セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

血の色雲の檻

2014年05月10日 03時08分50秒 | クエスト184以降
明け方はギリギリ免れた更新の追加クエストもどき。冒頭のヘルミラージュの言い伝えは、モンスター図鑑より。赤い雲の中に魂を閉じ込めておく、というのは妄想ですが実際やっていそうです。登場人物の運命が残酷で哀しめ話ですが、人間ってほんのちょっとしたことでたちまちあちら側に堕ちたりするけれど、逆にほんのちょっとしたことで帰ってこられたりするといい、そんな希望を籠めて書きました。

 ヘルミラージュの赤い雲の中に連れ去られた戦士は、二度と帰って来られない。そんな言い伝えを知ってはいるが、そんなことは迷信だ、と、彼は思っていた。それは、あの魔物の高い攻撃力と猛吹雪による死を別の言葉で言い表したにすぎない、と。
 だが、ダンジョンから出たら彼は、その迷信を信じているフリをしなくてはならなかった。信じているフリをして、相棒はヘルミラージュの雲の中に連れ去られたと、言わなくてはなからなかった。真実は言えなかった。ベテランのトレジャーハンターと評判の彼が、相棒を見捨てて逃げ出したなどと。いや、真実はもっと酷かった・・・。

 彼はわざと、相棒をヘルミラージュの巣に誘導し、置き去りにして、逃げてきたのだ。

 ずっと大切な相棒だと彼は思っていた。相棒の方も、おそらくそう思っていたことだろう。だが、驚くほど短い間に、状況が変わってしまった。よくある話だ。二人で同じ女、雇い主の一人娘である少女を愛してしまったが、彼女が愛したのは、男らしく快活な戦士である、相棒の方だった。でも、ヤツさえいなければ、自分にも希望ががあるかもしれない。だから・・・。彼はそう思ってしまった。
 彼は、唇を噛みしめ、出口へと続く階段の方へ、駆け出そうとした。だが、何かが、行く手を塞いだ。
 赤い雲、血の色の雲だ!何故・・・。
 彼は、そのまま雲に包まれ、二度と戻ることはなかった。

