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梅毒急増

2017年09月06日 | 社会


梅毒

梅毒の勢い止まらず、年間5000人突破の恐れも

2010年から増加し続けている性感染症の梅毒の勢いが止まらない。国立感染症研究所の最新集計(8月29日発表)によると、2017年第1~33週(1月2日~8月20日)の報告数(感染者届出数)は3446人に上り、前年同時期(2016年第1~33週)の報告数2674人より約3割増えた。


第1四半期(第1~13週)と第2四半期(第14~26週)、つまり、2017年の前半6カ月で2500人を優に超えており、このままのペースで感染者が増え続ければ、年間5000人を突破する恐れもある。男女ともに増えているが、特に女性の増加が顕著で、2016年の報告数は2010年の約11倍に増えた(図)。

●感染者数は6年間で7倍以上に増加

 日本の梅毒患者は、1950年頃までは年間20万人以上にも上った。しかし、その後、ペニシリンによる治療が普及したことにより激減し、1990年代に入ってからは年間1000人を下回っていた。

 それが2010年を境に増加に転じた。2016年の報告数は4557人と、2010年の7.3倍。男女別ではそれぞれ6.4倍、11.2倍で、女性の増加率が目立つ。ただし、常に報告数の7~8割が男性であることも忘れてはならない。

 都道府県別に見ると、東京都が圧倒的に多いが、その周辺県や大阪府、愛知県などからも多数報告されている。

 女性感染者の大半が15~35歳だ。梅毒にかかっている女性が妊娠すると、早産や死産、重い胎児異常をきたす恐れがある。また、男女を問わず、梅毒を放置しているとさまざまな臓器が冒され、命が脅かされる。

 感染の可能性を疑ったらすぐに検査を受け、感染していたら早期に適切な治療を開始する必要がある。だが、何より大事なのは、感染しないよう一人ひとりが注意することだろう。
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不特定多数との性行為の増加が原因か

 梅毒急増の背景には、不特定多数との性行為の増加があるとみられている。梅毒は、性的な接触(感染者の粘膜や皮膚との接触)などによってうつる。具体的には、性器と性器、性器と肛門(アナルセックス)、性器と口(オーラルセックス)の接触などが原因となる。

 梅毒は、2010~2013年ごろは男性間の性行為で感染するケースが増加していたが、2014年以降は異性間の性行為による患者が増えている。特に女性では、大多数が異性との性行為による感染だ。

 梅毒の病原体である梅毒トレポネーマの感染力は非常に強い。しかも、初期症状(陰部、口唇などのしこりなど)を見逃してしまうことが多い。このため、感染を自覚しないまま相手にうつしてしまい、蔓延の原因となる。特に、早期梅毒(第1~2期=感染後約3年間)の患者は、相手にうつす可能性が高い(1回の性行為で感染させる確率は約30%とされる)ため、性行為を控える必要がある。最近は、このように感染力の高い早期梅毒の報告例が男女ともに多い。

●コンドームの適切な使用でリスク減少、ただし万能ではない

 梅毒の感染を予防するには、何より不特定多数との性行為を避けることが大事だ。性感染症に感染しているかどうか明確ではない相手との性行為では、コンドームの使用が不可欠だ。梅毒のさらなる増加を警戒する厚生労働省も「コンドームの適切な使用によりリスクを減らすことができる」と強調している。ただし、梅毒は陰部や肛門、口腔以外の場所にも潰瘍などの病変が生じるため、コンドームだけでは完全に感染予防できないことにも留意しなければならない。

 コンドームの使用に際しては、以下のような点に注意を払おう。

・使用期限を過ぎていないものを使う

・装着前に穴が開いていないかどうかを確認する

・精液溜めに空気が入らないよう装着する

・射精後、ペニスを腟から抜く時にコンドームが腟内に残らないようにする

 コンドームの使用期限は通常は5年とされ、それを過ぎると劣化して破損のリスクが高まるので注意したい。高温多湿の場所に放置するなど、保管状態が悪い場合は劣化も早まる。

 こうした感染予防策は、エイズやクラミジア、淋菌感染症など、梅毒以外の性感染症を予防することにもつながる。エイズの原因ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染者の約半数が梅毒に感染しているとの報告もある。自分とパートナー、さらに生まれてくる子どもを守るために、ぜひ感染予防に努めていただきたい。

(日経gooday 2017.9.6)

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東京の若い女性の梅毒患者、なぜ5年で25倍の激増?中国人観光客の「夜の爆買い」が原因か

重症化すれば「死に至る恐ろしい病」として、古くから知られてきた性感染症「梅毒」。名軍師の黒田官兵衛をはじめ、歴史上の戦国武将のなかにも梅毒にかかって命を落としたとされる例は多い。


 この梅毒の感染者が近年、日本国内で急激に増加し、大きな問題になっている。国立感染症研究所は今年1月、昨年1年間の梅毒患者数が4518人に上ったと発表した。梅毒の感染者が4000人を超えたのは、1974年以来42年ぶりのことだという。

 なぜ今、梅毒の感染者が急増しているのか。性感染症の臨床分野の権威であり、梅毒の症例について詳しい泌尿器科専門医の尾上泰彦氏は、「現在の梅毒の患者数は、氷山の一角にすぎません」と指摘する。

梅毒が最初に流行したのは15世紀末のこと。新大陸を発見したクリストファー・コロンブスが現地の風土病だった梅毒をヨーロッパに持ち帰り、それによって世界中に広まったというのが定説だ。日本でも江戸時代に遊郭が発達したことで広がり、その後、1940年代には感染者が20万人を超えるなど爆発的に流行した。

