時のつれづれ(北多摩の爺さん)

下り坂を歩き始めたら
上り坂では見えなかったものが見えてきた。
焦らず、慌てず、少し我儘に人生は後半戦が面白い。

60年ぶりのスイミング

2024年07月11日 | 時のつれづれ・文月 

多摩爺の「時のつれづれ(文月の49)」
60年ぶりのスイミング

女房が突然恐ろしいことを云ってきた。
二人の孫を連れて、近くの市民プールに行きたいんだけど、
一人で二人の面倒を見るのは厳しいから、一緒に海水パンツを買いに行こうというのである。

海に行くわけじゃないんだから、
正確には、海水パンツじゃなくて、スイミングパンツと言うべきだろうが、
私の年代では・・・ やっぱりというか、どうしてもというか、
海水パンツとか、海パンと言った方が一般的で分かり易い。

それはそれとして、別にどうでも良いんだが、
女房は私が泳がないことを知ってるくせに、
なぜ、海水パンツを買いに行こうというのだろうか?

泳ぐのが苦手なわけじゃないが、泳ぐのは好きになれないどころか嫌いなのである。
子どもが小さかった頃は・・・ 渋々、海水浴に出かけたが、
それでも、腰より上までは絶対に行かなかったし、
子どもの行動には、細心の注意を払って見守っていた。

なぜ、泳ぎが嫌いになったのか・・・ それには、ちょっとショッキングな理由があった。
遡ること60年、小学校4年生の夏休みだった。
近所に住む中学生と高校生の兄ちゃん(兄弟)たちと、子どもたちだけで出かけた海水浴で、
未だに忘れることが出来ない悲劇が起こったのである。

近くで泳いでいたはずの中学生の兄ちゃんが、溺れてしまい救助されたのだ。
抱きかかえられて砂浜に寝かされた兄ちゃんの顔に、血の気はすでになく真っ青、
なんて言ったら良いのか、適切な言葉が見つからないが、
たぶん・・・ 見たら行けないものを見たような、なんとも言えない焦燥感でいっぱいだった。

数分後にやって来た救急車に乗せられるのを・・・ 呆然と立ち尽くして見ていた。
震えが止まらず、バクバクする心臓の鼓動を感じながら、
頭の隅から隅まで押し寄せてくる・・・ なんともいえない不安を堪えて帰宅すると、
その日の夕方には、近所の方や中学校の先生とおぼしき方が、忙しなく行ったり来たりしていた。

中学生の兄ちゃんが亡くなったと、親から知らされたのは翌朝だった。
当時は、4階建てのアパートなどが数棟建っている、国鉄のマンモス団地に住んでいた。

我が家は1階の角っこにあり、
夏だから窓を開けているので、人の出入りは手に取るように分かった。
同じアパートの隣の階段の2階が、兄ちゃんたち兄弟の家だった。

あの日の夏も・・・ とっても暑かった。
デパートにでも行かなきゃ、クーラーなんてなかったし、
扇風機と団扇と、蚊取り線香の活躍なしには、とてもじゃないが過ごせない時代だった。

当時のお葬式は、たいがい自宅だった。
大きく開けられた2階の窓から、網戸越しに読経が漏れ聞こえてきた。
普段は気にもならなかった蝉時雨が、この日だけは嫌みなぐらいに鬱陶しかった。
出棺を見送りながら・・・ 手を合わせ、人目も憚らず泣いた、涙が止まらなかった。

少し前だったと思うが、火野正平さんの「こころ旅(NHK-BS)」で、
正平さんが、チャリオくんを転がして訪ねた・・・ 故郷の海水浴場は、
私にとっては・・・ 辛い、辛い思い出がある海水浴場だった。

もう60年も昔の出来事であり、トラウマというほどでもないものの、
あの日を境に、泳ぐことに二の足を踏み、躊躇するようになってしまった。

そんな私を誘って、海パンを買いに行こうというのである。
「なんちゅう奴や・・・ 。」と、思いはするものの、
こういった負の思い出は、いつの日にか頭の片隅から消してしまわねばと思っていたので、
孫を連れてプールに行くのは・・・ 良い機会なのかもしれない。

まっ、泳げないわけじゃないし、
体型的には、パッと見で分かるぐらい・・・ 体脂肪が過積載だから、
プールに沈没してしまうこともないだろう。

ましてや孫の相手なんだから、渋々じゃなく、喜んでお相手するべきだろう。
そう捉えれば、女房は良い機会を作ってくれたのかもしれない。
さて・・・ 私に合うサイズの海パンはあるのだろうか?


