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英語のスピーチ活動に本気で取り組む皆さんへ

スピーチの工程分析

2007年03月27日 | スピーチ論
ものづくりの現場で改善活動を行う時にまずすることが工程分析です。
例えば製鉄所で言えば、石炭と鉄鉱石から始まり最終的にはいろんな形状の鉄になるまで、転炉、連続鋳造、圧延などなど、出荷までに多くのプロセスがあります。
そのプロセス上でボトルネックとなっている工程を発見し、リードタイムを短縮すると同時に上工程からのすり合わせを行い、あらゆるムダを減らして生産性を極限まで高めています。このような愚直な改善活動の結果、今日本の鉄鋼メーカーは中国特需もあり、最高益を更新するなどバブル以来再び好景気を迎えています。

さて、同じようにスピーチも工程分析をしてみたいと思います。
といっても、ここでは細かい作業は割愛して、単純に大きく3つの工程に分けます。

まず、自分の心

次に、スピーチという文章

最後に、オーディエンスの心

まず、自分の心の中の気持ちですが、これがもっとも重要かつ不可欠な要素です。最終的にはこの気持ちをオーディエンスに理解もしくは共感してもらわなければなりません。
そもそもスピーチの目的は『自分の言いたいことをオーディエンスに伝えたい』ことであると思うので、自分の心の中の感情をオーディエンスに届けるんだ、ということを忘れてはいけません。

自分の心の中の感情というのは、人によってさまざまです。怒り、悲しみ、喜び、許せない、あきれた・・・等々いろいろあるでしょう。そういう感情は言葉で説明できません。そう感じるとき、自分の頭の中に映画の字幕みたいにテロップが流れているわけではないので、その時点では非論理的であり、自らの感性で感じる場合が多いでしょう。
その感情を何も仲介せずオーディエンスの心に届けば何も苦労しないのですが、人の心を説得するときは言語化し、論理的に説得しなければなりません。

スピーチの場合、オーディエンスの心を説得する役目を果たすのが、みなさんがやっているスピーチです。7分間、およそ7~800字でオーディエンスの心を説得するのです。説得するためには、論理的である必要があり、理性を働かせなければなりません。Social/Value関係なく、論理的である必要があります。

そう考えるとスピーチを書くということは、自分の心の中の感情を言語化しスピーチに変換する作業だということができます。言い換えると、『感情という非言語情報の束を言語に変換する作業』だといえます。

オープン大会に進めない人の多くのスピーチには、変換されるべき感情が抜け落ちていることが非常に多く見られます。あるいはこの変換の作業がうまくできていないため、感情がうまくスピーチに伝わっていないことが多いのです。そしてこの陥穽に気づいていない人がまた非常に多いと思われます。

そのような悪い傾向はPHCSフォーマットでスピーチを作ろうとする団体に顕著です。もちろん全員がそうではないのですが、彼らの多くはトピック本位でスピーチを書こうとしていて、そもそもスピーチ作りはまず感情から入らなければならないということをあまり理解していないのです。PHCSはあくまで説得するための方法の一つであり、最終的にオーディエンスの心を説得できるのであればどのようなやり方でスピーチを書いても構わないのです。先日たまたま現役生のブレストを手伝う機会があったのですが、未だにPHCSを用いていてそれをストレッチしてスピーチを完成させようとする人が多くいて、いささか落胆してしまいました。

逆に、Suggestionの部分がしっかりしていなくても、根本にある感情の部分がしっかりしていたら、その人のスピーチはものすごく可能性を秘めたスピーチだといえます。なぜなら、伝えたい感情がはっきりとしているので、説得の方法が無限に考えられるからです。その人の英語力次第でオープン大会優勝も夢ではないでしょう。

長々と述べてきましたが、気をつけてほしいのは、トピック本位でスピーチを書こうとするのではなく、自分の感情をしっかりさせてから、扱うテーマのリサーチなりスピーチのフローなりを考えてみて下さい。そして、非言語情報の束を言語化するプロセスにおいて、できるだけ自分の感情を残すよう心掛けてみて下さい。ValueにしろといっているのではなくSocialの場合も、それは自分の感情を伝える上で有用なデータなのか、このパラグラフは自分の感情を伝えるのに必要だろうか、などといった観点で見てはどうでしょうか?もちろん、無機的な言葉を発する時にVerbal Deliveryに工夫を凝らすことも重要になるでしょう。

