つらつら日暮らし

日蓮聖人の説く菩薩戒

拙僧つらつら鑑みるに、日蓮宗という宗派は、戒についてほぼ全く重んじる様子が無い。日本に於いて、同様の態度は同宗派と浄土真宗に見られるが、非常に特徴的であると思う。無論、理由もあって、『法華経』或いは『法華三部経(特に、『観普賢菩薩行法経』との関連)』で、以下のようにあることが大きいのであろう。

爾の時に行者若し菩薩戒を具足せんと欲せば、応当に合掌して、空閑の処に在って遍く十方の仏を礼したてまつり、諸罪を懺悔し自ら己が過を説くべし。〈中略〉一日乃至三七日、若しは出家・在家にても、和上を須いず諸師を用いず白羯磨せざれども、大乗経典を受持し読誦する力の故に、普賢菩薩の助発行の故に、是れ十方の諸仏の正法の眼目なれば、是の法によって自然に五分法身・戒・定・慧・解脱・解脱知見を成就す。
    『観普賢菩薩行法経』


こうあって、「菩薩戒」の名称が出て、それに関する話もあるのだが、具体的にどのような戒を受けるのかが分からない。無論、菩薩戒というのは大概「三聚浄戒」を指す。よって、それを受けるとでも書けば良いと思うのだが、結局上記一節で明らかになるのは、「懺悔し、菩提心を発し、大乗経典(法華経)を受持すれば、「五分法身・戒・定・慧・解脱・解脱知見」を成就する」としているのである。結果として、戒本は知られず、しかも、それは法身や解脱知見などに埋没してしまうのである。

さて、そうなると、この「菩薩戒」について、日蓮聖人などがどう理解していたかが気になる。まずは、以下の一節である。

 此の教は但だ菩薩計りにて、声聞、縁覚を雑へず、菩薩戒とは、三聚浄戒なり。
 五戒、八戒、十善戒、二百五十戒、五百戒、梵網の五十八の戒、瓔珞の十無尽戒、華厳の十戒、涅槃経の自行の五支戒、護他の十戒、大論の十戒、是等は皆菩薩の三聚浄戒の内、摂律儀戒なり。
 摂善法戒とは、八万四千の法門を摂す。
 饒益有情戒とは、四弘誓願なり。
    『一代聖教大意』


残念ながら、写本でしか残っていないようだが、菩薩戒を三聚浄戒であると明言した上で、三聚浄戒の一々を説明している文章だといえる。これは『菩薩瓔珞本業経』「大衆受学品第七」の一節を、更に変えて示されたものである。なお、この解釈から理解出来ることを示すとなると、諸戒本は全て、「摂律儀戒」に収めるという考えであり、極めて一般的な見解だといえる。

そして、摂善法戒とは、釈尊の教門全てであるという。最後に、摂衆生戒ともいわれる饒益有情戒については、「四弘誓願」を充てている。ここに四弘誓願を充てる発想は、諸宗派の菩薩戒作法の一部に「四弘誓願」を組み込むことがあるから、特段珍しいことでは無いようにおもう。

また、真筆では、次のように示されている。

戒は五戒・八戒・十戒・十善戒・二百五十戒・五百戒・三聚浄戒。此れ尽未来際の菩薩戒也。梵網経・瓔珞経の戒是れ也。
    『十宗事』


戒について、ちょっとよく分からない解釈をしておられるようだが、ここで、「菩薩戒」というべきは、最後の「三聚浄戒」だけなので、「是れ尽未来際の菩薩戒也」がどこまで掛かるのかが気になるが、上記文章からはよく分からない。更に、『梵網経』『瓔珞経』の戒であるとはするが、それも『梵網経』であれば「十重・四十八軽戒」や「一心金剛宝戒」などと呼ばれるのだろうし、『瓔珞経』であれば「三聚戒・十無尽戒」となるところだろう。

よって、この辺を見ると、日蓮聖人の戒律への理解は、どれほどだったのかな?と若干不安になってくる。

それから、比較的若い時分に著したとされる『戒体即身成仏義』や『戒法門』を見ると、経論に諸戒があっても、「五戒」を根本とすると説かれている。なるほど、確かにそういう見方も可能ではあるが、これだけだと「菩薩戒」への深まりが無くなってしまう。

また、日蓮聖人の年譜などを見ても、本人の受戒について指摘するものがほとんど見られない。かの千葉鴨川の清澄寺では道善法師に就いて出家したとはいうが、この人はどのような宗派だったのだろうか?現在でこそ日蓮宗の大本山となっている清澄寺ではあるが、当時の宗派はどこだったのだろうか?天台宗で台密修学の場だったという見解もあれば、真言宗で東密修学の場だったという人もいるし、両方混在しているとする人もいる。

無論、その何れに拠るかで、出家の際の作法も変わってくるだろうし、当然に受ける戒も異なることだろう。また、日蓮聖人自身が出家させた弟子もいるようだが、この時の作法もどうなっていたのだろうか?結局、これらの辺りに曖昧さが残るということそのものが、同宗派をして戒学研鑽にそれほど熱心ではないということを示しているように思った次第である。

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