セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

火に入る虫5

2013年09月19日 23時57分40秒 | クエスト163以降
短期連載第五回目。もうちょいシリアスな話になる筈が、なんだか単なるイチャ旅行話みたいになってしまいました。そして今回のシリーズ、このまま追加クエストもどきに繋がるという新たな試み。というか逆に追加クエストもどきがストーリーの一部になるというべきか。そして今日は中秋の名月らしいので、月の話題も少し絡めてみました。今夜の月、本当に綺麗でした!

 死や破壊は、忌むべきものだとイザヤールは思っていた。務めを果たす為命を懸けることも怖れない彼だったが、それらは世界の負の要素であり、闇の根源であると思っていた。今もそうは思っている。が、長いサイクルから見れば、必要不可欠なものであることも、皮肉なことに儚い命の人間になってから、実感し始めた。
 かつて天使だったミミとイザヤールは、二人だけではない、神が特別に拵えた、生き物であって生き物ではない彼ら天使たちは、長い長い寿命を与えられ、聖なる場所天使界に住まわされ、死や破壊から遠い存在だった。むしろ彼らから見れば死と常に隣り合わせのような、儚くか弱い命の人間たちをそれらから守ること、それが守護天使たる彼らの使命だった。
 だが、人間として生きる今は。天使だった頃からは考えられないほどすぐに、死は身近にやってくる。そして生きる為に生きるものを殺して糧にしなければならない身は、破壊を快楽と簡単にすり替えることができる。不要な破壊や死を楽しみ、他者の悲しみや痛みを糧にするようになってしまった者が魔王であり、怪物であるということなのだろう。
 そしてそれらも超越して・・・原初の虚無への邂逅を、究極の目的にしてしまう存在が実体を伴って具現化したものが破壊神と呼ばれるのかもしれない・・・。
 ここでイザヤールは、ミミが微笑みながら軽く二、三回ふわりと跳ねたので、どきりとして思わず彼女の腕を掴んだ。本当に飛んで行ってしまうかもしれない、一瞬そう錯覚さえした。だから、彼女を引き寄せ抱きしめ、囁いた。
「ミミ、一人で行くな・・・。もしも飛ぶ時があったら・・・私も、必ず一緒だ」
 その言葉に、花が開くような微笑みを浮かべるミミを見て、このまま一緒に飛ぶのも悪くないかもしれないと、また一瞬錯覚しそうになる。翼無き身は飛ぶことはできず、地面に激突して大怪我もしくは死を招くと頭ではわかっているのに。
 丘の上を吹き抜ける風は、翼がある者には絶好の強さと流れだ。風を受けて宙を舞う懐かしい感覚が、リアルさを伴って体の中を過る。大空を翔けることができる、そんな幻想に蓋をするように、イザヤールはますますミミを固く抱きしめて、目を閉じた。それから、目を閉じたまま唇で彼女の唇を探し・・・捕らえて、絡めて、食み続けた。ミミが、飛びたいということを、忘れるまで。