 しかし、第二次世界大戦後の45年に抗生物質のペニシリンが民間に開放されたことで梅毒の患者数は一気に減少。90年代には年間の患者報告数が600人を下回るなど、長らく横ばい状態にあった。ところが、2011年ごろから再び増加傾向に転じると、患者数は年々増加。16年には、ついに4500人を突破してしまったのだ。

「梅毒の初期症状は性器のしこりやリンパ節の腫れが見られ、進行すると体に発疹が現れます。しかし、患部には目立った痛みがなく、見過ごしてしまいやすいのが特徴です。さらに、症状がまったくない『無症候梅毒』のケースも多い。自覚症状のないまま病気が進行してしまう場合もあるため、潜在的な患者数はもっと多いと考えられます」(尾上氏)

 なかでも目立つのが、都市部に住む若い女性の感染だ。国立感染症研究所が昨年1月から11月の患者を分析したところ、約3割が女性で、そのうちの約半数が20代だったという。同研究所の15年の集計データを見ても、全国の患者数2690人のうち、20~24歳の女性が240人と約1割を占めている。そして、そのうち約4割の99人が東京都に住む女性なのだ。

 10年には東京都に住む20~24歳の女性の患者数はわずか4人だったので、5年間で約25倍に激増したことになる。これは、もはや由々しき事態といってよく、尾上氏は「まさに『パンデミック(広範囲におよぶ流行病)』といえるでしょう」と語る。

 実際、事態を重く見た厚生労働省は、若い女性に親しみのある「美少女戦士セーラームーン」をキャラクターに起用して啓発ポスターや特製コンドームを作成。「検査しないとおしおきよ!!」とのキャッチコピーで予防や早期検査を呼びかけている。

それにしても、なぜ現代の日本で梅毒が再び流行し始めたのだろうか。患者数増加の背景はまだわかっていないが、一説として指摘されているのが、訪日中国人観光客の増加との因果関係だ。

 日本政府観光局の統計によると、訪日中国人観光客が初めて100万人を突破したのは08年。彼らによる家電製品や日用品の“爆買い”が話題となり、16年には訪日中国人観光客が初めて600万人を超えた。そして、同時に増えたのが、実は中国人観光客たちの“夜の爆買い”だという。

「昔から、梅毒は夜の世界と切っても切れない関係にある病気です。私は、以前から性感染症ハイリスク群のCSW(コマーシャルセックスワーカー)の患者を多く診察してきました。彼女たちの治療をしていると、訪日中国人観光客の増加に合わせて、数年前から中国人団体客の話を聞くことが非常に多くなったのです」(同)

 中国国家衛生・計画出産委員会が作成し、東京大学医科学研究所・アジア感染症研究拠点がホームページで公開している「2015年全国法定伝染病流行状況」によれば、中国の梅毒感染者数は15年で43万3974人、そのうち死亡症例数は58人。法定伝染病で報告発症例がもっとも多いのはウイルス性肝炎で、次が肺結核、これに続くのが梅毒だ。

「中国の総人口は日本の約11倍ですが、梅毒患者は日本の約160倍もいるのですから、驚異的な数字です。中国人観光客が感染経路というのはひとつの仮説ではありますが、日本人の性事情が数年間でここまで急激に変化するとは考えにくい。なんらかの外的要因があると考えるのが、自然ではないでしょうか」(同)

 セックスワーカーには、夜の性風俗だけではなく昼間の仕事もしている女性も多い。尾上氏は「彼女たちが夜の仕事で感染し、無自覚にパートナーに感染させている可能性は十分に考えられます」と指摘する。

しかも、恐ろしいのは、梅毒が誰でも感染し得る病気だということだ。尾上氏によれば、「梅毒は性器同士の接触だけでなく、オーラルセックスでも感染します。コンドームの着用だけでは、万全な予防にはなりません。性交渉を持つ以上、誰にでもリスクはあります」という。

 では、再び流行し始めた梅毒から身を守るにはどうすればいいのか。もし心当たりがあるなら、まずは早めに検査をすることが大切となる。

 梅毒感染の有無がわかる梅毒血清反応検査は各種病院で受けられるほか、自宅でできる検査キットも販売されている。「まさか自分が……」と他人事のように考えるのではなく、それぞれが当事者意識を持つことが必要だという。

「最近では、結婚前の女性が妊娠・出産に影響のある疾患があるかを調べる『ブライダルチェック』もメジャーになりました。結婚だけではなく、新しいパートナーができたときなど、人生のターニングポイントに『節目検診』として検査を受けることを、男女ともにおすすめします」

そして、万が一感染してしまった場合は、しかるべき医療機関で「適切な処置を受けてほしい」と尾上氏は語る。

「40歳以下の若い医師には梅毒患者を診察した経験がない人も多い。そのため、なかには誤った診察をして治療を遅らせてしまうケースもあります。戦前と違い、現在の梅毒は初期段階で治療をすれば必ず完治する病気です。感染拡大を防ぐには、産婦人科、皮膚科、泌尿器科などの医師たちが梅毒の初診に対して適切な処置を行うことが重要となるでしょう」(同)

 梅毒はもはや「過去の性感染症」ではない。この病気を再び大流行させないためには、一人ひとりの意識の向上こそが最良の対策となるのだ。

(Business Journal 2017.3.7)

梅毒の歴史
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