ミミは、錬金に使う「ゆめみの花」を取りに、エルマニオン雪原を訪れていた。イザヤールは今回ルイーダの酒場のヘルプで同行せず、一人だった。しかしただ花を摘むだけなので、サンディも箱舟に残してきた。
花を摘んで帰ろうとした時、ふいに後ろから声をかけられた。振り返って見ると、驚くほど色白な、銀色の長い髪にアイスブルーの瞳の、美しい女が立っていた。
(どうして・・・気配を何も、感じなかった・・・)
少し警戒しながら、ミミは返答した。
「私に何か、ご用ですか?」
すると女は、低い、静かな声で囁いた。
「クリスマスツリーを作りたいのです」
「え?」
「その為には、てっぺんに飾る星が必要なのです。それも、ただの飾りでない、美しい星が」
女の姿の神秘的な様子が、言っている言葉とひどくそぐわなかった。
「特別な星は、宝の地図の洞窟に居る、あるスターキメラが持っています。・・・美しい娘よ、取ってきてはもらえないでしょうか」
奇妙な願いだった。しかし、たやすいことのように思われたのと、奇妙ではあるが女に邪悪さを感じなかったので、ミミはその依頼を引き受けた。こうしてクエスト「特別な星を」を引き受けたのだった。
さっそくミミはルイーダの酒場に戻ると、イザヤールを連れてスターキメラの居る洞窟に向かった。他のメンバーは、「クリスマス前で忙しくて、ごめん」と断ってきたのだ。
それが本当なのか気遣いなのかはとりあえずさておき、襲いかかってくるスターキメラを始めとするモンスターと戦い、フロアを下っていく。
「きっつ~、いちゃついてる場合じゃないわよネ、ミミ・・・」
戦闘記録を付けているサンディが言いかけると、大した怪我でないのに、ミミに優しく優しく手当てをしているイザヤールの姿が目に入った。
「・・・。アホらし、帰ろーかな・・・」
思わず呟くサンディ。
そんなこんなで、最下層近くで倒した一匹のキメラが、白銀に輝く、星の形をした物を落とした。
「特別な星って、これかな?」
ミミが拾い上げると、それはますます美しく輝いた。急いで依頼人に届けてあげなきゃ。そもそも、あんなところにずっと居て寒くないのかな。首をかしげながらミミたちは、とりあえず洞窟から出た。
エルマニオン雪原に戻る頃には、もう辺りは暗くなっていた。女は、なんと先刻と同じ場所に立っていた。ミミの姿を認めると、彼女は微笑んだ。とても美しい微笑だった。
「ありがとうございます。これですばらしいクリスマスツリーができます」
そう言うと彼女は、手に入れた星の形をしたものを手のひらに載せて、そっと息を吹きかけた。
すると、銀色の星は無数の煌めく光となり、辺りに生えている木々の一本一本のてっぺんに収まって、清らかに輝きだした。
夕闇の中、雪原の木々は、まさに数多の白銀のクリスマスツリーのようになった。その幻想的な光景に、ミミたちは言葉も出せずに立ち尽くしていた。
「如何?気に入って頂けました?」
女が言い、ミミは瞳を木々に負けずに輝かせて頷いた。
「クリスマスまで、この光景をずっと楽しめますよ。あなた方のおかげでね」
そう言って彼女は、これはささやかなお礼です、と何かをイザヤールの手に載せて、雪の中へ消えていった。
ミミはたくさんの白銀のクリスマスツリーにみとれながら、不思議そうに呟いた。
「イザヤール様・・・あの女の人、いったい何者なんでしょう・・・」
すると、イザヤールは、微笑んで言った。
「おそらく、雪の精霊だろう。エルシオンの守護天使から、話を聞いたことがある」
「そうですか・・・」
それを聞いてミミもまた微笑み、彼女の去っていった方を見つめた。
「ところでさー」ここでサンディが口を挟んだ。「お礼ってナニもらったワケ?イザヤールさん?」
尋ねられて、イザヤールは初めて手のひらに載っていた物を見た。一瞬困惑した顔をしてから、すぐにいたずらっぽい笑顔に変わって、サンディだけに見えるように見せた。
