まだまだ寒いですね。寒いのはキツイですが、黒い布地に落ちた雪の結晶見るのは好きです。幸か不幸かこの辺ではめったに見られませんが。それで雪にまつわる短い話を書いてみました。珍しくクリア後、星のまたたきの数日前です。
空を翔ける雲が落とす雪と、空を翔ける鳥が落とす羽は似ている。どちらも、微風を受けて、ふわふわと舞い落ちてくる。
降り始めの雪を、天使が落とした羽と錯覚して、何度胸をどきりとさせただろう。ミミは空を見上げながら思った。地上に来るまで、実物の雪を見たことがなかった。天使界は、雲の上にあったから。
「雪はね、不思議なおばあさんが振るう羽枕の羽が散ったものだ、っていうおとぎ話があるんだって」
空を見上げるミミの隣に立って、リッカは言った。
「そうなんだ」
「さ、ミミ、中に入ろう。風邪ひくよ」
「うん」
リッカに促されて、ミミは素直に宿屋の屋内に向かった。だが、中に入る直前、もう一度振り返って、落ち続ける雪を見つめた。
部屋に入ると、ミミは再びバルコニーに出て、空を見上げた。無数に落ちてくる雪。
「ミミ!この寒いのに何やってんのよ~」
部屋に居たサンディは呆れたように言ったが、それでもミミに付き合って、ファー付きのコートにくるまってバルコニーに出た。そして、ミミにもあたたかなビロードのマントをかぶせた。頭からだったが。
「やだもう、サンディったら」
ミミは首を振ってマントから頭を出し、かすかに笑った。それから、呟いた。
「ねえサンディ、雪って、もしかして・・・」
「もしかして何よ?」
「雪は・・・星になった天使たちが落とした、羽なのかな・・・」
凍りつくほど寒い夜、星になった天使たちが思わず震えると、羽が散って、それが落ちてくるのかな。ミミがそう続けると、サンディはまたもや呆れたように言った。
「やだ、それメルヘンとしてはアリかもしんないけど、実際はどーなのよ!どんだけ羽抜けてんだ、ってカンジ!」
そう言われて、ミミは照れくさそうに笑って反論した。
「だって、星は・・・あれだけ無数にあるのだもの・・・」
「ロマンのカケラもないコト言わせてもらうケドね!そんなら天使の羽は、水でできてるんかい、っつーの!」
あ、そっか、とミミはまた少し笑って、空に視線を戻した。長い睫毛に雪片が載って、まばたきしてそれを落とした。それでも顔を空に向けている限り、雪は睫毛にも頬にも鼻の頭にも降り注ぐ。
わかってる。雪は雪で、雨が寒さで姿を変えてる物質だって。ミミは内心呟く。イザヤール様が、教えてくれたのだもの。
ミミ、ほら、これを見てみろ。雪の結晶だ。
そう言って彼は、腕を覆う黒い布地に落ちた雪の結晶を、見せてくれたものだった。その精巧な美しさに彼女が思わず溜息をつくと、息の温かさで儚く溶けてしまった。慌て、がっかりするミミを、イザヤールは笑って頭をなでて、囁いてくれた。
そんな悲しそうな顔をするな。ほら、また落ちてきた。
じっとしているのは寒いだろうに、アームカバーに落ちた雪を、彼は何度も見せてくれた。イザヤールの体が冷えると恐れて、もっと見ていたかったけど、そのときはそこそこで切り上げた。
今は。ビロードのマントの上に散らばる雪の結晶を、いくら眺めてもいい。ミミは視線を落として、持ち上げた腕の上のマントの布地を見つめた。雪の結晶は、それこそ星の煌めきのように、暗い色の布地で光っている。
イザヤール様。・・・この雪が、本当に、せめてあなたの羽ならいいのに・・・。
ぽたりと落ちた涙は、マントの上の雪の結晶を溶かした。
サンディは、そんなミミを悲しげにちらりと見てから、わざとぶっきらぼうな声で言った。
「やだミミったら!睫毛に積もった雪溶けてんじゃん!あ~あ、そんなに頬っぺた濡らしたら、がびがびに凍っちゃうって!」
入るわよ、とサンディはミミの腕をつかんで、部屋に引っ張り込んだ。ミミは素直についていった。
(ありがとうサンディ、気付かないふりしてくれて)
アンタのそれは涙じゃないわよ、雪が溶けたヤツよ。そうサンディの背中が無理やり言ってくれている。ミミは、そのぶっきらぼうな優しさに、久々に花開くような微笑みを浮かべた。
いつしか、雪は止んでいた。明日には、空を覆う雲はなくなるだろう。そして、何日かしたらやがて、一つの星が、瞬きだすだろう。〈了〉
