つらつら日暮らし

7月17日 天童如浄禅師忌(令和5年度版)

中国曹洞宗の天童如浄禅師は、道元禅師の御本師であり、如浄禅師から嗣法したからこそ、日本に曹洞宗の法脈が伝来したのである。如浄禅師の没年だが、かねてより諸説があったものの、近年では宝慶3年(1227)7月17日に遷化されたという。道元禅師は、如浄禅師に係る御教示を数多く残されているが、この御遷化された日付について、明示したものはないと思われる。だが、7月17日に行っておられたであろうことは、以下のことから知られる。

・(133上堂)解夏上堂云……
・(134上堂)天童和尚忌上堂云……
    ともに『永平広録』巻2


他にもあるのだが、とりあえず1箇所あれば良いので引用してみたのだが、道元禅師は越前に移転されてから、ほぼ毎年のように先師・如浄禅師の忌日に合わせて上堂されている(京都・興聖寺では行われた記録は無い。ただし、行っていることを否定するわけではない)。その日付は分からないものの、7月15日の「解夏」の次に行われているため、7月17日と矛盾しない。

そして、明確にその日付が理解出来るのは、瑩山紹瑾禅師が晩年に編集された『瑩山清規』などである。

七月十七日、天童浄和尚忌なり。夏中、塔頭に就いて諷経す。
    『瑩山清規』「月中行事」


瑩山禅師は道元禅師御遷化後約20年後に永平寺で安居されている。その頃はまだ、懐奘禅師がご存命のため、つまり、懐奘禅師が護持されたであろう、永平寺の諸行持に随喜され、その様子を『瑩山清規』として示されたものと拝察される。つまり、ここから、道元禅師の時代の行持の様子を推測することが可能だと述べたいのである。

さて、如浄禅師と言えば、やはりその御最期が思われるところである。如浄禅師の語録から学んでみたい。

 師、六坐道場にて未だ稟承せず、衆、或いは是れを請う、師云く、待て。我れ涅槃堂裡に果を拈出し、臨終に拈香して云わく、
  如浄の行脚四十余年、首め乳峯に至り、失脚して陥穽に堕す。
  此の香、今免がれず鈍置なる我の前住・雪竇足庵大和尚のために拈出す。
  并びに辞世の頌を書して云わく、
   六十六年、弥天に罪犯す、
   打箇の𨁝跳を打して、活きながら黄泉に陥つ、
   咦、
   従来の生死、相い干からず。
    『如浄録』巻下、『大正蔵』巻51所収


ちょっと、訓読には自信が無いが、以上の通り読んでみた。なお、現行の『大正蔵』所収本が、道元禅師の手元にあった『如浄録』と同じ系統であるかどうかは、慎重な判断を要する。道元禅師の手元に、『如浄録』があったことは疑いない。以下の教えが知られている。

天童和尚語録の到る上堂……
    『永平広録』巻1-105上堂


以上の通りだが、まだ興聖寺におられた頃に、中国から『如浄録』が送られたようで、それを受け取り、道元禅師は上堂し、それを大衆に紹介された。

そこで、先ほど見てみた『如浄録』の一節を読んでみたい。以下、拙訳だが、如浄禅師は6つの道場に於ける開堂にも、未だ稟承(どの師より仏法を受け嗣いだか、表明すること)していなかった。そのため、御遷化が近付いたことから、大衆がそれを求めたところ、如浄禅師は「待ちなさい」といい、涅槃堂(最期、遷化するための場所)でそれを行うと示され、臨終の時に初めて、本師・雪竇足庵大和尚(一般的には雪竇智鑑大和尚)のために焼香されたのであった。普通、自らの嗣承は初めて住職となる、首先住職地の祝国開堂時に行うものだが、如浄禅師は名利心の否定として、それを行わなかったのである。

道元禅師は名利心の否定について、言葉厳しくご指導なさっている。

しかあれば、すみやかに生死の愛名をすてて、仏祖の行持をねかふべし。貪愛して禽獣にひとしきことなかれ。おもからざる吾我をむさぼり愛するは、禽獣もそのおもひあり、畜生もそのこころあり。名利をすつることは、人天もまれなりとするところ、仏祖、いまだすてざるはなし。あるがいはく、衆生利益のために貪名愛利す、といふ。おほきなる邪説なり、附仏法の外道なり、謗正法の魔儻なり。なんぢがいふがごとくならば、不貪名利の仏祖は利生なきか。わらふべし、わらふべし。
    『正法眼蔵』「行持(下)」巻


実は、この一節は、如浄禅師が名利心を徹底的に否定されたことを讃歎した言葉である。厳しい表現ではあるが、しかし、それほどに名利心を否定なさったことを知るべきである。拙僧もまた、名利心の否定を主張するものである。名利心は、いつの間にか自身の弱いところに入ってくるように蝕んでくる。ただし、上記のような御垂示を知っているだけで、名利心からは離れやすくなる。そのため、自己自身のためにも、この教えを学ぶのである。

今日は、天童如浄禅師忌であるから、名利心の否定という一面を強調するべきだと思ったのである。南無天童如浄大和尚。

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