今週も丑三つ時ですみませんの捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。タイトルはこれですが、かなりささやかな冒険。懐かしのドラクエ4コマ劇場の名も無き村その他ネタから派生しました話w「古いダイコン」や「ヤーマダさん」わかる方いらしたら嬉しいですwwwDQ9の世界は、容量の都合か町が少なめな気がするので、きっとゲームストーリーに関わらない国や町がたくさんあるんだろうな。と言うか、あること希望です(笑)
復活したガナン帝国と堕天使エルギオスによって、世界は危うく滅亡するところだった。しかし、世界の大半の者がそんなことはつゆ知らず、世界が救われた後も、以前からずっと続いていると思っている平和を享受していた。
平和すぎるとちょっと刺激を求めるのが人間の常。そんな訳で、宝の地図の洞窟は、未だに大流行りだ。特に町の近くにある洞窟の地図は引っ張りだこで、逆に洞窟の近くの町も冒険者で賑わって、商業施設関係者はホクホク顔だった。
だが、そんな恩恵に預かれない村や町も数限りなくあった。名産品も錬金の材料も観光資源も特にない。宝の地図の洞窟でないダンジョンすらも近くになければ、大した事件が起こるわけでもない。
とある村も、そんな場所のひとつだった。旅人が訪れないから、宿屋はなく個人の住宅があるばかりだったし、専用の武器屋すらなく農機具で魔物を追い払う始末だ。村長がぎっくり腰を起こしただけで大事件になる村なのである。
そんな村から、最近村人たちがセントシュタインに旅行に出かけた。そして、すっかり驚き感心して帰ってきた。
「うちの村も、何か目玉が必要だべなあ」
「何か名物とかお宝があるといいんだけど・・・なかなかそれっぽいのがないもんねえ」
「う~ん、困ったわ」ここで一人の村娘が頭を抱えた。村長の孫娘だ。「泊まったステキな宿屋の主人のリッカちゃんって子や、呼び込みやってたミミちゃんって子たちと仲良くなったの。今度うちの村にも遊びに来て、って言っちゃったけど、うちの村ホントに何もないわよ~。どうしよう~」
「仕方ねえべさ、ないもんはないんだからよう」
「でもリッカちゃんやミミちゃん、すっごい冒険者でもあるのよ~。ホントに何もないと絶対がっかりしちゃうわあ」
「と、都会では宿屋のおねえちゃんも冒険者なんか?!」
村人たちはまた驚き、村長は腕組みして考えた。可愛い孫娘の為に何とかしてやりたい。孫娘の新しい友達に、何とかこの村も捨てたもんじゃないとアピールしたい。
しばらくして、村長は書棚から読み古された書物を取り出した。別に古文書でもなんでもなく、二十年程前、まだ若かった彼の息子が買ってきた、フィクションの冒険物語である。ちなみに買ってきた当の本人は、ただいま畑の手強い土と格闘中である。
「ふむむ・・・この本を参考に、なんとか冒険物語に登場するみたいな村を演出するのはどうかのう。これによると、村人は冒険者に情報を与えたり、何かを依頼したりするものらしい」
「へえ、どれどれ・・・。お、村人Aのセリフかい。『北の洞窟には女神を模した像があるらしい』・・・おお~、何かかっこええなあ」
「でもこの辺にはそんな洞窟ないじゃない」
「ヤーマダさんとこの、氷室じゃダメだべか。最近あそこ、どーゆーわけか温度上がって氷室として役に立たね、っつーから、使ってもいいべ」
「室を洞窟って言っていいんかなあ・・・」
「そもそも、うちの村に女神像なんてないし」
「この前の旅行でロクサーヌさんの店で買ってきたスライムのぬいぐるみで代わりにならんか?」
「ならん!」
その場に居た全員が一斉にツッコミを入れた。
「じゃこんなセリフどうかの?『北の洞窟に、「古いダイコン」があるそうですよ』」
「・・・」
その場に居た村人全員、がっくりと溜息をついた。
それから数日後。リッカの宿屋に宿泊した村長の孫娘が、髪留めを宿屋に忘れていっていたので(セントシュタインの城下町で、土産に新しい物を買ったので忘れたのだ)、ミミがそれを届けに行くことになった。すぐにでも届けに行きたかったが、宿屋も初夏の陽気で超が付くほど繁忙期なうえ、忘れ物が判明した日からしばらく、ミミとイザヤールはたまたま出かけていたのだ。
