SYUUの勉強部屋:仏教思想概要

仏教思想概要6:《中国華厳》(第1回)

(巾着田の曼珠沙華     9月25日撮影)

 

 本日より、仏教思想概要6《中国華厳》のご紹介のスタートです。
 このブログはこれまでもご紹介しておりますように、「仏教の思想」(全12巻、インド編・中国編・日本編の各4巻)を中心に、仏教思想の概要をまとめたものです。
 前回から中国編に入っており、前回が「仏教思想概要5《中国天台》」でした、そして今日からは概要6の「中国華厳」となります。

 中国編4巻は「天台」「華厳」「禅」「浄土」よりなりますが、大きく、前2巻が「理論仏教」、後の2巻が「実践仏教」と分けることが出来ます。中国の2大理論仏教の一つ「華厳」、「天台」との違いなども含めて、本日よりみていきたいと思います。
 仏教思想概要6《中国華厳》は4章にまとめてみました。一応6回程度に分けてご紹介の予定です。よろしくお付き合いください。

 本日は、「第1章 中国華厳宗の成立と発展」を取り上げます。

 

第1章 中国華厳宗の成立と発展

1.中国華厳宗の系譜
 中国華厳宗(以下華厳宗と称す)の思想を説明する前にまず、華厳宗がどのように成立し発展したかをみてみたいと思います。
 成立過程の説明の前に、華厳宗の成立・発展に関与した主な人物と組織を系譜で示します。(下図1参照)


2.中国華厳宗の成立

2.1.中国における仏教の成立
 ブッダ没後五、六百年の紀元前後、後漢と中央アジアとの交通発達にともなって貿易商人などの渡来と一緒に隊商達の守護神として仏像や教誡師(きょうかいし)としての僧侶のたずさえた経典などによって、中国へ仏教は伝来します。
 伝来した経典は、渡来僧などにより漢訳されます。(~4世紀前半頃)。やがて、4世紀後半には、当時中国において儒教に変わり発展した道教の老荘思想により仏教は解釈(格儀仏教)されようになり、中国における定着の基礎が作られます。
 同時期に、道安(312-85)やその弟子の慧遠(314-416)は、格義仏教は、老荘の「無」と仏教の「空」を同一視する考え方であり、格義仏教を排斥して真の仏教へ回帰すべきとの仏教思想運動を起こします。この結果、外来宗教の仏教が、彼らにより中国社会に確実に定着しました。

2.2.中国華厳宗の成立過程
 道安や慧遠により仏教が中国に定着した時期に、『華厳経』の最初の翻訳(旧訳または晋訳と称す*)が、東晋において、ブッダバドラ(仏陀跋陀羅)により行われます。これにより、中国における華厳宗の成立への歩みがスタートしました。以下、成立までの概要を、既述の系譜図と一部重複しますが、以下(図2)にて示します。


 *旧訳に対して、唐の則天武后時代に2回目の翻訳がシクシャーナンダ(実叉難陀)により行われ、これを新訳または唐訳と称す。

3.中国華厳宗の成立・発展に影響を与えた思想、宗派

3.1.「即事而真」の思想の継承
 南北朝末期から隋代(西暦六〇〇年前後)において、北周の武帝の廃仏毀釈による仏教の発展の遮断後、隋の仏教復興運動によって、インド仏教とは違った、漢民族の精神生活の支柱となる中国仏教の形成をみます。
 それは、現実の中にこそ真理が存在するという考え方で、皮肉にも廃仏毀釈を行った武帝の「即事而道」(現実の中に道を見いだそうとする考え方)の考え方に強く出ています。
 この考え方は、大乗仏教のなかにみられる「煩悩に即して菩提をみる」という考え方と結びき、現実の中に真理をみようとする「即事而真」の思想を成熟させるものであったのです。
 この即事而真の思想は、鳩摩羅什の弟子であった僧肇(そうじょう、374-414)や、やがて宗派的に対立する天台宗開祖智顗(ちぎ、538-597)に強くみられる思想であり、この思想を華厳宗も継承することとなります。(僧肇、智顗にみる即事而真の思想の源 下表1参照)


 華厳宗第二祖智儼は以下のように説いています。
→大乗仏教の根本理念である「生死即涅槃(しょうじそくねはん)」の考え方は「即事備真」を表すと。(「備」とは具すること)
→完全なる真は事に即さなければ存在するものではない。
 ↓
 華厳における事と理の融即を説く思想の基盤となった思想といえます。

3.2.唯識系諸宗派の成立
 現実に立脚した真理としての「即事而真」の思想を継承することとなった華厳宗ですが、同時に、華厳宗の成立・発展に強い影響を与えた思想があります。それが「唯識思想」です。
 唯識は、インドの仏教思想家の無着(アサンガ310-390頃の人)と世親(ヴァスバンドゥ320-400頃の人)兄弟により大成された思想です。
 兄弟により著された著作が漢訳され、それらの著作をもととした仏教宗派が中国で成立、それらの宗派が華厳宗の成立・発展に大きな影響を与えました。
(華厳宗に影響を与えた仏教宗派 下表2参照)

