本日も更新ギリギリ、原稿修羅場の間はあんまりお話書いちゃアカンと自粛してましたが、ガマンするとかえってガマンできなくなり(なんのこっちゃ)書いてしまいました。なんてことない秋の一幕。またベレンの岸辺ですが、場所というよりまだらイチョウを出したかった為です(笑)
木々の葉が美しく色付く季節がやってくると、冬ももうすぐそこだ。ミミは鮮やかに色付いた美しい葉ももちろん好きだったが、冬の直前の、足元で音楽のような音を立てる枯葉の色も好きだった。愛しい人が、「晩秋の木の葉の色」と言って優しくなでてくれる時間を思い出して、幸せな気分になるからだ。
そんな晩秋の木の葉色の艶やかな髪を陽光に煌めかせて、ミミはベレンの岸辺の近くの森を歩いていた。船着き場で待ち合わせをしていたが早く着きすぎたので、滝まで散歩をしようと考えたのだ。
ステルスこそ使わないが、彼女は気配をほとんど出さずに静かに歩いた。それでもブーツの下で、時折落ち葉が乾いた音を立てて、川の流れの伴奏に加わる。
一本の木の側でミミは歩みを止めた。梢を見上げてから、根元に視線を移した。胡桃の木を見つけたのだ。落ちていた細枝を使って外皮を取り除き、拾い集めては袋に入れた。なかなか大粒でいい胡桃だ。栗鼠たちが食事抜きにならないよう、ほどほどでやめておく。
ウォルロでは、森の精霊の為に、木の実は全部取らないで少し残しておくことになってるの、そうリッカが言ってたっけ。ミミは思った。精霊にでも妖精たちにでも動物たちにでも、「他の誰かの為に」全部は取らないで残しておく、という考え方が、ミミはとても好きだった。
木々の隙間から、ちょっと離れたところを「まだらイチョウ」が歩いていた。散歩を楽しんでいるところらしい。
『散歩のジャマをする悪い旅人は許さないぞ!』
モンスター図鑑のまだらイチョウの項目二ページ目に記載されている彼らのそんなセリフを思い出して、ミミは声を殺して笑った。まだらイチョウが旅人に襲いかかってくるのは散歩の邪魔をされたと勘違いするからだ、と知ってから、ほんのちょっと彼らに親しみを感じている。これもサバイバルスキルの「みやぶる」を身に付けていたおかげだ。一人旅をしていた時は、仲間を呼びまくる彼らにずいぶん苦戦したものだが。
彼もしくは彼女の楽しい散歩の邪魔をしないよう、ミミは足音を忍ばせてその場を離れた。
ミミが立ち去る数分前。森の中を散歩していたまだらイチョウは、木々の間から、胡桃拾いをしている人間の娘を見かけた。
一瞬散歩の邪魔をしにきたのかと身構えたが、彼女はこっちに来る様子がないのと、着ている物が周囲に溶け込んでいて森の景観を損ねないので(暖かそうな帽子にキルトとブーツを身に付けていた)、まあ勘弁してやることにした。・・・彼女のレベルがとても高いというのが最大の理由だということは知らないふりをしていたが。
つやつやした木の実のように美しい髪を垂れ、頬を淡い薔薇色に染めて胡桃集めをしている彼女はまあ人間としてはなかなか可愛らしかったが、やはり人間は厚みがありすぎてダメだなあ、とまだらイチョウは思った。もっとぺらぺらひらひらしてないと。
やがて娘は、胡桃拾いをやめてこっちの方を見たので、まだらイチョウは若干慌てて散歩を再開した。そして彼女がそっとその場から離れていったので、ほっとしてスキップした。
ミミは船着き場に戻ってきて、待ち人であるイザヤールがまだ着いていなかったので、待たせなくてよかったと思う反面、早く会いたいなとちょっぴり切ない溜息をついた。だがその吐息とほぼ同時に、ツォの浜の方からやってくる船が見えた。
桟橋の端に駆け寄ると、待ち焦がれた人が甲板に居るのが見え、向こうでも彼女に気が付いて、手をやや大きく振った。
それから間もなく二人は、桟橋の上で無事再会し、幸せな微笑みを交わし、待ったか?今来たところ、とお約束の会話を交わし、宿屋に入った。
食事を終えて一息つくと、イザヤールは「きよめの水」を取りに行く為に滝に行きたいと希望した。
「『あまつゆのいと』が少々必要になった」
「何に使うんですか?」
「しばらく内緒だ」
「イザヤール様の内緒っていいことばかりだから好き」
「そうか?ありがとう」
「私も一緒に滝に行っていい?」
「もちろん」
森の中をまた抜けていくと、途中でイザヤールはふと足を止め、身を屈めて何かを拾った。
「胡桃もいいが、おまえはこれも好きだろう」
彼の手のひらに、美しく紅葉した葉が何枚か載っている。紅や黄色が入り交じり、炎のようだ。
「綺麗♪」
ミミは嬉しくなって花開くような微笑みを浮かべたが、その葉をイザヤールが、彼女のぬくもりのシャプカに羽飾りのように器用にピンで留めてくれたことで、更に笑顔になったのだった。
そんなところに、先ほどのまだらイチョウが遭遇しそうになったが、彼はそっと進行方向を変えた。今度はレベルを恐れたわけではなかった。
「別におまえらに気を使って、気を利かせて方向変えたんじゃないんだかんな、たまたま気が変わっただけだかんな」