訪れたことのない村ならぜひ行ってみたいと、イザヤールも同行することになった。村の名前を聞いて彼は、そこの守護天使のことを思い浮かべ、ああ、あいつの守護していた村か、と一人頷いた。事件がなかなか起きなくて、星のオーラが集まりにくいと嘆いていたっけか。
ミミとイザヤールが共に天使だった頃は、女神の果実探しが最優先事項だったから、関係なさそうな場所はあまりじっくりと滞在することはなかった。世界も平和になり、こうして冒険者としての日々を送るようになって、直接冒険に関係無くても、まだまだ知らない場所を訪れるのは楽しい。
「お話で聞いていると、きっとのどかでいい村なんだろうな、って思います。楽しみですね」
ミミがわくわくと瞳を輝かせて言うと、イザヤールも微笑んで頷いた。
「そうだな」
ウォルロ村みたいな村だろうか。元守護天使たちだった者としては、村や町は、人々が平和で幸せなのが一番重要だと、二人は思った。もっとも、平和すぎて自分たちが幸せなことに気付いていない村というのは、星のオーラ集めに難渋するものだったのだが。
届け物をするだけなら軽装でいいだろうということになって、ミミはいつものように踊り子のドレスで、イザヤールはレザーマントに自分のズボンとブーツ姿で出かけた。
目的地の村の辺りにたどり着くと、ミミは地図を広げて確認した。
「この辺だと思ったけれど・・・あ、あそこかな?」
少し離れたところに、小さな集落が見える。そこに入ると、近くの畑で新じゃがを収穫していた男が飛び上がった。
「わわわ、旅の人が来たー!え・・・と。こ、今年のじゃがいもも、上出来だべよ」
「?こ、こんにちは・・・」
ミミは首を傾げた。村人のセリフの後半が、まるで台本があるような言い方だったからである。別の村人は、やはり棒読みで「いらっしゃい!ここは○○の村だよ」と村の名前を言い、また別の村人は、村長に来客の訪問を告げに走って行った。
「あの、私たち、セントシュタインから参りました。村長さんのお孫さんに、忘れ物を届けに来たのですが、お家の場所を教えて頂けますか?」
ミミが最初の村人に尋ねると、彼はこっそりポケットからメモを取り出し、読みながらたどたどしく答えた。
「なんと!村長の家のお客様だか!村長の家は、豆畑を越えた向こうの川の、橋を渡ってすぐだよ。くれぐれも気を付けてな」
「は、はい、ありがとうございます・・・」
ミミとイザヤールが村(畑の間にまばらに家が散らばっている)の中を歩いていると、村人たちはわざわざ家から外に出てきて、わくわくとした顔でミミたちを見送っていた。そして、口々に囁いた。
「如何にも冒険者っぽいにいちゃんと、カワイイおねえちゃんが来たなあ」
「都会では髪の毛剃るのが流行りか?」
「ぼーけんしゃの間で流行りらしいで。俺、ルイーダさんの酒場で何人か見た」
ひそひそ話はしっかり聞こえていて、別に流行りではないのだがと、イザヤールは苦笑した。
豆畑は越えたが、川というよりわき水がちょろちょろ流れたせせらぎに出て、ミミは戸惑った。
「川って・・・これかな?」
「では橋はこれか?」
足がぬかるまないよう、流れには板が渡してある。その流れの元の水場で、村長の孫娘は野菜を洗っていたが、ミミの姿を見て、嬉しそうに、また困ったように立ち上がった。
「ミミちゃん!来てくれたのね、嬉しいわ!」
「私もまた会えて嬉しいの。そうそう、リッカに頼まれて、忘れ物を届けに来たのよ」
ミミが髪留めを渡すと、孫娘は更に嬉しそうになった。
「わざわざ届けに来てくれたんだ!ほんとにありがとう!」それから、ちょっぴり決まり悪げな顔になり、続けて言った。「でね・・・おじいちゃんにも会ってってくれる?お願いがあるんだって」
村長は、大喜びで、だがちょっとぎこちなくミミとイザヤールを出迎えた。
「おお、よくぞいらした旅のお方!これぞ神の思し召し!実は、少々困ったことがありましてな」
クエストの予感・・・とミミは内心呟く。
「実は村の北に洞窟があるのですが、最近、魔物が出まして中に入れませんでな。魔物を追い払ってくれたら、あなた方を勇者として認めましょうぞ」
それはたいへん、勇者として認めてもらわなくても、ちゃんと魔物退治しますから、と答えて、ミミはクエスト「勇者よ北の洞窟へ」を引き受けた!