「ナニコレ?木の枝?・・・あっ!」
それが何かを悟ると、急にサンディもまたいたずらっぽい笑顔になり、こう言った。
「そーだ、テンチョーにも見せてあげなきゃネ~このたくさんのツリー☆」
そして彼女は、さっさと飛んでいってしまった。
「サンディ優しいなあ・・・アギロさんのこともちゃんと考えてあげて」
ミミが感心して呟き、私もさっそくみんなに教えてまた見に来よう、と、ルーラを使おうとすると、それをイザヤールが止めた。
「ミミ、ほんの少し、待ってくれるか」
「あ、はい」
そういえば今は二人きりだったっけ、じゃあみんなには悪いけれど、もう少しこのままイザヤール様とこの景色楽しもうかな。そう考えて、ミミがイザヤールを見上げたそのとき。
イザヤールは、先ほどもらった枝のようなものをミミの頭のすぐ上にかざすようにした。そして、もう一方の手で彼女の頬を包み、それから・・・額に優しく、口づけを落とした。
「・・・い・・・イザヤールさ・・・ま」
ミミが頬を真っ赤にし、涙が溢れそうなほどに潤んだ瞳でようやく呟くと、イザヤールは少し照れたような顔で、枝状の物を振って、囁いた。
「宿り木を・・・もらった」
雪の精霊からもらった宿り木の下でキスをすれば、相手に精霊の加護があるそうだ。そう言うと彼は、ミミの頬に当てた指をそっと滑らせ、そのまま優しく髪をなでた。
「イザヤール様・・・」
ミミが睫毛を伏せて呟く。
「何だ?」
「イザヤール様にも、精霊のご加護を・・・」
彼女はイザヤールの手から宿り木をそっと取った。
「あの・・・しゃがんでもらっていいですか・・・?」
イザヤールは目を見開いてから微笑んで、雪の上に片膝を付き、花びらのような唇を、額に受けた。
その後その宿り木は、リッカの宿屋の入り口に下げられたとか下げられなかったとか。一説によれば、リッカの宿屋ではなく、エルマニオン雪原の無数の白銀のクリスマスツリーのどれかに下がっていて、訪れた恋人たちに精霊の加護を約束しているともいう。〈了〉
花を摘んで帰ろうとした時、ふいに後ろから声をかけられた。振り返って見ると、驚くほど色白な、銀色の長い髪にアイスブルーの瞳の、美しい女が立っていた。
(どうして・・・気配を何も、感じなかった・・・)
少し警戒しながら、ミミは返答した。
「私に何か、ご用ですか?」
すると女は、低い、静かな声で囁いた。
「クリスマスツリーを作りたいのです」
「え?」
「その為には、てっぺんに飾る星が必要なのです。それも、ただの飾りでない、美しい星が」
女の姿の神秘的な様子が、言っている言葉とひどくそぐわなかった。
「特別な星は、宝の地図の洞窟に居る、あるスターキメラが持っています。・・・美しい娘よ、取ってきてはもらえないでしょうか」
奇妙な願いだった。しかし、たやすいことのように思われたのと、奇妙ではあるが女に邪悪さを感じなかったので、ミミはその依頼を引き受けた。こうしてクエスト「特別な星を」を引き受けたのだった。
さっそくミミはルイーダの酒場に戻ると、イザヤールを連れてスターキメラの居る洞窟に向かった。他のメンバーは、「クリスマス前で忙しくて、ごめん」と断ってきたのだ。
それが本当なのか気遣いなのかはとりあえずさておき、襲いかかってくるスターキメラを始めとするモンスターと戦い、フロアを下っていく。
「きっつ~、いちゃついてる場合じゃないわよネ、ミミ・・・」
戦闘記録を付けているサンディが言いかけると、大した怪我でないのに、ミミに優しく優しく手当てをしているイザヤールの姿が目に入った。
「・・・。アホらし、帰ろーかな・・・」
思わず呟くサンディ。
そんなこんなで、最下層近くで倒した一匹のキメラが、白銀に輝く、星の形をした物を落とした。
「特別な星って、これかな?」
ミミが拾い上げると、それはますます美しく輝いた。急いで依頼人に届けてあげなきゃ。そもそも、あんなところにずっと居て寒くないのかな。首をかしげながらミミたちは、とりあえず洞窟から出た。
