セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

なくしたもの~翼~

2012年09月10日 01時24分02秒 | クエスト163以降
連作風「なくしたもの」シリーズ第一弾です。元天使二人が、失ったものを通して、喪失は、決して悪いことだけではないと知っていく、そんな姿を書いていけたらいいな~と思いながら始動した企画でございます。この話の中盤、いきなり別の話のように展開して驚かれるかもしれませんが、ちゃんと繋がりますのでご安心ください(何のフォローなんだか)。そしてなんだか互いにものすごい恋人バカな気が致しますが、どうぞなま暖かい目で見守ってやってくださいませ~。

 まだ暑さは残るが、朝晩は夏が去ったこの頃。涼しいのと、日の入る時間が変わり、眠りやすい。ミミが目を覚ますと、隣のイザヤールのベッドが空だった。今朝はちょっと寝坊してしまったかと、彼女は慌てて身仕度を済ませ、階下に降りた。
「イザヤールなら、城門の外にちょっと出かけたようだぞ。そろそろ朝食だから、呼んできてやったらどうだ」
 昨夜は勝手に、空いているロイヤルルームで休んだらしいラヴィエルが、軽くあくびをしながら教えてくれた。
「ありがとう、ラヴィエルさん」
 おそらく、広々した場所で素振りをしているのだろう。ミミは微笑み、こっそり様子を見に行くことにした。
 セントシュタインの城門を出て程なく、朝日の中、今日は棍の素振りをしているイザヤールの姿を見つけた。
 近寄って声をかけようとしたミミだったが、鮮やかな棍の動きが描く美しい線にみとれ、その棍を振るう主にみとれた。それで、立ち尽くして声をかけられなかった。白いTシャツと黒いズボンという普段着な装備にもかかわらず、見えない魔と戦っているかのようなその姿は、荘厳でさえあった。・・・守護天使だった頃と、変わらずに。
 そっと静かに見守っていて、ミミは幸福感と、そしてかすかな胸の痛みを覚えた。この人と一緒に生きていけるという喜び。けれど、こんなときは。近寄ってはいけないような、触れてはいけないような、そんな感じがして、少し寂しくなって。だから、僅かに胸が痛くなる。
 そのとき、イザヤールが、棍を降りながら鮮やかに宙を舞った。白いくらいに眩しい朝日が、彼の背後で翼のように輝き、そのまま大空に飛び去ってしまいそうな、そんな錯覚を与えた。
 もちろん飛び去ることはなく。イザヤールは優雅に着地して動きを止め、ミミに気が付いて微笑んだ。
「おはよう、ミミ」
 だが、ミミが挨拶の代わりに駆け寄り、強く抱きついてきたので、彼は目を見開いた。
「どうした?」
「イザヤール様・・・飛んでいっちゃうかと思った・・・」
「?・・・まさか」
 低く笑おうとして、ミミの眼差しが真剣で、美しい瞳から涙が落ちそうになっているのを見て、彼は目を見開いた。そして、指先で優しくその涙を拭った。
「あ・・・やだ、私・・・ごめんなさい・・・」
 ミミは、拭われたことで初めて、自分が涙を溜めていたことに気付き、恥ずかしそうに笑って、まばたきして涙を押し戻そうとした。
「もう、翼はないのだぞ?」優しく笑って彼は、もう一度ミミの涙を拭った。「たとえ翼があっても・・・おまえを置いて行くことはしない」
 囁いて、彼は自分を抱いている体を、強く抱きしめ返した。ミミを置いて・・・何処にも行くものか。二度と、この手から離すものか。内心呟く。
 ミミはあたたかい腕の中で安堵の溜息をついた。先ほど近寄るのもためらうほど、神聖に見えた体は、自分の体にぴったりと寄り添い、人間の鼓動と体温を与えていた。
 しなやかで引き締まった筋肉も、抱きしめてくる力強さも、優しく、だが熱く見つめてくる瞳も、天使や人間である前に、一人の男のものだ。こうして触れ合うことで、言葉を発しなくても、愛されていると知ることができる。・・・何処にも行かないでくれると、信じることができる。
「ごめんなさい・・・。イザヤール様の動きが、あんまりに綺麗だったから・・・飛んでいっちゃうかと思ったの・・・」
 うまく言えないのがもどかしい。・・・この世のものならぬほど神聖に見えた。だから・・・。
「なんだそれは」
 イザヤールは笑って、ミミの頭を軽くなでてから、不意に真剣な顔になり、そのまま静かに唇を重ねた。

