セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

よいのつづき

2015年09月08日 23時20分39秒 | クエスト163以降
あれまあ、やはりちょっと真夜中テンションなので夜中にアップするつもりだったお話が約一日ズレてこんな時間に。オフ爆睡の結果でございます、やれやれ。それはさておき、これは先日アップの「めいてい」の翌朝にあたる話です。一応続きっぽいんですが単独でも読めます。イチャイチャし過ぎてちょっと照れくさいけどほのぼの幸せな翌朝の空気、な感じを書きたかったんですが、結局朝もらぶらぶしておりますようで(笑)タイトルは「酔い」「宵」「好い」どれでもアリ?です。

 朝日を浴びた小さなテーブルを挟んで向かい合っていると、なんだか嬉しくてくすぐったくって、そしてほんの少しだけ、気まずい。深酒してしまった翌朝だから。昨夜ははしたないくらいたくさん好きと囁いて、いつもよりもっと甘えん坊になってしまって、そして・・・。酔っていたのに、言ったこと言われたこと、したことされたこと、ちゃんと全部しっかり覚えているのが、余計に気恥ずかしい。ミミはうつむいて、綺麗な焼き色の着いたトーストを眺めるともなく見つめた。
 ミミとイザヤールは大概、朝食はリッカの宿屋の食堂で摂るのだが、今朝はいつもよりちょっと寝坊をしたせいで、出発を急ぐ冒険者たちや、朝市の一仕事を終えて駆け込みで食事だけに来た城下町の者たちで満席になっていた。今日は急ぎの用事はなかったので、のんびり待とうと思った二人だったが、満席なのを気の毒がったリッカが、トレイにほかほかの朝食を山盛りにのせてくれて、部屋で食べるようにと渡してくれたのだった。
 朝の食堂の喧騒や慌ただしさとは無縁な、静かな部屋での二人きりの朝食。それは、とても嬉しいことなのだけれど、きちんと着替えて人前に出ることで、毎日なんとか日常モードに気持ちを切り替えているのに、こうしていると夢のような時間の続きのようで・・・ダラクしちゃいそう・・・。トーストの上で溶けていくバターをぼんやり眺めながら、ミミはほんのりと頬を染めた。
「・・・ミミ。ミミ、どうした?」
 イザヤールに声をかけられて、彼女は我に返った。
「あ、はい、なんですか?」
 慌てて顔を上げて返答すると、イザヤールは楽しげに笑ってミミのスプーンを指した。
「ジャムが、紅茶に入っているぞ」
 そう言われて見てみると、トーストに落としていたつもりのジャムが、まだミルクを入れる前の紅茶に入ってしまっていた。
「あ・・・」
「まあジャム入りの紅茶も悪くないよな」
 そう言って彼は、余計に赤くなったミミの頬を、テーブル越しに手を伸ばして優しくなでた。
「私、まるでまだ酔っちゃっているみたいで恥ずかしい・・・」
 ちょっとしゅんとしてミミが言うと、イザヤールは少し心配そうに尋ねた。
「気分は悪くないか」
「それは大丈夫。さすがドミールの火酒なの、あんなに強くても悪酔いはしないもの」
「それならよかった。夕べは、おまえには珍しく、少しだけ酔い潰れてしまったものな」
「イザヤール様が居てくれたから、安心しちゃったみたい。部屋まで連れていってくれて、ありがとう。イザヤール様は、大丈夫?二日酔いとかない?」
「ああ、問題ない。上質の酒と丈夫な体に感謝だな」
 それを聞いて、よかったとミミも笑ったが、ほんのわずかに拗ねたように唇を尖らせ、呟いた。
「・・・イザヤール様は、全然なんともないみたいで、ずるい・・・」
「ずるい?」
「しゃきっとしてて、全然酔ってなかったみたいで、今もいつもみたいにちゃんとしてて・・・」
 うまく言えないのがもどかしくて、ミミはまた少しうつむいた。今だって、自分は昨夜のことを思い出してしまってあたふたしているのに。彼の方は、爽やかな顔で、スマートに振る舞っているのがちょっぴり羨ましくて。敵わないと思う。
 するとイザヤールは、笑顔を引っ込めて真剣な顔になり、呟いた。
「・・・本当に、全然酔っていなかったように、見えたか。・・・今だって、私は・・・」
「え・・・?」
 きょとんと濃い紫の瞳を見開くミミを、イザヤールは熱を湛えた眼差しで見つめ、唇の端にかすかな艶かしい笑みを浮かべた。
「・・・あんなに、酔わせておいて・・・。自覚が無いのだからな」
 おまえの方がずるいぞ、と囁いてから、彼はわずかに照れくさそうな顔で、カップを口に運んだ。
 ミミはしばらく呆然としてイザヤールのかすかな照れ顔を見つめていたが、やがて心にも顔にも、ほわんとした喜びが広がっていった。私だけじゃなくて・・・イザヤール様も、ドキドキしていてくれたんだ・・・。今朝になっても。とても嬉しい。でもドキドキし過ぎて、くすぐったい。
 それからしばらく二人は、黙々と食事を続けた。時々視線を合わせては、照れたように微笑み合う。沈黙が照れくさくなると、今日もいろいろ予定があるからしっかり食べなきゃな、とか、エラフィタ産の牛乳ってやっぱりおいしい、とか、たわいない話題を話した。
 それからしばらくして、トーストの角に小さくあむ、とかじりつくミミを眺め、イザヤールはしみじみと呟いた。
「・・・おまえは、食べ方も可愛いな」
 思わぬところで褒められて、ミミは動揺した。またあたふたしている彼女をしり目に、イザヤールは澄ました顔で無造作に果物にかぶりついている。無造作に見えて見苦しいことなく綺麗に食べているのはさすがで、まるで果物を優しく愛撫しているかのようだ。豊富な果汁が溢れて一筋だけ、顎に伝って光っているのが、かえってどこか艶かしく、よりおいしそうに見えた。
 その顔と優雅なしぐさにみとれ、ミミも思わず呟いた。
「私も、イザヤール様の食べているところを見ているの、好き・・・」
 普通に果物をかじっているだけだがと、イザヤールは怪訝な顔をして首を傾げた。
 すごくおいしそうなの、と言ってから、ミミは微笑んで告げた。
「ゆうべも、こんな顔、してた」
 それを聞いたイザヤールは、思わず果汁を吹き出しかけ、むせかけた。
「す、すまん」
「だ、大丈夫?イザヤール様」
 おろおろして水を差し出したり背中をさすってくれるミミの様子から察するに、自分の発言の意味に全く気付いていないらしい。天然の爆弾発言に苦笑してから、イザヤールは思った。それはとてもおいしかったに決まっている。この世で一番甘く、愛しいものなのだから。・・・それともミミは、昨日の夕食のときの話をしているだけなのだろうか。どっちなのか、はっきり聞いてみようかと、彼はちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべた。そうしたらミミは、どんな顔をするだろう。
 このあと、朝食が済んで、予定通り出かけたのか、それとも、自称「二日酔い」休みとなったのか。それは二人だけが、知っている。〈了〉
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