セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

鬼の棲む荒野

2017年02月04日 12時30分42秒 | クエスト184以降
節分には間に合いませんでしたが節分ちなみの鬼ネタ追加クエストもどき〜。一部ホラー的表現有りご注意ですが思っていたよりシリアス味軽め?元天使チートがあるからなかなか騙されないし錯乱しないんですよね〜(笑)

 最近、冒険者たちの間で、人喰い鬼の出る荒野があるという噂が流れていた。出没すると言われる場所は様々で、世界中に渡っていると言っていいくらいだったが、ただ一つの共通点は、そのどれもが人里遥か離れた荒野だということだった。荒野のあばら家に泊めてもらった二人連れの片方が朝になったら骨になっていたという話もあれば、あばら家に泊まるのは一緒だが、夜中に荒野に逃げ出した者の方が屍になっているという話もあって、真相は文字通り藪の中だった。
 冒険者は夜通し荒野を歩くことも多いし、もちろん野宿をする者も多く居る。元々夜間の移動や野宿は危険が伴うものだが、噂になるほどの恐怖が蔓延しているという事態は、真偽はともあれ何らかの根拠はある。それは地上の守り人として見過ごしてはおけないと、ミミとイザヤールは、折を見ては各地の人里離れた荒野に何か変わったことが無いか調べ始めた。
「もしかしたら、魔物が幻覚を見せて旅人に建物があるように見せているかも・・・」
「だとすれば、見つけるのはなかなか難しそうだな。しばらく、夜中の荒野各地の徒歩の見回りを地道に続けるか」
 そう相談してミミとイザヤールが見回りを続けてしばらく経ったある晩。荒天の、どんな建物でもいいから屋内に逃げ込みたいと思わせるような晩だった。とある荒野を歩き続けていた二人は、見馴れない場所に灯りがぽつりとあるのを見つけた。
「イザヤール様、もしかしてこの灯りは・・・」
「噂の人喰い鬼とやらの罠かもしれないな」
「気を付けつつ・・・突入、しちゃいますよ?」
「ああ。我々は道に迷った旅人、ということでいいな?」
「はい。でも、その前に、お守り・・・」
 そう囁いてミミは、少し照れくさそうに彼をぎゅっと抱きしめた。イザヤールはちょっと驚いてから、これから敵陣かもしれない場所に飛び込む前らしからぬ微笑みを浮かべて、「お守り」のお返しをした。それから二人は、灯りに近付いてみた。するとその灯りは、今までその場所では見覚えの無い小さな家から漏れていた。今まで無かったからといって必ずしも魔物の罠とは限らないが、かなり怪しい。
 とりあえずイザヤールが扉をノックし、夜分に恐縮だがと声をかけてみると、程なく中から扉が開いた。出てきたのは意外にも、旅姿の若い女性だった。彼女はイザヤールとその後ろに居るミミを見て、安堵の声を上げた。
「よかった!私たちだけじゃ不安だったのよ!」
 家の中にもう一人、やはり旅姿の女性が座っている。
「女性だけの二人旅か?見知らぬ者を引き入れて心配ではないのか?」
 イザヤールが尋ねると、女性二人は顔を見合わせてから、わりとのんきに答えた。
「だって、あなたはちょっと怖い顔だけどなかなかイケメンだし、連れの女の子可愛いから、全然人喰い鬼には見えないし・・・」
「旅の途中で道に迷っちゃって、この建物を見つけたからよかったけど、誰も居ないし暗くなるし、ここに居たら居たで怖くなっちゃってたところなのよ。ねえお願い、朝まであたしたちとここに居てよ!」
「そんなことでいいのか?まあ我々は確かに、君たちに害を為すつもりは無いが・・・」
 イザヤールは呆れ、ミミの方は「心細い時にイザヤール様みたいな人が来てくれたら安心しちゃう気持ちちょっとわかるかも」と思ったが、ともかく魔物が化けているであろう建物の持ち主が不在なのは意外だった。ルーラやキメラのつばさで全員でこの場からさっさと退散も考えたが、それでは根本は解決しない。とにかく留まって様子を見ようと、ミミたちはクエスト「鬼の棲む荒野」を引き受けた!

