セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

さいあいのあいさい

2017年01月31日 23時59分28秒 | クエスト163以降
ギリギリ愛妻の日ということで愛妻話ですが、タイトルこれなのにロマンチックでもないし女主ほとんど出てきません(笑)

 ごつごつとした坑道の中を、二人の人影が奥へと進んでいく。一人は、セントシュタインのルイーダの酒場でも最強クラスの冒険者と名高い男、イザヤールだった。だが、今日彼の傍らを歩いているのは、いつも共に冒険に出かけている濃い紫の瞳の可憐な乙女ではなく、何処となく飄々とした風情の、どちらかと言えば中年に近い年頃の男だった。イザヤールはこの男に雇われた、鉱石掘りの際の護衛という訳だった。
 行く手を阻むなかなか手強い魔物たちを、イザヤールは愛用の剣で、男はハンマーで瞬く間に蹴散らす。その鮮やかな腕前に、イザヤールはかすかに笑って呟いた。
「護衛は不要だったのでは?」
「まあ一人で間に合ってたんだが」男は肩をすくめて答えた。「最近はさすがに、採掘しながら魔物を追い払うのが多少面倒でな。すっかりおっさんになっちまってねえ、やれやれ」
 男は大げさなくらい大きな溜息をついたが、目はどこか照れ隠しのような色を浮かべている。その色を目敏く見て取って、イザヤールは言った。
「・・・まだ腕に自信はあるが、妻には心配をかけたくない、そんなところか」
「若いくせに、言うねえ」男は苦笑してから、思いきり頭を反らして笑った。「まあ当たらずと言えど遠からず、ってとこだな。仕事のたんびに口やかましく心配だ心配だ言われちゃあ、かなわねえ」
「愛妻家、というやつか」
「そんなんじゃねえよ。そりゃあ俺だって若くてキレイなおねえちゃんと遊んだりしたいけどな、おねえちゃんの方でお呼びでないってさ」
「機会があれば遊びたいみたいな言い方だな。奥さんに叱られるぞ」イザヤールは冗談とも真剣ともつかない大真面目な顔で言った。実際のところ、冗談なのだが。
「勘弁してくれよ、あんたは強くて口が堅そうなのを見込んで雇ったんだぞ」
 イザヤールに劣らず大真面目な顔で言いながらも、男の目はやはり笑っている。
 そうこうしているうちに、鉱石の採掘場にたどり着いた。宝石を含む鉱石は辺りに縦横無尽に走り、地底の星空のように輝いている。その見事な光景に、イザヤールは思わず小さく呟いた。
「・・・ミミを、連れてきてやりたいものだな」
 それを聞いて、今度は男の方がからかうような色を浮かべてにやっと笑った。
「あんたのカワイイ彼女さんかい。あんたたちがすげえ仲良しさんなのは城下町中で有名だぜ」だがここで、男の笑みは消えて、ふいに真剣な顔になった。「・・・でもな、ここの山の神様は女神様だから、連れてくるのはやめといた方がいい。この山は愛しい女を連れてくると女神様が妬いて、女に良くないことが起こると言われているからな」
 イザヤールが少しあっけにとられたような顔になったのを見て、男はまた照れたような笑顔に戻った。
「馬鹿げたことを言ってると思ってんだよな?・・・でもなあ、なんだか、万が一って考えると・・・連れてくる気に、なんねえんだよなあ・・・こんな綺麗な場所だけどよ」呟いて男はぽりぽりと頭を掻く。
 ほぼ迷信であろうし、万が一本当でも、元天使でまだその力がほんの少し残っているミミとイザヤールなら、そんなやきもち焼きの山の女神を撃退もできるだろう。だがイザヤールは、馬鹿げたことと笑い飛ばす気にはなれなかった。ほんの僅かでも危険の可能性からでも守ってやりたい気持ち・・・その思いは、決してわからなくはない。
 イザヤールが笑わないのを見て、男は感謝の色を浮かべて頷くと、ハンマーを器用に振るって美しい宝石付きの鉱石の塊を掘り出し、イザヤールの方に投げて寄越した。
「そら、ここの景色の代わりに、これを彼女さんに見せてやれ」
 それから男は黙々と鉱石掘りの作業を続け、イザヤールは時折近寄る魔物を追い払った。

 町に帰る頃には日も暮れて。男はイザヤールに護衛の礼をしてから、また軽口を叩いた。
「あ〜腹が減った。うちの奴のみたいなメシは、若くてキレイなおねえちゃんたちには作れねえからな、しょうがねえ、古女房で我慢しなきゃな」
 家に帰っていく男の背中を見送り、素直じゃないなとイザヤールは笑う。そして彼は、ミミの待つ宿屋へと、帰っていった。〈了〉
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