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10 コメント

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Unknown (keiko(けいこ))
2024-07-11 05:43:05
おはようございます。
夫も 小さな頃 川で危ない目にあったそうです。なので 水泳は苦手に。スキーなどのウィンタースポーツの方が好きでした。
私は逆にスイミング🏊ぐらいしか得意なスポーツなくて😆

小さな頃のトラウマは消えませんね。

蒸し暑い日々 続いてます。
くれぐれもご自愛くださいね。

いつも楽しく拝読させていただきありがとうございます😊
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Unknown (多摩爺)
2024-07-11 13:56:16
けいこさん、こんにちは

早速、午前中に近くの駅ビルに出かけ、海パンを見に行ってきたんですが、
残念ながら、私の過積載の脂肪を覆い隠してくれるLLサイズは置いてがなく、
来週末ぐらいに入荷すると言われたので、出直しになってしまいました。
こればっかりは仕方ないですね。
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Unknown (takusan)
2024-07-11 15:10:59
こんにちは。
お兄様が血の気がなく真っ青というところでどきっとして、そのままドキドキしながら読み進めていって、言葉を失いました。さぞやショックだったことだろうと思います。
60年たってもトラウマが残っているのは尤もなことだと思います。
考えようによっては、確かに奥様がいい機会をくださったのかもしれませんね。でもご無理なさいませんように。
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Unknown (fairy333)
2024-07-11 15:29:05
多摩爺様

こんにちは
60年前の辛い事件は忘れる事はできませんね。
でも、そろそろご自身を負の思いから解放させてあげて下さい。

60年前に止まったままの多摩爺さんの時計を動かす時が来ました。
お孫さん達とのスイミング、それは絶好のチャンスです!

奥様の内助の功はお見事です。

準備が大変ですが、それも楽しい思い出になると思います。
海水パンツがこれからも大活躍しますように。
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Unknown (多摩爺)
2024-07-11 15:58:59
takusanさん、こんにちは

兄ちゃんといっても、近所に住んでる中学生と高校生の兄ちゃんたちなんですが、
キャチボールの相手をしてくれたり、カブトムシや蝉を捕りに一緒に行ってくれたり、
それこそ海水浴にも連れて行ってくれた優しい兄ちゃんでした。
今回はホントに良い機会だと思いますが、買い行ったらサイズの合う海パンが置いてなくて、購入は来週末になりそうです。
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Unknown (多摩爺)
2024-07-11 16:04:21
fairy333さん、こんにちは

子どもが小さかった頃、海水浴に行っても、必要以上に神経質になっていたこともありました。
トラウマじゃないと思ってましたが、やっぱりトラウマだったんでしょうね。
今日、海パンを買いに行ったら、サイズが不適合で購入に至りませんでした。
残念ですが、今週末のプールは、女房と息子に任せようと思っています。
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Unknown (なおとも)
2024-07-12 10:12:41
おはようございます。

実は友人から同じような体験を聞いてから、水遊びには本当に慎重になりました。子供を三歳からスイミングスクールに入れたのも、その事が深く心に残っていたからだと思います。
悲しい思い出ですが、このようにずっと忘れない人がいて下さるのは、何よりのご供養と思います。その事はお心に秘めて、お孫さんと楽しまれて下さいね。また、ご報告楽しみにお待ちしています。 なおとも
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Unknown (多摩爺)
2024-07-12 13:32:44
なおともさん、こんにちは

この季節になると、痛ましい水の事故のニュースをよく目にします。
経験からして慎重になるのも致し方なかったと思いますが、女房と一緒に二人の孫を一人ずつ見ようと思っています。
今日は雨で幾分涼しく感じますが、暑さはこれからが本番なので、久々のプールを楽しんでこようと思います。
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海水浴・・・ (佐貫卓球ルーム2)
2024-07-12 17:46:49
こんにちは~~~
私は海の近くで育ち夏は一日中海で遊んでいました
中学になると同級生とテントを張りキャンプしました
現在のようにキャンプ用品が豊富に有る時代ではなかったです
でも飯ごうは有りました
テントは私が新聞配達をし買いました
友人たちは飯ごうや備品を買いそろえました
そして3人で海岸でキャンプしました
当時はキャンプは大学生が多く来ていました
仲良くなると隣同士で何週間も過ごしましたね
楽しかったです

「近くで泳いでいたはずの中学生の兄ちゃんが、溺れてしまい救助されたのだ。
抱きかかえられて砂浜に寝かされた兄ちゃんの顔に、血の気はすでになく真っ青、
なんて言ったら良いのか、適切な言葉が見つからないが、
たぶん・・・ 見たら行けないものを見たような、なんとも言えない焦燥感でいっぱいだった。」

私はそんな経験は何度下ことでしょう
溺れた人を大学生と救助し病院に行きましたが亡くなった人を何度も見ました
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Unknown (多摩爺)
2024-07-12 20:09:41
佐貫卓球ルーム2さん、こんばんは

人命救助をされていたとか、ホントに凄いですね。
活躍されたことはアッパレで大拍手ですが、小心者の私はおそらく固まって動けなかったでしよう。
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