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SWAN日記 ~杜の小径~

アンドレ お誕生日SS/夏夜《読み切り》

アンドレ お誕生日SS/夏夜《読み切り》

〈2016年8月26日にヤプログにUPしたSSです〉

◇◇◇

《好き》を履き違えて甘やかすだけなら誰でもできる。
その相手を失うのが怖くて。
振り向いて欲しくて。
気を使って、相手を持ち上げて、甘やかして…。
それは愛情の思い込みであり、自分勝手な愛に過ぎない。
無駄に甘やかすだけの行動は決して相手の為にはならない。
アンドレは本気で隊長に意見する。
言うべき事と言うべきで無い事を長年の積み重ねで学び、身についているのだろう。
隊長もアンドレの声には耳を傾ける。
幼馴染みゆえ、ずっと一緒にいたため、阿吽の呼吸で二人は動く。
アンドレは隊長が動きやすいように立ち振舞う。
側から見れば、さながら光と影のように。
誰もアンドレの代わりにはなれない。
隊長も隣にアンドレがいるからスムーズに動けるのだろう。
《好き》を履き違えて甘やかすだけなら誰でもできるのだ。
貴族と平民。
子どもの頃から幼馴染みのように一緒にいたとはいえ、アンドレは隊長の従僕件護衛という立場だ。
奴の隊長への想いは判る。
側からみても分かりやすかった。
オレだって隊長のことは好きさ。
でも隊長は歳下の男なんて興味ないみたいだし。
アンドレに敵わないのは判ってる。
好きだから、ちょっかい出したくなる。
好きだから、イジメてしまう。
素直じゃなくて結構!
隊長とアンドレの間に割り込めないのは判ってるんだ。
衛兵隊に女隊長がくると知って、どんな貴族のボンボン…世間知らずのお嬢様かと思ってたさ。
隊長の名前は知っていた。
士官学校で聞いたんだったな…。ある意味、伝説の近衛士官だったから。王太子妃付きの近衛士官で、後に王妃のお気に入りの近衛連隊長。父親は近衛の総司令官だったっけ。
後ろ盾も凄えが、隊長って凄い経歴の持ち主だよな。
自ら移動願いを出して衛兵隊に来たと聞いたから、空いた口が塞がらなかったね。
近衛隊と衛兵隊は全然違うのだ。
兵士の身分も家柄も隊の体質もさ。
この世間知らずのお嬢様をとっとと追い出そうと拉致ったのに…追い出しは失敗に終わった。
この隊長、体当たりで来やがった。
お飾り貴族かと思いきや、違ってた。
こんな上級貴族もいるのか…と思った。
色々な隊長の一面をみる度に惹かれていった。
恋か憧れか…隊長を好きだと自覚するのがイヤで、ちょっかい出しちまう。
そして最近、隊長とアンドレの雰囲気が変わった。
アンドレといる時の隊長が丸くなったっつーか。
女らしくなったっつーか、また美しくなった。
あぁ、二人は結ばれたのか…と判った。
アンドレはオレが隊長に惹かれているのを勘付いているよな。
オレのことなんざ、ケツの青いガキくらいにしか思ってないんだろうよ。
今日は8月26日。
アンドレの誕生日だったよな。
二人を早めに屋敷に帰してやろうか。
どうせオレは素直じゃねえし。
帰宅させる為に喧嘩ごしで二人を衛兵隊から追い出す形になっちまうんだろうが…。
二人の時間を長く作ってあげようっていうオレの気遣い、アンタらには通じ無いんだろうがな。
アランはフンと鼻で笑いながら、午後の休憩を過ごしていた。

◇◇◇

「…アンドレ、さっきのアランの剣幕は何だったのだ?」
夕刻、帰りの馬車の中でオスカルは首を傾げている。
以前は向かい合って座っていたが、想いが通じ合ってからは並んで座ることが多くなった。
今日も二人は並んで座っている。
帰りが深夜になる時は肩を貸してオスカルを休ませるようにしているが、今日は早く帰ることができるため疲れも少ないのかオスカルは嬉しそうだ。
オスカルは先程のアランの様子を思い出していた。
一日の勤務を終えて書類整理をしようとしていたら指令官室にアランがやってきた。
一班で遊びに出かける予定があるから隊長達は早く帰りやがれ!と怒鳴られて。
急ぎの書類でなければ明日やれば良いだろうとブツブツと愚痴っていたアラン。
「さあな」
アンドレは小さく笑って首を傾げてみせた。
「今日はお前の誕生日だし、早めに帰宅できるのは嬉しいが…何故アランは喧嘩ごしだったのだろう」
「アイツも素直じゃないからね。アランなりに気を遣って早く屋敷に帰そうとしてくれたのだろうと思うよ」
「……そうだったのか」
オスカルは先程のアランの剣幕を思い出してクスリと笑った。
「……アンドレ。アランは私達の事を知っているのか?」
幼馴染みから主人と従者に、そして今は恋人である事を。
「アランは気付いているかもしれないよ。アイツは何気に周りの人間を良く見ているからね」
オスカルは目を丸くしている。
アンドレは口元で笑った。
素直になれない若いアラン。
少しオスカルに似ている気質の持ち主。
歳は離れているが良い友達なのだ。
素直になれなくて、日頃からオスカルにチョッカイを出しているアラン。
好きだからイジメてしまう…そのままの行動だな。
アイツがオスカルに惹かれているのは知っているが、これだけは譲れない。
今日の礼も兼ねて今度アランに一杯奢ったほうが良いかな。
一班で出かけた酒場でヤケ酒を飲んでいるであろうアランを思って、アンドレはオスカルを見つめて微笑む。
「あ、アンドレ。誕生日プレゼントはワインを用意してあるんだ。アンドレの生まれ年のモノで…今夜一緒に飲もう」
「有難う。今夜、お屋敷の仕事が終わったら部屋に行くよ。ショコラも持ってね」
毎夜、アンドレがショコラを用意してオスカルの部屋に行くのは日課になっている為、屋敷の者達が不思議に思うこともない。
嬉しそうなオスカルを見て、アンドレも優しく微笑んだ。
…一緒に飲もうと言っても、おそらくボトルの三分の二はオスカルが飲むんだろうな。
オレの誕生日を口実に飲みたいのだろう。
コイツ、底なしに飲めるからなぁ。
でも、オレの生まれ年のワインを用意してくれていたなんて…素直に嬉しく思うよ。
コトリと肩に頭を預けてきたオスカルの肩を抱いて、アンドレは金色の髪に口付けた。
「…有難う、オスカル」
耳に届くアンドレの声にオスカルも口元で微笑んだ。
馬車の外は美しい夕焼け空。
今夜は星が綺麗に輝きそうな空模様だ。
アンドレはオスカルの髪を優しく梳きながら微笑んだのだった。

◆おわり◆

*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
      アンドレお誕生日おめでとう!
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

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