まだらイチョウはぶっきらぼうに呟いたが、その一つ目は何だか暖かい眼差しを浮かべていた。〈了〉
木々の葉が美しく色付く季節がやってくると、冬ももうすぐそこだ。ミミは鮮やかに色付いた美しい葉ももちろん好きだったが、冬の直前の、足元で音楽のような音を立てる枯葉の色も好きだった。愛しい人が、「晩秋の木の葉の色」と言って優しくなでてくれる時間を思い出して、幸せな気分になるからだ。
そんな晩秋の木の葉色の艶やかな髪を陽光に煌めかせて、ミミはベレンの岸辺の近くの森を歩いていた。船着き場で待ち合わせをしていたが早く着きすぎたので、滝まで散歩をしようと考えたのだ。
ステルスこそ使わないが、彼女は気配をほとんど出さずに静かに歩いた。それでもブーツの下で、時折落ち葉が乾いた音を立てて、川の流れの伴奏に加わる。
一本の木の側でミミは歩みを止めた。梢を見上げてから、根元に視線を移した。胡桃の木を見つけたのだ。落ちていた細枝を使って外皮を取り除き、拾い集めては袋に入れた。なかなか大粒でいい胡桃だ。栗鼠たちが食事抜きにならないよう、ほどほどでやめておく。
ウォルロでは、森の精霊の為に、木の実は全部取らないで少し残しておくことになってるの、そうリッカが言ってたっけ。ミミは思った。精霊にでも妖精たちにでも動物たちにでも、「他の誰かの為に」全部は取らないで残しておく、という考え方が、ミミはとても好きだった。
木々の隙間から、ちょっと離れたところを「まだらイチョウ」が歩いていた。散歩を楽しんでいるところらしい。
『散歩のジャマをする悪い旅人は許さないぞ!』
モンスター図鑑のまだらイチョウの項目二ページ目に記載されている彼らのそんなセリフを思い出して、ミミは声を殺して笑った。まだらイチョウが旅人に襲いかかってくるのは散歩の邪魔をされたと勘違いするからだ、と知ってから、ほんのちょっと彼らに親しみを感じている。これもサバイバルスキルの「みやぶる」を身に付けていたおかげだ。一人旅をしていた時は、仲間を呼びまくる彼らにずいぶん苦戦したものだが。
彼もしくは彼女の楽しい散歩の邪魔をしないよう、ミミは足音を忍ばせてその場を離れた。
ミミが立ち去る数分前。森の中を散歩していたまだらイチョウは、木々の間から、胡桃拾いをしている人間の娘を見かけた。
一瞬散歩の邪魔をしにきたのかと身構えたが、彼女はこっちに来る様子がないのと、着ている物が周囲に溶け込んでいて森の景観を損ねないので(暖かそうな帽子にキルトとブーツを身に付けていた)、まあ勘弁してやることにした。・・・彼女のレベルがとても高いというのが最大の理由だということは知らないふりをしていたが。
つやつやした木の実のように美しい髪を垂れ、頬を淡い薔薇色に染めて胡桃集めをしている彼女はまあ人間としてはなかなか可愛らしかったが、やはり人間は厚みがありすぎてダメだなあ、とまだらイチョウは思った。もっとぺらぺらひらひらしてないと。
やがて娘は、胡桃拾いをやめてこっちの方を見たので、まだらイチョウは若干慌てて散歩を再開した。そして彼女がそっとその場から離れていったので、ほっとしてスキップした。
ミミは船着き場に戻ってきて、待ち人であるイザヤールがまだ着いていなかったので、待たせなくてよかったと思う反面、早く会いたいなとちょっぴり切ない溜息をついた。だがその吐息とほぼ同時に、ツォの浜の方からやってくる船が見えた。
桟橋の端に駆け寄ると、待ち焦がれた人が甲板に居るのが見え、向こうでも彼女に気が付いて、手をやや大きく振った。
それから間もなく二人は、桟橋の上で無事再会し、幸せな微笑みを交わし、待ったか?今来たところ、とお約束の会話を交わし、宿屋に入った。
食事を終えて一息つくと、イザヤールは「きよめの水」を取りに行く為に滝に行きたいと希望した。
「『あまつゆのいと』が少々必要になった」
「何に使うんですか?」
「しばらく内緒だ」
「イザヤール様の内緒っていいことばかりだから好き」
「そうか?ありがとう」
「私も一緒に滝に行っていい?」
「もちろん」
森の中をまた抜けていくと、途中でイザヤールはふと足を止め、身を屈めて何かを拾った。
「胡桃もいいが、おまえはこれも好きだろう」
彼の手のひらに、美しく紅葉した葉が何枚か載っている。紅や黄色が入り交じり、炎のようだ。
「綺麗♪」
ミミは嬉しくなって花開くような微笑みを浮かべたが、その葉をイザヤールが、彼女のぬくもりのシャプカに羽飾りのように器用にピンで留めてくれたことで、更に笑顔になったのだった。
そんなところに、先ほどのまだらイチョウが遭遇しそうになったが、彼はそっと進行方向を変えた。今度はレベルを恐れたわけではなかった。
「別におまえらに気を使って、気を利かせて方向変えたんじゃないんだかんな、たまたま気が変わっただけだかんな」
まだらイチョウはぶっきらぼうに呟いたが、その一つ目は何だか暖かい眼差しを浮かべていた。〈了〉
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