セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

相想う2

2011年09月13日 21時56分02秒 | 本編中
 手は、届かなかった。

 誰かの声がする。どこかで聞いたことのあるような少女の声。
「大丈夫?ねえ、私の声、聞こえる?」
 私は、目を開けようとした。なのに、目蓋がとても重い。睫毛が上がらない。
 ようやく開けた目でも、私の顔を覗き込む人の顔は、ぼやけたり歪んだりしていた。
「無理しないで」
 あなたは、もう何日間も眠っていたの。その言葉に、混乱した。・・・ここは・・・どこなの?私・・・。イザヤール様は、イザヤール様はどこ・・・?
「無理しちゃダメ。もう少し、眠って」
 でも。視界がはっきりしてくるに連れて、頭もだんだん働くようになってきた。この子は・・・ウォルロ村のリッカ?!どうして、リッカがここに・・・?ううん、どうしてリッカに私が見えてるの?!
 私の体は震え出す。それを、リッカは、私が気分が悪いのだと考えて、優しく背中をさすってくれた。翼があることに驚きもせず・・・翼は・・・?翼が、ない!ないの・・・!嘘・・・。
 それから私が状況をのみ込むのに、更に何日もかかった。
 私は、天使界から落ちる間に、翼と光輪を失ってしまった。だから・・・私の見た目は、人間と何ら変わらなくなった。天使たる証を、全てなくして・・・。
 飛べなければ、帰れない。
 大丈夫、大丈夫だから、私は必死に内心呟く。翼をなくしたって、私は、守護天使。どんな事態にも対処できるように、イザヤール様が育ててくれたんだから・・・。イザヤール様・・・。
 イザヤール様は、無事なの?神様・・・それだけでも知ることができれば、私は何も願いません。この状況も何とか切り抜けてみせます、だから・・・。どうか・・・。
 ごめんなさい・・・。嘘です、本当はとても怖いです。こんなとき、イザヤール様ならこうやって対処するだろうと思ったことを、しようとしてるだけ。泣かないこと、騒がないこと、何ができるか考えること。・・・ああ。
 リッカは、私にとても優しくしてくれた。どこから来たのかわからないような私を。「守護天使様」と同じ名前だからかな?深く考えずに名乗ってしまって、一瞬心配したけど、そんな心配は無用だった。
 もともと、強そうな見た目や天使らしい威厳とは無縁だった私は、偶然守護天使と同じ名前の「人間の少女」として、あっさり受け入れられた。それでいいのか、よくないのか、複雑な気分。
 そしてここは、知らない場所じゃない。向こうは私を知らないけれど、私はこの村のみんなのことを知っている。落ちたのがこの村で、本当によかった・・・。
 私を助けてくれたリッカ。そんな彼女に私ができる、せいいっぱいのお礼がしたい。そう思ってしたことが、結果的に私をウォルロ村より外の世界へと導いて、そして、サンディと箱舟に会わせてくれた。
 もしかしたら、帰れるかもしれないの。もし箱舟で帰れなくても、地上を旅していれば、どこかの町の守護天使に会えるかも。そうすれば・・・。
 イザヤール様、私は何とか大丈夫です。だから・・・どうか、ご無事で・・・。

 無事だった仲間たちに声をかけられてようやく、荒れ果てた天使界の端すれすれに、立ち尽くしていたことに気が付いた。
 私は・・・また留められなかった。
 ミミまでも天使界から居なくなるなど・・・かけらも思わなかったのに。去るのは私の方で、ミミは私の村の守護を引き継ぎ、ここで待っていてくれる、その筈だった。
 いつか、遠くないいつか、エルギオス様と共にここに帰り、ミミのあの微笑みを、微笑んで出迎えてもらうことを、おぼろげに夢見ていた。そして、そのときこそ想いを、と・・・。
 所詮は儚い夢だったというのか。愚かな夢だったのだろうか。地上からの邪悪な力は、嘲笑うかのようにそんな夢を、そして愛しい者を・・・私から奪い去った・・・。
 いっそ、一緒に墜ちてしまえばよかった。羽ばたいてミミを抱え、一緒に落下してしまえばよかった。
 ・・・馬鹿なことを。落ち着け。一緒に墜ちていたら、助けることすらできないかもしれない。無事に残ってしまったことを悔やむ暇があったら、探しに行かなくては。一刻も早く。どこに居る可能性が高いのか、調べなくては。・・・落ち着け。奪われたのならば、取り返すのだ。
 残った者たちで地上の地図を広げ、天使界の移動速度やあのときの位置から推測した結果、ミミや、仲間たちは、神からも見捨てられた不毛の地に落ちた可能性が高いとわかった。三百年もの間、その地に近付いた天使は居ない。
 皆が止める間もなく、私は天使界を後にする。稲妻は止んだが、吹きすさぶ嫌な風はまだ残っている。雲の色は、灰と血を溶かしたようだ。翼を全力で動かして、そんな雲をくぐり抜ける。
 こんなことが起こらなくても、いずれにせよこうする筈だったのだ。天使界を後にして、地上を巡る・・・。師匠どころか、弟子まで探すことになるとは、夢想だにしなかったけれども。
 ミミ、ミミ・・・。怪我はしていないか。おまえは、人一倍痛いことが苦手だから。ミミ・・・。怖い思いをしてはいないか。いや、怖いだろう。だが、今は泣かないで、堪えてくれ。すぐ助けに行くから。私の顔を見てから、いくらでも泣いていいから・・・。
 必ず助ける。だから、無事でいてくれ。ミミ・・・。

 その後、ミミとイザヤールは、奇しくもそれぞれ女神の果実を探す旅に出ることになる。互いの無事を、再会をひたすら願いながら。その願いが、残酷な形で叶えられるとは、夢にも知らずに。〈了〉

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2 コメント

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うぅ (ちいはゲーマー)
2011-09-13 22:47:18
あの[届かなかった手]のイベントシーンは何回みても胸が締め付けられますよね・・・
そしてこの後の二人の悲しき再会を考えると辛いです・・・



あっ、リクエスト引き受けていただきありがとうごさいます!!
お礼と言ったらおかしいのですが、こんな文才&絵心ゼロの私でよければ私も津久井さんのリクエストをお受けいたします

ちなみに今日小説更新しようと思ったら学校から大量の宿題が・・・
量的におそらく完徹決定orz
結局小説更新出来そうになく、一瞬『先生、嫌がらせですか?』と思いました
(;´∀`)
さて、シーチング糸抜き10枚とレザーの編み込み10本やるか・・・
返信する
津久井はテンションが上がった! (津久井大海)
2011-09-14 04:37:53
ちいはゲーマー様

真夜中にこんばんは☆・・・て言うか、そろそろおはようございますですね・・・(汗)うわぁ、ハードな課題お疲れさまでした!

えええっ、リリリリクエストしてしまってよろしいんですか?!ありがとうございま~す♪
ではでは、たいへん図々しいですが、当サイトキャラで、花にまつわる短いお話をお願いしてしまってもよろしいでしょうか?(ドキドキ)
ご多忙でいらっしゃるので申し訳ないですから、もちろんお時間あるときに、息抜き感覚で書いて頂ければ幸いです!いくらでも何年でもお待ち致します!(笑)

今更ながら課題無事完了祈願「おうえん」!ちゃんと休んでくださいませね!
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