天使界時代、今回も師匠のお部屋でちょっとのんびりお留守番だけど相変わらず切ない想いの弟子話。昨日アップのクエスト184以降カテゴリ「届けたいラブレター」とリンクしていますが、単独でも読めます。ドラクエの世界では紙がどれくらい貴重品かわかりませんが、あまり無駄に使ったりはしないイメージです。しかし、反古紙って言葉、今でもちゃんと通じるのかしら。
見習い天使ミミは、今日も師匠イザヤールの部屋で自習をしていた。課題が終わったら今日はもう自由時間で、ここに居る必要は全くなかったが、彼女はこの部屋に居ることが好きだった。
密かに想いを寄せる人の部屋だったから。それももちろんあるし、簡素すぎるくらいシンプルな部屋だが、弟子の為に用意された椅子も机も彼女に優しく、日当たりも良くて居心地がいい。
きちんと整頓されて掃除も行き届いているが、イザヤールの書きかけの書類がそのまま机の上にあったり、栞を挟んだ本が積んであったり(あれこれ調べものの途中なのだろう)、ソファーの上にはふわふわのクッション(ミミが贈った物だ)が無造作に載っていたりと、そこここに垣間見える部屋の主のぬくもりの気配が、辺りの雰囲気を優しくしている。
そしてその書類が載った机の隅には、透明なガラスでできたすっきりしたデザインのフラワーベースも載っていた。ミミが摘んできた花が一輪、飾られている。今日の花は、淡いクリーム色の地にほんの僅かに薄紅が差した、小さな薔薇だ。薔薇は、窓際で優しい陽光を浴びて、嬉しそうにいい香りをほんのりと放っている。
ミミは、守護天使を目指す天使の為の教本の一つ、「人間の陥りやすいトラブル」というタイトルの本を読んでいたが、やがてぱたんと本を閉じ、薔薇の花に関心を移した。長い睫毛に縁取られた濃い紫の瞳が、うっとりとした煌めきと陰影を増した。
少し首を傾け頬杖をついて、花を眺める様がとても愛らしい。綺麗な物、愛しい物を見つめる時の彼女は、いつもこのような感じだ。その愛らしさが、師に喜びと胸の疼きを同時に与えていることを、彼女は知らない。
それからミミは、煌めかせていた瞳を、憂いで僅かに暗くして、小さな溜息をついた。最近、友人が教えてくれた。ピンク色の薔薇は愛の希望を表し、白い薔薇は、望みなき愛を表すという。白地にほんの僅かだけ薄紅が差した薔薇は、今の彼女の想いを象徴するかのようで、ふいに胸が痛んだ。
伝えられない、伝えてはいけない、この想い。誰かに知られてしまったら、愛しい人の傍に居られなくなってしまう。
(イザヤール様はとっても困ってしまうだろうな・・・。弟子としか思っていない子に、片想いされていると知ったら。そうしたら、私はもう、イザヤール様の弟子ではいられなくなっちゃうんだ・・・)
そんなこと絶対嫌だから。だから、じっと心に閉じ込めている。けれど、たまに、閉じ込めた想いは、暴れだしてとんでもないことをしそうになる。そんなバクハツを、なだめるために。
(お手紙、書いてみようかな・・・)
貴方を尊敬し、お慕いしてます。貴方の幸せを、何よりも願っています。・・・差出人は、書かないで。
でも、実際は無理だよねそんなこと、と、ミミは寂しげに笑った。差出人のない手紙は、イザヤール様を余計に困惑させるだろう。どんなに変えたつもりでも、筆跡からわかってしまうかもしれない。
しばらく躊躇してからミミは、ペンを手に取った。そして、真っ黒に近い反古紙に、インクを付けないペン先で、先ほど思った文言を書いた。
貴方を尊敬し、お慕いしてます。貴方の幸せを、何よりも願っています。・・・愛しています。苦しすぎるくらい、強く。
記されない手紙。自分の心を、少しでもなだめるそのために。
それから、ペンにインクをつけて、普通の伝言用の用紙に、次のように記した。
『イザヤール様、おかえりなさい。今日もお務めお疲れさまです。
サイドテーブルの上に、殻を取ったクルミがあるので、よかったらお召し上がりください。
貴方を尊敬する弟子より』
書き終えて、立ち上がったときだった。
「ただいま、ミミ」
思ったより早く、イザヤールが帰ってきた。嬉しいのと驚いたので彼女は頬を紅潮させて、そして思わずどぎまぎして、反古紙の方を握りしめた。見えない恋文とわかっていても。
「おかえりなさい、イザヤール様」
イザヤールは笑って弟子の頭をなでてから、伝言用の紙をテーブルから取り上げて読んだ。『貴方を尊敬する弟子より』の箇所で、少しくすぐったそうな顔をした。
「ああ、すまないな、今帰ろうとしていたのだな。クルミはありがたく頂こう。行っていいぞ」
「いえ、飲み物のご用意をしてから行きます」
