セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

永い渇き(後編)

2014年04月06日 02時06分41秒 | クエスト184以降
追加クエストもどき後編です。今日も丑三つ時更新になってしまいました、すみません。前回のあらすじ、妄執の為に魔物となってしまった魂を討ちに行くミミたちだったが・・・。デスタランチュラの話は確か以前やりましたが、何故あとエビルフレイムかと言うと、エビルフレイムは恨みを持った魂の化身の為、デスタランチュラは愛する者にふりむかれず死んだ男の化身の為です(モンスター図鑑参照)。また、既読感満載ですみませんが、イザヤール様憑かれかけ話(笑)でもあります。

 デスタランチュラの背にある蒼白い顔の虚ろな目は、ミミの着けている腕輪に向けられている。ルイーダもロクサーヌもその顔に気付いて、目を見開き身構えた。
『何故、ダ・・・コンナニ、愛シテ、イルノニ・・・』
 化け蜘蛛が、常なら出さない筈の、人の言葉を発した。その声は、怨みでも怒りでもなく、ただひたすら虚ろで、悲しげだった。だが声とは裏腹に、糸の攻撃は猛烈にミミに向かって襲いかかってくる。デスタランチュラとミミの間に立ちはだかっているイザヤールは、ひたすら剣を振るって糸を断ち切り続けた。
 焦がれる女性の身に着けていた装飾品にさえここまで執着する念の凄まじさに、ミミは思わず身震いしたが、それと同時に悲しみも覚えた。彼は何をどこで間違えて、こんなことになってしまったのだろうと。
 デスタランチュラが糸をまた新たな糸を吐き出す前にイザヤールは剣を下段に構え、ギガスラッシュを放った!閃光と電撃がちょうど蒼白い人面の部分を斬り裂き、デスタランチュラの絶叫が響き渡った。
 ミミも、すくみそうになるのを堪えて駆け寄り、イザヤールに引き続きギガスラッシュを放った。この腕輪を着けていると、依頼人の味わった恐怖や絶望感が伝わってくるようで、心なしかいつもより動けていない気がする。そんな弱気を気のせいだと捩じ伏せ、渾身の力で剣を振るい、連続攻撃で大ダメージを与えた。
 その直後のルイーダのキラーブーンがとどめとなり、このデスタランチュラは崩れ去り消えた。
 それから九匹、蒼白い人面を持つデスタランチュラが現れ続けた。それらのどれもが、何故と言い、ミミの着けている腕輪に向かって愛シテイルノニと訴え続けた。愛しているという言葉は、とてもいいものなのに、ミミは思った。愛している「のに」だと、どうしてこんなに哀しい言葉となってしまうのだろう・・・。
 人面を背に持つデスタランチュラを計十匹倒すと、ミミが依頼人の腕輪をしていても、もはやデスタランチュラは寄って来なくなった。この洞窟の魂のカケラは、いなくなったらしい。ミミたちは続いて、エビルフレイムの居る洞窟に向かうことにした。

