セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

愛しきアイドルへ(前編)

2015年02月13日 23時58分25秒 | クエスト184以降
今週はなんと前後編、そのまま明日のバレンタイン話でもあるという追加クエストもどき、まずは前編をお送りします。本当に前後編で終わるんかいなはさておき。文中に出てくる「エグドラシル」はモンスターズに出てくるモンスターの名前、ガライはDQ1の吟遊詩人の名前、マローニはDQ4の吟遊詩人の名前ですが、実際のキャラクターには一切関係ありません(笑)簡単そうなクエストの筈が、更にもうひと波乱の予感が・・・。アイドルユニットの運命は如何に?

 誰が始めたのかは不明だが、セントシュタインにもバレンタインの習慣がいつの頃からか根付いている。そのバレンタインデーを直前にして、バレンタインフェアでチョコレートを販売しているロクサーヌの店は、夢見る乙女から現実的元乙女まで様々な女性で大にぎわいだった。
「やはり本命用の『ごうかなチョコ』がよく売れていますわね。でも、義理や友チョコ用の『ふつうのチョコ』もなかなかいい売れ行きですわ☆」大盛況に疲労の色も全く見せず、ロクサーヌはいつもの極上スマイルと共に言った。「そしてもちろん、『ふつうのチョコ』を手作りチョコレートの材料になさる方も多くいらっしゃいますのよ☆」
 なるほどそうなんだ、と、ミミはロクサーヌの商品仕入れ能力の高さに改めて感心した。単純に考えれば、バレンタインなら「ごうかなチョコ」だけを多く入荷すればいいように思えるが、そう一筋縄ではいかないのが商売というものらしい。
 さすがロクサーヌさん、と思いながらミミはリッカの宿屋の厨房に戻り、いよいよ本命チョコレート作りに取り掛かろうとした。宿屋の来客サービスチョコや、友チョコの準備がようやく終わって、いよいよ一番気合いを入れたいチョコ作りの為の時間がやって来たのだ。もちろん友チョコだって、気合いと感謝をたっぷり込めて作っているのだけれど。でも、愛しい愛しい人の為に作る時間は、甘酸っぱいときめきを伴う更に特別なものになる。
 調理台の上にある、完璧な極上品の状態にまで自ら仕上げたカカオマスを前に、ミミは少しどきどきしながらエプロンのリボンを結んだ。普通ならこれを更にカカオバターの状態にしたりしてチョコレートにするのだが、ミミは敢えてカカオマスを粉末にして、ビーフシチューの隠し味に使うというある意味掟やぶりな方法を取ることにしたのだ。お酒のつまみになりそうな方がイザヤール様は喜んでくれるし、というわけなのである。
 棍スキルで培った超人的な乳棒さばきでカカオマスを粉末にしているところへ、ルイーダがやって来た。彼女もまた、いつもより訪れる冒険者が多くててんてこ舞いだった。バレンタインは、あわよくば気になる冒険者知り合いのあの子からチョコを・・・なんて企む若い冒険者が少なくなかったからである。
「ミミ、忙しいところ悪いんだけど、ゴールドタヌと互角に戦えるくらいの凄腕冒険者を探している人が来てるの、ちょっと話だけでも聞いてあげてくれる?すごく困ってるみたい・・・っていうか、さっきから泣きっぱなしなのよ」
 それを聞いてミミは、エプロンも外さずにあたふたとルイーダについていった。ロビーに出ると、確かにルイーダの酒場のカウンターにうつ伏してさめざめと泣いている、ふりふりドレス姿の少女が居た。
 少女は、ミミが来るとガバッと顔を上げた。涙でアイラインが流れて、頬に黒い筋が着いてしまっているくらい大泣きしていたようだ。何かご用ですか、と言うより先に、いったい何があったんですか、と尋ねたくなってしまうような状態だった。少女はなおもしくしく泣きながら、話し始めた。
「わたし、憧れのアイドルの為に、『ごうかなチョコ』を百個使って、一生懸命手作りチョコレートを作ったんです」
 彼女はハンカチで目を押さえながら言った。買値三千G百個分というとんでもない金額より、果たしてそんな巨大なチョコレートをもらった人は食べられるんだろうかと、ミミは余計な心配をした。
「何故か作っている間、近隣住民から苦情が来ていたから、仕方なく町の外に大釜を設置して作っていたの」少女は説明を続けた。「そうして、ようやく出来上がったのを、夜の寒い気温を利用して外に置いて固めていたら、その間に盗まれてしまったの。盗んだのは、金色に光るタヌキの魔物で、水のある洞窟に逃げ込んだって、目撃者が言ってましたわ。そういう嫌がらせをするのが好きなゴールドタヌっていう魔物だって。わたしのエグドラシルへの愛のチョコを取るなんてー!ヒドイ!」
 ミミは、百個分の大きなチョコレートをゴールドタヌがどうやって運んだのかも気になっていたが、ひとまず聞きなれない名称の方を質問することにした。
「あの、すみません、『エグドラシル』って?」
「あなた知らないの?超イケメン吟遊詩人のガライとマローニの二人組アイドルユニットよ。今すっごく人気なんだからっ。ああ、あのチョコレートでなければ、わたしのエグドラシルへの熱い想いは伝わらないのに~」
 またもや少女はわんわん泣き出したので、ミミは慌て気の毒になった。大好きな人に、材料と手間をかけて懸命に作ったチョコレートを盗まれてしまったなんて、どんなに辛いだろう。でも、とミミはほんの一瞬ためらった。このクエストに行ってしまえば、おそらく明日のバレンタインに、よく煮込んだ隠し味カカオ入りビーフシチューを出すのは間に合わないだろう。イザヤールはおそらく気にしないだろうが、恋人たちの日に何もしてあげられないのは、ちょっと寂しい。
(だけど・・・イザヤール様は、私が手作りチョコレートにこだわるより、人助けした方が、喜んでくれるよね・・・)
 困っている人を見ると放っておけないのは、元守護天使のサガとも言うべきものだろう。泣いている少女を放っておいて自分の本命チョコレート作りを呵責無しにするというのは、どうしてもミミにはできなかった。
「わかりました、盗まれたチョコレートは、私が取り返してきます」
 ミミが言うと少女は泣き止んだ。
「ホントに?!ありがとうございます!持っているゴールドタヌを弱らせてからお宝スキル『ぬすむ』を使えば取り返せる筈よ!お願い!あ、でも、火の呪文や攻撃は使わないでね、チョコレートが溶けちゃうから」
 ミミは頷いた。ごうかなチョコ百個分を使った大きさのチョコを持っているゴールドタヌなら、すぐ見つかるだろう。もしかしたら、急いで行って帰ってくれば、自分の方の本命チョコレート(料理と言うべきだろうが)も間に合うかもしれない。ミミはクエスト「愛しきアイドルへ」を引き受けた!