「いいのか?では急がないのなら、一緒に飲んでいきなさい」
「はいっ」
ミミはうきうきと飲み物の仕度を始めようとした。だが、その手に何か紙が握りしめられているのを見て、イザヤールは首を傾げて尋ねた。
「ミミ、それは?」
「え?・・・あっ、これは、その、焚き付けにしようと」
ミミが慌てふためく不審な様子を見て、彼は手を伸ばして、ひとこと命じた。
「見せなさい」
そして、僅かに震える手で差し出されたのが、本当に焚き付け用の反古紙だったので、彼は更に首を傾げた。それで何故こんなに慌てたのか、訳がわからない。
「どうしたんだ?」
「いえ・・・。もしかして、もしも大切な紙だったらどうしようと思って・・・」
「いや。大丈夫だぞ」
イザヤールが反古紙を返してくれたので、ミミは嘘をついたことに強く良心の呵責を覚えながら、それを受け取り、急いで火種にくっつけて焚き付けにした。
日は傾き始めていたので、暖かかった部屋も、そろそろ暖炉が必要になっていた。火がぱちぱちと薪をはぜさせて、やわらかな熱を放った。
「暖かいな」
嬉しそうに呟き、椅子に座るイザヤール。ミミもまたその様子を見て、幸せな気分で心が暖かくなった。
決して届かない恋文だったが、愛しい人を暖めてくれた。ミミは唇をほころばせて、焚き付けの燃え残りが、炎の中で羽のように舞うのを見つめた。〈了〉
見習い天使ミミは、今日も師匠イザヤールの部屋で自習をしていた。課題が終わったら今日はもう自由時間で、ここに居る必要は全くなかったが、彼女はこの部屋に居ることが好きだった。
密かに想いを寄せる人の部屋だったから。それももちろんあるし、簡素すぎるくらいシンプルな部屋だが、弟子の為に用意された椅子も机も彼女に優しく、日当たりも良くて居心地がいい。
きちんと整頓されて掃除も行き届いているが、イザヤールの書きかけの書類がそのまま机の上にあったり、栞を挟んだ本が積んであったり(あれこれ調べものの途中なのだろう)、ソファーの上にはふわふわのクッション(ミミが贈った物だ)が無造作に載っていたりと、そこここに垣間見える部屋の主のぬくもりの気配が、辺りの雰囲気を優しくしている。
そしてその書類が載った机の隅には、透明なガラスでできたすっきりしたデザインのフラワーベースも載っていた。ミミが摘んできた花が一輪、飾られている。今日の花は、淡いクリーム色の地にほんの僅かに薄紅が差した、小さな薔薇だ。薔薇は、窓際で優しい陽光を浴びて、嬉しそうにいい香りをほんのりと放っている。
ミミは、守護天使を目指す天使の為の教本の一つ、「人間の陥りやすいトラブル」というタイトルの本を読んでいたが、やがてぱたんと本を閉じ、薔薇の花に関心を移した。長い睫毛に縁取られた濃い紫の瞳が、うっとりとした煌めきと陰影を増した。
少し首を傾け頬杖をついて、花を眺める様がとても愛らしい。綺麗な物、愛しい物を見つめる時の彼女は、いつもこのような感じだ。その愛らしさが、師に喜びと胸の疼きを同時に与えていることを、彼女は知らない。
それからミミは、煌めかせていた瞳を、憂いで僅かに暗くして、小さな溜息をついた。最近、友人が教えてくれた。ピンク色の薔薇は愛の希望を表し、白い薔薇は、望みなき愛を表すという。白地にほんの僅かだけ薄紅が差した薔薇は、今の彼女の想いを象徴するかのようで、ふいに胸が痛んだ。
伝えられない、伝えてはいけない、この想い。誰かに知られてしまったら、愛しい人の傍に居られなくなってしまう。
(イザヤール様はとっても困ってしまうだろうな・・・。弟子としか思っていない子に、片想いされていると知ったら。そうしたら、私はもう、イザヤール様の弟子ではいられなくなっちゃうんだ・・・)
そんなこと絶対嫌だから。だから、じっと心に閉じ込めている。けれど、たまに、閉じ込めた想いは、暴れだしてとんでもないことをしそうになる。そんなバクハツを、なだめるために。
(お手紙、書いてみようかな・・・)
貴方を尊敬し、お慕いしてます。貴方の幸せを、何よりも願っています。・・・差出人は、書かないで。
でも、実際は無理だよねそんなこと、と、ミミは寂しげに笑った。差出人のない手紙は、イザヤール様を余計に困惑させるだろう。どんなに変えたつもりでも、筆跡からわかってしまうかもしれない。
しばらく躊躇してからミミは、ペンを手に取った。そして、真っ黒に近い反古紙に、インクを付けないペン先で、先ほど思った文言を書いた。
貴方を尊敬し、お慕いしてます。貴方の幸せを、何よりも願っています。・・・愛しています。苦しすぎるくらい、強く。
記されない手紙。自分の心を、少しでもなだめるそのために。
