『あたしゃあ、時逆(ときさか)。時を遡(さかのぼ)る妖怪さ』
『あたしゃ、時順(ときじゅん)。時を順に行く妖怪』
「……時を操る、妖怪…」
『あたしら、朱雀を迎えに来たのさ』
時逆が言うと、翼乃はゆっくりと立ち上がり、歩き出す。
「行かなくちゃ……」
「翼乃君っ!?」
歩きながらバランスが崩れて倒れそうになる翼乃を、水奈は後ろから受け止めた。
「ごめん。水奈兄さん……」
「謝らないでください。そんな身体で…」
「でも……行かないとっ」
「何処にですか?」
水奈が聞くと、翼乃は後ろを向きながら言った。
「俺を……私を待っている人の所へ……」
透き通った目は、水奈を映さず、ただ先のほうを見ているようである。
「……やだ…」
翼乃に近づいたアスカは、手を握って怒鳴った。
「行っちゃやだ!」
「アスカ……」
翼乃が振り向くと、アスカは涙を流しながら翼乃の手を強く掴んだ。
「行かないでよ。どこにも行かないでよ! 消えたりしないで!!」
「……」
「消えないで……何処にも消えないで……」
翼乃はあいている手で、アスカの頬に流れる涙を拭き取る。
「大丈夫だよ、アスカ。すぐに帰ってくるから」
「ほん、とう?」
「うん。知りたい事を知ったら、ね」
と言うと、翼乃は右手の小指を出す。
「絶対、だよ」
アスカも小指を出すと、翼乃のと絡め合わせる。
「ほら、アスカ。翼乃が行けないだろ」
小指を離すと、壱鬼がアスカの腕を掴んで後ろへと下がらせた。
翼乃が歩き出そうとした時に、水奈が後ろから抱き締める。
「僕には、君を止める権利はありません。君の思うとおりにしなさい」
「うん」
「でもね……」
水奈は妹の身体を自分の方に向けさせると、長くなった紅い髪を撫でた。
「君が帰ってくるのは、ここですからね。必ず、僕達の所へ帰ってきて下さい、翼乃君」
「……うん…」
妹の額に軽くキスをすると、水奈は2,3歩後ろに下がる。
背を向けて歩き出すと、翼乃は泳地の前へと来た。
「何があったのかなんて、誰も知らない。お前の事は、お前自身が一番知っているはずだ」
泳地は赤いコートとベルトを、翼乃に差し出す。
「時間をかけてもいい……お前の運命は、お前が決めろ」
コートとベルトを受け取りながら、翼乃は「…うん」と頷いた。
コートとベルトを身に付けると、翼乃は時逆・時順の所へといった。
『別れの言葉は言ってきたのかい?』
「別れ? 違うよ。戻ってくるんだから」
『戻ってくれば、じゃないのかい?』
翼乃は瞳を閉じ、薄く開かせる。
「……行こう」
『『はいよ』』
時逆・時順が間を人一人分くらい離れると、その間にゆがみが現れる。
翼乃はゆがみの一歩前に行くと、後ろを振り向いた。
「じゃあ……」
兄達とアスカに、翼乃は笑いかける。
「行って来ます!」
床を軽く蹴り、翼乃はゆがみの中へと入っていく。翼乃が入ると、時逆・時順は消えてしまう。
『あたしゃ、時順(ときじゅん)。時を順に行く妖怪』
「……時を操る、妖怪…」
『あたしら、朱雀を迎えに来たのさ』
時逆が言うと、翼乃はゆっくりと立ち上がり、歩き出す。
「行かなくちゃ……」
「翼乃君っ!?」
歩きながらバランスが崩れて倒れそうになる翼乃を、水奈は後ろから受け止めた。
「ごめん。水奈兄さん……」
「謝らないでください。そんな身体で…」
「でも……行かないとっ」
「何処にですか?」
水奈が聞くと、翼乃は後ろを向きながら言った。
「俺を……私を待っている人の所へ……」
透き通った目は、水奈を映さず、ただ先のほうを見ているようである。
「……やだ…」
翼乃に近づいたアスカは、手を握って怒鳴った。
「行っちゃやだ!」
「アスカ……」
翼乃が振り向くと、アスカは涙を流しながら翼乃の手を強く掴んだ。
「行かないでよ。どこにも行かないでよ! 消えたりしないで!!」
「……」
「消えないで……何処にも消えないで……」
翼乃はあいている手で、アスカの頬に流れる涙を拭き取る。
「大丈夫だよ、アスカ。すぐに帰ってくるから」
「ほん、とう?」
「うん。知りたい事を知ったら、ね」
と言うと、翼乃は右手の小指を出す。
「絶対、だよ」
アスカも小指を出すと、翼乃のと絡め合わせる。
「ほら、アスカ。翼乃が行けないだろ」
小指を離すと、壱鬼がアスカの腕を掴んで後ろへと下がらせた。
翼乃が歩き出そうとした時に、水奈が後ろから抱き締める。
「僕には、君を止める権利はありません。君の思うとおりにしなさい」
「うん」
「でもね……」
水奈は妹の身体を自分の方に向けさせると、長くなった紅い髪を撫でた。
「君が帰ってくるのは、ここですからね。必ず、僕達の所へ帰ってきて下さい、翼乃君」
「……うん…」
妹の額に軽くキスをすると、水奈は2,3歩後ろに下がる。
背を向けて歩き出すと、翼乃は泳地の前へと来た。
「何があったのかなんて、誰も知らない。お前の事は、お前自身が一番知っているはずだ」
泳地は赤いコートとベルトを、翼乃に差し出す。
「時間をかけてもいい……お前の運命は、お前が決めろ」
コートとベルトを受け取りながら、翼乃は「…うん」と頷いた。
コートとベルトを身に付けると、翼乃は時逆・時順の所へといった。
『別れの言葉は言ってきたのかい?』
「別れ? 違うよ。戻ってくるんだから」
『戻ってくれば、じゃないのかい?』
翼乃は瞳を閉じ、薄く開かせる。
「……行こう」
『『はいよ』』
時逆・時順が間を人一人分くらい離れると、その間にゆがみが現れる。
翼乃はゆがみの一歩前に行くと、後ろを振り向いた。
「じゃあ……」
兄達とアスカに、翼乃は笑いかける。
「行って来ます!」
床を軽く蹴り、翼乃はゆがみの中へと入っていく。翼乃が入ると、時逆・時順は消えてしまう。