セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

ここからが始まり

2015年07月11日 02時09分39秒 | クエスト184以降
更新遅れまして日付変わりました結果、奇しくも発売六周年に更新となりましたの追加クエストもどき。とはいえ内容がちょっとだけアニバーサリーっぽくいつもと少し違うパターンですので、奇しくもというより半ば確信犯です(笑)もう六年か早いなあ。こういう話を書いたらまた9を最初からやりたくなってしまいます。3DSでリメイク希望!まだまだしぶとくDQ9♪

 避暑シーズンがやってきて、普段平和で静かなウォルロ村も、街からの避暑客で多少賑わっていた。とはいえ、忙しいのは村の唯一の宿屋をリッカの代わりに切り盛りしているニードだけで、のんびり穏やかな雰囲気は全く通常通りだった。今日ミミとイザヤールはそのニードを手伝う為にウォルロを訪れたのだった。まだ約束の時間には少し早いので、村の様子を見てから宿屋に行くことにした。
 村の中を歩きながら眺める空も滝からの流れも、どこまでも青く澄んでいる。ウォルロ村は、変化はあっても変わらないなあ、とミミは、言葉的には矛盾しているが感覚的には正しく感じることを思い、微笑んだ。
(イザヤール様も、自分が守護天使になった頃からこの村はあまり変わってないって言っていたっけ・・・)
 そのイザヤールは今、村の子供に頼まれて、木の枝にひっかかったおもちゃのブーメランを取ってやっている。きっと昔の村の子供たちも、「守護天使イザヤール様」にこんな風に木にひっかかったおもちゃを幾度となく取ってもらっていたに違いない。守護天使だった時から思えば、彼にも自分にもずいぶん変化があった。でもきっと、本質的なところは、何も変わっていないのだ。それを思うとなんだか嬉しくて、ミミはまた微笑んだ。
 と、ここで彼女は、犬がくんくん鳴く声が足元から聞こえて我に返った。
「なあに?」
 ミミが首を傾げて尋ねると、犬は彼女のおどりこのドレスの裾を軽くくわえて引っ張った。ついてこいという意味なのかなと、犬に引っ張られるままに素直に歩いていくと、やがて犬はぴたりと歩みを止めて、辺りの地面をひっかいたりぐるぐる回ったりした。
 ミミもしゃがんで地面を調べると、草の茎の根元に何かが光っていた。絡んだ草をそっと外して手のひらに乗せて見てみると、それは見覚えのある指輪だった。忘れもしない、守護天使としての初めの頃にした仕事のひとつ、「じーさまの形見のゆびわ」だ。
(あのときも、こうしてこの子が教えてくれて、見つけたんだったなあ・・・)
 犬の頭をいいこいいことなでながら、ミミは手の上の指輪を見つめた。まるで時間があのときに戻ったかのような、不思議な感覚が一瞬過った。でも、そうではないのはよくわかっていた。生きてきた歳月の中ではついこのあいだの出来事だけれど。けれど遥か昔と同じくらい遠く思える、地上との関わりの始まりの日。
「ミミ、どうした?」いつの間に来ていたのか、イザヤールが傍に立っていた。「いや、おまえが犬に引っ張られて歩いて行くのが見えたのでな。ついてきてみた」
「イザヤール様、これ・・・」ミミは、指輪を見せた。「教会でいつも熱心にお祈りしているおばあさんの指輪なの。おじいさんの大切な形見だそうなの」
「ああ」イザヤールは頷いた。「私は、若き日の彼らがその指輪を渡し渡された日を、知っている・・・。指輪をもらった彼女は、とても幸せそうで、二人の星のオーラは、とてもあたたかい光を放っていた」
「きっとまた探しているよね、急いで届けなきゃ」
「また?・・・ああ、おまえの守護天使としての初仕事の一つだったな」
 案の定指輪の持ち主は、指輪が見つかりますようにと教会で祈っていた。ミミが指輪を拾ったことを告げて渡すと、老婆は涙を流さんばかりに喜んだ。
「ありがとうお嬢ちゃんや。これは大切な指輪でね」
「ええ。おじいさんの形見ですよね」
「あれまお嬢ちゃん、どうしてそれを?」
「あ・・・。えっと・・・当てずっぽうです」
 老婆は不思議そうにミミを見つめたが、すぐに微笑んで、痩せて骨張った自分の薬指に愛しそうに指輪をはめた。
「もう指まで痩せてしまって、それでも薬指にはめているからちょくちょく無くしてしまうってよくわかっているんだけどね・・・。でもね、こうして薬指にはまってる指輪を見ていると、じーさまがこれをくれた時の思い出が蘇って、じーさまが傍に居てくれるような気がするんだよ。見つけてくれて本当にありがとうね」
 教会を出てから、ミミはどこか夢見るような表情で呟いた。
「優しい楽しい思い出があるから・・・。人は、辛いことがあっても、生きていけるのかも。まるで思い出そのものが、お守りみたい・・・」
「お守り、か。そうだな・・・」
 ミミもきっと、そうやって地上での辛い旅を続け、星ふぶきの夜を迎えたのだろうと、イザヤールは彼女の横顔を見つめながら思った。それから彼は、空気を変えるかのようににっこり笑って、ミミの頭をなでて言った。
「ミミ、今日もいいことをして偉かったな」
「え?」いつものことなのにと、彼女は濃い紫の瞳を見開いてきょとんとした。「イザヤール様だって、おもちゃを木の上から取ってあげていたじゃない。イザヤール様だって偉かったの」
「おや、頭をなでてはくれないのか?」からかいの笑みをかすかに浮かべてイザヤールは呟く。
「わ・・・私がイザヤール様を人前で頭なでなでしちゃっていいの・・・?」
「そうだな、後で二人きりのときにキスの方がいいかな」
「!~~~///」
 ミミは赤くなったが、イザヤールはふいに真剣な顔になって、そんな彼女の頭をまたなでて言った。
「守護天使だった間、務めとして人間の願いを叶えていたが・・・誰かを助ける本当の意味を、おまえと過ごすようになってから、ようやくわかった気がするよ」
 そう言われてミミは、言葉の代わりに花開くような笑顔で、その言葉に答えた。