 それから二人は毎日、あまり人の訪れないところを選んで、転々と野営した。ある日はウォルロ地方の清らかな湧水があるところだったし、またある時は、サンマロウで花の褥を作って眠った。グビアナのオアシスで満天の星を眺め、雨の島では幻の樹の根元に寄り添って座り、やわらかな雨を眺めて過ごした。
 だが、不思議なことに、人の訪れない場所を選んでいるつもりなのに、二人の行く先では、必ずと言っていいほど誰かが助けを求めていた。ウォルロではどくけしそうを取りに来た子供が蜂の大群に追われていたし、サンマロウでは花売りの娘が商品を見つけられず困っていた。グビアナでは食料を落とした旅人に行き逢い、雨の島では殻がひび割れて泣いているメダパニつむりに会った。
 したいことしかしない精神状態の筈なのに、助けを求められたらつい体が動く、二人ともそうだった。長い年月天使として生きてきた故の条件反射なのか、それともそれこそ元守護天使のサガなのか。
 助けた後は、他所の土地に移る、そんなことを繰り返し、数日が過ぎた。
 今夜は、竜のくび地方の温泉を野営地にした。さとりそうの香が漂っていても、変種マタンゴの胞子の作用には効き目が無いようで、ミミとイザヤールは何のためらいもなく一緒に湯に浸かった・・・水着は着ていたが。それは、けじめというよりは、互いの裸身を魔物や、星たちにも見せたくないという独占欲の為だった。
 この強い腕も、綺麗に割れた腹筋も、大切なあたたかい心臓を収める、程よく逞しい胸筋も、他の何もかも、自由に触れていいのは、ミミだけだ。かつては、手が触れ合うことさえなかなか叶わなかったと、ミミは幸せな甘い溜息を吐いて彼の腕にそっと指先を這わす。
 そんな二人に星たちが何か言いたげに瞬きそうだが、今夜はあまり星は見えなかった。別に星たちが気を利かせてくれたわけではなく、それは月があまりに明るかったからだった。
「イザヤール様、今夜は満月みたい。とっても明るくて、綺麗」
「ああ、眩しいくらいだな」
 白い満月は、清らかに煌々と空と地上を照らしている。太陽の光は熱いか暖かいのに、月の光は冷涼ささえ感じる。・・・こんなに、明るいのに。温泉に入っているのにミミは僅かに身を震わせ、イザヤールの指に自分の指を絡めた。でも、とっても綺麗・・・。
「いつか、月にたった一人で住む男の言い伝えを話したことがあったな」
「はい。生涯に一度だけ、願いを叶えてくれる・・・」
 イザヤールからその話を聞いたときミミは、もっと早くその話を聞いていたら、きっと月に切ない願いをかけたのだと・・・イザヤールに逢いたいと願ったのだと思い、その願いをかける間でもなくイザヤールが傍らに帰ってきてくれた幸せを噛みしめたものだ。
「これはラフェットから聞いた話だが」遠い昔を思い出すように、イザヤールは目を細めて月を見上げた。「その言い伝えの月の住人は、とても美しい男で、竪琴を奏でて暮らしているそうだ」
 その話をラフェットから聞いたとき、まるでエルギオス様みたいだなと、イザヤールは思ったものだ。
「へえ、綺麗な人なんだ。月に住むんだから、きっとそうよね。会ってみたいな」
 綺麗なものや人が好きなミミは、楽しげに瞳を輝かせた。それは、綺麗な花や石が好きなのと同じ程度の意味しかないと、イザヤールはよくわかっていたが、わかっていても、変種マタンゴの胞子のせいか、拗ねる気持ちが湧いてしまう。彼はかすかに苦さを浮かべた口調で、呟いた。
「おまえのような優しくてたおやかで綺麗な子は、私のような無骨な男より、そういう繊細な美しい男の方が相応しいのだろうな」
 それを言われたとたん、ミミの瞳が潤んだ。いつもなら堪える涙も、我慢が利かない今は、みるみる長い睫毛から転がり出す。
「ヒドイ・・・。イザヤール、様・・・。私がイザヤール様しか見えてなくて、イザヤール様以上の人なんて居ないってわかってて、そんなこと言うなん、て・・・」
 可哀想なことをしたという後悔に、この言葉が聞きたかったという小悪魔的な満足感が加わって、彼の心を複雑に満たす。
「相応しかろうと相応しくなかろうと、言ってるだろう、誰にも渡す気はないと」
 そう言われて、ミミも安堵とまだちょっと怒っている名残りで、拗ねたような嬉しそうな複雑な顔になる。のぼせそうだと、湯から上がって岩に腰かけた白く輝く肢体と、まだ憂いを含む濡れた瞳を湛える横顔が、月明かりで余計に妖しく見えた。本当に、月の男が気に入って、拐ってしまいそうだ・・・。イザヤールは内心呟き、彼もまた憂い顔で立ち上がって、岩に座る彼女を見下ろした。煌々と照らす月明かりは、彼の鍛え抜かれた体に、鮮やかな陰影を落とす。
 月の人がどんなに綺麗でも、イザヤール様には絶対敵わないもの・・・。大芸術家が、理想の男の体を思い描いて彫刻を作ったとしても、ここまで見事にはならないだろうと、ミミはうっとりと思った。逆に、私にはもったいないのに・・・。でも、私も・・・もう絶対誰にも、渡せない。渡さない。
「イザヤール様・・・」
 呟いて、白く華奢な腕を彼の方に差し伸べる。その腕をそっと掴み、細い指先に口付けてから彼は、彼女を抱き上げて、月の光すら潜り込めないテントの中に入った。
 テントの中から、切々に、切ないねだりごとが聞こえてくる。普段は蓋をして、言わない願い。
「ミミ・・・私より先に死ぬな・・・」
 一度は倒れ、ミミに辛い思いをさせた自分は、普段はこんな願いを口にできる資格はないと、厳しく戒めていた。だが、彼女の居ない世界など・・・考えたくない。妖精や精霊、魔物に幽霊、そして、月。ミミは、陰のものに好かれやすく、また引きずられやすい・・・。決して、渡さない・・・。死にも・・・。
「はい。でも・・・イザヤール様、私より先に、死なないで・・・。また私を、置いていかないで・・・」
「・・・ああ」
 どちらが、嘘つきになるのだろう。できれば両方の想いが叶うようにと、切ない祈りを載せて夜は更けていく。