それから、ペンにインクをつけて、普通の伝言用の用紙に、次のように記した。
『イザヤール様、おかえりなさい。今日もお務めお疲れさまです。
サイドテーブルの上に、殻を取ったクルミがあるので、よかったらお召し上がりください。
貴方を尊敬する弟子より』
書き終えて、立ち上がったときだった。
「ただいま、ミミ」
思ったより早く、イザヤールが帰ってきた。嬉しいのと驚いたので彼女は頬を紅潮させて、そして思わずどぎまぎして、反古紙の方を握りしめた。見えない恋文とわかっていても。
「おかえりなさい、イザヤール様」
イザヤールは笑って弟子の頭をなでてから、伝言用の紙をテーブルから取り上げて読んだ。『貴方を尊敬する弟子より』の箇所で、少しくすぐったそうな顔をした。
「ああ、すまないな、今帰ろうとしていたのだな。クルミはありがたく頂こう。行っていいぞ」
「いえ、飲み物のご用意をしてから行きます」
「いいのか?では急がないのなら、一緒に飲んでいきなさい」
「はいっ」
ミミはうきうきと飲み物の仕度を始めようとした。だが、その手に何か紙が握りしめられているのを見て、イザヤールは首を傾げて尋ねた。
「ミミ、それは?」
「え?・・・あっ、これは、その、焚き付けにしようと」
ミミが慌てふためく不審な様子を見て、彼は手を伸ばして、ひとこと命じた。
「見せなさい」
そして、僅かに震える手で差し出されたのが、本当に焚き付け用の反古紙だったので、彼は更に首を傾げた。それで何故こんなに慌てたのか、訳がわからない。
「どうしたんだ?」
「いえ・・・。もしかして、もしも大切な紙だったらどうしようと思って・・・」
「いや。大丈夫だぞ」
イザヤールが反古紙を返してくれたので、ミミは嘘をついたことに強く良心の呵責を覚えながら、それを受け取り、急いで火種にくっつけて焚き付けにした。
日は傾き始めていたので、暖かかった部屋も、そろそろ暖炉が必要になっていた。火がぱちぱちと薪をはぜさせて、やわらかな熱を放った。
「暖かいな」
嬉しそうに呟き、椅子に座るイザヤール。ミミもまたその様子を見て、幸せな気分で心が暖かくなった。
決して届かない恋文だったが、愛しい人を暖めてくれた。ミミは唇をほころばせて、焚き付けの燃え残りが、炎の中で羽のように舞うのを見つめた。〈了〉
(´∀`人)
でも同じ花でも、国や花の特質によって、全然違う花言葉になるんですよね
実際にピンクの薔薇は『感銘』、『温かい心』、『美しい少女』、『上品』
白薔薇には『私はあなたにふさわしい』、『尊敬』、『恋の吐息』、『純潔』等の花言葉がつけられていますし
伝えられない恋って辛いですよね・・・
やっぱりためているのが・・・
ミミちゃんインクをつけずに紙に書いたというのが可愛らしい(*^^*)
私の女主は辛くなったら、踊るのが得意なので湖で恋をしている女性をイメージした踊りを一人で踊って、でもイザヤール様は実は女主が踊っていたのをこっそり木陰からみていてイザヤール様も心が痛むという・・・
いろいろややこしいんですが・・・(;_;)
おはようございます☆女主の心情何とか読者様に伝わって嬉しいです♪
想いの籠る火なので当社比何パーセントか暖かいかもです(笑)
ほほう~、花言葉って、色に注目するか性質に注目するかでも意味が全然違ってくるんですね~☆
そして同じ色でもそのイメージがまたいろいろということなのですね☆奥深いなあ♪
おはようございます☆う、美しいですか?///よかった~♪
時代が変わっても、秘めた恋はまだまだ乙女心に響くらしいことに安堵している津久井です(笑)
そちらのシチュエーション、ステキですね~☆切ない想いを秘めて踊る女主さん、彼女をこっそり見つめていて、切ない想いを抱くイザヤール様、そして互いにそれを知らない・・・絵になりますね♪
携帯もメールもなかったころ、思いを伝えるどころか独り口にすることさえできずに、捨てるとわかっていて書くラヴレターというものがありましたね…。
切ないです。そして、なんというミミさんの可憐さ…!
こんばんは☆このシチュエーションありでよかった~♪書いてよかった~♪
女主可憐ともおっしゃって頂き、更にはしゃぐ津久井wありがとうございます☆
ヨルダ様のコメントで、かつては届くことがない手紙がたくさんあったように、今は送信されない告白メールが密かにたくさんあるのかな?などと夢想してしまいました☆
切なさの中身はいつの世も共通、だといいなあ、なんて///
すみません、以下ちょい私信です↓
例のもの、遅れてて申し訳ございませんっ!1月中には必ず☆