セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

忘れ草〈3〉

2015年09月16日 03時17分53秒 | クリア後
連作第三弾。クリア後直後のサンディたちが見えなくなっていたときのお話です。サンディは見えなくてもずっと傍に居てくれたと言ってたので、その間こんな感じだったのかな?とサンディ目線を妄想して書いてみました。予めお断りしておきますと、イザヤール様が全く出てきません、すみません。この後落ち着いてきてから、改めて想い人を亡くした深い喪失の痛みに耐えることになる当サイトの女主ですが、忘れることは決してしないと、この話の時点で決意したようです。

 遠ざかり、文字通り見えなくなっていく天の箱舟を、危ないくらいに身を乗り出して手を振るサンディを、ミミはいつまでも見送っていた。
「ミミーっ!アンタはいつまでも、アタシのトモダチだからねーっ!」
 サンディの目一杯の声で叫んだその言葉に、ミミは大きく頷き、手を振り続けた。・・・そう、私に見えなくなるだけで、サンディとアギロさんは、居なくなってしまうわけじゃない・・・。だから、笑顔で見送るんだ。サンディと同じように。
 箱舟も箱舟が放つ金色の光が完全に見えなくなってしまっても、ミミは濃い紫の瞳を見開いて、しばらくじっと虚空を見上げていた。

 その頃。急ブレーキをかけた天の箱舟は、またあっという間に着陸モードに切り替えられ、サンディはいそいそ地上に降りようとしていた。
「たった今別れを言ったばかりだってえのに、おまえ、もうミミのところへ行くのか?行ったってミミには、おまえの声も聞こえないんだぞ?」
 少々呆れ気味の声でアギロが尋ねた。
「そんなのわかってるっつーの!・・・でもミミは、どこかぼーっとしててお人好しすぎるから、やっぱしこのアタシがちゃーんと見守っててあげないと・・・」
「ミミはしっかりしてるし、強い娘だ。おまえがお節介しなくても、大丈夫、やっていけると思うがな」
「テンチョーマジうるさい!アタシは行くったら行くの!そう決めたんだから!」
 するとアギロは、呆れ気味の表情から一転、真剣な、だがどこかあたたかい優しさを浮かべた表情に変わって、言った。
「わかった。じゃあ気の済むようにやってみな。・・・ただし、一度やると決めたことは、最後までやり遂げるんだぞ」
「テンチョー・・・」サンディは一瞬神妙な顔になったが、我に返って照れて慌てて顔を背け、ぶっきらぼうに呟いた。「言われなくてもわかってるし!じゃあさっさと行ってくるねー!」

 こうしてサンディは、驚くほどすぐに再びミミの元に戻ってきたのだが、もちろんミミはそれを知る由もなかった。そんなわけで、サンディが地上に降りてくると、ミミは先ほど別れを告げた場所で、まだ空を見上げていた。
『あー!まだこんなとこでぼんやりしてー!・・・そんなカオしてんじゃないワヨ、アンタは世界を救ったヒーローなのよヒーロー!あ、女のコだからヒロインか~。と、とにかく、祝杯あげて自分ごほーびめちゃめちゃあげまくっていいくらいなんだからね!まったくもうっ』
 聞こえないとわかっているが、言わずにいられないことを言いまくってから、サンディは溜息をついた。
『あー!ミミのアタマ小突きたい小突きたいっ。でなきゃくすぐるかなんかして笑わせてやりたいっ。・・・でもそしたら、ついさっきあんなに感動のお別れシーンしたばっかしなのに、アタシが居るのバレちゃうしな~。それはちょっとカッコ悪すぎかあ・・・。ホントも~、せめてリッカの宿屋にでもさっさと帰って、おいしいもんくらい食べなさいよね!』
 サンディがそうやって気を揉んでいたのが通じたのか通じなかったのか、ようやくミミはゆっくりとした足取りで歩き始めた。ダーマ神殿の方に向かっている。
『・・・って、ダーマ神殿かーい!あそこの宿屋のごはん、どっちかってゆーとナチュラルヘルシー系であんましごちそう感ないじゃん!』
 とはいえ、そう言いながらもサンディはわかっていた。リッカの宿屋に戻れば、ミミはリッカたちに心配をかけまいと、何事もなかったかのように振る舞うだろう。そして今は、とてもそうできる自信が無いから、一人でとりあえずゆっくりとせめて体だけでも休めようとしているのだと。
『別に友達の前でだって、暗いカオしていいのに!泣いたり、頼ったりしていいのに・・・も~、ミミ、アンタってコはホントしょーがないんだから~・・・』
 未だに心の痛みも何もかも一人で負おうとしているミミが切なくて、サンディは唇をきゅっと噛んで鼻をくすんとすすり上げた。