 それから数十年後。リッカの宿屋のラウンジで、一人の中老の戦士が、若い冒険者たちを相手に、昔の経験談を語っていた。聞き手の中には、ただいま僧侶職のミミと、こちらは戦士職のイザヤールも混じっていた。
「・・・その後オレたちは、うっかりヘルミラージュの巣窟部屋に入ってしまった。オレは、トレジャーハンターだった相棒に、逃げろ!と叫んで、ヘルミラージュの前に立ち塞がった。いやなに、カッコつけたわけじゃねえ。相棒の方が、部屋の出入口側に居て、まだ生き残るチャンスがあった。二人ともくたばっちまったら、誰がお嬢さんを・・・今はオレの女房で、もう孫もいるがね・・・を守ってやれるんだ、とっさにそう思ったのさ。
オレは、覚悟を決めて、捨て身で攻撃した。だがどんな幸運だったのか、何匹かに連続で会心の一撃のギガブレイクが決まって、活路を切り開くことができた。きっと、神様が守ってくれたんだろうな。
けれどな・・・あんな恐ろしい魔物たちが、部屋を出て追ってこないことが、逆に薄気味悪くて、気になった。気のせいか、洞窟を出るまでに、奴らのこんな声が聞こえたような気がした。『あれは聖なる加護がある、ダメだ。加護を無くした方を連れていこう』いったいどういう意味だったのか・・・。
奇跡的に帰って来られたオレは、そのとき初めて、相棒が帰って来なかったことを知った。まさか、オレのことが気にかかって引き返して来ちまったんじゃないか、それでオレと入れ違いになって、やられちまったんじゃないか、そう思った。ダンジョンに引き返そうにも、ダンジョンの宝の地図は相棒が持っていたから、それを確かめる術さえなかったまま今日まで来ちまった・・・」
 ここで戦士は何かを言いかけたがやめて、真剣な顔で冒険者たちに告げた。
「いいか、オレみたいに大切な仲間のことで後悔したくないなら、宝の地図は、ダンジョンに潜るそれぞれのメンバーが、必ず一人一枚写しを持つことだ。面倒だと思っても」
 なるほど説得力があると聞き手の冒険者たちは頷き、そういえばと慌てて各々の宝の地図を写しにかかって、何となくお開きとなった。
 やがてラウンジには、その戦士とミミとイザヤールだけになった。そこでミミは、先ほど感じた疑問を戦士に尋ねてみた。
「先ほど、何かを言いかけてやめましたよね?何を言おうとされていたのですか?」
 戦士は、ちょっと驚いたようにミミを見てから、答えた。
「娘さん、鋭いな。実はな、ずっとあのダンジョンの地図と同じものはないか探し続けていて、つい最近、倒した魔物が、ぼろぼろのそのダンジョンの地図を持っていて、とうとう手に入れることができた、だがな・・・。その魔物は逃げる前に、気になることを言い残していったんだが、それは到底信じがたいことだった、だからやっぱり言いたくねえと思ってな」
「だが、差し支えなければ、我々に聞かせてもらえないか。力になれるかもしれない」
 イザヤールも頼んだので、戦士は二人を見つめて信頼できそうだと判断して、話し始めた。
「地図を落とした魔物は言ったんだ・・・。オレの相棒は、心の闇につけいれられ悪魔の囁きに耳を貸し、その闇に呑まれて神の加護を失ったから、ヘルミラージュの赤い雲の迷宮を永久にさまよっているのだと。その絶望する魂の出す嘆きは、魔王たちの絶好の糧だと、な。信じられねえ!オレの相棒は、仲間思いで沈着冷静な、本当にいい奴なんだ!だがな、もし・・・本当に、そんなことになっちまっているとしたら・・・。どうにか助けてやりたい!」
「そういうことなら、ぜひ手助けさせてください」
 ミミは言い、イザヤールも頷いた。
「本当か?実は、ルイーダの酒場でちょうど冒険者を紹介してもらってそのダンジョンに挑もうと思っていたんだが、あんたたちなら頼りになりそうだ!よろしく頼むぜ!」
 ミミはクエスト「血の色雲の檻」を引き受けた!