 そうして話しながら歩いていると、馬飼いの家の近くを通りかかった。何の気なしに様子を見てみたところ、積み上げたワラの山に寄りかかるようにして、馬飼いが座っていた。その傍で二頭の馬は、静かに餌を食んでいる。具合が悪いのかと二人が慌てて駆け寄ってみると、馬飼いは昼間だというのにいびきをかいて眠っていた。
「馬飼いのおにいさん、今度は二頭の馬の世話で一生懸命で疲れちゃってるのかな」ミミが心配そうに呟いた。
 馬たちはきちんと手入れされ、たてがみも毛並みもつやつやしていたが、小屋の中の掃除が少々行き届いていないようだった。イザヤールが近くに日干しにしていた毛布を、風邪をひかないよう馬飼いにかけてやっても、彼はむにゃむにゃ言っただけで目を覚まさなかった。他の土地なら無防備で物騒この上ないだろうが、まあこの村では大丈夫だろう。
 ちょっとだけ、手伝ってあげてもいいかな?ミミは目でイザヤールに尋ねた。もちろん、と、彼は頷く。二人は武器ならぬそこらへんに置いてあったほうきを手に取った。
 ミミは、踊りの技術を存分に活用して、長い裾のドレスを少しも汚すことなくほうきを使う。くるくると軽やかに回る様は本当に踊っているようだ。
「守護天使は、時には人の嫌がることもしなければならないっていうのも、イザヤール様に教えて頂いたよね」ミミがにっこり笑って呟いた。「カッコ悪いことや、地味なこともしなければならない時もある、って。でも私、イザヤール様の背中を見て思っていたの。カッコ悪いことも、地味なことも一生懸命にやることこそが、かっこいいんだ、って」
「それはおまえが自分で学んだことだ」イザヤールは微笑んだ。「私は、本当にいい弟子を持った」
「えへへ、ありがとうございます。・・・でもイザヤール様は、本当にどんなことをしていても、かっこいいから・・・」
「ほうきで馬のふんを集めていてもか?」
 笑いながらイザヤールは答えて、馬や人が踏み荒らさなそうな隅に、器用に掃き寄せた。
「はいっ♪」
 たちまち床は綺麗になり、飼い葉桶には新しい干し草がふんわり盛り上がって、水桶の中身も綺麗な水がなみなみと湛えられた。馬たちは嬉しそうに鼻を鳴らして二人にすり寄った。
「馬飼いのおにいさん、目が覚めたらびっくりしちゃうかな」
 ミミは、ここもやはり守護天使としての仕事の始まりの場だったことを思い出して、そしてやはりこんなふうに馬飼いが眠っている間に掃除をしたことを思い出し、懐かしいような、くすぐったいような気分になった。あのときは、ここの馬は一頭だけで、馬飼いはもう一頭馬を買う為に懸命に働いていたのだった。
「おにいさん、せっかく馬が二頭になったのだから、ちゃんとほどほどに休んでくれればいいのだけれど」
 ミミが呟くと、イザヤールが笑って答えた。
「そうだな。そのうち子馬も増えるだろうし」
 子馬の世話でてんやわんやになったら、また手伝いに来た方が良さそうだ。二人は馬飼いがまだぐっすり眠っている中、馬の首を別れの挨拶代わりにぽんぽん叩いて、足音を忍ばせてその場を離れた。

