実は超ひっそり二周年企画、連作風なくしたものシリーズ完結編。お付き合いありがとうございました☆弟子天使として命令される立場から、パーティリーダーとしてあれこれ命令する立場になった女主ですが、まだまだ不慣れなようです。そして、理からは解放された筈なのに、相変わらずイザヤール様に弱い。まあお互い様なのですがwそのうえまたも恐怖の真夜中テンションコンマ一ミリエロスな予感ですがお許しくださいませ。これからも二人の物語は続いていきます。よろしくお願い致します☆
ここはダンジョン最深部。今日の相手は、なかなか手強い。ミミは、共に戦ってくれる仲間たちに、慎重かつ的確に指示を出す。僅かな判断ミスが、命取りになることがある。
「イザヤール様は、テンションバーンを使ってください、リッカはミラーシールドを、ロクサーヌさんは『やまびこのさとり』を、自分にかけて!」
ミミ自らは、ライトフォースを使った。秘伝書を持っているので、全員が光の力を身にまとった!
少々苦戦で戦闘はやや長引き、ともすれば、大ダメージを負ったミミをかばおうとするイザヤールを制して、攻撃優先指示を出す。
「私は大丈夫、そのままはやぶさ斬りでとどめを差してください!」
こうして、今日も無事戦いは終わった。
「みんな、ありがとう」
ミミがいつものようにパーティメンバーにぺこりと頭を下げると、一同揃って笑った。
「ミミはリーダーなんだから、もっと偉そうにしていいのに~」リッカが冗談混じりに言う。
「そうですわ、私たち全員、ミミ様の作戦の完璧さを、信じておりますのよ。もっと堂々となさればよいのに」とロクサーヌ。
「私はもうおまえの師匠ではないのだぞ。いちいち敬語で指示を出していては、間に合わないかもしれないぞ」とイザヤール。
「だって、えっと・・・」
ミミは言いかけて思いとどまった。イザヤールに戦闘の命令をするのさえも、何とか抵抗なくできるようになったのは、ようやく最近になってからなのである。敬語でも命令は命令だ。弟子が師匠に命令するなど、天使だったらとんでもないこと。いくら今のイザヤールがもう、仲間で恋人であっても、百年以上身に染み着いた習慣を改めるのは、なかなか容易ではない。
「今のままじゃダメかな・・・頼りないかな?」
少ししょんぼりしてミミが呟くと、無理はしなくていい、とイザヤールは微笑み頭をなで、リッカとロクサーヌも笑って頷いた。
「ミミはミミでいいの、命令って言うよりお願いなところが可愛くて何でも聞きたくなっちゃうしね」
「そうですわ。ミミ様はもっと自信をお持ちになってよろしいのに、と申し上げたいだけで、不満があるわけじゃありませんのよ」
まあミミのキャラなんだからムリに変えなくていーんじゃない、サンディも笑って言って、肩をぽんぽん叩いてきた。
その晩、ミミは浴槽の中で疲れを癒しながら、ゆるゆると考えを巡らせた。こんなことを言うとみんなに笑われそうで言えないが、見習い天使だった頃は、いつか師イザヤールのような立派な天使になりたい、あれくらいの威厳を身に付けたいと、思っていたものだ。
今にして思えば、サンディ言うところの「キャラの違い」で、到底無理だったのだけれど。なれそうもないまま、今に至る。おそらく人間としての生涯の間ずっと、無理だろう。
イザヤールは、弟子に対しては全くと言っていいほど、声を荒げることはなかったし、感情に任せて叱る、ということもなかった。それがまた尊敬を増したものだ。他の上級天使が弟子に手を焼いた際にしばしば使っていたらしい、「天使の理」を使うことも全くなかった。使ったのは、あのとき一度だけ・・・箱舟でのあのときだけだ。ミミもまた、あのとき初めて、師に逆らった・・・。
彼もミミも人間になったことで、天使の理もまた永久に喪われた。もはやイザヤールにミミの行動の自由を縛る力は無い。・・・その筈だが・・・。
ミミが浴室から出ると、先に入浴を済ませて、使ったアイテムの補充をしてくれていたイザヤールが、手を止めて優しい、だが熱を帯びた瞳で見つめてきた。そして、道具袋を放り出し(もっとも、もうほとんど作業は終わっていた)、低いがよく通る声で囁いた。
「ミミ。・・・おいで」
その顔と声で、ミミは魔法にかけられたようにイザヤールに歩みより、彼の腕の中に納まった。風呂から出る前は、汗が引くまでは抱きつくのは我慢しようと決意していたのに。
「口を開けてごらん」
囁かれ、ミミは素直に淡い薔薇色の唇を開いた。何故だろうとは思ったが、イザヤール様がしてくれることなら、間違いなくいいことなのだと思う。すると大好きな指先が、少しの岩塩を混ぜたレモンのさえずりの蜜漬けを、優しく押し込んだ。
「風呂上がりにどうかなと思ったのだが・・・どうだ?」