 この家は本当に小さくて、外への扉と簡単な炉がある手前の部屋の他には、奥に小さな寝室が一つあるだけだった。旅姿の女性二人は、姉妹だということで、姉は僧侶、妹は魔法使いで、こう見えてもそれなりに旅慣れているということだった。そう言いながら彼女たちは、自分たちが不寝番をしているからとミミとイザヤールが休むよう勧めると、自分たちだけで眠るのは怖いのでミミも一緒に奥の部屋で休んでくれるよう頼んできた。
 この姉妹たちの気配は確かに人間のもので、魔物とは思えない。それでも隣室とはいえイザヤールと離れるのが少し不安でミミはためらったが、「おにいさんの方があたしたちと一緒に休んでくれても構わないのよ?」と言われてしまって、それも困っちゃうとしぶしぶ姉妹と共に奥の部屋に行った。
 眠るつもりは無かったので、姉妹をベッドに寝かせ、ミミは毛布にくるまって床に座った。この部屋は小窓が一つあるだけで、寝台以外の家具は無い。姉妹は疲れていたのかたちまち寝入ってしまい、不用心すぎるのとミミすら呆れさせたが、それとも自分たちはサンディ言うところのそんなにお人好し顔なのかなとミミは少し考え込んだ。
 しばらくは何事も無かったが、やがて姉妹のうちの姉の方がむくりと起きて、ちょっとトイレ、と言って部屋から出ていった。彼女が扉を開けたとき、イザヤールが変わりなく炉の傍に座っているのが見えて、ミミは安心した。ミミの方からは見えたが、イザヤールからミミは見えないようだ。見えていたら、ミミに向かって微笑んでくれていただろう。だが、扉が閉まって間もなく、妹の方も起きてきて、ミミに切迫した声で囁いた。
「どうしよう・・・。あの人、姉さんじゃない、きっと人喰い鬼だわ」
「ええ?!どうしてそう思うの?」
 ミミは驚いて尋ねた。
「今、姉さんが出ていったとき、ベッドにこんなものを落としていったの・・・」
 震える指で指し示す方をミミが見ると、ベッドの上に何やら小さくて細長い物が落ちていた。ミミはそれを拾い上げて、元守護天使で冒険者である手前取り落としこそしなかったが、かなりショックを受けて目を見開いた。それは、指輪がはまった若い女のものとおぼしき一本の指だったのだ!
 そんな、魔物の気配は一切無かったのにとミミはいささか動揺し、だがふとあることに思い至った。とにかくイザヤール様に知らせなきゃと隣室への扉を開けると、炉の傍らに居た筈の彼の姿は無かった。表は怖いから着いてきてとでも言われて連れ出されてしまったのだろうか。ミミが逸る気持ちを堪えて冷静になろうとしていたところへ、妹の方は、混乱し泣きじゃくり始めた。
「みんな食べられちゃうんだわ!イヤよ、あたし死にたくない!」
 そう叫んで彼女は、ミミが止める間もなく家から飛び出してしまった。とにかく彼女を止めてイザヤール様を探さなきゃと、ミミは急いで後を追った。

 そのときから遡ること少し前。炉の傍で見張りと火の番をしていたイザヤールは、奥の部屋の扉が開いて姉妹の姉の方が出てきたので、少し怪訝な顔をした。彼女は花摘に行きたいが怖いから着いてきてほしいと言い(水回りの類いの部屋は建物の裏手の少し離れたところに別にあった)、イザヤールが浴室兼浄化槽のある部屋の前まで来ると、彼女はそこに入らずに、イザヤールに震える手で布にくるんだ何かを差し出して言った。
「たいへん・・・どうしたらいいの、妹だと思っていたのが、人喰い鬼だったなんて!」
「どういう意味だ?」
 イザヤールは布包みを受け取り開けてみた。すると中には、指輪がはまったままの指が一本、入っていた!これまでの経験上このような事態にも動揺はしない彼だったが、眼差しはたちまち鋭くなった。
「寝返りをうったとき、手に触れたの」彼女はかすれた声で呟いた。「初めは何かわからなくて・・・でも、よく見てみたら・・・。頭が真っ白になったわ。どうやってベッドから抜け出したか、覚えてないくらい・・・」
「だがこれを、君の妹が落とした物とは限らないだろう」
 イザヤールが冷静な意見を告げると、姉娘は、絶望に満ちた呻き声で呟いた。
「その指輪・・・妹のものなのよ・・・」
 さすがにイザヤールは絶句したが、それでもある可能性に思い至り、きあいスキルの「ふとうふくつ」を使った!たちまち幻惑効果が消え失せる!そして彼は、指輪のはまったものを見て、やはりな、と頷いた。
「安心しろ、少なくともこれは、君の妹の指などではない。木の枝に指輪をはめただけのものだ」
「え?どういうこと?」
「幻覚に惑わされていた、ということだ。こうして恐怖と互いへの不信感を与えるのが目的なのだろう。誰が、まではわからないが、まあ人喰い鬼と言われている魔物だろうな」
「じゃあ、妹は無事ってこと?あの子は本物で、人喰い鬼じゃないってこと?」
「そういうことだ。心配なら、『いてつくはどう』をかけてみればすぐわかる」
 だが、急いで戻った二人が奥の部屋を見ると、ベッドは空で、床に落ちた毛布も空っぽだった。
「そんな・・・どうして」
「どうやら君の妹も同じ幻惑をかけられたようだな・・・」
 恐怖に駈られて逃げ出した彼女をミミが追ったと推測できたものの、それでもミミの身が案じられてイザヤールは眉を寄せた。とにかく二人を探さなくてはと、彼は姉娘に告げた。
「二人を探しに行くぞ。君も一緒に来い、魔物の目的はおそらく疑惑を持たせて全員をばらばらにすることだ。単体行動をしたら先方の思う壺だろう」
「わかったわ!ていうか、待ってろって言われたって絶対イヤよ」

