比丘に示す、慎んで放逸なること勿れ
増一阿含経に云わく、
眼、色を以て食と為す。
耳、声を以て食と為す。
鼻、香を以て食と為す。
舌、味を以て食と為す。
身、触を以て食と為す。
意、法を以て食と為す。
涅槃、放逸無きを以て食と為す。
如今の叢林中、三八念誦、鐘を鳴らして衆を集め、維那、白して云わく、衆等、当に精進を勤むるは頭然を救うが如くすべし。但だ無常を念じて慎んで放逸なること勿れ、と。
此の語、増一と頗る同じ。往往にして聞く者、以て常例と為す。風の樹を過ぎるが如く、略して采を餐せざれ。仏祖の意、遂に虚設と成る。
『緇門警訓』巻4
ここに、既に「三八念誦」という語句が出ていることを確認していただけたかと思う。本書は、元々『緇林警訓』という文献が編まれていたが、それを中国の皇慶2年(1313)に組み直して刊行された。実際のところ、中国宋代の臨済宗の影響が強い文献であるので、その中で用いられていた語句を見ていくような印象である。
それから、上記には挙げなかったが、「三八念誦」という4字について学ぶなら、以下の一節も見ておいた方がいい。
五日に陞堂して宗旨を激揚し、
三八に念誦して龍神に報答し、
玄言を請益して今古を発明し、
家訓を小賛して叢林に綱紀たり。
『禅苑清規』巻2「小賛」項
これは、「小賛」の項目ではあるのだが、その説明に入る前、上記のような解説が見て取れる。これは、いわゆる禅林に於ける月中行事の説明というべき記述である。簡単にいうと、5と10の日ごとに陞堂(上堂)し、3と8の日には念誦を行い、他に請益や小賛の行事について、ごく簡単に概要を示しているのである。
それで、先の『緇門警訓』では念誦の内容から「衆等、当に精進を勤むるは頭然を救うが如くすべし。但だ無常を念じて慎んで放逸すること勿れ」という語句を導いており、『禅苑清規』の場合は、「龍神に報答し」となっている。これらは、「念誦」の言葉に関わりがあるということなのだろうか。確認してみようと思う。
・初三・十三・二十三念、皇風永く扇ぎ、帝道遐かに昌え、仏日輝きを増し、法輪常に転じて、伽藍土地・護法護人・十方施主、福を増し慧を増し、上良縁の為に、清浄法界の十仏を念ず〈云云〉。
・初八・十八・二十八念、大衆に白す、如来大師、般涅槃に入り、今に至って皇宋景定四年、已に二千二百一十三載を得たり〈年に随いて増す〉。是の日、已に過ぐ、命、亦た随いて減ず。少水の魚の如し、思、何の楽か有らん。汝等、当に精進に勤むるは頭然を救うが如くすべし。但だ無常を念じて、慎んで放逸なること勿れ。伽藍土地・護法護人・十方施主、福を増し慧を増し、如上縁の為に、清浄法身の十仏を念ず。
『入衆須知』「念誦」項
いわゆる末尾が「三」の日に行う「三念誦」の念誦文と、「八」の日に行う「八念誦」の念誦文である。ここから、『緇門警訓』の方は「八念誦」の念誦文が該当することが分かるが、『禅苑清規』が「龍神に報答す」と述べていることには注意が必要である。というか、最初から『禅苑清規』を引用しとけ、という声が聞こえてきそうだが、そちらも確認してみた。
・・・いや、龍神を読み込んだ念誦文は無いな。それを思うと、「伽藍土地・護法護人」辺りに混ぜてしまっているのかもしれないが、それも詳細は不明。それから、禅林では「八念誦」で釈尊入滅からの年数を数えていたので、意外とその辺の数字は了解されていた。参考までに、『入衆須知』の「八念誦」に出ている数字は中国南宋代の景定四年(1263)なので、その段階で、釈尊入滅から「2213年」過ぎていたという。B.C.950年くらいに入滅したという考えだったので、今の様々な書籍に載る数字よりも、5~600年ほど前の人物となる。また、『入衆須知』の成立年代も、上記の宋の年代辺りだと考えられている。
それから、『緇門警訓』で引用している『増一阿含経』の典拠だが、同経巻31「力品第三十八之一」だと思われる。その場合、最初の「眼」のみ記載が明らかに異なり、『緇門警訓』では「色を以て食と為す」となるが、『増一阿含経』の場合は「眠を以て食と為す」としており、若干の相違が見られるが、これは睡眠せずに修行していた阿那律尊者(アヌルッダ)の眼がかなり悪くなってしまったことへの治療法を模索した時に出た言葉であった。釈尊は方便をもって、阿那律に睡眠時間を持たせようとし、この話をしたのだが、阿那律は「涅槃は何を食するか?」という問いを発し、釈尊が「無放逸を以て食と為す」と答えたところ、阿那律はますます睡眠を否定し、結果、天眼を得たという話になっている。
『緇門警訓』は、その問答の全体を把握した上で、上記のように話を組み直したのであろう。今日は、そんなことが把握できたので、記事もここまでにしておきたい。
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