 それから数日後。ミミは、知り合いの踊り子に頼まれたステージの練習で、大忙しだった。
「どうしよう・・・自由に踊るのは得意なんだけれど、今回はステップを完璧に覚えなきゃいけないから、難しいの」
 複雑なステップをちょっとカウンター前でやってみながら、ミミは溜息をついた。
「あの踊り子さんも、ムチャぶりしてくるわよね。急な用事ができたから、ミミに完璧にあたしのダンスコピーして代わりに踊って、なんて」
 そう言ってルイーダが笑う。
「ミミ様、衣装は間に合いましたのよ。自信作ですわ!ご覧くださいませ」
 ロクサーヌが、いつもの笑顔にちょっぴり得意を潜めて、ダンスの衣装を取り出した。
「綺麗だね、ミミにとっても似合いそう☆」
 リッカが嬉しそうに手を叩いた。
 その特注の衣装は、「おどりこの服」の腰布部分を、シースルーの淡いオーロラのような色合いの布地に変えて、星のように光る石を、ところどころにちりばめた、大胆だが幻想的な衣装だった。踊る時は、共布の長い布を、羽衣のようにふんわりまとって踊るのだ。
「ちょっと恥ずかしいな・・・」
 顔を赤らめてミミがうつむいた。
「馴れちゃえば大丈夫よ。何なら、今着て練習しちゃえば?」
 ルイーダの言葉に、ミミはますます赤くなったが、決意したように衣装を掴んだ。
「うん、着て練習するっ。・・・ただし、誰も居ないところで」
 そう言うと、ミミはあっという間に階段を駆け上がり、それからしばらくして、ゆったりしたローブにくるまって降りてきた。どうやらその中に先ほどの衣装を着ているらしい。
「では行ってきます」
「ちょっとミミ、どこで練習してくるつもり?!」
「う~ん・・・人が居なそうなところを探して、そこで」
 そしてミミは行ってしまった。
 セントシュタインの城門を出てから、ミミは少し考え込んだ。
(箱舟で人の居ないところを探すのもいいけれど・・・でもあんまり遠くには行きたくないなあ・・・)
 ふと、月明かりが影絵のようにシルエットを浮かび上がらせている、キサゴナの丘が目についた。
(誰も居ないか、行くだけ行ってみよう)
 ミミは、丘に向かって歩きだした。