 エビルフレイムの居る洞窟は、いつもにも増して灼熱感を帯びていて、心まで渇きを覚えさせる程だった。それは、欲しいものを切望して得られない飢餓感と渇きを思わせた。
 最下層の方に向けて進んで行くと、やがてミミの着けている腕輪に引き寄せられるように、一匹、また一匹と、エビルフレイムたちが集まってきた。このエビルフレイムたちも、常のものとは違っていた。揺れ動く不定形な炎のようなその体に、時折男の顔のような影が消えたり現れたりし、気味悪さを増していた。
 ミミたちはアイスフォースを使い、マヒャデドスや氷結らんげきで攻撃を開始したが、アイスフォースは炎から受けるこちらのダメージも大きくなる。先ほどのデスタランチュラと違い、何体もがまとまって攻撃を仕掛けてくるので、更なる苦戦を強いられた。
 そんな中、エビルフレイムのうちの一匹が、やけつくいきを吐いた。体の水分を全て奪っていくような凄まじい吐息で、口も目もからからに乾き、身動きが取れなくなる。イザヤールが、痺れて動けなくなってしまった!そこへ一匹のエビルフレイムがゆらりと近付き、彼を取り込むように包んだ。
 エビルフレイムに包み込まれて、炎の熱さよりも、強烈な飢渇感をイザヤールは感じた。しかもそれは、体のものというより、情動に直結するものだった。心が満たされない、砂漠の砂がいくら水を吸ってもたちまち乾くような強烈な飢渇が流れ込み、否応なしに共有させられる。取り憑かれかけていると知っていても、麻痺した体も精神も、思うようにならない。
『欲シイ、渇ク、欲シイ、渇ク・・・』
 悪夢の呪文のように、エビルフレイムがイザヤールの耳元で囁いた。その囁きが呼び覚ます愛しい者への独占欲、情欲、そして嗜虐が、脳内で荒れ狂いそうな錯覚を覚え、彼はぎりりと歯を食い縛った。己もまた、増幅させられた本能のままに従ってしまえば、愛する者を壊してしまう魔物に成り果てるのだと、思い知らされた。
 だが、そんな彼を助けようと、ミミが駆け寄ってくる。来るなと叫びたいが、唇も舌もからからで、声が出ない。来るな、壊してしまう、私は、そんなことを望んでいない。究極の独占は、自らの手で破壊することだという理屈は、破壊神の理屈であり、そしてそれは誤りだ。壊してしまえば、それは他の誰も手に入れられなくなる代わりに、自らの手も永久に届かないところに行ってしまうだけなのだから。だから、来るなと、イザヤールは心の中で必死に叫び続けた。
 しかし、ミミは傍らにやってきて、彼の手を握り、そして・・・

 優しく、微笑んだ。大丈夫だと、言うかのように。

 荒れ狂う諸々のものが、その微笑みに癒されるように鎮まっていく。そうだ、と、イザヤールは思った。この微笑みも限りなく愛しいから。守りたいから。彼女がいつも幸せそうに微笑んでくれていてほしいから。・・・だから、壊したりしないし、悲しませるようなことをしない。それは、全ての欲望と等しいか、それ以上の望みだ・・・。
 イザヤールが微笑みを返そうとすると同時に、ミミがつきのめぐみを使ってくれて、彼の体は瞬く間に自由に動けるようになった。そしてミミに優しく微笑み返すイザヤールに、包み込むようにしていたエビルフレイムは動揺し、離れ、攻撃もやめて呆然とし、やがて呟いた。
『そうだ・・・。ただ、微笑んで傍らに居てほしかった、それだけだったのに・・・』
 涙を流さない筈の炎の魔物の目から、ぽたりぽたりと涙が落ちていく。
『彼女には、いつも笑っていてほしかったのに・・・あの可愛い笑顔を、独り占めしたくなって、それから悲しい顔も、心も、体も、全部欲しくなって、けれど心は手に入らなくて・・・。愛されないなら、誰よりも憎まれる存在になる方がましだと、彼女を苦しめ、共に堕ちようと・・・そして狂気へ・・・』
 エビルフレイムの目から落ちる涙は、彼の自らの炎を消していき、ゆらめく炎の体が、小さくなっていく。
『いつの間にか忘れてしまっていた・・・幸せそうに微笑んで傍に居てほしいということ・・・忘れてしまっていたんだ・・・』
 エビルフレイムは、自らの流す涙でついに消えてしまった。一匹が消えると同時に、他のエビルフレイムたちも姿を消し、そこには代わりに、傲慢さはいくらかあるがとても美しい顔の青年の幽霊が立っていた。その傲慢さも、今はすっかり和らいでいる。
『天使たちよ、頼みがある』彼はミミとイザヤールに言った。『私はもう一度エビルフレイムに姿を変える。そうしたらとどめをさしてほしい。魔物としての命の死を以て、ようやく安らぎを得られるのだから』
 ミミとイザヤールは頷いた。
『私は彼女を妻にし、傍らに居てほしかった。だが、身分差を理由に、周囲にも彼女自身にも拒まれ、届かない想いはやがて、恨みへと変わり、一番愛している筈のひとを苦しめ抜いた。彼女の微笑みどころか傍らからすら失ったとき、私は・・・自分自身を、壊して、彼女との間を引き裂いた、周りの者たちを・・・』彼は、一瞬だけ旧家の貴族らしいどこか傲岸な笑みを浮かべ、首を振って続けた。『・・・いや、今さら言っても、仕方ないことだな。地獄でにせよどこにせよ、黙って神の裁きを受けるとしよう。では、頼んだぞ』
 言い終わるや否や青年の幽霊は再びエビルフレイムに姿を変え、頼まれた通り、ミミとイザヤールは一思いにとどめをさした。