 ルイーダにイザヤールへの伝言を頼んで、ミミはさっそくそのゴールドタヌが逃げ込んだという水系洞窟に向かうことにした。
「話だけでも聞いてあげて、なんて言って悪かったわ」ルイーダが心底申し訳なさそうに言った。「ミミ、あなたのチョコレート作りの方が、間に合わなくなっちゃうんじゃない?取り返すのは、イザヤールさんの帰りを待って、イザヤールさんに頼んだらどうかしら?」
「でも、私が引き受けたんだし。それに、取り返すのがもし明日に間に合わなかったら、たいへんだし」
 ちなみに、イザヤールは、セントシュタイン兵たちと一緒に、エラフィタに出かけていた。「バレンタインなんかキライだああ!リア充なんか大嫌いだああ!」と暴れているあらくれが居ると通報が入って、そのあらくれが迷惑なことにかなり強く、並の者ではとても取り押さえられそうになかったからである。
 こうしてミミは、出発した。ゴールドタヌが居るダンジョンの魔物はなかなか手強いから、準備をしっかりと行い、攻撃も回復もこなせて一番器用さが高いレンジャーで行くことにした。器用さが高ければ、魔物からアイテムをより奪い易くなる。
 今日はちょうど友チョコやアギロやイザヤールへの義理チョコの派手なデコレーションを終えたサンディが、ついてきてくれた。
「相変わらずオヒトヨシよね~ミミ。ま、アンタたちはラブラブもいいとこだから、バレンタインを特別にやらなくたってへっちゃらかー。逆にさ~、アンタが帰ったらイザヤールさんがチョコ用意して待ってたりして☆」
「それ・・・。いいかも♪」
「あ~ハイハイ。リア充はいーわねー」
 目的の洞窟に入り、ステルスを使って巨大なチョコレートを持つゴールドタヌを探したが、ゴールドタヌの出没フロアを全て巡ったのに、そんなゴールドタヌを見つけることはできなかった。
「もう食べちゃったのかな・・・。だったらどうしよう・・・。ロクサーヌさんに頼んでも、今からごうかなチョコ百個分なんて、用意するの到底無理だし・・・」
 ミミが心配そうに呟くと、サンディが彼女の頭を慰めるようになでなでをした。
「しょーがないよ、依頼人にそう言うしかなくね?ふかこーりょくってヤツっしょ!」
 ミミはリレミトを唱え、セントシュタインに戻って、巨大なチョコレートを持ったゴールドタヌを見つけることができなかったとしょんぼりと報告した。すると、依頼人の少女は意外な事実を告げた。
「え?別に大きなチョコじゃなくて、普通のごうかなチョコサイズだけど?」
「ええっ?!・・・だって、ごうかなチョコ百個分を使って作った、って言ってませんでした?」
「そう!ごうかなチョコ百個を溶かしたんだけど、何でか怪しい煙が出たり真っ黒になっちゃったりして、無事だった部分は、ごうかなチョコ一個分の大きさしか、残らなかったの」
「えええ!」
 ちゃんとサイズや形状を依頼人に確認してから出かければよかったと、ミミは己の軽率さを悔やみながら、急いで洞窟に引き返した。サンディは「最初から言わないあっちが悪いっつーの!」と怒っていたが。