 だが、ミミはダーマ神殿の宿屋で休むことにはならなかった。そのダーマ神殿にて、たくさんの星が飛び交っていたその中でただひとつ、ツォの浜の方へと落ちていった光があったことを聞いたからだ。
「天から落ちた、かわいそうな星なのかもな・・・」
 ミミにその話をした男が呟いたその言葉に、彼女は目を見開き、長い階段を上ってきたばかりだというのに、踵を返して走り出したのだった。落ちたのが本当に星だとしたら、天使だということ。もしそうなら、助けなきゃ。誰なんだろう。疲労した体のことも忘れて、そのことしか頭になかった。
『何よこの展開?!あれ、でも落ちた星ってもしかして、さっきのアレ・・・?でもアレって確か、おねーちゃんの・・・』
 星じゃないとミミに教えたかったサンディだが、アレを見つけるのは結局ミミの為にいいと判断したので、そのまま見守ることにした。
 その後ツォの浜に着いたミミは、結局落ちた星らしきものを見つけることができず、オリガからぬしさまの影のようなものを見たと聞いて、ぬしさまなら何か知っているのではないかと考えた。それでオリガにぬしさまに会ってみたいと頼まれて、必要な装備品を集めることを快く引き受けた。

 ぬしさまを呼び出す儀式に必要な水のはごろもとみかがみの盾は持っていたが、うみなりの杖はあいにく錬金の材料にしてしまって持っていなかった。しかしうみなりの杖はストロスの杖と赤いサンゴと白いかいがらで作ることができる。カマエルの元に行こうとミミは、セントシュタインに向けてルーラを唱えた。
 白いかいがらの数が足りないので、セントシュタインの町に入る前にミミは、海岸に向かった。走って海岸に向かうミミの体力が少々心配になりながらも、サンディは思った。
(どんなときでもミミは、自分のことより人のこと、なんだからー。でもそれで余計なコト考えないで生き生きできるなら、イイのかも、ね・・・)
 だが、東セントシュタインの海岸に渡る橋がある川辺で、ミミはあるものを見つけて、思わず足を止めた。
『えっ、何?何?どーしたのよ、ミミ』
 聞こえないのも忘れてサンディは思わず尋ねたが、ミミが見つめているのが、オレンジ色の百合のような綺麗な花だったので戸惑い、呆れた。
『この状況でもキレイなモノは気になっちゃうワケー!』
 思わずミミの頭をポカリとしそうになったサンディだが、ミミの呟きを聞いて手を止めた。
「忘れ草・・・」
 この草を身に着けていると辛いこと、特に辛い恋を忘れられるという言い伝えは、サンディも知っていた。その花を見つめて立ち尽くすミミの今まで見たことが無いような表情の横顔を見つめ、サンディははっと目を見開いた。
(どうしたの、ミミ・・・?もしかしてアンタ、天使の中に好きな人でも、居たの・・・?それともやっぱり今の状況が辛くて、何もかも忘れてしまいたいの・・・?)
 ミミはくたくたと花の前に座り込んだ。震える手が、ゆっくりと花の方に伸びる。それを見て、サンディは泣きたくなった。
(ミミ・・・。そんなに辛いの?もしそうなら・・・おねーちゃんのチカラを使えば・・・人間たちが天使のことを忘れてしまったように、ミミの辛いこと、忘れさせてあげることだって、できるのよ・・・。そんな花に頼らなくても・・・でも)
 サンディの目から、ぽろっと一粒、涙がこぼれた。
『でも、天使やアタシたちにもう二度と会えなくて辛いからって、アタシやテンチョーのことまで忘れちゃおうとしてんなら、絶対に許さないからねっ!・・・ミミ、元気出してよ・・・』
 サンディの声は聞こえていない筈だった。だがミミは、その声が届いたかのようにはっと伸ばしかけた手を止め、頭を小さく振って立ち上がり、呟いた。
「やっぱり・・・忘れたくない・・・。みんなに二度と会えないのだとしても、忘れてしまったら、思い出の中のみんなにさえ、会えなくなっちゃうもの・・・。私、忘れない。大切なひとたちのこと、絶対に、忘れない・・・。思い出すのが悲しくても」
 忘れ草に背を向け、ミミは再び海岸に向かって歩き出した。サンディは、泣き笑いしそうにくしゃりと顔を歪めてから、何度もうんうんと頷いた。

 その後ミミは、オリガと共にぬしさまと会い、ぬしさまはオリガに父親の形見のお守りを渡した。お守りを手にしたオリガは、それをじっと見つめていて、その顔は明るく輝いていた。
 大切な人に会えなくなっても、その人との思い出の縁(よすが)があれば、遺された者は生きていけるのかもしれないと・・・ミミはオリガを見ていて、思った。
 ミミの手には今、ぬしさまが海で拾ったという女神の果実が載っている。落ちた星の正体はこれだったのだ。女神の果実は、願いを叶える不思議な果実。これを食べたら、食べたら・・・。
『何ためらってんのヨ!前に食べたときは迷いなくかぷっといったクセに!さあ早く食べちゃえ!食べろっつーの!食べれば、アンタのツラいのがちょっとは軽くなるのは、絶対間違いないんだからっ!』
 ミミはまだためらっている。サンディは、ミミの頭をポカリとするべく、軽く握ったこぶしを振り上げた。〈了・そして4へ・・・〉
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