つらつら日暮らし

焼香師について

現在の曹洞宗では、「焼香師」という言葉が用いられている。しかし、この言葉は古い文献にさかのぼることが出来ず、『曹洞宗宗制』や『行持軌範』には用例はあるものの定義されていないらしい。よって、今回は定義的な問題を含めて検討したい。

まず一般的な仏教辞典には、「焼香師」は立項されていない。これは、中国で編まれた漢訳仏典に「焼香師」が登場しないことを意味する。また、江戸時代の臨済宗の学僧・無著道忠禅師『禅林象器箋』にも、立項されていない。これは、江戸時代中期に、用例が存在しなかったと理解して良いのではなかろうか。

ただし、『禅学大辞典』には「焼香師」が立項され、以下の意味を見出すことが可能である。

①法会に際し香語を唱え香を拈ずる式師で、導師のこと。
②本山などの大寺院の特別法要に、とくに外部から式師の役を勤めるもの。


そこで、②からは、両大本山などで、開山忌や他の法会に際して式師(導師)を依頼される場合、「焼香師」と呼ばれていることが分かり、おそらくはこれが一般的な焼香師への理解であると思う。一方で、①の理解もあって、これは、一般的な地方寺院などで、特に他寺院の住職に対して式師(導師)を依頼する場合、焼香師と呼ばれていることが分かる。

ところで、「焼香師を勤めるために必要な資格」であるが、この「香語を唱え」が影響していると思われる。伝統的な見解として、正式な香語を唱える場合は、「九条衣以上」の大衣(説法衣)を着ける必要があるとされる。そうなると、色衣の九条衣以上となり、当然に転衣が済んでいなくてはならない。また、『宗制』では、宗門の法要儀式は「教師」が行うこととなっているため、二等教師以上の資格を要する。

よって、「焼香師」を勤める資格とは、九条衣以上の色衣を着けられる「教師」となる。また、昭和初めの頃の理解では、「斑色袈裟」の九条衣を着けることが可能だという指摘(『曹洞宗重要法規及書式集 昭和5年版』鴻盟社・昭和5年)もあり、そうなると、一寺の住持として建法幢を終えている「大和尚」が最低限の資格になるだろうが、それは「斑色袈裟」を着ける場合であって、着けない場合はそうではない。

一般的な慣習では、他寺院の住職に依頼される場合が多いと思われる(『宗制』上の定めではない)。どのような法要に焼香師が必要であるかだが、これは明確な規程は無く、各寺院で決めて良い話といえるだろうか。先住忌や開山忌、あるいは二祖三仏忌などを勤めるにあたり、本寺や法類寺院など、他寺院の住職にお願いしたいということであれば、その時に拝請された式師が焼香師であるし、別に、他寺院からは式師を呼ばずに寺院内のみで、住職が自ら式師を勤めても良いわけである。自分で式師を勤める場合には、焼香師とは呼ばれない(定義上は、呼ぶことも可能であるとは思うが、慣習に従う)。

なお、尊宿喪儀法で、他寺院の住職に式師をお願いする場合、『行持軌範』では「仏事師」と呼ばれ、焼香師とは呼称されない。

以上のことなどが、一応までの話として理解出来るだろうか。

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