4.華厳思想を形成した高僧
  華厳宗は、杜順(557-640)にはじまり、第二祖智儼(ちごん 602-668)、第三祖法蔵(643-712)によって集大成されたといわれています。
 新宗教の成立には二つの要因が必要であり、一つは神通力をそなえた特異な宗教者の出現(=開祖者)、もう一つはその宗教者の宗教体験の内容を説明するためのもの(=組織者)の出現があげられます。華厳宗の伝統説にしたがうと杜順が開祖者ということになりますが、異説もあります。
 以下、開祖者杜順、二祖智儼、三祖法蔵のそれぞれの人物像をみていきます。

4.1.杜順の伝記とその神秘性
 信ぴょう性の高い杜順の伝記には、道宣の『続高僧伝』(七世紀中葉)や法蔵の『華厳経伝記』などがあげられます。
『続高僧伝』では、杜順は、性は杜氏、雍州(ようしゅう)万年県の人、十八歳で出家、因聖寺の僧珍(*)に仕えたとあります。
 また、『華厳経伝記』などによると、杜順は「普賢行」を修していたと推定され、普賢行こそ華厳の実践であり、それによって華厳宗の開祖とすることはできます。(唐代の澄観(第四祖)、宗密(第五祖)の時代に杜順を開祖としたものと思われる。)
 普賢の行願とは、『華厳経』「普賢行願品」第四十に説かれている10種の広大な行願を意味します。(下表3参照)


 特に(9)は、あらゆる衆生に随順することだが、衆生の能力は各々異なり、それら千差万別の衆生一人一人に対して暖かき目をもって見守ることが求められます。
 杜順は民衆の崇敬を受け、それは口伝され、人々の知るところとなり、晩年長安に迎えられ、多くの人の崇敬を集めたのです。
*僧珍:野に伏して止観行を修していた人、遊行僧と思われる。学問研究者ではなく、ひたすら坐禅を修していた人と思われる

4.2.智儼の学風
 智儼の経歴を以下に示します。(表4)


 智儼は、単なる学解の人ではなく、どこまでも坐禅や止観を合わせて修した究道の人であったという。『入道禅門秘要』という究道の書物があったと伝えられています。

4.3.華厳思想の大成者・法蔵
 中国華厳思想は三祖法蔵によって大成されたといわれています。(詳細は後述)
 法蔵の経歴を以下に示します。(表5)


 法蔵が生きたのは、女帝則天武后による武周王朝時代でした。則天武后は、『大雲経』(妖僧懐義(えぎ)、法明が参画して作ったもの)を利用して、宗教的権威をも得て、悪逆無道をつくします。しかし、反面、純粋に仏教を保護しました。
 法蔵も多くの被援助者同様、武后の支持を受けながら、華厳の教えを説いたのです。
 法蔵の主な著書としては、 綱要書としての『華厳経五教章』(略称:『五教章』)と注釈書としての『探玄記』があげられます。

5.華厳宗の影響を受けた人々

5.1.『華厳経』信仰グループ・斎会
 南北朝時代から、斎会(さいえ)といわれる僧侶と一般人の修行のための集会(元来は食事を布施する行事)として「法華斎」、「華厳斎」などがありました。
 華厳斎はやがて、規模が拡大し結社化されていきます。(下表6参照)


 グループ信仰の対象例としては、「入法界品」の求道者善財童子に対する信仰や、文殊菩薩・普賢菩薩への信仰、さらに文殊菩薩の霊地としての「五台山」信仰が一般民衆のなかに根付いたということです。

5.2.法蔵以降の華厳宗
 法蔵以後の華厳宗は一時衰退しますが、四祖澄観(738-839)の時に再び盛んとなり、五祖宗密(780-839)と引き継がれます。(下表7参照)


 華厳宗としては第五祖宗密で一応、学統が途絶えます。しかし、その思想は中国史の中に深く浸透して大きな影響を与えたといえます。

5.3.華厳宗の禅宗への傾斜と明恵上人
 華厳宗第四祖澄観、五祖宗密の時代、華厳宗に代わり禅宗が勃興、華厳思想は禅の中へ形を変えて生かされていくことになります。
 また、日本においては、中国同様、奈良時代にはもっぱら学問的関心のみであった『華厳経』に対して、鎌倉時代にはそれへの実践者が登場します。それが明恵上人(1173-1232)です。(明恵の経歴 下表8参照)


 明恵は、「仏光(ぶっこう)三昧観」という観法を修しました。これは、禅との関係からと考えられます。明恵の禅は栄西から受けましたが、「臨済禅」というわけではなく、「一切の求める心を捨て、ただ無所得の心をひっさげて行うところの無所得の行道こそが真実である」としています。
 また、明恵と道元(1200-1253)には多くの共通点がみられます。(下表9参照)


 道元の思想である「只管打坐(しかんたざ)」の仏教の中には華厳の思想が指摘でき、明恵の華厳が道元に影響を与えているのではと推測できます。

 

 本日はここまでです。次回からは「第2章 『華厳経』の意味と構成・主な教え」に入り、次回は「『華厳経』の意味と構成」を取り上げます。

 

 

 

 

 

 

 

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