 一方、暗闇の荒野に駆け出していってしまった妹娘にようやく追いついたミミは、彼女の腕をつかんで懸命に引き留めた。
「落ち着いて!これをよく見て!」
 妹娘はじたばたと暴れ、ミミが先ほどの指を取り出すと更に悲鳴を上げた。そして、震えながら短剣を取り出し、奇妙な抑揚の声で叫んだ。
「放して!さもないと刺すわよ!もしかしてあなたも人喰い鬼の仲間なの、そうなの?そんなに可愛い顔をして・・・!」
 ミミは短剣を持つ相手の手を何とか押さえたが、恐怖でパニックを起こしている者の力は予想以上だ。このまま本当に刺されて逃げ出されてしまえば、この人は本当に魔物の餌食になってしまうとミミは焦り、相手を傷つけない強行手段に出た。
「いい加減にしなさい!」
 ミミの強烈な「ツッコミ」が炸裂!
 この緊迫した状況でされたことがあまりに平和的だったので、妹娘のパニックは治まった。というより、驚いて固まった。その間にミミは「ひかりのはどう」をかけ、改めて先ほどの指を見せた。
「ほら、よく見て。これは指なんかじゃなくて、細い竹に指輪を通しただけのものよ。私たちは、幻覚を見せられていたのよ」
「ほんとだ・・・。でも、何故・・・」
「きっとあの建物に入ると幻惑にかかる仕掛がしてあって、怖さで冷静な判断ができなくなったところを魔物が襲うようにしていたんだと思うの。こうやってみんなばらばらに行動していたら思う壺よ。さあ、急いでお姉さんたちのところに戻りましょう」
「うん、ごめんね・・・」
 いいのとミミは首を振って、二人で家の方に戻ると、向こうから程なくイザヤールと姉娘も駆け寄ってきた。だが、本物か念のため確かめようと、ミミたちは尋ねた。
「イザヤール様、私たちの錬金釜の名前は?」
「カマエルだ!」
「姉さん、昨日あたしたちをナンパしてきた男の職業は?」
「あらくれ!」
 あらくれって職業なの?とツッコミつつも両方の本物確認はできたので、ミミはキメラのつばさを姉妹に渡し、先に町に帰るよう促した。
「後は私たちに任せて」
 姉妹は礼を言い、「いかずちの杖」をくれて去っていった。
 ミミたちは小さな家に戻り、ライドインパクトで建物を壊した。すると、人の恐怖が実体化した魔物「ホラービースト」が大量に現れた!しかしミミたちの敵では無く全て一掃された。
「これが、人喰い鬼の正体・・・」
「同士討ちすらさせる程の恐怖を与え、その苦痛をも喰っていたのだな・・・」
 ともかくもうこれでしばらく、荒野の人喰い鬼は現れないだろう。朝日に照らされた荒野で、二人は微笑み、指に見せかけられていた木の枝と竹を、それぞれ投げ捨てた。〈了〉
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