ミミとイザヤールは、それから間もなく「北の洞窟」にあっさりとたどり着いた。子供たちが入り込まないようにする為かロープが張ってあり、長いこと誰も入っていないのか、薄暗い中でもわかるくらい砂埃が積もっている。村の結界のぎりぎり外側なので、村の外のダンジョンだと言い張れば言えなくもない。
この辺りの魔物は、さほど強力ではなく、ミミたちの敵ではない。ロープをくぐって、彼らは氷室の中に入った。
その頃。村長の孫娘は、祖父に心配そうに尋ねていた。
「ね~おじいちゃん、ホントに大丈夫?演出へぼくない?」
「大丈夫じゃ、村一番の演技派、夏祭りの芝居では毎年主役の青年団団長に、魔物の役を頼んだからの。姿をちらりと見せたら、すぐ逃げてもらう手筈になっておる」
「スライムスーツとヘッドでしょ?バレバレじゃない?大丈夫かなあ・・・」
そんな会話をしていた矢先、一見でかいスライムタワー、その件の青年団団長本人がそこへのこのこと現れたので、二人は腰を抜かすほど驚いた。
「こ、ここで何しておる?!」
「悪い悪い、牛が麦畑に入っちまったから、遅くなって。・・・え、旅人さんたちもう氷室に向かった?!」
「どーすんのよ、台無しじゃん」
「仕方ない、魔物は逃げたということにしよう」
そんな会話がされているとは知らず、氷室(だとはミミたちは知らないが)の奥に入っていったミミとイザヤールだったが、室の奥の暗がりからやってくる異様な熱気と乾きに気付いた。
なんと、「エビルフレイム」が現れた!二人も村人たちも知る由もなかったが、たまたまこの地に迷い込んでこの氷室に潜り込んでいて、それで氷室の温度が上がっていたのだった。運良く誰もしばらく近寄らなかったからよかったものの、誰か来たら犠牲者が出ていたところだ。
軽装ではかなりのダメージの灼熱の炎が、穴の中を満たす。炎に包まれる前に二人は急いで氷室を飛び出し、「といきがえし」をしてから剣を振るって、何とか大きな怪我をせずに倒すことができた。
「ミミ、怪我はないか?」
イザヤールの問いにミミは頷き、彼の火傷を負った腕を涙目で見つめて急いでベホイミをかけ、更に治った患部に優しくキスをした。
村長のところに戻り、魔物を倒したことを伝えると、彼は目をぱちくりさせたが、深く考えるのはやめた。その辺の弱い魔物が迷いこんだのじゃろう、まあ何とか冒険風に仕上がってよかった。
「さすがですな!お礼に、勇者としての印を授けましょうぞ!」
村長は、「小さなメダル」をくれた!それが何かもよく知らなかったのである。ミミとイザヤールは顔を見合わせ、笑みを堪えた。
「今夜はうちに泊まっていってくだされ」
ミミたちはその申し出を喜んで受けて、客間に案内されていった。
こうして実は村は危ういところを救われたのだが、村人たちの誰も、それを知らなかった。人間たちが、危ういところを救われたのを知らなければ、星のオーラを得られることはない。だが、今や星のオーラの為でなく、純粋に地上の守り人として日々生きる元守護天使たちには、星のオーラが得られても得られなくても、どちらでもよかった。
人々が日々、平和で幸せに暮らすこと。そうであるならば、それで、いい。〈了〉
復活したガナン帝国と堕天使エルギオスによって、世界は危うく滅亡するところだった。しかし、世界の大半の者がそんなことはつゆ知らず、世界が救われた後も、以前からずっと続いていると思っている平和を享受していた。
平和すぎるとちょっと刺激を求めるのが人間の常。そんな訳で、宝の地図の洞窟は、未だに大流行りだ。特に町の近くにある洞窟の地図は引っ張りだこで、逆に洞窟の近くの町も冒険者で賑わって、商業施設関係者はホクホク顔だった。