 このようにして一週間が過ぎた。理屈っぽいことを言えば、変種マタンゴの毒は皮膚接触と呼吸器から侵入する神経毒の一種で、特効薬が無い代わりに代謝で徐々に排出されれば、症状が治まるものなのだろう、とイザヤールは考えていた。一週間というのはあくまで目安であって、それ以上かかってしまうかもしれないとも、覚悟していた。
 しかし、本当にぴったり一週間で、それこそ憑き物が落ちたように、二人の症状は無くなった。言いたいことを言い合い、したいことばかりをした日々の記憶は、しっかり残っていたが。
「あの・・・イザヤール様・・・。私、いろいろ変なこと言っちゃって、ごめんなさい・・・」
 テントに敷かれた毛布の上に律義に正座し、ミミは真っ赤になって頭を下げた。
「いや、こちらこそ、その・・・悪かった。だがな」イザヤールもまた照れくさそうな顔だったが、ふいに真剣な瞳で、優しくミミを見つめて、きっぱりと告げた。「言ったことの全て、後悔はしていない。・・・心から思っていたことだから」
「イザヤール様・・・。思ってることいろいろ言ってくれて、私、とっても嬉しかった」
 ミミの照れた表情も消え失せ、濃い紫の瞳が、グラデーションを描く。
「私も、おまえに遠慮なく甘えてもらえて、嬉しかったぞ。・・・癖になりそうだ」
「え・・・イザヤール様、マタンゴ胞子でおかしくなったミミの方が・・・好き?普段の私に戻っちゃって・・・つまらない?」
 おずおずと尋ねるミミは、元に戻った筈なのに、我慢しきれなかった涙がひとつぶ、ぽろりと落ちる。
「またそんなことを!・・・これは、お仕置きが必要だな」
 そう言いながらも涙を拭ってやる手は、ひどく優しい。
「お、おし・・・おき?」
「そうだ。私の想いを疑わなくなるまで、昨夜してもらったおねだりを全部、今からしてもらうからな」
「そ・・・それ・・・や、許して・・・」
 素直に感情をぶつけてくるミミもいいが、こうして恥じらうミミもまたいいものだ。イザヤールは目を細め、唇の端を上げた。そして、恥ずかしげもなくミミを翻弄する言葉を吐き出す自分に、ひょっとしてまだ毒が残っているのか、逆に最初から毒なんぞにやられていなかったのではないかと、ほんの少し疑いを抱いたのだった。
「とにかく、ミミ」からかう色は失せて、彼は優しい微笑みを浮かべた。「毒気の力を借りなくても、たまには言いたいことを言い合ってケンカしたり、素直に好きだと言えるように・・・しような」
「・・・はい」
 そう、こういうことを繰り返して、生涯かけて信じていくんだ、ミミは思った。互いに運命の人であると、簡単に壊れたりしない絆だと。
 名残惜しいが、治ってしまった以上おそらく皆が心配しているので、とりあえず一度リッカの宿屋に帰ることにした。だがその前に、念のため変種のマタンゴがまた発生していないか、ベクセリアに寄って確認していくことにした。
「そうだ、ベクセリアの町の人にも、私が無事って教えないと。心配しないでいてくれればいいけれど」
「そういえばすっかり忘れていたな。・・・まあ胞子を浴びてそれどころではなかったから」
 セントシュタインに向かう前にまず、ミミはベクセリアに向かうべくルーラを唱えた。〈続く〉
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