セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

幽霊船内の冒険

2015年07月25日 03時48分51秒 | クエスト184以降
今週も明け方寄り更新な追加クエストもどき。また海のお話&タイトルの割にあまりワクワク感の無い内容ですがご容赦ください。夏らしく怪談風前フリがあったりしますがその真相は果たして?!

 昔は世界中を旅して様々な不思議に遇い危機を乗り越えてきたというキャプテン・メダルだが、そんな百戦錬磨の彼でも背筋が寒くなった出来事は、魔物でも嵐によるものでもなかったそうだ。
 とある外海を航海していたときのこと、彼の船は、大型の帆船と衝突寸前ですれ違った。奇妙なことに、その日は視界良好な晴天で、一番目の利く乗組員が見張っていたにもかかわらず、そこまで接近するまで誰もその船に気が付かなかった。それは、優秀な乗組員たちを従えていたキャプテン・メダルにとって起こり得ないことだった。そしてそれほど接近したにもかかわらず、先方の船からは一切反応が無く、空砲で威嚇射撃をしても、応戦どころか何も返らず、それどころか甲板に誰の姿も見えなかった。
 これはただ事ではないと、キャプテン・メダルは屈強な部下たちを連れてその船に乗り込んで調べたところ、甲板だけでなく、船室にも船倉にもどこを探しても、人どころか生き物一匹居なかった。それだけならただの漂流船だろうと判断したところだが、船室のテーブルには、まだ湯気をあげている食事が食べかけでずらりと並んでいて、煙を燻らせた葉巻まであったという。それは、つい一分前まで確かに人々が居たのが、急にかき消えてしまったとでもいうような光景だった。キメラの翼等を使えば船ごと陸に行く筈だし、あり得ないがもしも全員で急に海に飛び込んだとしたら、キャプテン・メダルの船が見つけている筈だった。
 魔物や奇妙な出来事には慣れっこであるキャプテン・メダルも、この説明のつかない出来事にはぞっとして、急いで自分の船に戻った。そしてその奇妙な船を、陸に帰ってよく調べようと牽引に使うアンカーを何本も打ち込んで引いていったが、確かにアンカーをしっかり固定した筈なのに、その船はいつの間にか影も形も無くなっていて、広い海原の真ん中にはキャプテン・メダルの船だけが残されていたという。
「あれはなあ、いったい、なんだったんだろうな」
 呟いて、キャプテン・メダルが話を締めくくると、聞き手だったミミは、怪談を聞いた後のように、ちょっと緊張していた体から力を抜いて身を震わせた。幽霊を助けるのも仕事の一つなので、怪談話をあんまり怖がれないミミだが、こういう説明の付かない話はちょっと怖い。恐怖とは未知への畏れだというのは本当だなあと思う。
 ミミは今日、ちいさなメダルを届けに来て、キャプテン・メダルにお茶をご馳走になりつつ(お茶うけはちいさなメダルチョコだった)彼の昔の冒険話を楽しく聞いていたのだったが、この後サンマロウでイザヤールと待ち合わせて、自分たちの船で操舵の練習を兼ねて航海することになっていた。その間にそういう謎の船に遭遇したらどうしようかな。少々ドキドキしながら、彼女はキャプテン・メダルのテントを辞去して、サンマロウに向かった。

