やぶにらみの生態学/HFMエコロジーニュース

サル・クマ・森林保護に関する博物学的生態学的エッセイ・権威をきらうへそまがりの独り言

HFMエコロジー・ニュース77〔234〕

2008-09-11 10:06:09 | ニュース

細見谷に危機迫る
カシノナガキクイと酸性降下物の脅威

今年の中国地方は梅雨時でも雨らしい雨がなく、夏の渇水は森の生き物に相当のダメージを与えた可能性がある。
例年であれば、林道の水たまりで吸水をするミヤマカラスアゲハの集団が見られるのだが、今年はそうした光景もなく、寂しい限りであった。
それどころか、ヌルデやノリウツギ、トチなどの広葉樹の葉が赤茶色に枯れ、見る影もない。
 そんな中、ミズナラの巨木が茶褐色に染まり枯れているのを見つけた。8月9日のことだ。林道のすぐ脇にある老齢木である。濃い緑の中に1本だけ赤茶けた枯れ木は不気味なものを予感させた。0910409103 09102
 もしかしてカシナガにやられた?

 カシノナガキクイムシ-通称カシナガ-、体長数ミリの甲虫で、ナラ類に爪楊枝が入るほどの穴をうがって進入し産卵する。
その際、身体外部に寄生しているカビの一種がナラ類に感染し、樹液の流れを阻害し、水不足を生じさせる。
その結果この菌に感染したミズナラ、コナラ類はやがて枯死する。そのメカニズムの詳細は
http://www.kinki.kokuyurin.go.jp/kyoto/jyoho/190713kasinaga/190713kinkyujitai.pdf
で紹介されている。
これまで日本海側を中心に被害がでている。

 そのカシナガがついに細見谷に侵入したようだ。
地上1mまでの幹に小さな穴がうがたれており、そこから大量の木屑が出ている。
周辺のササの葉にも積もるほど大量の木屑である(写真)。
これまで広島県内では、このカシナガの被害は報告されていない。しかしどうにも気になるので、被害木の周囲に虫取りトラップを仕掛け、犯人の同定をと思ったが、どうやらそんな悠長なことをやっている暇はなかったようだ。幼虫が羽化する前に処理を急がないと大変なことになる。
とはいえ原因を知ることも大事だ。
ということで、広島の森林管理暑に問い合わせてみた。
 どうやら、ここでも私たちとほぼ同時に事態を把握したようで、カシナガに間違いないという返事だった。
と同時に緊急に対策を練っているとのことである。
幼虫が羽化して分散する前に、伐倒し、焼却処分とするなど、徹底した駆除対策が求められる。
 幸い、被害木は今のところこのミズナラ1本だけのようだが、楽観はできない。
監視の目を光らせなければならないであろう。なにしろこの細見谷にはカシナガが好みそうなミズナラの巨樹・古木があちこちに生育しているのだから、心配してもしすぎることはない。

 そうでなくとも、このわずかに残された渓畔林はさまざまな破壊要因にさらされている。
たとえば、酸性降下物(硫酸イオンや硝酸イオン)による落葉広葉樹の枯死もその一つである。
 9月7日、大規模林道問題全国ネットワークのメンバーとともに現地見学会を行った。
同行していた京都大学名誉教授の河野昭一先生、(富山県の立山アルペンルートでのブナの立ち枯れを35年間にわたって追跡調査している)が怪訝そうな面持ちでイヌブナを眺めている。
イヌブナの葉に茶褐色の斑点が出ているのが気になるという。
サンプルをとって見ると、酸性降下物によって生じる損傷に間違いないという。
 大陸由来(中国)の可能性があり、今後、詳しい調査が必要だという。
 そういえば、今年はブナの実付きがいい樹があるので、その状況を写真に納めたのだが、葉に勢いがなく、部分的に黄変している(写真)ことに気がついた。
一週間前のことである。それが目立ちはじめたのである。09101

 この上、林道が舗装され、拡幅されるとなると細見谷渓畔林は消滅の一途をたどるに違いない。
今、まさに踏ん張りどころなのだ。
あらゆる手段を講じて、かけがえの無い共有財産を守らねばならない。
決して土建屋マインドの利権屋の手にゆだねてはならないのだ。