 その頃、ウォルロ村での用事を終えたイザヤールは、帰り道キサゴナの丘に寄って、通行止めになっている遺跡の中を調べていた。
(やはり劣化が激しいな。・・・幸い、崩れているのは遺跡部分で、洞窟そのものではないから、補強工事を行えば再び通路として使えそうだが)
 ウォルロ地方とセントシュタイン地方は、今や峠の道が唯一の道となっている。しかし、やはり万が一に備えて、もうひとつ道が確保できればそれに越したことはない。何せウォルロ地方は、海路が無いのだから。最近はウォルロ地方側からじわじわと補強工事は進んでいるが、セントシュタイン側からも工事を進めれば更にはかどるだろう。
 そんな散文的なことを考えて外に出たが、丘から見上げる満天の星空に、現実的な問題は一時追いやられた。イザヤールは草の上に無造作に寝転がり、辺りに誰も居ないことを確認して、星たちに話しかけた。
「おまえたちは、元気か。・・・星に、好調不調はあるのか」
 星たちが瞬いた。どうやら、星にも好不調はあると言いたいらしい。
「私も、ミミも、おかげで元気だ。・・・まあ、ほぼ毎晩見ていてくれるから、わかっているよな」
 今度は星たちは、からかうように瞬いた。元気どころか、幸せなのがわかるとでも言いたげに。
 そのミミは、今頃部屋かどこかでダンスのレッスンをしているだろう。その様子を見たいものだが、今回は「ちゃんと踊れるようになったらお見せします」と言って、見せてくれないのだ。それでもそろそろ帰るかと、身を起こそうとして、イザヤールは動きを止めた。誰かが、ここキサゴナの丘の頂上に、やってくる。
 それが、今考えていたミミだったので、彼は喜び、かつ少し驚いた。ここに寄るつもりだとは彼女に告げていないから、迎えに来たということはあり得ない。何をしにここに来たのだろう。もしかしたら、踊りの練習だろうか。確かにここは、古代にキサゴナの巫女も踊ったと言われる場所だから、ある意味練習にふさわしいかもしれない。
 もしそうなら、踊るところをぜひ見てみたい。イザヤールは思い、最大限に気配を消した。ミミは熟練の冒険者だから、気付かれるか気付かれないかは賭けに近い。だが、イザヤールは横になっていたので草の陰に隠れていたのと、ミミは邪悪な気配を感じなくて安心してそれ以上注意を払わなかったため、彼に気が付かなかった。
 タイミングを見計らって声をかけよう。そう思って彼は肘をついてミミを見つめた。星や月の明かりでも、彼女の姿、表情までも充分見える。長い睫毛を伏せている為か、どこか僅かに憂いを湛えているような顔で、ミミはローブに指をかけた。
 彼女がローブを脱ぎ捨てたので、イザヤールは一瞬息が止まるほど驚いた。中に踊りの衣装を着ていると知った後でも、驚きは醒めなかった。
 星月の明かりが、透けた布地の下の肌を淡く、いっそう玉のように輝かせている。草の上につま先立ち、ふんわりと舞い始めた彼女を見て、奇妙に胸が痛んだ。彼女は人間というよりも、星や妖精の方に近い仲間に見えた。地上の者が容易く触れたら、きっと罰が下るだろう・・・。
 重力などないように軽々と、自由に地の上を滑る足。肩辺りに巻いた、月光のような布は、ふわりと後ろになびき、彼女に翼が再び与えられたかのような錯覚を感じさせた。
 ああ。イザヤールは思わず身を起こした。数日前、ミミが感じたという思いを。どうやら私も、味わっているようだ・・・。
「ミミ」イザヤールは立ち上がり、ゆっくりと彼女に歩み寄った。「おまえこそ・・・行くな」
「イザヤール様・・・?」
 思いがけないところで会えた嬉しさと驚きで、彼女が頬を染める間もなく、薄布越しに、あたたかい腕が触れた。初めは僅かにためらうように、そして離すまいとするかのように腕は回されて。
「イザヤール様・・・心配しないで・・・。私は、もう、ずっと人間だから・・・何処にも、行かないから・・・」
 濃い紫の瞳が陰影を描き、煌めいてイザヤールを見つめて呟くと、彼は頷き、かすれた声で囁いた。
「ああ。・・・ああ、そうだな・・・。私だって、そうだ・・・」
 やがて、やわらかな唇と舌が互いに融け合い、熱を分け合うことで、二人は鼓動の高まりと安堵という、矛盾した思いを同時に抱いた。共に、間違いなく地上に居る。人間として、愛し合いながら。

 星たちも、二人の真剣な様子に、からかうことなく静かに、そして優しく、地上に生きる元天使を照らす。
 なくした翼を、たとえどちらかだけが取り戻したとしても。決して互いを離しはしないのだと、今夜、心から信じられた。〈了〉

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