セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

お守り

2014年08月25日 02時25分48秒 | クエスト163以降
予定より遅くなってしまってすみません&何故か予定と違う展開になりました(笑)当サイトでちょいちょい出てくる首飾り話。命の石で作った首飾り話、ダイレクトに「首飾り」というタイトルでも書いておりまして内容も似ていますが、無くして探すところをメインで書きたかったのです。。文中の謎の影の正体は特に明らかになりません悪しからず。たぶんマーマンとかの類いじゃないかとは思いますが。そしてイザヤール様、女主危機センサー相変わらず順調発動しております。

 月明かりを頼りに、ミミは砂浜を歩いていた。昼間ここで、大切にしている首飾りを落としてしまった。特別な命の石を使ってイザヤールが作ってくれた、危険から身代わりになって守ってくれる物だ。無くなったことに気付いて急いで探したが、昼間は海水浴客が多すぎて、到底見つけることができなかった。だからこうして、夜になって人が少なくなるのを待ってもう一度探しに来たのだ。
 無くしたとイザヤールに打ち明ければ、すぐにまた同じ物を作ると言ってくれるだろう。わざわざ夜に探しに行かなくていいからと、言ってくれるに違いない。でも、だからこそ打ち明けなかった。代わりをすぐに得られるとしてもやはり、手作りしてくれた大切な物を、簡単に諦める気になれなかったから。それに、最初の首飾りはミミを死の呪文から守って壊れてしまって、今度のはまた特別な命の石を苦労して探して作ってくれた物だというのに。効力を発揮することもないまま失うなんて、想いまで無駄にしてしまう気がして、悲しかったのだ。
 探す時間はあまり無い。こっそり事情を打ち明けたルイーダが、イザヤールに酒場の夜の店番を頼んでくれて、その間にミミはバルコニーでアギロホイッスルを使ってこっそりリッカの宿屋を抜け出したのだが、もうすぐ店番の交代の時間になり、彼は部屋に戻ってくる。そのとき彼女が部屋に居なかったら、余計に心配させてしまうだろう。でも焦ると余計に見つけられないと、ミミは逸る気持ちを抑え込んだ。
 波にさらわれてしまっただろうか。それとも、誰かに拾われてしまっただろうか。切ない祈るような気持ちで、彼女は波打ち際を歩き続けた。
 そのとき、足元がいきなり崩れて、ミミは穴の中に落ち込んでしまった。服や髪に、砂がたくさん降りかかった。どうやら、誰かが特技「おとしあな」を使って巧みに掘った、悪ふざけ目的の穴らしい。誰も気付かないくらいよくできていることから、掘ったのは熟練の冒険者と思われたが、掘ったままそのままにしていくなんておとしあな遊びの完全なルール違反だ。
 普段なら気付いて避けるところだが、月明かりだけでランタンを使わずに歩いていたのと、焦っていたのとでうっかりかかってしまった。穴の中で砂まみれになったまま、ミミはしばらく呆然としてから、焦るあまりに不注意すぎたことにしょげた。これが戯れではなく本気の敵のトラップだったら、命の危険にもなりかねない。内緒で探そうとしたのがやっぱりよくなかったと、彼女は溜息をついて、穴から這い出そうとした。
 だが、そのとき、突然の大波が来て、ミミは頭から波をかぶってしまった。払い落とせばよかった筈の砂は、濡れて全身にたっぷり貼り付いてしまった。重なった不運にミミはまた呆然としてから、濡れた砂で重たくなった服と体を引きずるように、ようやく穴から出た。
 濡れた砂はぼたぼたと体から垂れ落ちて、歩く度に跡を残す。まるで私、ドロヌーバみたい、と、ミミは苦笑した。さすがにこのままでは帰れない。彼女は腰辺りまで海に入り、海水でさっと砂を落とした。それから岸に戻ると、服の裾を持ってきゅっと絞った。着ていたのは冒険にも使えるサマードレスだが、さすがに海水に浸かることは想定していないだろうから、早く帰って真水で濯がなければならないだろう。