 サンマロウで無事イザヤールと合流し、いよいよ出航したが、ミミはまだ少々ドキドキしていた。でも大丈夫、そんな船にもしも遭遇したって、イザヤール様も一緒だし、ルーラもマーメイドハープもあるし、と自分に言い聞かせ気持ちを落ち着けて、彼女は穏やかで爽やかな海上を楽しむことにした。
 元々は大富豪の持ち物であるミミたちの船は、コンパクトだが設備は充実していて、しかもコンパクト故に少人数で操船できるのも長所の一つだった。巧みな操舵で風をうまくとらえて海上を進むのは、天の箱舟の操縦と同じくらい心地よい。
「ミミ、また操舵の腕を上げたな」
「イザヤール様こそ」
 お互い上機嫌で交代で舵を取り、やがて陸地が見えなくなった頃、前方に何かが見えてきた。この辺に島などはなかった筈・・・。と二人で顔を見合わせ慎重に船を近付けていくと、かなり大きな帆船であることがわかって、ミミは思わず小さく息を吸い込んだ。
 かなり近寄ると、その帆船は全体的に朽ちかけていて、帆もマストもぼろぼろで、鬼気迫るものがあった。だが甲板はミミが危惧していたような無人ではなく・・・破れ汚れた船乗り服を着た骸骨がたくさんと、やはりぼろぼろの海賊衣装に身を包んだ骸骨が、舵の前に立っていた!船長らしい海賊衣装の骸骨が、ミミたちの船を見つけて叫んだ。
「獲物だ!野郎共、撃てー!」
 号令と共に帆船の大砲が火を吹き、ミミたちの船をかすめて火の玉が海に沈んで水柱を立てる。慌てて舵を切りながらも、ミミは安堵の溜息をついて呟いた。
「なんだ、ほんとの幽霊船なのね・・・。よかった」
「ん?」その言葉を聞き咎めて、イザヤールは首を傾げた。「幽霊船で安心している場合か?」
「あ、そのわけは後で説明するの。とにかく、逃げても追ってくるでしょうから、応戦しましょう」
「了解」
 ミミはイザヤールに舵を任せ、自分は幽霊船の甲板に向かってメラガイアーを唱えた。凄まじい炎と衝撃で幽霊船は大揺れし骸骨たちは一瞬パニックになったが、そうそう簡単に沈まないらしいのはさすがで、骸骨たちは抜群のチームワークで消火を始め、船長は船室に引っ込んだ。
「もう一度メラガイアーをするのは簡単だけれど、もし万が一中に生きている人が居たらどうしよう・・・」
 ミミが悩んでいると、イザヤールが不敵に笑って言った。
「ならば乗り込んでしまおう。そして捜索すればいい」
 なるほど、とミミは頷き、イザヤールは舵を巧みに操って跳び移れるくらいの距離に船を着け、太い鎖のアンカーで固定して、二艘の船が離れないようにした。そして二人は幽霊船に乗り移った。
 幽霊船の甲板に降り立つと、骸骨たちが襲いかかってきた。ミミとイザヤールは棍を装備して、強烈な「黄泉おくり」をくらわせると、骸骨たちはたちまち崩れて骨の山になった。だが、その中の一つのしゃれこうべが、歯をカタカタ鳴らして笑って言った。
「船長を倒さない限り、オレたちはまた何度でも立ち上げるぜ。やれるもんならやってみな」
 こう挑戦的に言ったしゃれこうべだったが、長い年月海上をさ迷い続けたその骨は乾き、どこか疲れたような音を立てていた。その音に混じる、かすかな囁き・・・俺たちを、解放してくれ・・・。
 その挑戦、受けて、あなたたちを自由にしてあげる・・・!ミミはクエスト「幽霊船内の冒険」を引き受けた!