エルマニオン雪原に戻る頃には、もう辺りは暗くなっていた。女は、なんと先刻と同じ場所に立っていた。ミミの姿を認めると、彼女は微笑んだ。とても美しい微笑だった。
「ありがとうございます。これですばらしいクリスマスツリーができます」
そう言うと彼女は、手に入れた星の形をしたものを手のひらに載せて、そっと息を吹きかけた。
すると、銀色の星は無数の煌めく光となり、辺りに生えている木々の一本一本のてっぺんに収まって、清らかに輝きだした。
夕闇の中、雪原の木々は、まさに数多の白銀のクリスマスツリーのようになった。その幻想的な光景に、ミミたちは言葉も出せずに立ち尽くしていた。
「如何?気に入って頂けました?」
女が言い、ミミは瞳を木々に負けずに輝かせて頷いた。
「クリスマスまで、この光景をずっと楽しめますよ。あなた方のおかげでね」
そう言って彼女は、これはささやかなお礼です、と何かをイザヤールの手に載せて、雪の中へ消えていった。
ミミはたくさんの白銀のクリスマスツリーにみとれながら、不思議そうに呟いた。
「イザヤール様・・・あの女の人、いったい何者なんでしょう・・・」
すると、イザヤールは、微笑んで言った。
「おそらく、雪の精霊だろう。エルシオンの守護天使から、話を聞いたことがある」
「そうですか・・・」
それを聞いてミミもまた微笑み、彼女の去っていった方を見つめた。
「ところでさー」ここでサンディが口を挟んだ。「お礼ってナニもらったワケ?イザヤールさん?」
尋ねられて、イザヤールは初めて手のひらに載っていた物を見た。一瞬困惑した顔をしてから、すぐにいたずらっぽい笑顔に変わって、サンディだけに見えるように見せた。
「ナニコレ?木の枝?・・・あっ!」
それが何かを悟ると、急にサンディもまたいたずらっぽい笑顔になり、こう言った。
「そーだ、テンチョーにも見せてあげなきゃネ~このたくさんのツリー☆」
そして彼女は、さっさと飛んでいってしまった。
「サンディ優しいなあ・・・アギロさんのこともちゃんと考えてあげて」
ミミが感心して呟き、私もさっそくみんなに教えてまた見に来よう、と、ルーラを使おうとすると、それをイザヤールが止めた。
「ミミ、ほんの少し、待ってくれるか」
「あ、はい」
そういえば今は二人きりだったっけ、じゃあみんなには悪いけれど、もう少しこのままイザヤール様とこの景色楽しもうかな。そう考えて、ミミがイザヤールを見上げたそのとき。
イザヤールは、先ほどもらった枝のようなものをミミの頭のすぐ上にかざすようにした。そして、もう一方の手で彼女の頬を包み、それから・・・額に優しく、口づけを落とした。
「・・・い・・・イザヤールさ・・・ま」
ミミが頬を真っ赤にし、涙が溢れそうなほどに潤んだ瞳でようやく呟くと、イザヤールは少し照れたような顔で、枝状の物を振って、囁いた。
「宿り木を・・・もらった」
雪の精霊からもらった宿り木の下でキスをすれば、相手に精霊の加護があるそうだ。そう言うと彼は、ミミの頬に当てた指をそっと滑らせ、そのまま優しく髪をなでた。
「イザヤール様・・・」
ミミが睫毛を伏せて呟く。
「何だ?」
「イザヤール様にも、精霊のご加護を・・・」
彼女はイザヤールの手から宿り木をそっと取った。
「あの・・・しゃがんでもらっていいですか・・・?」
イザヤールは目を見開いてから微笑んで、雪の上に片膝を付き、花びらのような唇を、額に受けた。
その後その宿り木は、リッカの宿屋の入り口に下げられたとか下げられなかったとか。一説によれば、リッカの宿屋ではなく、エルマニオン雪原の無数の白銀のクリスマスツリーのどれかに下がっていて、訪れた恋人たちに精霊の加護を約束しているともいう。〈了〉
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