 今夜は諦めて帰って、イザヤール様に正直に打ち明けて、そして明日また探しに来るのを、許してもらおう。悲しげな顔ながらもミミは決意して、スカートをもうひと絞りして帰ろうとした。
 すると、そのとき、ミュールに、キラリと光った何かが、引っかかっているのを見つけた。なんていう奇跡だろう。探していた首飾りの鎖が、ミュールにぶら下がっていた。
 ミミの顔にみるみる花開くような微笑みが浮かび、首飾りを手に取り、そっと胸に抱きしめた。だが、彼女は気付いていなかったが、波の中に黒い影がゆらりと揺れて、彼女の方にとゆっくりと手を伸ばしていた。
 それに気付かないままミミは、今度こそ帰ろうと海に背を向けたそのとき、陸の方から誰かが歩いてくるのを見た。他の者が来る気配を感じた途端、黒い影は腹立たしげにひと揺れして、沖に退散していった。
「イザヤール様・・・」
 ミミは、悪いことをして見つかったときのような、罪悪感が目一杯溢れそうな顔をして立ち尽くし、イザヤールが近付いてくるのを待った。どうして、ここだとわかったのだろう。
「アギロホイッスルの音は、私にも聞こえるのだぞ、忘れたか?」イザヤールは静かな声で呟いた。「箱舟が海岸の方に向かうのを見たから、気になって後を追ってみた。徒歩だから、時間がかかってしまったがな」
「ごめんなさい・・・」
 ミミはうつむいて、首飾りを握りしめながら謝るしかできなかった。自分の我儘な思いで、心配をかけてしまったと悔やんだ。やっぱり、素直に無くしたと打ち明けておいた方がよかったと思った。
 だが、思いきって顔を上げてみると、イザヤールは笑っていた。
「なんだか、たいへんだったようだな」微笑んで、彼はミミの濡れた髪に触れた。「急いで帰ろう。夏とはいえ、風邪をひくといけない。・・・事情聴取はそれから、だな」
 こくん、とミミは力無く頷いた。イザヤールは自分のマントでミミを包んで、彼女が抗議する間もなく抱き上げ、キメラの翼を取り出した。キメラの翼を放り投げる前に、一度海を振り向いて、鋭い一瞥を走らせた。ミミに歩み寄る際に、彼女の背後の海の中に、何かの気配をかすかに感じたのだ。海の魔物か、はたまた精霊か、男の人魚か。いずれにしても。
(ミミは、決して連れてはいかせないし、彼女も、簡単に連れていかれるような娘ではない、よく覚えておけ)
 内心呟いて、イザヤールはキメラの翼を放り投げた。
 二人が去った後の海岸は、ひっそりと静まり返った。美しい獲物をとり逃したのに腹を立てたように、波が一度音を立てて跳ねたが、それきり何も起こらなかった。

 それからしばらくして。サマードレスと同様に温かい湯で体を洗い清めたミミは、手に持った首飾りの鎖を指先で弄びながら、眠そうながらも幸せそうな声で呟いた。
「この首飾りは、大切なお守りだけれど・・・イザヤール様が、一番の私のお守りでいてくれるの・・・。私も、イザヤール様の一番のお守りになれるように、頑張るから・・・」
 それから、彼の首に剥き出しの華奢な腕を巻き付けて、頬を擦り寄せる。
 その言葉としぐさに、イザヤールもまた幸せそうな笑みを浮かべて、首飾りごと彼女の手を己の手で包み込み、優しく、優しく口づけた。たかが首飾りの為に内緒で出かけて少し危険な目に遭うなんて、もう少し説教しようと思っていたが、心から悔やんでいるミミを見ていたら、そんな気も失せた。
 やがて小卓に置かれた首飾りは、今宵は二人に存在を忘れ去られ。互いの「お守り」の腕の中で二人は、安らいだ穏やかな寝息を立てていた。〈了〉
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