnd Nico" by Joe Harvard(2004)2010年・ブルース・インターアクションズ ++++ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの設立メンバーのひとり、ルー・リードはかつてこう . . . 本文を読む
『プリンストン高等研究所物語』 ジョン・L・カスティ 寺嶋英志訳 ”The One True Platonic Heaven: A Scientific Fiction of the Limits of Knowledge”by John L.Casti(2003) 2004年・青土社 ++++ オッペンハイマーがボームの方向にフォークを振って合図をしたとき、いまにも . . . 本文を読む
『人間の土地』 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(仏:1900年-1944年) 堀口大學訳 "Terre des hommes" by Antoine de Saint-Exupéry(1939) 1955年・新潮文庫 ++++ それというのも、ぼくらはおたがいの邂逅(めぐりあい)を、常日頃から、長いあいだ待つ習慣になっているからだ。 なぜかというに、航空路の僚友は、いずれ . . . 本文を読む
『よい匂いのする一夜』池波正太郎(1923-1990)1981年・平凡社1986年・講談社文庫++++私は、この宿の家庭的なもてなしと、朴葉味噌(ほおばみそ)が、すっかり気に入ってしまった。囲炉裏の上の金網へ朴の葉に盛った味噌とネギのぶつ切りを乗せ、焼きあがってくるのを、ふうふういいながら食べる。東京の者にとっては、このうまさはまったく経験のないものだった。(戦争が終わったら、また、高山や、この宿 . . . 本文を読む
『マラコット深海』コナン・ドイル(英:1859-1930)大西尹明訳”The Maracot Deep”by Arthur Conan Doyle(1929)1963年・創元SF文庫生物学の権威マラコット博士は、大西洋のカナリー諸島の西方に位置する新発見の海溝、名付けてマラコット深海に挑み、その底を探検するという。博士のストラッドフォード号には、深海に潜るために作られた特別 . . . 本文を読む
『イギリスの釣り休暇』
J・R・ハートリー
"Fly Fishing"by J,R,Hartley(1991)
Illustrated by Patrick Benson
永井淳・芹沢一洋 訳
1994年・早川書房
会えて良かったな、この本。
ロアルド・ダールの自伝(『少年』とか『単独飛行』)を読むような感じ。
翻訳も、ダールを訳している永井淳さん。
釣りシーンの記述はマニアックすぎて、 . . . 本文を読む
『誕生日の子どもたち』トルーマン・カポーティ(米・1924-84)村上春樹訳”Children on Their Birthdays” by Truman Garcia Capote(1949)2002年・文藝春秋2009年・文春文庫++++家では朝食がいちばん充実した食事であり、昼食(日曜日はべつにして)と夕食はむしろ簡素なもので、朝食の残り物で間に合わされることも多かっ . . . 本文を読む
『夢の中まで左足』名波浩(1972-)増島みどり(1961-)2009年・ベースボール・マガジン社++++―――ミッドフィルダー全般の守備能力に絞ると、選手の見方も変わりますか。オレはパスのセンスよりも、守備センスをものすごく大事に見るね。パスは分かりやすいけど、守備のセンスは体が強いとか、フィジカルのような見た目とは違う。そのセンスでずば抜けているのは、小笠原(満男、鹿島)、今野(泰幸、FC東京 . . . 本文を読む
『ビッチマグネット』
舞城王太郎(日:1973-)
2009年・新潮社
私は友徳の横に寝転がり、布団の中に入る。
友徳の部屋で一緒に寝るのは初めてだ。
「友徳、私、病院行くから」
「・・・へへ。そうした方がいいよ」
「あんたもいつか一緒に行こ」
「・・・うん。いいよ」
私は横を向いていて、友徳も私を背中から抱くようにして体の線を合わせてくれている。
お互いの膝が軽く曲がって重なって、英 . . . 本文を読む
『偉大なるデスリフ』
C・D・B・ブライアン(米・1936-)
村上春樹訳
”The Great Dethriffe”by Courtlandt Dixon Barns Bryan(1970)
1987年・新潮社
1990年・新潮文庫
僕らは世界の転換の門口に立っていると思う。
それはこの国に住む白人・黒人に限られたことではなく、世界中で進行しつつある。
これまでに若い連中がやったことを . . . 本文を読む
『ニューヨーク紳士録』 常盤新平(日:1931-) 1983年・弥生書房 1991年・講談社文庫 ++++ 本がふえる一方で、たまった本を片っぱしから読んでゆけばいいのだが、貧乏暇なしで、読みたい本もどんどん後まわしにされてしまい、いつか忘れてしまって、一年か二年たったころ、あれ、こんな本もあったのかとびっくりする。 持っている本を読まないのは、持っていないことと同じである。 ++++ . . . 本文を読む
『ガラスの街』ポール・オースター(米:1947-)柴田元幸訳"City Of Glass" by Paul Auster(1985)2009年・新潮社++++夜だった。クインはベッドで横になって煙草を喫い、雨が窓を打つのを聞いていた。いつ止むのだろう、彼はふと思い、朝になったら俺は長い散歩に出る気分だろうか、それとも短い散歩だろうか、と考えた。脇にある枕の上には、マルコ・ポーロの『東方見聞録』が伏 . . . 本文を読む