だが、そんな恩恵に預かれない村や町も数限りなくあった。名産品も錬金の材料も観光資源も特にない。宝の地図の洞窟でないダンジョンすらも近くになければ、大した事件が起こるわけでもない。
とある村も、そんな場所のひとつだった。旅人が訪れないから、宿屋はなく個人の住宅があるばかりだったし、専用の武器屋すらなく農機具で魔物を追い払う始末だ。村長がぎっくり腰を起こしただけで大事件になる村なのである。
そんな村から、最近村人たちがセントシュタインに旅行に出かけた。そして、すっかり驚き感心して帰ってきた。
「うちの村も、何か目玉が必要だべなあ」
「何か名物とかお宝があるといいんだけど・・・なかなかそれっぽいのがないもんねえ」
「う~ん、困ったわ」ここで一人の村娘が頭を抱えた。村長の孫娘だ。「泊まったステキな宿屋の主人のリッカちゃんって子や、呼び込みやってたミミちゃんって子たちと仲良くなったの。今度うちの村にも遊びに来て、って言っちゃったけど、うちの村ホントに何もないわよ~。どうしよう~」
「仕方ねえべさ、ないもんはないんだからよう」
「でもリッカちゃんやミミちゃん、すっごい冒険者でもあるのよ~。ホントに何もないと絶対がっかりしちゃうわあ」
「と、都会では宿屋のおねえちゃんも冒険者なんか?!」
村人たちはまた驚き、村長は腕組みして考えた。可愛い孫娘の為に何とかしてやりたい。孫娘の新しい友達に、何とかこの村も捨てたもんじゃないとアピールしたい。
しばらくして、村長は書棚から読み古された書物を取り出した。別に古文書でもなんでもなく、二十年程前、まだ若かった彼の息子が買ってきた、フィクションの冒険物語である。ちなみに買ってきた当の本人は、ただいま畑の手強い土と格闘中である。
「ふむむ・・・この本を参考に、なんとか冒険物語に登場するみたいな村を演出するのはどうかのう。これによると、村人は冒険者に情報を与えたり、何かを依頼したりするものらしい」
「へえ、どれどれ・・・。お、村人Aのセリフかい。『北の洞窟には女神を模した像があるらしい』・・・おお~、何かかっこええなあ」
「でもこの辺にはそんな洞窟ないじゃない」
「ヤーマダさんとこの、氷室じゃダメだべか。最近あそこ、どーゆーわけか温度上がって氷室として役に立たね、っつーから、使ってもいいべ」
「室を洞窟って言っていいんかなあ・・・」
「そもそも、うちの村に女神像なんてないし」
「この前の旅行でロクサーヌさんの店で買ってきたスライムのぬいぐるみで代わりにならんか?」
「ならん!」
その場に居た全員が一斉にツッコミを入れた。
「じゃこんなセリフどうかの?『北の洞窟に、「古いダイコン」があるそうですよ』」
「・・・」
その場に居た村人全員、がっくりと溜息をついた。
それから数日後。リッカの宿屋に宿泊した村長の孫娘が、髪留めを宿屋に忘れていっていたので(セントシュタインの城下町で、土産に新しい物を買ったので忘れたのだ)、ミミがそれを届けに行くことになった。すぐにでも届けに行きたかったが、宿屋も初夏の陽気で超が付くほど繁忙期なうえ、忘れ物が判明した日からしばらく、ミミとイザヤールはたまたま出かけていたのだ。
訪れたことのない村ならぜひ行ってみたいと、イザヤールも同行することになった。村の名前を聞いて彼は、そこの守護天使のことを思い浮かべ、ああ、あいつの守護していた村か、と一人頷いた。事件がなかなか起きなくて、星のオーラが集まりにくいと嘆いていたっけか。
ミミとイザヤールが共に天使だった頃は、女神の果実探しが最優先事項だったから、関係なさそうな場所はあまりじっくりと滞在することはなかった。世界も平和になり、こうして冒険者としての日々を送るようになって、直接冒険に関係無くても、まだまだ知らない場所を訪れるのは楽しい。