 船長はおそらくあちこちを移動して一ヶ所に留まっていないだろうが、それでもまず二人は船長室を確認した。そこはやはりもぬけの殻だった。卓上の航海日誌はインクの劣化でほとんど読むことができず、何かの地図らしいものも、日焼けと色褪せでどこかの島に何かバツ印がしてあるのがわかる程度だった。
 下の船室に向かおうと階段を降りると、ずらりと並んだ扉の一つひとつから、骸骨たちが飛び出して襲いかかってきた。慌てず落ち着いて撃退し、念のためたくさんの部屋の一つひとつを調べたが、やはり海賊衣装の骸骨は居なかった。
 調べている間に、バラバラになって崩れ落ちた骸骨たちは復活し、また立ち上がって襲いかかってくる。炎の呪文で撃退しても、黒焦げになった骸骨が襲いかかってくるだけだった。
 船倉に降りてみると、元海賊船であったろうに、意外なほどほとんど物が無かった。樽や木箱は山ほどあったが、それらの大半は朽ちかけていて、中身は空っぽだった。
「財宝はきっと、陸のどこかに埋めたのね。さっき船長室で見かけた、バツ印の地図がそうなのかも」
「食料は、生前の航海中に尽きたのだろうな」
 乗組員たちの末路を思いミミは身を震わせ、イザヤールは眉をひそめた。船底に着くと、そこはもっと悲惨だった。板の上に粗末な敷物の名残らしい物が黒く貼り付き、その上のいくつかにはやはり骸骨が横たわっている。ここのもやはり動くのかと警戒したミミたちだったが、動くことも返事も無い、ただの屍のようだ。
 ここにも船長の骸骨の姿は無かった。これで船の中は全て調べたから、おそらくとっくに行き違いで上に逃げているのだろうと思った矢先、腐蝕で脆くなった床板をイザヤールが踏み抜いて、更に下に隠し部屋があることがわかった。
「すご~い、さすがイザヤール様!」
「いや、単なる偶然なのだが・・・」
 だが、そこにも船長の姿は無く、そこにあったがっしりした檻の中も、空っぽだった。かつては凶暴な魔物か珍獣を入れていたのだろうが、檻の中のひっかき傷しかその名残を報せるものはない。
 と、そのとき。冷気の一種であるような嫌な気配がして、ミミとイザヤールの背後から声がした。
「その檻には、かつて竜や天馬を入れていた」振り返ると、案の定海賊衣装の船長がゆっくりと近付いてきていた。「今度はお節介な人間たちを、入れるとしよう・・・」
「お節介?」
 ミミがかすかに首を傾げると、船長の骸骨は頷いた。
「そうだ。我らは、天国だろうと地獄だろうと行きたくない。何故なら、そこに海は無いからな。海無きところに行くのを拒んで永い間こうしてきたというのに、おまえたちが邪魔をしようとするのなら、容赦はしない」
 呟いて、船長の骸骨はサーベルを抜き、突進してきた。だが、ミミとイザヤールは同時に棍を振るい、イザヤールは骸骨の頭の部分を、ミミは心臓の部分を、棍で突いた。いくら海と共に在りたいからといって。冒険のときめきも無くたださ迷う海原は、この世であってもあまりに悲しすぎる・・・。
 船長の骸骨は派手な音を立てて崩れ折れ、さらさらと灰になり消えていった。おそらく彼自身、本当はわかっていたのだろう。目的もなくただ永遠に海原をさ迷う不毛を。だからこそこうあっさりと、倒されたのだ。本当は待っていたのだろう。船旅に終止符が打たれる日を。
 階段を登って甲板に戻ると、道中の船室にもそして甲板にもあれほどあった骸骨は無くなっていた。船長を倒した為に、やはり灰になったのだろう。甲板で喋ったしゃれこうべがあった辺りには、ちいさなメダルが一枚落ちていた。ミミはそれを拾い、二人は自分たちの船に戻った。固定していたアンカーを引き抜くと、幽霊船は朽ちながらゆっくりと沈んでいった。

 またすっかり穏やかになった海上を船で進みながら、イザヤールが不思議そうに尋ねた。
「そういえば、先ほどは何故、遭遇したのが幽霊船でまだよかったというような発言をしたんだ?」
 そこでミミは、今日キャプテン・メダルから聞いた話を、イザヤールに伝えた。彼は真剣な顔で耳を傾けていたが、やがて複雑そうな表情になり、そして申し訳なさそうな表情に変わった。
「ミミ・・・。キャプテン・メダルには悪いが、その現象、実は説明が付いてしまう・・・」
「え?あっ、わかりました、キャプテン・メダルが遭遇した船も幽霊船だったんですね、ただし屍の無い魂たちばかりの幽霊船だったから、キャプテン・メダルたちには姿が見えなくて誰も居ない船に見えた、違う?」
「いい線行っているが、それでは食事がテーブルにあった説明が付かないだろう。温かい食事を食べられる亡霊はほとんど居ないからな」
「そっか・・・。じゃあ、何だったの?」
「おそらくだが、ほぼ間違いない・・・。実は数十年前、ある町の係留してあった船が、暴風雨で沖に流されたことがあった。幸い誰も乗っていなかったが、積み荷が町に届かなければ、深刻な影響が出る。その町の守護天使は、他の天使たちの力も借りて、なんとかその船を町に戻そうとした。無人の船が走っていると騒ぎになるだろうと、姿を消す呪文で船を隠して進んでいたが、運悪く効き目が切れたときに他の船と遭遇してしまったそうだ。それがおそらくキャプテン・メダルの船だろう」
「えええ~!じゃあ、船に乗っていたのが守護天使たちだったから、キャプテン・メダルたちには見えなかったってこと・・・?」
「腹が減ってはなんとやらと言って食事をしていた最中だったそうだ」
「そ・・・そうだったの・・・」
 不気味な説明のつかない現象でなくてよかったと安心したミミだったが、ちょっと拍子抜けもしたのであった。〈了〉
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