セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

火に入る虫4

2013年09月18日 23時59分32秒 | クエスト163以降
短期連載第四回目。本日分は少々短めですが、その分顔から火が出そうな歯が浮きまくり表現のオンパレードです(ホントか?)ので、真夜中の眠い時にご覧くださるとマシかもしれません(笑)ギリギリのギリギリ感の、真夜中テンションの匂いもします・・・Rな表現は一切無い筈なのに、あれ、おかしいな・・・。今回珍しく?イザヤール様と女主がケンカまがいなことになります。そしてなんと駆け落ちに!(爆)

 怖かったの・・・。好きすぎるって知られるのが、怖かったの・・・。
 これまで隠そうとしていた想いが溢れてしまったかのように、ミミの涙は止まらなかった。さっきまで、あんなにはしゃいだり、幸せそうにしていたのに。
「・・・ミミ」
 イザヤールの声に僅かにたしなめるような色が混じっても、ミミの涙は止まらなかった。
「怖かったの・・・ヤキモチ妬くミミや、すぐ心配するミミはキライだって思われたらどうしよう、いやらしいミミや、イザヤール様のことばかり考えて、守り人としての務めをナマケるミミはキライだって思われたらどうしよう・・・って・・・」
 彼の首に絡めた腕をほどいて、ミミは顔を覆った。腕の中で小刻みに震える華奢な体は、翼の折れた小鳥のようだと、イザヤールは思った。ひどく不憫で愛しくて・・・けれど。
「・・・見損なわれたものだな・・・」
 かすかな、だが明らかに怒気を含んだイザヤールの声に、ミミの嗚咽で震える体が、更にびくりと震えた。
「やっぱり・・・泣き虫で心配ばっかりするミミは・・・キライ、なの・・・」
 覆っている手の陰から、悲しい諦めの伴った小さな呟きが聞こえた。イザヤールは、その手を引き剥がすようにしてミミの顔を無理やり上向けた。涙に濡れて余計に濃い色に見える紫の瞳をまっすぐ見据える彼の瞳は、火のかけらのようだった。その火の熱を声に載せ、常なら決して言わぬであろう言葉を、吐き出した。
「ああ、嫌いだ」
 ひくっとミミは鋭く息を吸い込み、絶望感で弱々しくしゃくりあげ始めた。そんな彼女に唇が触れんばかりに顔を近付け、イザヤールは更に囁いた。
「嫌いだが愛しくて堪らない。おまえの悲しい顔など見たくないのに、もっと泣かせて可愛い泣き顔を見たくなる。おまえにそんなに想われて、歓喜しているっ・・・!守り人としての務めが先だとたしなめなければならないかもしれないのに、私は・・・おまえの心が私で占められていることに・・・歓んでいる・・・!」
 ああ・・・とミミは、か細い吐息と共に、戸惑いの入り交じる甘い声を上げた。
「おまえにはいつも幸せでいてほしいのに、おまえにはいつも笑っていてほしいのに、おまえの泣き顔も見たい、おまえが私のことで心を痛めるのが、ぞくぞくするほど嬉しいっ、・・・ああ、嘘だ、やはり嫌いになんかなれない・・・。悋気を抱くおまえも、綺麗な涙で頬を濡らすおまえも、どんなおまえも、好きだっ・・・!」
 ミミはまたふるりと体を震わせ、今度は安堵の涙を落とし、おずおずと愛しい男を見上げた。何か言おうと・・・おそらくごめんなさいと謝罪を告げようと・・・した唇を、イザヤールのそれが塞いだ。優しく、だが容赦なく、唇どころか何もかも奪うかのような激しいキスに、言葉のかけらは意味を失い、思考と共に心の片隅で融けていく。
 愛していて、いいんだ・・・。何よりも愛して、ダメになってしまうくらい愛していても、イザヤール様は、許してくれるんだ・・・。快感と安堵で、ともすれば遠くなりそうな意識の中、ミミはぼんやりと思った。そしてイザヤール様も・・・同じくらい想っていてくれてるんだ・・・。嬉しい、嬉しい、嬉しい。言葉では表せなくてもどかしいくらい、嬉しい・・・。
 キスの快楽で、ミミがとろりとした瞳で熱い息を吐き出すと、イザヤールの唇の両端が、艶かしくゆるりと上がっていくのが、触れていることでわかった。唇が触れあったまま、彼は熱っぽい声で囁いた。
「快楽に弱いおまえも、もちろん大好きだ・・・。おまえは・・・どんなに淫らなときも、清浄なままで・・・とても綺麗だ・・・」
 どんなに快楽を覚えても、ミミは穢れのないままで居てくれた。清浄なままで己と共に堕ちてほしいという、矛盾し無茶な願いを、彼女は叶えてくれた。・・・こんなにも、男心をそそる姿態をして、快楽に弱いくせに、純情であり続けるなんて。・・・こんな女を、嫌いになどなれるわけがない・・・。
「嬉し・・・イザヤール様、悪い子の私も、愛してくれて、嬉しい・・・」
 そう囁き返して、何かをねだるようにやわらかなキスも返す彼女に、彼は目を細めた。半ば閉じられた瞳が、妖しいくらいの艶かしさを湛えて、光った。
「悪い子なんかじゃない。おまえは・・・」
 私の為にイケナイコトをしてくれる、素直なとてもイイ子だ。
 炉の中に、炎の灯りに誘われた羽虫が飛び込み、燃えて一瞬芥子粒ほどの火になってぱっと輝いてから、消えた。だが二人はもう、そんなことは目に入らなかった。