「お話で聞いていると、きっとのどかでいい村なんだろうな、って思います。楽しみですね」
ミミがわくわくと瞳を輝かせて言うと、イザヤールも微笑んで頷いた。
「そうだな」
ウォルロ村みたいな村だろうか。元守護天使たちだった者としては、村や町は、人々が平和で幸せなのが一番重要だと、二人は思った。もっとも、平和すぎて自分たちが幸せなことに気付いていない村というのは、星のオーラ集めに難渋するものだったのだが。
届け物をするだけなら軽装でいいだろうということになって、ミミはいつものように踊り子のドレスで、イザヤールはレザーマントに自分のズボンとブーツ姿で出かけた。
目的地の村の辺りにたどり着くと、ミミは地図を広げて確認した。
「この辺だと思ったけれど・・・あ、あそこかな?」
少し離れたところに、小さな集落が見える。そこに入ると、近くの畑で新じゃがを収穫していた男が飛び上がった。
「わわわ、旅の人が来たー!え・・・と。こ、今年のじゃがいもも、上出来だべよ」
「?こ、こんにちは・・・」
ミミは首を傾げた。村人のセリフの後半が、まるで台本があるような言い方だったからである。別の村人は、やはり棒読みで「いらっしゃい!ここは○○の村だよ」と村の名前を言い、また別の村人は、村長に来客の訪問を告げに走って行った。
「あの、私たち、セントシュタインから参りました。村長さんのお孫さんに、忘れ物を届けに来たのですが、お家の場所を教えて頂けますか?」
ミミが最初の村人に尋ねると、彼はこっそりポケットからメモを取り出し、読みながらたどたどしく答えた。
「なんと!村長の家のお客様だか!村長の家は、豆畑を越えた向こうの川の、橋を渡ってすぐだよ。くれぐれも気を付けてな」
「は、はい、ありがとうございます・・・」
ミミとイザヤールが村(畑の間にまばらに家が散らばっている)の中を歩いていると、村人たちはわざわざ家から外に出てきて、わくわくとした顔でミミたちを見送っていた。そして、口々に囁いた。
「如何にも冒険者っぽいにいちゃんと、カワイイおねえちゃんが来たなあ」
「都会では髪の毛剃るのが流行りか?」
「ぼーけんしゃの間で流行りらしいで。俺、ルイーダさんの酒場で何人か見た」
ひそひそ話はしっかり聞こえていて、別に流行りではないのだがと、イザヤールは苦笑した。
豆畑は越えたが、川というよりわき水がちょろちょろ流れたせせらぎに出て、ミミは戸惑った。
「川って・・・これかな?」
「では橋はこれか?」
足がぬかるまないよう、流れには板が渡してある。その流れの元の水場で、村長の孫娘は野菜を洗っていたが、ミミの姿を見て、嬉しそうに、また困ったように立ち上がった。
「ミミちゃん!来てくれたのね、嬉しいわ!」
「私もまた会えて嬉しいの。そうそう、リッカに頼まれて、忘れ物を届けに来たのよ」
ミミが髪留めを渡すと、孫娘は更に嬉しそうになった。
「わざわざ届けに来てくれたんだ!ほんとにありがとう!」それから、ちょっぴり決まり悪げな顔になり、続けて言った。「でね・・・おじいちゃんにも会ってってくれる?お願いがあるんだって」
村長は、大喜びで、だがちょっとぎこちなくミミとイザヤールを出迎えた。
「おお、よくぞいらした旅のお方!これぞ神の思し召し!実は、少々困ったことがありましてな」
クエストの予感・・・とミミは内心呟く。
「実は村の北に洞窟があるのですが、最近、魔物が出まして中に入れませんでな。魔物を追い払ってくれたら、あなた方を勇者として認めましょうぞ」
それはたいへん、勇者として認めてもらわなくても、ちゃんと魔物退治しますから、と答えて、ミミはクエスト「勇者よ北の洞窟へ」を引き受けた!