「・・・おいしい」
「そうか、よかった」
やはり、いいことだった。甘酸っぱさが心地よく、特別な岩塩は、ほどよくさえずりの蜜の甘さを引き立て、汗で失われた塩分を補給してくれる。
だが、「いいこと」は、食べることばかりではなかった。
蜜が少し着いた指先は、名残惜しそうにまだ唇の端に留まっている。言葉のない催促にミミは、桃色の舌でその蜜を掬い取った。可愛い舌に指を濡らされた時、イザヤールの喉がかすかに鳴った。その声というか音が、彼女の心拍数を速め、艶かしい気分を呼んだ。
何だか、変なの・・・。濡れた指先で唇をなぞられて、陶酔し、戸惑いながら、ミミは思う。こんなとき、イザヤール様の言うこと、何でも聞きたくなるのは・・・どうして・・・。どんなことでも聞いてしまいそうで、少し怖くなる。イザヤールが、ではない。そんな自分が、だ。
ミミの頬が少し熱いことに気付いて、イザヤールは今度は水の入ったグラスを差し出した。細いすっきりとした透明なグラスに、ミントといやしそうの葉が浮かべてあって、とても美しい。ミミがグラスにみとれてなかなか飲もうとしなかったので、イザヤールはかすかに笑って命じた。
「飲みなさい。またすぐ作ってやるから」
するとミミの薔薇色の唇はまた開き、ゆっくりと水を口に含んだ。喉を、涼しい味がスローモーションで滑り落ちていく。控えめな清涼感は、心地よく体を潤した。
イザヤールは、水を飲み下して小さく規則的に動くミミの白い喉を見つめ、息を飲んだ。少しのけぞった滑らかな喉が、無防備に熱い視線にさらされる。
ミミは、言われるがまま素直に従っている。だが、奇妙なことだが、彼にとっては、彼女の無意識の行動が、逆にイザヤールに様々なことを命じていて、その誘惑に抗えない。
濡れた唇は、触れて、優しく、と。可愛い舌はイザヤール様の指を頂戴、と。こくこくと動く白い喉は、ここにキスをして、と。そのおねだりに、素直に従っている迄だ・・・。心の中で呟いて、彼は首筋にそっと唇で触れた。
優しいキスだったが驚いて、ミミはグラスを取り落としそうになり、その弾みでむせた。ちょっと悪戯が過ぎたと、イザヤールはたちまち後悔して、慌てて背中をさすったり、ハンカチを探したりと大わらわになった。
ようやく落ち着いたミミに、彼は心から謝った。
「本当にすまなかった。驚かせてしまって」
ミミは、咳き込んだ名残で涙目で、それが余計に瞳を美しく見せている。少しすねた顔で、彼女は呟いた。
「ずるい、イザヤール様・・・。まだ天使の理が、使えるなんて」
そう言われたイザヤールは、真底心外そうな顔をして答えた。
「誓ってもいい、使っていない」
すると、ミミは瞳の陰影と煌めきを増して、イザヤールを見上げた。
「だって・・・何でも言うこと、聞きたくなっちゃうんだもの・・・」
その言葉にまた、心臓が跳ねた。
「私の方だって、そうだ。・・・おまえの望む通り、何でもしてやりたくなる」
熱っぽく悩ましい囁きに、ミミの頬が染まった。
「嘘。・・・本当に、何でも?」
「もちろん。言ってごらん」
「やっぱり・・・いいの」
「言いなさい」
また抗えない力が、働いた。催眠にかけられたように、言葉が紡がれ、恥ずかしそうに僅かに震える声が、心地よく彼の耳をくすぐる。
「キスをして・・・唇に」
「喜んで。・・・それだけで、いいのか?」
「・・・意地悪」
その望みは容易いと、たっぷりと叶えられた。
上級天使が見習い天使の自由を縛る掟、天使の理は、人間となったこの二人からは、喪われた。だが、天使の理は、体の自由は縛ることができるが、心までは縛りつけることができない。
けれど、今は。別の力が、心までも悩ましくかき乱し、掟よりもずっと強く互いを結びつける。恋人たちに普遍なある力が、理にとって変わった。恋をする者たち同士の、互いに強烈に惹かれ合う想い。
縛りつけ、籠に入れて閉じ込める力ではなく。鳥たちは、自由だが飛び去らず、互いにいとおしんで寄り添う。
翼も、光輪も、理も、故郷もなくした元天使たちは、互いへの障壁もなくして、そんな鳥たちのように、寄り添って生きていけるようになった。
なくしたものをいとおしみつつも、なくす前よりも幸せを掴んだと、胸を張って言える。これからも、共にそうして、生きていく。〈了〉
ここはダンジョン最深部。今日の相手は、なかなか手強い。ミミは、共に戦ってくれる仲間たちに、慎重かつ的確に指示を出す。僅かな判断ミスが、命取りになることがある。
「イザヤール様は、テンションバーンを使ってください、リッカはミラーシールドを、ロクサーヌさんは『やまびこのさとり』を、自分にかけて!」
ミミ自らは、ライトフォースを使った。秘伝書を持っているので、全員が光の力を身にまとった!