空を翔ける雲が落とす雪と、空を翔ける鳥が落とす羽は似ている。どちらも、微風を受けて、ふわふわと舞い落ちてくる。
降り始めの雪を、天使が落とした羽と錯覚して、何度胸をどきりとさせただろう。ミミは空を見上げながら思った。地上に来るまで、実物の雪を見たことがなかった。天使界は、雲の上にあったから。
「雪はね、不思議なおばあさんが振るう羽枕の羽が散ったものだ、っていうおとぎ話があるんだって」
空を見上げるミミの隣に立って、リッカは言った。
「そうなんだ」
「さ、ミミ、中に入ろう。風邪ひくよ」
「うん」
リッカに促されて、ミミは素直に宿屋の屋内に向かった。だが、中に入る直前、もう一度振り返って、落ち続ける雪を見つめた。
部屋に入ると、ミミは再びバルコニーに出て、空を見上げた。無数に落ちてくる雪。
「ミミ!この寒いのに何やってんのよ~」
部屋に居たサンディは呆れたように言ったが、それでもミミに付き合って、ファー付きのコートにくるまってバルコニーに出た。そして、ミミにもあたたかなビロードのマントをかぶせた。頭からだったが。
「やだもう、サンディったら」
ミミは首を振ってマントから頭を出し、かすかに笑った。それから、呟いた。
「ねえサンディ、雪って、もしかして・・・」
「もしかして何よ?」
「雪は・・・星になった天使たちが落とした、羽なのかな・・・」
凍りつくほど寒い夜、星になった天使たちが思わず震えると、羽が散って、それが落ちてくるのかな。ミミがそう続けると、サンディはまたもや呆れたように言った。
「やだ、それメルヘンとしてはアリかもしんないけど、実際はどーなのよ!どんだけ羽抜けてんだ、ってカンジ!」
そう言われて、ミミは照れくさそうに笑って反論した。
「だって、星は・・・あれだけ無数にあるのだもの・・・」
「ロマンのカケラもないコト言わせてもらうケドね!そんなら天使の羽は、水でできてるんかい、っつーの!」
あ、そっか、とミミはまた少し笑って、空に視線を戻した。長い睫毛に雪片が載って、まばたきしてそれを落とした。それでも顔を空に向けている限り、雪は睫毛にも頬にも鼻の頭にも降り注ぐ。
わかってる。雪は雪で、雨が寒さで姿を変えてる物質だって。ミミは内心呟く。イザヤール様が、教えてくれたのだもの。
ミミ、ほら、これを見てみろ。雪の結晶だ。
そう言って彼は、腕を覆う黒い布地に落ちた雪の結晶を、見せてくれたものだった。その精巧な美しさに彼女が思わず溜息をつくと、息の温かさで儚く溶けてしまった。慌て、がっかりするミミを、イザヤールは笑って頭をなでて、囁いてくれた。
そんな悲しそうな顔をするな。ほら、また落ちてきた。
じっとしているのは寒いだろうに、アームカバーに落ちた雪を、彼は何度も見せてくれた。イザヤールの体が冷えると恐れて、もっと見ていたかったけど、そのときはそこそこで切り上げた。
今は。ビロードのマントの上に散らばる雪の結晶を、いくら眺めてもいい。ミミは視線を落として、持ち上げた腕の上のマントの布地を見つめた。雪の結晶は、それこそ星の煌めきのように、暗い色の布地で光っている。
イザヤール様。・・・この雪が、本当に、せめてあなたの羽ならいいのに・・・。
ぽたりと落ちた涙は、マントの上の雪の結晶を溶かした。
サンディは、そんなミミを悲しげにちらりと見てから、わざとぶっきらぼうな声で言った。
「やだミミったら!睫毛に積もった雪溶けてんじゃん!あ~あ、そんなに頬っぺた濡らしたら、がびがびに凍っちゃうって!」
入るわよ、とサンディはミミの腕をつかんで、部屋に引っ張り込んだ。ミミは素直についていった。
(ありがとうサンディ、気付かないふりしてくれて)
アンタのそれは涙じゃないわよ、雪が溶けたヤツよ。そうサンディの背中が無理やり言ってくれている。ミミは、そのぶっきらぼうな優しさに、久々に花開くような微笑みを浮かべた。
いつしか、雪は止んでいた。明日には、空を覆う雲はなくなるだろう。そして、何日かしたらやがて、一つの星が、瞬きだすだろう。〈了〉
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