セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

小魚の夢

2013年05月03日 23時45分50秒 | クエスト184以降
今週はギリギリ間に合いました捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。もうすぐ端午の節句ということで、一応こいのぼり→鯉(魚)の滝登りネタですが、やはりゆる~い感じのクエストで、しかもやはり単にイチャしているだけでございます・・・。今回文中にちらっと記述、イザヤール様、美食や物欲にさほど興味なさそうなイメージなのですが、天使ってだいたいそうなのかもですね。でも大切な人への絆心は強くて、それが他の天使とちょっと違うのかなと。だから黙々と師匠を探しに行ったりしたのでしょう。他の天使だったらおそらくそこまでしなかったのでは。

 初夏の麗らかな陽気。今日はダンジョン探索も久々にお休みにして、ミミとイザヤールはのんびりと日向ぼっこをしていた。ここはビタリ平原を流れる川の岸辺である。本当はサンマロウの花畑をのんびり散歩も良かったのだが、折しも行楽シーズンの観光客ラッシュでのんびりという雰囲気ではなかったので、意外と穴場のこちらにしたのだ。
 少し気温が上がって暑くなってきた。
「ミミ、いっそ上流の滝のところまで行くか?」
 イザヤールが尋ね、ミミはこくりと頷いた。この場所も悪くはないが、時折近くのカラコタ橋から少々とんでもない物が流れてくるので、好きな人と過ごす甘い雰囲気と時間がぶち壊しになるのである。噂によると、先日は器用に仰向けのまま浮いていた酔っぱらいが、橋からこの辺りに流れ着いて、付近を歩いていたモンスターたちがなんともお人好しなことに救助したそうだ。
 川岸に沿って歩きながら、ミミは呟いた。
「元気かな、あの家族」
 いつかクエストを引き受けた、キラーじゃないキラーマシンと、彼?と暮らす優しい魔物たちと女の子のことを言っているのだ。
「元気そうだぞ、見てみろ」
 イザヤールが言って、ミミがその方向を見ると、遠くの方の高台に、楽しげにお弁当を食べる女の子と、それを嬉しげに見守るキラーじゃないキラーマシン、ベンガルクーン、ホイミスライムが見えた。一家団欒の邪魔をしないよう、今日は声をかけるのを遠慮して、二人はそっとその場を後にした。
「お弁当・・・そういえば、そろそろお昼頃だったの」
「我々も滝の近くで昼食にするか。今日の昼食は何だ?」
「塩漬けの牛肉とルッコラのサンドイッチに、ミックスベリーのパイです。甘さは控えめですから安心して」
「今日も旨そうだな」
 彼は呟いてやわらかな微笑みを浮かべた。彼は元来、食には関心はやや薄い方で、凝った食べ物を作るようになったのは、守護天使になってからだ。それもほとんど自分の為ではなく、人間たちや可愛い弟子の為だった。しかしそんな彼でも、心を込めて作ってもらった物を食べることは、もちろん楽しい時間には違いなかった。作ってくれたのが、愛しい者なら尚更だ。
 ミミはもちろん、イザヤールのそんな質をよく知っている。『何かに夢中になると、食事も忘れちゃうのよ、アイツは。ミミ、よく気を付けてあげてね。カワイイ弟子の言うことなら聞くし、ミミの作ったものなら喜んで食べるだろうから』ラフェットに遠い昔言われた言葉がふと過って、彼女は懐かしいような、ちょっぴり切ないような気分になった。
 元来ストイックな方であろう彼を、もしかしたら私が堕落させてしまっているのかな・・・と以前ミミは一時悩んだことがあって、それをイザヤール本人におそるおそる尋ねてみたところ、堪えきれない大笑いをされてしまったものだ。『幸せな生活を堕落と呼ぶならそうなのかもな』それから、真剣な、熱を帯びた顔になって、『おまえになら堕落させられてもいい』と囁いた・・・。
 そのときの彼の表情も思い出し、ミミはぽうと頬を染めて瞳を潤ませた。何だか照れてしまって、隣を歩いている当の本人を直視できない。
「どうした?ミミ?」
 そんな彼女を不思議そうに眺め、首を傾げるイザヤール。
「なんでもないの・・・」
 頬をますます薔薇色に染めて、首をぶんぶん振るミミだった。

