平らな深み、緩やかな時間

18.『エル・グレコ展』『大友一世展』

東京都美術館の「現代アーチストセンター展」が終了しました。会期のはじめの頃は、先日書いたように仕事の繁忙期にあたり、展示もままならない状況でしたが、終了間際の会場当番や、搬出の日は午後いっぱい会場にいることができました。その短い時間に、訪れてくださった方や出品した作家と少しだけ話ができました。やはりもっとそういう時間を作らなければなりませんね。年々、仕事がきつくなり、その一方で体力の衰えを感じてしまう毎日ですが、そう言っていては何も変わりません。
出品した作品について、自分なりの感想ですが、今回は根をつめて描いたところが、それなりの見え方をしていたように思います。下手にバランスを取ってしまったり、惰性で筆を動かしてしまったり、という余計なプロセスがいつも多いので、描き過ぎないように注意したつもりですが、そんなことよりも、もっとダイレクトに絵に集中した方がよかったな、と感じました。まぁ、それがなかなか出来ないのですが・・・。

さて、会期中に隣の会場で開催されていた『エル・グレコ展』を見に行きました。外の満開の桜に吸い込まれたせいか、あるいは午後の遅い時間だったせいか、予想したほどの混雑ではありませんでした。
内容は宣伝されていた通り、日本でこれほどエル・グレコ(El Greco、1541 - 1614)の作品を集中してみる機会は、もうないのかもしれません。
まずは単純な感想から書いておきましょう。
エル・グレコはマニエリスム後期の画家だと言われますが、それにしても形がゆがみ過ぎのような気がします。とくに斜め下から見上げるような角度の場合、顔の輪郭、楽器の形などデッサンが狂っている、というくらいゆがみます。さすがに、絵を描く人間として、ちょっと気になります。
その一方で、不思議な形の強さがあります。線の勢いのよさも感じます。マニエリスム、というよりも、ほとんど表現主義的、と言っていいくらいです。色彩のコントラストの強さにも、同様な感じがします。
しかし、今回本物の作品を前にして、もっと印象的だったことは、その空間表現の現代性です。
グレコの絵画は、その背後に遠大な風景が描かれていることが多いのですが、そのわりには奥行きの感じが希薄です。構図としては奥に行くはずなのに、うねる波のように空間が表面へ、もどってくるのです。絵画が平面であること、その平面性を意識することによって、絵画独自の表現力が高められることを、グレコはすでに知っていたようです。実はそれは、近代から現代にかけて多くの画家が努力して学んだことなのですが・・・。
先ほど指摘した形のゆがみ方、色彩の使い方も、このような空間の扱い方と同じ方向を向いています。ですから、画面全体が絵画的な表現の高みを目指しているように見えます。
それから、晩年になるほど細部を省略した描き方が目立ってきますが、これも表現主義的な効果をあげているように思います。まるで指先の形を整えるのがもどかしいように、筆のタッチが顕わに残されているのです。こんなにやりっぱなしでいいのかな、と見ている方が心配になります。この表現が500年前から揺るぎない名作として評価されてきたのですから、何だか不思議な気がします。絵画の表現力というものは、これほどに見る者を説得するものなのか、とあらためて感心してしまいました。
個人的に、興味を持っている画家ではありませんが、やはり勉強になるものです。

ところで、同時期に「トキ・アートスペース」(http://homepage2.nifty.com/tokiart/index.html)で大友一世さんという若い作家が個展を開いていました。
作品写真を上記のホームページから見ることができます。木や山の稜線などをイメージさせる形象を描いた作品です。具体的な風景を前にして描いたのではないそうですが、自分の中でイメージはしっかりとある、とのことです。
どのような絵画空間を形成したいのか、若い作家なのでまだ揺れている感じですが、うまくはまると不思議な広がりを感じさせる作品を描く作家です。独自の色合いのようなものをすでに持っているので、作品のバラつきも不自然ではなく、むしろ歩みの誠実さのようなものを感じさせます。
個人的には、平面性を強く意識した作品に、より魅力を感じましたが、今後どうなっていくのでしょうか。「トキ・アートスペース」の企画の展覧会だということですが、よい企画だと感じました。

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