 そのダンジョンは、ヘルミラージュが出現するだけあって、自然系の高レベルの地図で、他の出現モンスターも手強かった。だが、依頼人の戦士は、年齢を感じさせない見事な剣さばきと体力で、戦士も究めているイザヤールも感心するほどだった。三人は(サンディも居るので実は四人だったが)程なくヘルミラージュの巣窟のあるというフロアにやってきた。
「何十年経っても忘れられねえ・・・。確かにこの階だ」
 戦士は言い、半白の眉の下の鋭い目を更に鋭くした。確かに、ここは何だか他と様子が違っている。寒さ、血の匂い、幻影、そんなヘルミラージュを思い出させる要素の気配が、ここには漂っている。
 ヘルミラージュの巣窟の部屋にたどり着くと、広い空間のその部屋に、信じられないほどたくさんのヘルミラージュが居た。これがいっせいに襲いかかってきたら、ミミとイザヤールでも危ういだろう。だが、特別な結界があるのかそれとも他の理由があるのか、ヘルミラージュたちは部屋からは出てこないようなので、出入口で戦えば一回の戦闘は対応しきれる数と戦うことができそうだった。
 戦士は、ヘルミラージュたちに向かって怒鳴った。
「てめえら、もしも本当にオレの相棒の魂を閉じ込めているのなら、とっとと返しやがれ!」
 すると、ヘルミラージュの中の一匹が笑い、地の底から響くような声で答えた。
『よかろう。ただし、我々を全て、消し去ることができるのならば。地獄の蜃気楼は、与える苦痛は幻ではない。苦しみ抜いて、今度はおまえも我らの糧になるがよい!』
 ヘルミラージュが襲いかかってきた!
 イザヤールと戦士は、ギガブレイクやはやぶさ斬りを共に使い、コンボをうまく繋いで次々にこの強敵を打ち破っていった。ミミは回復に専念し、フォースをかけたりアイテムでMPを回復させたりとフォローに回り、時にははやぶさ斬りのコンボに加わったりグランドネビュラも使ったりした。
 苦しい戦いだったが、三人の猛攻にあれほど居たヘルミラージュの数も少なくなり、やがてついに最後の一匹となった。すると、そのヘルミラージュは、思いがけずも笑い声を立てた。
『くくく・・・。見事だ、戦士たちよ。よかろう、おまえの仲間に、会わせてやろう・・・我らの雲の中でな!』
 赤い雲が辺り一面を覆う!ミミたちは赤い雲の中に閉じ込められてしまった!だが、ミミは振り返って安堵した。背後、おそらく出入口であろう方向に、優しく可愛らしい、サンディのピンク色の光が見える。
「アタシがこうやって出口の道しるべになってあげるから、アンタたちは安心して依頼人のダチの魂探してあげなさい!」
 サンディの言葉にミミとイザヤールは頷き、依頼人に、相棒に呼びかけてみるよう言った。戦士は、声を張り上げて相棒の名を呼びながら、ミミたちと一緒に奥へ奥へと進んだ。
 すると、ある一角に、まだ若いがやつれた顔の、トレジャーハンターらしく比較的軽装の男の幽霊がうずくまっていた。名を呼ばれて彼は、信じられないと言いたげな顔で、年月が刻まれたかつての仲間の顔を見つめ、彼もまた戦士の名を呼び、呟いた。
『・・・来て、くれたの・・・か?こんな・・・。こんな俺の為に・・・』
 幽霊は涙を落とした。嘆きの涙ではない、涙を。
「悪かったな、遅くなって」
 戦士は言い、鼻をこすってからニヤリと笑った。するとトレジャーハンターの幽霊は、やつれた顔に笑みを浮かべ、言った。
『おまえ、老けたな』
 そう言われて、戦士は吹き出してから、答えた。
「まだまだ若い者に負けちゃあいないぜ!むしろおまえが知ってる頃よりもっとイケてるぞ!」
『お嬢さんは・・・元気か?きっと、おまえと・・・』
「ああ、オレの嫁さんになってくれて、四人の子持ちになって、孫までいるぜ。すらっとしてたのがすっかり貫禄ある体型になっちまったが、今でも可愛い」
『そうか・・・。幸せに、してくれたんだな、お嬢さんを・・・』
 幽霊は、小さな声で、やはり俺の方でなくてよかったのだと、呟いた。それから、苦悩に満ちた顔と声で言いかけた。
『俺は・・・ずっとここで・・・後悔していた・・・。おまえを・・・大事な相棒のおまえを・・・わざと、ヘルミラージュの部屋に・・・』
「何も言うな」戦士は遮った。「帰ろうぜ、こんなところに居ないで」
 幽霊は頷き、ミミたちはサンディの光を頼りに無事赤い雲から抜け出した。全員が出た途端、最後のヘルミラージュも消え去り、トレジャーハンターの屍の白骨だけが、残っていた。戦士は丁寧に骨を拾い集め、ミミが祈りを捧げた。

 ダンジョンから出ると、戦士は骨の包みを大切そうに抱えながら、ミミとイザヤールに言った。
「オレは、こいつを、こいつの故郷に連れて帰るよ。・・・あんたたちにも、オレの相棒が見えたんだろ?。本当に助かったぜ、ありがとな」
 ミミは「きせきのつるぎ改」をもらった!
 去っていく戦士の傍には、トレジャーハンターの幽霊が見える。互いに軽口を叩き合っているらしい。そんな姿を見ていたら、闇に呑まれるのは、ほんの少しのボタンの掛け違いなのかもしれないと、ミミは哀しくもなり、身を僅かに震わせた。イザヤールが、そんな彼女の肩に腕を回し、安心させるように引き寄せる。
 人間は、弱いところもあるから。信じられなかったり、裏切ったり、それで簡単に闇に堕ちるかもしれない。たまたま魔のものに目を付けられてしまうことで不当な苦しみを受けたり、過剰な罰を受けたりすることもあるだろう。
 でも、それでも信じたり、許すことだってできる。許されることも、許すことも、救済となることもあるかもしれない。人間の哀しみと希望の両方を垣間見た気がして、ミミとイザヤールは戦士とトレジャーハンターの後ろ姿を見えなくなるまで見送っていた。〈了〉
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