 ミミが再び出発したのと入れ違いに、イザヤールがエラフィタから帰ってきた。村の中で特技を使うわけにもいかないので、まずは全員であらくれの説得を試みたが、間の悪いことにイザヤールをはじめ、出動したセントシュタイン兵士たちもたまたま全員妻や彼女持ちだった為、かえって逆上させてしまうことになった。仕方ないので、まだらくもいとを投げて動きを鈍らせたところにラリホーをかけて眠らせ、そこへツッコミをすることで、ようやく我に返らせ落ち着かせることができたのだった。
 体はそうでもないが、精神的にやや疲労して帰ってきたところへ、ルイーダからミミが困っている依頼人の為に出かけたこと、イザヤールへの本命チョコレートが作れないと悩みながらも行ったということを聞いた。それを聞いてイザヤールは、気持ちの疲れが吹き飛び、和んだ。守り人としての務めを大切にしながらも、恋人へのチョコレートを作る時間が無くなると悩むミミが可愛く、愛しかった。
 ミミが帰ったら褒めてやらねばな。それとも、今からそのダンジョンに合流して、クエストを手伝おうか。そう考えながらイザヤールはとりあえずミミの作りかけの物を見に厨房に来て、彼女が何を作ろうとしていたかを違わず読み取った。ビーフシチューの材料に、極上のカカオを隠し味。
 自分で作りたいであろうミミをもしかしたら悲しませるかもしれないが、とにかく、と、イザヤールは野菜を切り、これまた極上の肉を炒め、とろ火にかけた。下ごしらえをしておいて、最終的な味付けをミミに任せよう。こうして煮込んでおけば、明日に間に合うだろう。自分がもらうチョコレートを自分で作っているようなものだろうが、ミミの想いはわかっているから、それはどうでもいい。
 それからイザヤールは、鍋の番をラヴィエルに頼んでから、ミミの後を追ってゴールドタヌの居るダンジョンに向かい、入り口のところで、見事にチョコを取り戻してきたミミと無事に行き逢った。ミミは、イザヤールがシチューの下ごしらえをして味付けを残しておいてくれたことを喜び、イザヤール様とチョコの合作しちゃった、と、幸せそうに呟いた。
 こうして依頼人だけでなく自分たちのバレンタインも無事にできそうとうきうきと帰宅したミミだったが、リッカの宿屋のロビーに入った途端、また大泣きしている依頼人が駆け寄ってきた!
「どうしよう!わたしのガライとマローニが、拐われちゃった!」〈後編に続く〉
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