少々苦戦で戦闘はやや長引き、ともすれば、大ダメージを負ったミミをかばおうとするイザヤールを制して、攻撃優先指示を出す。
「私は大丈夫、そのままはやぶさ斬りでとどめを差してください!」
こうして、今日も無事戦いは終わった。
「みんな、ありがとう」
ミミがいつものようにパーティメンバーにぺこりと頭を下げると、一同揃って笑った。
「ミミはリーダーなんだから、もっと偉そうにしていいのに~」リッカが冗談混じりに言う。
「そうですわ、私たち全員、ミミ様の作戦の完璧さを、信じておりますのよ。もっと堂々となさればよいのに」とロクサーヌ。
「私はもうおまえの師匠ではないのだぞ。いちいち敬語で指示を出していては、間に合わないかもしれないぞ」とイザヤール。
「だって、えっと・・・」
ミミは言いかけて思いとどまった。イザヤールに戦闘の命令をするのさえも、何とか抵抗なくできるようになったのは、ようやく最近になってからなのである。敬語でも命令は命令だ。弟子が師匠に命令するなど、天使だったらとんでもないこと。いくら今のイザヤールがもう、仲間で恋人であっても、百年以上身に染み着いた習慣を改めるのは、なかなか容易ではない。
「今のままじゃダメかな・・・頼りないかな?」
少ししょんぼりしてミミが呟くと、無理はしなくていい、とイザヤールは微笑み頭をなで、リッカとロクサーヌも笑って頷いた。
「ミミはミミでいいの、命令って言うよりお願いなところが可愛くて何でも聞きたくなっちゃうしね」
「そうですわ。ミミ様はもっと自信をお持ちになってよろしいのに、と申し上げたいだけで、不満があるわけじゃありませんのよ」
まあミミのキャラなんだからムリに変えなくていーんじゃない、サンディも笑って言って、肩をぽんぽん叩いてきた。
その晩、ミミは浴槽の中で疲れを癒しながら、ゆるゆると考えを巡らせた。こんなことを言うとみんなに笑われそうで言えないが、見習い天使だった頃は、いつか師イザヤールのような立派な天使になりたい、あれくらいの威厳を身に付けたいと、思っていたものだ。
今にして思えば、サンディ言うところの「キャラの違い」で、到底無理だったのだけれど。なれそうもないまま、今に至る。おそらく人間としての生涯の間ずっと、無理だろう。
イザヤールは、弟子に対しては全くと言っていいほど、声を荒げることはなかったし、感情に任せて叱る、ということもなかった。それがまた尊敬を増したものだ。他の上級天使が弟子に手を焼いた際にしばしば使っていたらしい、「天使の理」を使うことも全くなかった。使ったのは、あのとき一度だけ・・・箱舟でのあのときだけだ。ミミもまた、あのとき初めて、師に逆らった・・・。
彼もミミも人間になったことで、天使の理もまた永久に喪われた。もはやイザヤールにミミの行動の自由を縛る力は無い。・・・その筈だが・・・。
ミミが浴室から出ると、先に入浴を済ませて、使ったアイテムの補充をしてくれていたイザヤールが、手を止めて優しい、だが熱を帯びた瞳で見つめてきた。そして、道具袋を放り出し(もっとも、もうほとんど作業は終わっていた)、低いがよく通る声で囁いた。
「ミミ。・・・おいで」
その顔と声で、ミミは魔法にかけられたようにイザヤールに歩みより、彼の腕の中に納まった。風呂から出る前は、汗が引くまでは抱きつくのは我慢しようと決意していたのに。
「口を開けてごらん」
囁かれ、ミミは素直に淡い薔薇色の唇を開いた。何故だろうとは思ったが、イザヤール様がしてくれることなら、間違いなくいいことなのだと思う。すると大好きな指先が、少しの岩塩を混ぜたレモンのさえずりの蜜漬けを、優しく押し込んだ。
「風呂上がりにどうかなと思ったのだが・・・どうだ?」
「・・・おいしい」
「そうか、よかった」
やはり、いいことだった。甘酸っぱさが心地よく、特別な岩塩は、ほどよくさえずりの蜜の甘さを引き立て、汗で失われた塩分を補給してくれる。
だが、「いいこと」は、食べることばかりではなかった。