ミミとイザヤールは、それから間もなく「北の洞窟」にあっさりとたどり着いた。子供たちが入り込まないようにする為かロープが張ってあり、長いこと誰も入っていないのか、薄暗い中でもわかるくらい砂埃が積もっている。村の結界のぎりぎり外側なので、村の外のダンジョンだと言い張れば言えなくもない。
この辺りの魔物は、さほど強力ではなく、ミミたちの敵ではない。ロープをくぐって、彼らは氷室の中に入った。
その頃。村長の孫娘は、祖父に心配そうに尋ねていた。
「ね~おじいちゃん、ホントに大丈夫?演出へぼくない?」
「大丈夫じゃ、村一番の演技派、夏祭りの芝居では毎年主役の青年団団長に、魔物の役を頼んだからの。姿をちらりと見せたら、すぐ逃げてもらう手筈になっておる」
「スライムスーツとヘッドでしょ?バレバレじゃない?大丈夫かなあ・・・」
そんな会話をしていた矢先、一見でかいスライムタワー、その件の青年団団長本人がそこへのこのこと現れたので、二人は腰を抜かすほど驚いた。
「こ、ここで何しておる?!」
「悪い悪い、牛が麦畑に入っちまったから、遅くなって。・・・え、旅人さんたちもう氷室に向かった?!」
「どーすんのよ、台無しじゃん」
「仕方ない、魔物は逃げたということにしよう」
そんな会話がされているとは知らず、氷室(だとはミミたちは知らないが)の奥に入っていったミミとイザヤールだったが、室の奥の暗がりからやってくる異様な熱気と乾きに気付いた。
なんと、「エビルフレイム」が現れた!二人も村人たちも知る由もなかったが、たまたまこの地に迷い込んでこの氷室に潜り込んでいて、それで氷室の温度が上がっていたのだった。運良く誰もしばらく近寄らなかったからよかったものの、誰か来たら犠牲者が出ていたところだ。
軽装ではかなりのダメージの灼熱の炎が、穴の中を満たす。炎に包まれる前に二人は急いで氷室を飛び出し、「といきがえし」をしてから剣を振るって、何とか大きな怪我をせずに倒すことができた。
「ミミ、怪我はないか?」
イザヤールの問いにミミは頷き、彼の火傷を負った腕を涙目で見つめて急いでベホイミをかけ、更に治った患部に優しくキスをした。
村長のところに戻り、魔物を倒したことを伝えると、彼は目をぱちくりさせたが、深く考えるのはやめた。その辺の弱い魔物が迷いこんだのじゃろう、まあ何とか冒険風に仕上がってよかった。
「さすがですな!お礼に、勇者としての印を授けましょうぞ!」
村長は、「小さなメダル」をくれた!それが何かもよく知らなかったのである。ミミとイザヤールは顔を見合わせ、笑みを堪えた。
「今夜はうちに泊まっていってくだされ」
ミミたちはその申し出を喜んで受けて、客間に案内されていった。
こうして実は村は危ういところを救われたのだが、村人たちの誰も、それを知らなかった。人間たちが、危ういところを救われたのを知らなければ、星のオーラを得られることはない。だが、今や星のオーラの為でなく、純粋に地上の守り人として日々生きる元守護天使たちには、星のオーラが得られても得られなくても、どちらでもよかった。
人々が日々、平和で幸せに暮らすこと。そうであるならば、それで、いい。〈了〉
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます