セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

開かずの間の冒険

2012年12月29日 05時58分20秒 | クエスト184以降
今週もほぼ翌朝更新ですみませんの捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。年末→大掃除から連想してできた話ですが、大掃除色がほとんどないです。作中のシチュエーションは、ドラクエモンスターズテリワンをイメージ。もしくはすごろく場の宿屋とか。ドラクエ世界は冒険者に優しい為か、とんでもない場所にも回復場や商業施設があったりしますよね。今年最後の追加クエストもどき、おかげさまでなんとか更新できました、ありがとうございます!来年もご愛顧頂けると幸いです☆

 クリスマスも終わり、一年の締めくくりももうすぐである。今年中に気になることを済ませてすっきりしよう!と考える人も多くて、その手伝いに引っ張りだこな冒険者たちは、案外忙しい。
 受注したクエストもすっきり解決して、すがすがしい気分になったミミは、あと僅かな今年はもう、何も引き受けないでゆっくりしようかな、と思っていた。しかしイザヤールと二人、困っている人を見かけると、元守護天使モードが発動してしまう。天使たちって、ある意味ビンボーしょーだよね、とサンディが苦笑することがあるくらいだ。
 セントシュタイン城下町の、由緒ある屋敷が立ち並ぶ一角をのんびり散策デートを楽しんでいたミミとイザヤールは、そんな屋敷の一つの高い塀を乗り越えようとしている怪しい人影を見つけた。道の方に向いているところを見ると、どうやら中から出てきたようだ。
「何をしているんですか?」
 ミミが声をかけてみると、人影は塀の上で飛び上がりかけてぐらつき、慌ててバランスを取り、低いが切羽詰まった声で答えた。
「しーっ、お静かにっ」
 そう言ってぴょいんと飛び下りてきたのは、元気の良さそうな若者だった。簡単な旅支度らしい格好をしている。
「ここで何をしていた?」
 イザヤールはごく普通の調子で話しかけているのだが、後ろめたい人間には、怖く感じるらしい。若者は慌てて背筋を伸ばして弁解した。
「ちょ、誤解ですって!僕はこの屋敷の使用人です!怪しい者じゃありません!」
 しかし、使用人が塀を乗り越えて出入りするだろうか。かなり怪しい。ミミとイザヤールの疑念の浮かぶ視線に、彼はしぶしぶ訳を話し始めた。
「実は・・・正確に言えば、さっきまでは使用人『だった』んです。主人に恐ろしい仕事を命じられて、こっそり逃げようと思ったんです」
「恐ろしい仕事?」
「この屋敷の開かずの間の掃除を任されたんですが、昔次々と使用人が行方不明になっているというウワサの、曰く付きの部屋でして。僕には、婚約者もいるんです!行方不明なんてまっぴらですよ!しかし僕のあるじは、急に思い立ったら実行しないと気の済まないタイプで。何十年も忘れていた、その部屋の掃除を、急に思いついてしまったワケです」
「人が行方不明になる開かずの間か・・・それは調べてみた方が良さそうだな」
 イザヤールが呟き、ミミも頷いた。
「そうですね。あの、あなたのご主人に、掃除は私たちがやると、お話し頂けませんか?」
「代わりに行ってくださるんですか?!ありがとうございます!」
 若者は大喜びで深々と頭を下げた。ミミとイザヤールはクエスト「開かずの間の冒険」を引き受けた!

 若者のあるじは、まだそれほど年輩でなく、気まぐれで頑固そうではあるが、根は悪い人間ではなさそうで、ミミたちが代わりに開かずの間の掃除をすることを喜んで許可した。
「使用人が行方不明になる部屋などと言う、化け物屋敷めいたウワサを一掃したいと思いまして。冒険者の方に調べて掃除してもらえるのなら、それに越したことはないですよ」
 若者が逃げ出そうとしたことなど知らない彼は、優秀な冒険者を探してくるとは気の利くヤツだと使用人を褒め、褒められた方は気まずそうに曖昧な笑みを浮かべた。
「これが部屋の鍵です。あいにく私は、やむを得ない用事があって一緒に様子を見ることはできませんが、後ほど報告頂ければ助かります」
 そう言ってあるじはミミに部屋の鍵を渡し、使用人に部屋までの案内を命じて出かけていった。
 問題の部屋の入り口まで来ると、若者は再び二人に深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございます!くれぐれもお気を付けて!僕はここで待ってますから、何かあったら呼んでください」
 ミミは鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりと回した。軋んだ音は立てたが、鍵は回って開いた。
 開いた扉の向こうに広がっていたのは、書棚の列が立ち並ぶ、迷路のような光景だった。人が久々に立ち入ることで、淀んだ空気が動いた。
「エルシオン学院の旧校舎みたい・・・」
 ミミが呟き、イザヤールも頷いた。
「魔物が出てもおかしくないな。万が一本当に居て屋敷内に散ると厄介だから、扉は閉めておこう」
 二人は部屋の外に立っている若者にそのことを伝え、扉を閉めた。

 書棚と書棚の間を、用心深く歩きながらも、二人は興味津々で蔵書の数々を見つめた。冒険の役に立ちそうなものはあまりなかったが。
「あ、これ、『ロト伝説』の古い版の本です」
「こっちは・・・『エルフの生態について』か。興味深いな」
 掃除ならとりあえず窓を開けようと部屋の奥まで行ってみると、鎧戸はなんと重たい金属製で、どうやら窓を開けることはあまり想定してないらしかった。本の日焼けを防ぐためのようだ。だが、窓を開けられないことを忘れさせることが、間もなく二人に起きた。
 窓と直角にぎっしり並んだ書棚は、天井まで届いて壁のようになっていたが、他の書棚は天井との間に隙間があるので、どこか不自然だった。
「こんな書棚の向こうには、大概隠しスペースがあるものだ。おそらく、本のどれかがからくり扉のスイッチというところかな」
 イザヤールは言って、並ぶ本の背表紙を眺めた。見ると、他の本より上に積もった埃の層が若干薄い本があった。
「タイトルは『いざないの洞窟』、か。この本がスイッチだとしたら、洒落が利いているかもな」
 彼が笑ってその本を抜くと、書棚の一つがするすると横に移動した。
「イザヤール様、すごいの♪」
「すごいのはどうやらこの部屋の方らしいぞ。ミミ、あれを見てみろ」
 書棚の奥のスペースは狭かったが、そこに一つぽつんと、サンディの部屋で見かけたことがある「旅の扉」が、二人の前に表れたことで静かに淡い光を放ち始めた。
「入って・・・みてもいいですか、イザヤール様?」
 サンディも連れてきていない。もしも帰れなくなったら、という危惧はあったが、ものすごく気になる。それにもしかしたらこの先に、行方不明者が居るかもしれない。
「おまえと一緒なら、どこへでも付き合おう」イザヤールは笑って答えて、手をミミの方に差し出した。「ただし、この手は決して放すな」
「・・・はいっ」
 ミミはその手をしっかり握り返し、二人は旅の扉に入った。

 手を取り合ったまま二人が立っていたのは、なんと遺跡タイプの洞窟の中だった。とりあえず、このフロアには魔物の気配はない。聖なる力の封印が働いているようで、それが下から魔物が逆流するのを防いでいるようだ。道なりに歩いていくとやがて、下に続く階段にたどり着いた。
 降りてみると、次のフロアには案の定、魔物たちが居た!ただし、いつもの宝の地図の洞窟のような光景なので、かえってミミは安心し、イザヤールは逃げていくはぐれメタルを面白そうに眺め、武器を取り出した。
 数フロア降りてみて、魔物の強さはそこそこだったがミミたちから逃げ出すレベル、時折ある宝箱は青く、入っているものはちいさなメダルやシルバートレイなどだ。そんな状況から、やはりここはあまり高レベルではない宝の地図の洞窟なのかなと、二人に思わせた。だがその次に降りたフロアには、意外なものが待っていた。
 なんと、宿屋兼酒場を、中年の夫婦らしき男女が営業していた!
「いらっしゃい!いや~、久しぶりのお客さんですなあ」
 マスターらしい男は、ほくほくと揉み手をし、その妻らしい女の方は、シチューを混ぜる手を止めてにっこり笑った。
「あの・・・ここは?」
 ミミとイザヤールが戸惑いながら尋ねると、マスターは笑って答えた。
「びっくりされました?ここは洞窟探検者の為の宿屋です!」
「あなた方は、いったい・・・」
「いやあ驚かれるのもムリはないですよ。私、昔はこのずっと上にある屋敷の使用人をやっておりましてね。隣に居る女房は、メイドでした。私たちは、将来を誓い合う仲になっていたんですが、女房の親に反対されておりまして、思いきって駆け落ちすることにしたんです。女房の親は娘を、小金はあるが意地悪な老人に嫁がせたがっておりましてね。
駆け落ちの機会を待っている間に、たまたま書庫の隠しスペースと旅の扉を発見しまして、何回か探検してみて、すっかり気に入ってしまいましてね。いっそここに住んでしまえと、彼女と一緒にここに来て。いや~、あの頃は若くて無鉄砲だったなあ。
行方不明?いえいえ、先代のご主人様はこの場所のことは知ってましたし、ご主人様にだけは、女房と所帯を持つって言って内密にはですけどちゃんとお暇を取らせて頂きましたよ。
ここね、宝の地図経由のお客さんがたまにいらして、まあまあなんとか暮らして行けますよ。外にも、この下に居るハヌマーンを倒せば普通に出られますし。私も女房も、週一の仕入れに行くときはそうやって出かけてます。キメラの翼で帰ってこられますし」
 ミミとイザヤールは話を聞きながら呆気に取られていたが、やがて楽しげに笑い出した。ダンジョンが気に入ってしまって駆け落ち先にしてしまうなんて!
 行方不明者の噂はおそらく、彼らの心優しい元主人が、二人の居場所を知られない為にかばった結果だろう。その噂に、今日のミミたちの依頼人のような者たちが怯えて、夜逃げをしたりして更に尾ひれが付いたのだろう。
「この場所のこと、今の屋敷のご主人に報告しても大丈夫ですか?」
 ミミが言うと、マスターは気まずそうに頷いた。
「勝手に地下に住み着いて、ご挨拶のタイミング逃してまして・・・私と女房も、改めて今のご主人にちゃんと挨拶に行きます」
「すみませんねホントに。うちの亭主ったら考え無しで。まああたしもですけどね」ここで女房の方が口を挟んだ。「お急ぎ?よかったらシチューだけでも食べてってくださいよ、うちの名物メニューでしてね」
 こうしてミミとイザヤールはシチューを食べ、先に進んで気の毒なハヌマーンを倒し、洞窟から出ることができた。出た場所は、セントシュタインの城壁のすぐ外だった。

 依頼人は、ミミたちが外から帰ってきたことに驚き、話を聞いて更に驚いて目を丸くした。
「そういうことだったんですか!・・・信じがたいけど、でもじゃあちょっと行ってみちゃおうかな・・・。いずれにしても、この部屋を掃除しても行方不明になったりしないってことですね、ありがとうございます!じゃあ掃除は僕が自分でやります!」
 若者はお礼にと、「ふしぎなきのみ」をくれた!
 ミミたちは、帰ってきた現在の屋敷のあるじにも顛末を報告した。
「あの部屋は書庫で、そんなダンジョンまであったとは。図書室が別にあるものですから、そんな書庫があるなんて知りませんでした。父にもっと話を聞いておけばよかった」
 彼は寛大にも元使用人たちがダンジョンに住んでいるのを許し、そしてミミたちにも、書庫とダンジョンは自由に使っていいと言ってくれた。
 帰り道、イザヤールと並んで歩きながら、ミミは思った。・・・私も、イザヤール様と一緒に天使界から駆け落ちした、そう考えておけば、ちょっと楽しくて、ちょっと寂しくなくなるかな・・・なんて。
「ミミ、どうした?」
 その彼が、不思議そうに見つめてくる。
「な、なんでもないの」
 ミミは赤くなって、その染まった頬をイザヤールの腕に寄せた。〈了〉

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