セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

昏い星空

2016年02月10日 23時59分08秒 | 本編中
イザヤール様おかえりなさい企画大三弾。ゲーム本編中、ガナサダイ戦前くらい、イザヤール様が偽物の女神の果実を持ってガナサダイのところに向かっている直前の話。ゲルニック将軍がかなり黒いです(笑)が、ガナン帝国の人々はゴレオン将軍を除いてはイザヤール様の目論見をわかっていて敢えて放置しているイメージ。天使ごときを軽視しているというか。でも実はその天使の一人であるあの方のシナリオ通りに動いちゃってるんですよね~帝国の人々。ラフェット様とイザヤール様の会話場面は、またいつか改めて細かく書きたいです☆

 イザヤールは、ガナン帝国城に向かって飛んでいた。女神の果実の偽物を抱えて。偽物とはいえ、精巧に作り上げたそれらは、聖なる力も込めたので、袋の中からでも、清らかな星のような光を放っていた。
 帝国領が近付いてくるにつれて、禍々しい気配が強くなってくる。つい先ほどまで居た天使界は、荒れ果てているといえども、やはり清浄で穏やかな空気で、ずっと張り詰めていた心を鎮めてくれた。イザヤールは、自分を信じきっている天使たちの顔を思い浮かべ、悲しみの色を湛えたかすかな自嘲を浮かべた。
 上級天使イザヤールが、女神の果実を取り戻して帰還した。想定外の事件に対応できずうろたえるばかりだった天使たちにとって、それは大いなる希望の知らせだった。・・・だが、それは同じ天使であるミミを傷付けて奪った物だと知ったら、誰もあれほどはしゃいで出迎えなかっただろう。そうするしか、ミミの命を救い、他の囚われの仲間たちの命を守る術はなかったのだとしても。
 誰も、何も気付いていないようだった。だが、もしかしたら、ラフェットだけは、何か気付いたかもしれない。普通の、何気ない顔で言えただろうか。ミミに会ったら、代わりに謝っておいてくれという意味の言葉を・・・。ラフェットの表情は、いつもと変わらないように見えたけれども。ほんの少しだけ困ったような顔をして、『やだ、ミミとケンカでもしたの?伝言してやってもいいけど、高くつくわよ』と、言ってから、笑った・・・。
 ケンカどころではない。ミミは、師匠である自分に、瀕死の重症を負わせられたのだとラフェットに言ったら、あいつはどんな顔をしただろう。信頼していたであろう師に、体にも心にも、深い傷を与えられたのだと。そうしなければ、ミミも囚われたか、闇の竜に灰にされたと言ったところで、それが何の言い訳になるというのか。
「ミミ・・・」
 大切な弟子であり、密かに愛している少女の名を、イザヤールは口の中で呟いた。彼女が気絶する前にイザヤールを見上げた瞳は、いつもよりも更に濃い紫の陰影を描いていて、何故か責めるでも嘆くのでもなく、ただひたすら哀願に満ちているように見えた。それが何を意味するのか彼は知る由もなかったし、虫のいい錯覚だと思ってはいたけれど。
 ガナン帝国領に入る直前に、イザヤールは一度止まり、翼を羽ばたかせながら滞空した。ここから先は、いっそう僅かな判断ミスも許されない。帝国に潜入して、今までに集めた情報で、考えられること全て。それを最大限に活用しなくてはならない。囚われの天使たちは、閉ざされた扉の奥にある牢獄に閉じ込められていること、そして、その最深部には・・・。長い間その身を案じていた、師匠エルギオスが三百年もの間、囚われていること・・・。
 更にゲルニック将軍はイザヤールの思惑に気付いていて、敢えてイザヤールとガナサダイを対面させ、戦わせるつもりであることも、イザヤールにとっては好機だった。だからこそゲルニックは、イザヤールに監視付きとはいえある程度行動の自由も与え、天使界に戻ることも容認しているのだろう。
 ゲルニックの思惑としては、ガナサダイにイザヤールが完膚無きまでに叩きのめされた場合は、深い絶望に陥った彼を牢獄に繋ぎ、力を搾取する虜囚の一人に加えるつもりなのだろう。天使の絶望と憎悪が深いほど、搾取できる力は計り知れないものになるらしいから。また一方で、万が一イザヤールがガナサダイに勝った場合は、無傷では済まないイザヤールを今度はゲルニックが殺し、邪魔者を排除してゲルニックが皇帝の座に就く、というシナリオをおそらく考えている筈だった。どちらに転んでも損をしない策略を巡らすのはお手のものらしいと、長くない付き合いでも窺い知れた。
(だが、少なくとも、ガナン帝国の者の思惑通りには、決してさせない・・・!)
 双眸を鋭く光らせ、イザヤールは禍々しいバリアに覆われたガナン帝国城を見つめた。這いつくばってでも。相討ちになっても。ガナサダイを討ち果たし、仲間たちを、そして師匠エルギオスを、救い出してみせる。それが、誰から見ても限りなく無謀な願いだとしても・・・。
 帝国領に近付くに従って、夜空に輝く星の光は弱々しくなっていき、帝国領に入るとほぼ同時に、星空は分厚く昏い雲の向こうに隠れて見えなくなった。それでも、イザヤールは翼で空を切って、ためらうことなく進んでいった。〈了〉
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