gooブログはじめました!

「ロボット前提社会」到来間近。

〇 ヒトはロボに歩み寄れるか!

ルンバブル。新築住宅を検討している消費者の間で、ひそかに流行しているキーワードだ。ロボット掃除機「ルンバ」と、できる、可能といった英語のableを組み合わせた造語である。ルンバが掃除をしやすいよう、最初から家の間取りを設計したり家具の形を工夫したりする行為を指す。

例えば壁や階段の最下層部分に、ルンバを収容して外から見えなくするくぼみをつくっておく。その名も「ルンバ基地」。壁を家の形にくりぬいてルンバが出たり入ったりする様子を見ることで、まるで犬小屋に出入りする飼い犬を見ているような感覚で癒やされている利用者も多いという。

扉のタイプもルンバブルの候補だ。例えば扉の下の溝にほこりがたまってしまうケース。ルンバの性能上、溝のある部分は十分に掃除できないため、吊り戸かつ引き戸にするといった工夫をする人もいるという。洗濯機の下などもルンバが通れる高さ10センチまで上げるなど、ルンバの性能を最大限に生かす工夫を新築の設計に凝らす。

ロボット掃除機「ルンバ j7+」。ルンバを使う前提で家具や間取りを選ぶ「ルンバブル現象」がひそかなブームという
画1、ロボット掃除機「ルンバ j7+」。ルンバを使う前提で家具や間取りを選ぶ「ルンバブル現象」がひそかなブームという。(画像:アイロボット)

「最近はルンバブル、ルンバ基地が当たり前。ルンバありきで家を設計する人が増えている」。ルンバの開発元アイロボットの日本法人の村田佳代PRマネージャー自身、現在新築を建てている最中。施工業者は顧客の変化をこう話したという。

ルンバは溝の掃除が苦手だから結局使えないなどと見放すのではなく、ルンバの性能や特徴に合わせて人間が環境をつくり、ルンバが持っている最大限の性能を引き出す。満足のいく掃除をしてくれたルンバに感謝をするという光景は当たり前になりつつある。

今あるロボの性能を生かす環境づくりを。

人間と共生する存在から、生活や社会にとっての「前提」となる存在へ。ロボットがその位置付けを進化させつつある。消費者が生活空間を設計したり企業が製品やサービスを開発したりする際に、パートナーとしてのロボットの存在を生活動線や業務プロセスに最初から組み込んでおく。今あるロボットの性能を最も発揮できるようにものを配置したり動線を確保したりする。ルンバありきの家具選びや部屋の間取り・デザインの設計などといったルンバブル現象は、ロボット前提社会の象徴と言える。

「ロボットのさらなる導入促進と普及には、(ロボットが担うサービスが)人間がやるよりも多少いびつでも受け入れられる寛容さが必要だ」。経済産業省の板橋洋平ロボット政策室室長補佐はこう主張する。板橋氏は経産省が2019年から実施している「ロボットフレンドリーな環境実現に向けた取組」を担当している。

具体的にはユーザー企業とロボットSIer企業らが参画するタスクフォースを設け、施設管理や小売り、食品や物流倉庫といった分野ごとに、ロボットを導入しやすい環境づくりのための課題の洗い出しや標準規格の策定などに取り組んでいる。「今あるロボットの技術が足りないから導入しないのではなく、今あるロボットの技術を最大限に活用できる環境や方法を模索する」(板橋氏)のが狙いだ。

背景には今あるロボットの性能を最大限生かすために、人間や環境がロボットに歩み寄ることで活用を進めていきたいという意図がある。従来はロボットを導入するために課題が生じると、ロボットの技術に問題があり、今ある環境に適さないからまだ導入できないと考えるのが当たり前だった。

ポテトサラダの盛り付け、ロボットで自動化するなら?求められる逆転の発想。

板橋氏はロボットフレンドリーな環境づくりに関して、食品工場の総菜の盛り付け工程の自動化を例に挙げる。総菜の盛り付けは見た目を重視され、消費者の意向を踏まえた小売店からの要求が厳しい部分だ。中でもポテトサラダは粘り気が強い食材の1つで、ロボットによる自動化は難しいと考えられていた。

ポテトサラダの盛り付けの工程を自動化するために、今あるロボットを導入して活用するために、人間の側はどういうことができるのかを考える。これがロボットのフレンドリーな環境づくりをするという考え方である。ロボットの性能が足りないから、自動化が難しいと考えたり諦めたりする従来の発想を逆転させるわけだ。

人間の側が歩み寄り、今あるロボットの技術を最大限に生かす環境作りをすることで、ロボットの導入時期をはやめることができ、従来人間がしなければならなかった大変な作業の自動化が進む。導入が進むことで、ロボット側の技術も上がっていく、こういう好循環を生み出していくことこそがロボットフレンドリーな環境づくりの真価である。