 そうこうしているうちに滝の近くにたどり着いた。ほのぼのと幸せな昼食を終え、しばらく互いに黙って寄り添いながら水の流れを見つめていた。そろそろ帰ろうかと移動しかけて、ふとイザヤールは呟いた。
「ついでに、ルビーの原石を採取していっていいか?」
「はい、もちろん」
 二人は滝壺の飛び石を渡って、滝の中にあるルビーの原石の採取場に入った。滑りやすいからとうそぶいて、差しのべてくれるあたたかな手を、華奢な手がおずおずと、だがしっかりと握り返す。
 と、そんな繋がった手を飛び越すように、小さな何かがぴょいん、と跳ねた。だが、水量豊かな滝の落下に圧されて、ぼちゃんと滝壺に落ちた。
「魚・・・?」
 ミミが首を傾げると、水中から小さな泡がぷかりと浮いて、続いて小さな口と目が覗いた。本当に魚だったが、その口から嘆き声が漏れた。
「くっそー、また失敗かあー!」
 喋る魚には、既に船着き場で会ったことがあるので、二人は驚かなかったが、小さな魚が本当に悔しそうだったので、それが不思議だった。
「失敗?どうしたの、お魚さん?」
 ミミが尋ねると、魚はぴょいんと小さく跳ねて答えた。
「ボクはさあ、ドラゴンになりたいんだ」
 あまりに唐突だったので、ミミは長い睫毛をぱちくりさせた。
「ドラゴン?」
「キミたち聞いたことないかい?魚が滝を遡って越えることができれば、竜になることができるって!」
「へえ・・・」
「ふむ・・・古代東方の伝説で、鯉が滝を昇りきると龍になれるというものは文献で読んだことがある気がするが・・・」
 しかしそれは迷信ではないかと呟きかけたイザヤールの口を、ミミは慌てて塞いだ。
「ボクはドラゴンになるのが夢なんだ」小さな魚は目をキラキラさせて言った。「こんな凄い滝を昇りきれば、きっとなれると思うんだ!それでずっと努力しているけど、全然でさあ・・・」
 魚はしばらくしょんぼりしていたが、やがてまたぴょいんと跳ねて言った。
「もうひと押しのエネルギー源が必要だよねやっぱ!ねえキミたち、『とうこんエキス』と『天使のソーマ』と『ハッピークラッカー』を持ってない?」
「今は持ってないけれど、用意できると思うわ。でも、何に使うの?」
「そりゃとうこんエキスは闘魂力をアップさせる為、天使のソーマは何か飛べそうな感じしない?」
 そんな理由でいいのかなあ・・・とミミはちょっと心配になった。
「じゃあハッピークラッカーは?」
「音にびっくりして飛び上がれば、ジャンプ力上がる気がしない?」
 それでいいのか・・・イザヤールもますます心配そうな顔になった。
「ねえ、頼むよ、協力してくれない?お礼はするから」
 魚は必死に頼み込んできた。その懸命さにミミは負け、ミミはクエスト「小魚の夢」を引き受けた!