 翌朝。そろそろ起きていかないと、昨日の今日だから、皆が心配するであろう時間が迫ってきている。無理やり扉を蹴破って踏み込んでくる可能性も否定できない。リッカたちが来なくても、サンディの方が、りせいのたねとやらを持って、窓から乱入するかもしれない。いつもならいい加減諦めて床を離れるが、今日は気儘さの方が勝って、二人きりで居られなくなるのが互いに名残惜しい・・・。
「ミミ・・・駆け落ちでもするか」
 ミミの髪をなでながら、イザヤールが囁いた。それから彼は、自分が言ったことがおかしかったのか、低い声で笑った。その笑いの作る息が耳をくすぐって、ミミは彼の腕の中で身を捩らせた。
「やぁ・・・ん、くすぐったい、イザヤール様・・・」
 その声が可愛いと、イザヤールはわざと彼女の耳元に唇を寄せ、愛しいミミ愛しいミミと、連続して囁き、声の響きのかすかな振動で、縁が薔薇色に染まった耳をくすぐり続けた。
「いじわる・・・」
「意地悪する私はキライか?」
 答えをわかっていても聞いてしまう子供染みた行為が、なんだか我ながらおかしく、楽しい。彼は耳元から顔を離して、答えをこれから告げようとするやはり薔薇色の唇を見つめた。
「大好き・・・」
 それを聞いて満足気に微笑んだイザヤールだったが、その言葉の続きに、嬉しい驚きを得た。
「いじわるだけどいじわるじゃないから、・・・気持ちいい意地悪だから、大好き・・・」
 いつものミミなら恥ずかしがって、こんなに素直には打ち明けてくれなかっただろう。原因がどうであれ、こんな本音が聞けて嬉しいと、彼は幸せな吐息をしたが、そういえばともう一度同じ提案をした。
「おまえを独り占めしたいから、駆け落ちしないか。・・・一週間ほど」
「一週間かあ・・・小駆け落ち、だね。それとも、短駆け落ち?」
 言ってから、ミミも自分の言葉がおかしくて、くすくすと楽しげに笑った。イザヤールも笑ってから、ふいに真剣味を帯びた顔で、尋ねた。
「来てくれるか?」
「はい」
「よし、決まりだ。では、行こうか」
 元来出発の段取りがいい二人なので、仕度はあっという間に済んだ。ミミは、『イザヤール様とちょっとの間駆け落ちしてきます』と書いた置き手紙を小卓の上に大真面目で置いて、イザヤールに少年のような笑顔をさせた。
 バルコニーに出、そこからロープを垂らして、イザヤールがミミを小脇に抱えながら滑り降り無事地面にたどり着くと、なんだかホントの駆け落ちみたいと、ミミは頬も薔薇色に染めた。

 朝市で買ったパンや燻製肉や果物で朝食を済ませ、二人はセントシュタインの町を出た。
「どこに行こうか」
「う~ん・・・」
 用心深くいつも準備に怠りない二人らしくもなく、全くの無計画で出てきてしまった。ルーラであちこちに行けるから、かえって迷ってしまう。
 とりあえず船出も良さそうだが、二人の足は、何となく反対方向のキサゴナの丘に向かった。とりあえず高台からぐるっと空と大地と海を見渡して考えてみようか。何も言わないうちに、そう相談がまとまっていた。
 朝方はひやりとする初秋の風は、丘の上を爽やかに吹き、心地よい。ミミはその風で髪をなびかせながら、愛らしい微笑みを浮かべて呟いた。
「イザヤール様、私、もう一度飛んでみたい。今なら、飛べる気がするの」
 それは、ルイーダの言っていた症状の一つ、現実的でない全能感の為せる幻想なのだろう。そうわかっていても、感覚の方は、今なら飛べるというミミの言葉の方が正しいように錯覚してしまう。
「飛びたいか」
 それでイザヤールは、賛同も否定もしないで、おうむ返しに問いかけた。
「はい。もう一度、イザヤール様と一緒に、飛べたら楽しいもの」
 二人一緒に翼を広げて地上にやってきた日は、ミミが守護天使の務めを始めた日であり、イザヤールにとっては一番信頼できる者に己の守護地を託す日でもあった。
 飛んで、みようか、この丘から・・・否。ミミより浴びた胞子の量が少なかったイザヤールは、感覚はおかしくても、実行したら危険だと、自らに警告する余裕はあった。変種のマタンゴのもたらす本当の危険とは、タナトスへの憧憬・・・死や破滅への願望であると・・・彼はおぼろげながらに悟った。〈続く〉
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