 ルイーダとロクサーヌにはもちろん幽霊の姿は見えない為、二人から見ればエビルフレイムが泣いたりいきなり消えたりまた現れたりしたようにしか見えなかった。
「ねえ・・・いったいなんだったわけ?」とルイーダ。
「うふふ、もしかして、またお二人の愛のチカラで解決でいらっしゃいまして?」とロクサーヌ。
 そこでミミとイザヤールは、天使云々等の差し支えある以外の起こったことを説明した。
「ミミの微笑みで私は助けられたし、彼も結果的に狂気と妄執から解放されたから、やはり愛のチカラかもな」
「私じゃなくて、イザヤール様が頑張ってくれたから・・・」
「あ~はいはい、二人の愛のチカラってことでいいわよ」ルイーダはからかう為のシラケ顔で言ってから、真顔になって少し憂いを浮かべて言った。「元々、精神の均衡を失いやすいタイプだったのかもね、その貴族って。それに、欲しい物はなんでも手に入る身の上だったわけでしょ。そういう人が、唯一手に入らないものに巡り会えば、普通の人以上に執着するわけだわ。・・・まあどんな事情であれ、許されないことをしたという事実は変わらないけれど」
 それから一同はダンジョンを出て、ルイーダとロクサーヌはひと足先にセントシュタインに帰り、ミミとイザヤールは依頼人の待つグビアナ砂漠の墓に向かった。
 ミミとイザヤールから起こった出来事を聞いて、依頼人である女性の幽霊は、静かに頷いた。
『ご主人様の永い苦しみを終わらせてくださって、ありがとうございます。これで私も、ようやく安らかに眠ることができます』そして彼女は、静かに涙も落とした。『私が・・・ご主人様の想いに応えることができていれば、こんなことには・・・。いえせめて、ご主人様の本当の願いを思いやることができていたら。私の微笑みを・・・愛してくださっていたなんて・・・そうとわかっていたら・・・どんなに辛くても、逃げ出したりなんか、しなかったのに・・・』
「もう自分を責めないでください。心というものは、どうにもできないものだもの」
 ミミが言うと、彼女は頷いた。
『はい。・・・私も、もう誰からも逃げないで・・・。きちんと神様の裁きも、受けようと思います』
 そして彼女は、深々とお辞儀をして、ゆっくりと光状になって消えていった。後には、銀製の腕輪だけが残された。ミミは腕輪を拾い上げ、祈った。イザヤールは空を見上げ、やがてぽつりと呟いた。
「今回のことで、またエルギオス様のことを、思い出した」
「私も・・・」
 ミミも答えて、そっとイザヤールの手に己の手を重ねる。みんながみんな、想う人に想われたら、どんなにいいだろう。それとも、それで不幸が解決すると思うのは、錯覚なのだろうか。人の心とは、どうして思うようにならないのだろう。
 そんなすれ違いだらけの世界で、想いが通じ合ったことは、やはり奇跡なのだと、二人は互いにそっと身を寄せた。〈了〉
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