 ミミとイザヤールは、とりあえずリッカの宿屋に戻って、手持ちのアイテムをチェックしてみた。
「ハッピークラッカーは、パーティーで使った残りがあるけれど・・・」ミミは道具袋からそれを取り出して言った。「天使のソーマは、錬金で使っちゃったから、また作らなきゃ。・・・星のかけらを切らしてるの」
「とうこんエキスもだな。ただしこちらは、幸い材料はあるようだ」
 とりあえず二人は、とうこんエキスを錬金した。実は、星のかけらの材料の『光の石』と『夜のとばり』は、二人の使っている部屋の調度品に使われている。ランプや遮光カーテンにしているのだ。だが、さすがに調度品を錬金してしまっては、リッカが泣くだろう。やはり横着はしないで素材集めに行くことにした。
 星のかけらの材料は、グビアナで探すと効率がいい。ただし、いつもあるとは限らない。グビアナでは、光の石は必要な分あったが、残念ながら夜のとばりが足りなかった。
「ではオンゴリの崖に行くか。・・・だがおまえを、あまりあそこに近付けたくはないな」
「大丈夫、イザヤール様が一緒だから」
 にっこり微笑んで見上げるミミを、愛しげにきゅうと抱きしめ、イザヤールもまた微笑んだ。
 多少大がかりなことになったが、オンゴリの崖で夜のとばりも手に入り、二人はまたセントシュタインに戻って無事天使のソーマを錬金し、頼まれたアイテムを三つ持って、ベレンの滝のカラコタ地方側に戻ってきた。
 依頼人ならぬ依頼魚である小さな魚は、体力温存もしないで相変わらず滝の中を飛び上がっていた。そして、二人が戻ってくるのを見て、喜んで一際高くジャンプした・・・残念ながらもちろん、滝を越す高さには到底届かなかったが。
「おかえりー、待ってたよ!」
 魚は大喜びで「とうこんエキス」と「天使のソーマ」を一気に飲んだ。
「来た来た来た!何か跳べるような気がする!さあ、ボクがジャンプするタイミングに合わせて、ハッピークラッカーを派手に鳴らして!」
 魚がジャンプした瞬間、ミミは言われた通りハッピークラッカーの紐を思いきり引き、クラッカーを鳴らした!しかし、滝の音がうるさくて、さっぱり効果はなかった!
 魚は、心持ち高くジャンプしたように見えたが、やはり悲しくぽちゃんと落ちた・・・。
「だ・・・ダメかあ・・・」
 小さな魚が思いきり凹んだので、ミミは何とか元気付けようと慌てて提案した。
「ね、私、『おうえん』って特技持っているの。応援したらテンション上がるから、スーパーハイテンションになってジャンプしてみたらどうかな?」
「え、そんな特技持ってるの?やってやって!」
 さっそくミミは魚をおうえんした!魚のテンションが上がった!イザヤールはちょっぴり苦笑いしている!ミミは魚をさらにおうえんした!魚のテンションがさらに上がった!ミミは魚をもっともっとおうえんした!魚はスーパーハイテンションになった!
 魚は思いきりジャンプした!なんとイザヤールの身長の倍の高さまで昇った!・・・が、残念ながらやはりぽちゃんと落ちた・・・。
「ダメかあ・・・。でもボクは諦めないよ!まずは体を大きくして筋力着けて、それからまたやってみるよ!いろいろありがとう!」
 どこまでもポジティブな魚さん、とミミは感心した。魚は、滝壺で見つけたのだと水晶の塊をくれた!ミミは「ときのすいしょう」を手に入れた!

 魚が下流に泳ぎ去った後、ミミは私たちも帰りましょうと声をかけようとして、イザヤールが逆に滝の奥に入っていったことに気付いた。
(あ、イザヤール様、ルビーの原石必要って言っていたっけ・・・)
 急いで後を追うと、彼は既に綺麗な色の原石を拾っていた。
「先ほどもらった水晶と合わせたら、おまえによく似合う飾りができそうだな」そう呟いて笑う。
「もう、イザヤール様、『ときのすいしょう』を普通のアクセサリーにしちゃもったいないの・・・」
 ミミは苦笑して軽くたしなめたが、もちろんからかわれているのだとわかっていた。だから数日後、ときのすいしょうでこそないが、綺麗なクリスタルとルビーを合わせた飾りをイザヤールに渡されて心から驚き、困惑と幸福感で呟いたのだった。
(私こそ・・・甘やかされて、堕落しちゃうかも・・・?気を付けなきゃ)〈了〉

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