蜜が少し着いた指先は、名残惜しそうにまだ唇の端に留まっている。言葉のない催促にミミは、桃色の舌でその蜜を掬い取った。可愛い舌に指を濡らされた時、イザヤールの喉がかすかに鳴った。その声というか音が、彼女の心拍数を速め、艶かしい気分を呼んだ。
何だか、変なの・・・。濡れた指先で唇をなぞられて、陶酔し、戸惑いながら、ミミは思う。こんなとき、イザヤール様の言うこと、何でも聞きたくなるのは・・・どうして・・・。どんなことでも聞いてしまいそうで、少し怖くなる。イザヤールが、ではない。そんな自分が、だ。
ミミの頬が少し熱いことに気付いて、イザヤールは今度は水の入ったグラスを差し出した。細いすっきりとした透明なグラスに、ミントといやしそうの葉が浮かべてあって、とても美しい。ミミがグラスにみとれてなかなか飲もうとしなかったので、イザヤールはかすかに笑って命じた。
「飲みなさい。またすぐ作ってやるから」
するとミミの薔薇色の唇はまた開き、ゆっくりと水を口に含んだ。喉を、涼しい味がスローモーションで滑り落ちていく。控えめな清涼感は、心地よく体を潤した。
イザヤールは、水を飲み下して小さく規則的に動くミミの白い喉を見つめ、息を飲んだ。少しのけぞった滑らかな喉が、無防備に熱い視線にさらされる。
ミミは、言われるがまま素直に従っている。だが、奇妙なことだが、彼にとっては、彼女の無意識の行動が、逆にイザヤールに様々なことを命じていて、その誘惑に抗えない。
濡れた唇は、触れて、優しく、と。可愛い舌はイザヤール様の指を頂戴、と。こくこくと動く白い喉は、ここにキスをして、と。そのおねだりに、素直に従っている迄だ・・・。心の中で呟いて、彼は首筋にそっと唇で触れた。
優しいキスだったが驚いて、ミミはグラスを取り落としそうになり、その弾みでむせた。ちょっと悪戯が過ぎたと、イザヤールはたちまち後悔して、慌てて背中をさすったり、ハンカチを探したりと大わらわになった。
ようやく落ち着いたミミに、彼は心から謝った。
「本当にすまなかった。驚かせてしまって」
ミミは、咳き込んだ名残で涙目で、それが余計に瞳を美しく見せている。少しすねた顔で、彼女は呟いた。
「ずるい、イザヤール様・・・。まだ天使の理が、使えるなんて」
そう言われたイザヤールは、真底心外そうな顔をして答えた。
「誓ってもいい、使っていない」
すると、ミミは瞳の陰影と煌めきを増して、イザヤールを見上げた。
「だって・・・何でも言うこと、聞きたくなっちゃうんだもの・・・」
その言葉にまた、心臓が跳ねた。
「私の方だって、そうだ。・・・おまえの望む通り、何でもしてやりたくなる」
熱っぽく悩ましい囁きに、ミミの頬が染まった。
「嘘。・・・本当に、何でも?」
「もちろん。言ってごらん」
「やっぱり・・・いいの」
「言いなさい」
また抗えない力が、働いた。催眠にかけられたように、言葉が紡がれ、恥ずかしそうに僅かに震える声が、心地よく彼の耳をくすぐる。
「キスをして・・・唇に」
「喜んで。・・・それだけで、いいのか?」
「・・・意地悪」
その望みは容易いと、たっぷりと叶えられた。
上級天使が見習い天使の自由を縛る掟、天使の理は、人間となったこの二人からは、喪われた。だが、天使の理は、体の自由は縛ることができるが、心までは縛りつけることができない。
けれど、今は。別の力が、心までも悩ましくかき乱し、掟よりもずっと強く互いを結びつける。恋人たちに普遍なある力が、理にとって変わった。恋をする者たち同士の、互いに強烈に惹かれ合う想い。
縛りつけ、籠に入れて閉じ込める力ではなく。鳥たちは、自由だが飛び去らず、互いにいとおしんで寄り添う。
翼も、光輪も、理も、故郷もなくした元天使たちは、互いへの障壁もなくして、そんな鳥たちのように、寄り添って生きていけるようになった。
なくしたものをいとおしみつつも、なくす前よりも幸せを掴んだと、胸を張って言える。これからも、共にそうして、生きていく。〈了〉
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