ロボットフレンドリーなポテトサラダ盛り付け工程のイメージ
ロボットフレンドリーなポテトサラダ盛り付け工程のイメージ
画2、ロボットフレンドリーなポテトサラダ盛り付け工程のイメージ。
(画像:経済産業省の解説動画から日経クロステックがキャプチャー)

「今あるロボットが性能を最大限生かせるようにするための環境づくりが、今後の普及に向けたカギだ」。野村総合研究所の長谷佳明未来創発センターDX3.0政策戦略室エキスパートストラテジストはこう指摘する。ロボットは現場で人間と一緒に作業する。導入前のままのプロセスと、ロボットを入れた場合に変えるプロセスを整理し、ロボットの良さを引き出せる業務プロセス設計や人員配置、ロボットの動線づくりが不可欠という。

配膳を全てロボットに任せるのではなく重い食器を下げる作業だけを任せる、ちょっとした段差を乗り越えるために特注のロボットをつくるのではなく汎用的なロボットに合わせて店舗レイアウトを変える。こうした人間側の工夫で、今あるロボットの力を存分に引き出せるようになると説く。ロボットを導入したはいいが、環境整備が不足して動ける範囲が狭いために期待していた通りの効果がでなかったり、整備や管理のために人間がつきっきりでいないといけなかったりすると、活用し続けるのは難しい。

介護ロボットを手掛けるマッスルの玉井博文社長は、「シーズを当てはめたロボットではなく、利用者が日常で使いやすいロボット」の開発が必要と話す。自ら介護現場に出向き、試作を重ねた経験に基づく言葉だ。日常生活に密接に関わるサービスロボットにとって、忘れてはならない視点と言える。

AIやセンサーの発展が前提社会を後押し。

ロボット前提社会に向けてロボット自体も進化している。「スマートロボットと呼ぶべき機能や性能を備えたロボットがここ数年で増えてきている」(野村総合研究所の長谷氏)。スマートロボットとは、生活や娯楽の場面で人間を支援する従来型のサービスロボットにAI(人工知能)やセンサーを搭載して、周辺の環境や利用者の動作に合わせて自律的に作業できるロボットを指す。

スマートロボットの特徴である自律性が、生命科学研究で力を発揮した例がある。理化学研究所などは2022年6月、生命科学実験ロボット「まほろ」とAI(人工知能)ソフトウエアを組み合わせたシステムにより、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を網膜色素上皮細胞に分化誘導する条件の自律的な探索に成功したと発表した。まほろで人間の実験を再現し、AIで実験条件を探索することで、人間の手を介さず最適な分化誘導条件を探し出した。

オフィスビルにも「ルンバブル」の発想を。

ロボットが働きやすい環境を整備し、人間の受け入れ態勢が整った「ロボット前提社会」では、同一の施設に多種多様なロボットが共存することになる。人間に代わって本格的に仕事を行うとすれば、ロボット自身がエレベーターを使って各フロアに移動したり、セキュリティーゲートを通過したりする必要がある。

そのためにはロボット同士に加え、エレベーターやセキュリティー扉などの設備や業務アプリケーションとの連係動作が必要不可欠になる。TISは2022年1月、「DX on RoboticBase」サービスの提供を開始した。ロボット活用のためのマルチプラットフォームで、警備・清掃・配送・受け付けなど複数台、または異業種のロボットや導入施設での既存の外部システムを全て組み合わせ、連係できる。

「今後、施設などにロボットを導入し、異業種のロボット同士を共生させ、さらに既存のシステムと連係するためにはロボットメーカーだけではなく、システムインテグレーターがいなければ対応できない」。TISの松田一彦ビジネスイノベーションユニットDXコンサルティングビジネス推進部シニアマネージャは言及する。

ロボットを導入する環境の整備も前提社会に欠かせない。掃除ロボットのルンバありきで個人の住宅をつくるルンバブルの発想を、オフィスビルや商業施設にも持ち込むわけだ。

例えばオフィスビルでロボット自身がより動きやすい環境を整備することで、今まではビルのエントランスまでしか届けられなかった宅配ロボットが自分のデスクまで届けに来てくれるようになる。また、現在ロボットの導入予定がなくても、環境整備をしておくことで今後ロボットを導入したいと思ったときにスムーズに導入でき、最大限に活用することが可能になる。

 

ロボット前提社会の仕組み
画3、ロボット前提社会の仕組み。(作成:日経クロステック)

人手不足や労働人口の低減は深刻な問題になりつつある。自動車ができたときに道路や信号を整備したように、街や商業施設、オフィスビルでロボットを活用するために環境を整備するようなロボット前提社会はすぐそこまできている。


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「" たぬき の パソコン ワールド " 」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事