 宿屋に着くと、ニードがもう入り口の前で待っていた。
「おーやっと来た来た!遅いぞミミ~。団体さんの予約が入っちまって、仕事は山ほどあるんだ、さっそく頼むぜっ」
 ウォルロの宿屋は小さいので、収容しきれない客は、ニードの父である村長宅と、リッカの祖父宅とに振り分けるとのことだった。いっそ村をあげてホームステイさせて活性化を図るのも悪くないかもな、とニードは大真面目に言った。
「すご~い、ニードもいろいろ考えるようになったのね・・・」
「なんだよ、それじゃあオレが何も考えてなかったみたいじゃねーか!」
 部屋の準備から当分使える食事の下拵えまで手伝い、無事に客を迎え入れたのを確認して、ミミとイザヤールは帰ることにした。今度改めてちゃんとした礼をするから今日はとりあえずこれで勘弁なと言って、ニードは特製弁当を持たせてくれた。
 宿屋を出ると夜になっていた。二人は、流れに添って少し村の外まで歩いてから、ルーラでセントシュタインに帰ることに決めた。
 山奥の村であるウォルロは、夏の夜は殊に心地よく涼しい。村から離れるに従って滝の音が遠くなる代わりに、せせらぎの音を楽しみながら二人は歩いた。
「いい夜ですね、イザヤール様」
「ああ。やはりウォルロの気候はいいな」
 と、ここで二人は、峠の道の方角から村に向かって歩いてくる人影を見つけた。夜なのと距離があるので断言はできないが、向こうも二人連れで、どうやらウォルロに観光に来た祖父と孫という風情だ。宿屋の予約客かもしれない。
 だがここでミミとイザヤールは、ズッキーニャとスライム数匹が、その旅人たちを脅かしてやれとばかりに、繁みの中に隠れていることに気が付いた。魔物たちは凶暴さはいくぶん減ったとはいえ、まだまだ油断できない。
「あっ、たいへん!助けなきゃ!行きましょう、イザヤール様!」
「了解!」
 二人は剣を構えて飛び出したが、イザヤールは、ミミが守護天使としては初めて地上に来たときにやはりこんな状況だったことを思い出し、そのときは自分が号令をかけたのが、今は逆になったことに感慨を覚えて、師匠冥利ともいうべき微笑みをかすかに浮かべていた。

 無事旅人たちを助けて送り届けた後、ミミたちがセントシュタインのリッカの宿屋に戻って来ると、二人の自室には、今日は「セレシアおねーちゃん」こと女神セレシアのところに遊びに行っていたサンディが、ひと足先に帰ってきていた。
「あ、ミミ、イザヤールさん、おかえり~。アンタら今日のクエストもばっちりだったワヨ☆神の国からちゃ~んと見てたからね☆」
「え?今日はクエスト受けてなかったけれど・・・?」
「今日やってたいろいろ、立派なクエストじゃん☆リストにちゃんと書いとくからね~。タイトルは『ここからが始まり』でいいかな~っと。クエストクリアごほーびに、後でアタシがネイルしたげる☆」
「わあ♪ほんと?」
「私は遠慮しておくからな」
 ここからが始まり。なるほど、地上での冒険はウォルロから全て始まったんだと、ミミは微笑む。そして、これからもまだまだ続いていくのだ。仲間たちや、愛しい人と、一緒に。〈了〉
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