TAOコンサル『もう一度シネマパラダイス』

「あなたが館長シネマ会」・・仲間たちとの映画談議と記録
「見逃せないこの映画」・・仲間たちが選んだ作品の映画評

映画「蜩の記」・・理不尽な10年後の切腹を命じられた武士の矜持

2014年10月14日 | あなたの○○○な映画
話題の映画「蜩の記」を観た。


主人公戸田秋谷(役所広司)は郡奉行だが、側室との不義密通の罪で蟄居となり、10年後の切腹とその間の藩史編纂を命じられる。切腹の時期は3年後のこと。その監視役として派遣された壇野正三郎(岡田准一)への命令は、藩の秘め事を知る秋谷が逃亡を企てた時は妻子ともども切り捨てよというものであった。正三郎は事件の真相に不審を抱く一方、切腹という過酷な運命にもかかわらず、恨みを晴らす行動に出ることもなく坦々と藩史編纂に取り組む秋谷の気高い生き方に惹かれて行く。こうした中、正三郎は事件の真相を裏づける文書を入手することになり、ここから物語は大きく動くのだが、・・・。


脚本監督は「雨あがる」の小泉堯史。ロケ地に遠野を選び、田舎の家での緑の情景や武士家族の慎ましい生活を丁寧に描く。秋谷の畑仕事や正三郎の居合抜き・薪割り姿などのシーンも美しい。演出も2台のフィルムカメラを使っての長回し撮影といった凝ったもので、いかにも黒澤映画の伝統を守った映画作りである。



「柘榴坂の仇討」に続けて2本の時代劇映画を見たことになるが、いずれもいい作品であった。
このところ良質の時代劇が増えているが、時代劇映画でないと描けない世界があるのである。これらの映画に一貫して流れるのは、義に生きる武士の生き方であり、武士がひたむきにまもる矜持である。しかし、これらは現代劇映画では描けない。何故か。現代においては己の利益や出世を優先する生き方が当たり前になり、義に生きるなど程遠いからだ。仮に現代劇でそういう人物を描いても、時代遅れと映り見向きもされないであろう。

 そういう意味で、この二つの映画は素晴らしい。いずれも矜持を持って生きる武士のドラマであり、他者への慮りと赦しの精神に貫かれている。これらは如何なる時代においても人間が守るべき大事な生き方であることを、思い起こさせてくれる。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。