過去スピーチの研究や、ロジック演習、パラグラフライティングなど言語化されたスピーチの分析に躍起になるよりも、そのスピーチの裏側にある、書いた人の感情面の分析にもっとアプローチしてみてはいかがでしょうか?
最終的にはスピーカーの気持ちが聴衆に共感してもらえるかどうかなのですから。

大会実行委員長の役目

2007年03月07日 | 大会マネージ
大会を開催するに当たって障害となることがたくさんあります。最も大きな障害は、『ESSは組織ではない』ということです。組織ではないというのはどういうことかというと、サークルの性質上比較的自由度の高い団体であるため、各個人がばらばらの方向を向き、一つの目標に向かって一致団結できるような集団になっていないということです。

高い自由度に由来する『事勿れ主義の蔓延』。これが第二の障害です。大会実行委員長が最も苦労することは、このようにやる気のない人、仕事をしてくれない人を説得していかに巻き込むかだと思います。でも、いくら説得しても限界があるのではないでしょうか。

では、大会実行委員長の役目は何なのでしょうか?

まず一つ目は、コンセプトを創造し、ゴールを明確にすることです。自分たちがどういう大会を作りたいのか、自分たちの大会は他の大会とは違ってどういう意義のあるものなのか。前年度にどのような付加価値を加えていくのか。これがないと始まりません。社長がビジョンを示さない、経営計画を示さないと社員は何をやればいいか、どこを向けばいいのかわかりません。翻って自校のスピーチ大会を眺めてください。できていますか?

二点目は、そのゴールに向かって皆を導くために、率先垂範して行動することです。大会に出場する。大会の思い入れを熱く語る。夢を語るなどです。特に後輩を巻き込むとき、先輩のカリスマ性は非常に重要なポイントです。セクションに勧誘するときも、先輩たちの人望や雰囲気を感じて入ってくるのと同じように、大会実行委員長はかっこいい先輩でなければなりません。その時に、口だけではなく、自らの行動でもって範を示していかなければなりません。自らの経験を後輩に惜しみなく還元してあげてください。誰も平凡な経営者、無能な経営者の下で働きたいとは思いません。お金がたくさんもらえたり、格別にやりがいがあるなら別ですが、残念ながら大会運営レベルではお金の要素は欠落しているので、実行委員長のカリスマ性が頼りになってきます。

三点目に、コンセプトを拠り所にして、部門間の調整役となることです。言い換えると大会のインテグリティー(統合性)をすべての部門で保っていかなければいけません。会場、受付、パンフレット、形式、評価方法、ジャッジの選定、レセプション、賞品などの要素(部門)があって、それぞれを自らが設定したコンセプトを照応しながら選定していかなければなりません。例えば、アットホームな大会を目指しているにもかかわらず、校外の荘厳な会場を借用したり、レセプションの料理を外注したりするのは、コンセプトとのミスマッチということになります。

参考にすべきは安田講堂杯です。あまり後輩を褒めるのは控えたいのですが、コンセプトのマッチングに関しては昨年度の大会では群を抜いていました。多くの人が相当の刺激を受けたと思いますが、コンセプトを明確にし、そのコンセプトに合致した運営を最大限心掛けるだけで、あれだけ印象が違ってくるのです。自らの大会像を明確にすることで、新たな工夫も自然と生まれてくるはずです。安田講堂杯で様々な画期的な試みが施されていたことは今更言うまでもないでしょう。

最後に、信念を貫くことです。人員の問題、金銭的な問題、物理的な問題、ジャッジの問題、その他多くの障害が待ち受けています。しかし、そこで挫けない強い信念があれば、どんな障害もクリアできるはずです。松下幸之助さんの言葉に、「重役の7割が賛成するプランは時すでに遅く、七割が反対するくらいのプランでやっと先手が打てる」というのがあります。松下の食器洗い乾燥機のプロジェクトでも、最初はみな反応が冷ややかだったそうですが、プロダクトマネージャーの強い信念で結果的には大成功を収めている例もあります。要は、大会実行委員長はどんな壁が目前に立ちはだかろうとも、信念を貫き通して状況が好転するまで耐えることが必要なのです。

長々と述べてきましたが、端的に言うと、組織でない集団を組織であるかのようにマネージすることが委員長の役目であります。最後に、今年は去年に増して『素晴らしい大会』がたくさん開催されることを心から楽しみにしています。