クエストなのかかなり怪しい追加クエストもどきw珍しく?女主モテ話でどちらかと言えばイザヤール様が受けたクエストかも?今回の依頼人みたいなロマンチストって居るのか甚だ怪しいですが、ネットオンリー恋愛もあるご時世、案外あり得るのかもしれませんね。
ハロウィンが近付いてくるにつれて、セントシュタインの城下町でも、パンプキンヘッドをかぶった店員や可愛らしい魔女の格好をした店員が、あちこちに出現し始めている。リッカの宿屋でも、ディスプレイやロクサーヌの店の商品はハロウィン仕様となり、スタッフ全員で魔女の格好をすることも検討したが、結局仮装はハロウィン当日のお楽しみにすることにして、みんなの服装はいつも通りだった。
ただしミミは、パンプキンヘッドをかぶってやみのころもなど黒いマントを装備し、リッカの宿屋のハロウィンイベントのお知らせのビラを配ったりしていた。今日もリッカに頼まれて、城下町の中央広場周辺に来て配り始めた。周囲にも、やはりパンプキンヘッドをかぶった他の店の臨時雇いや見習いらしい店員たちがかなりの人数居て、せっせと呼び込みやビラ配りをしている。
そこへ、一人の旅人らしい若者が歩いてきた。辺りをきょろきょろ物珍しげに見回す様子からして、おそらくセントシュタインを訪れるのは初めてなのだろう。次々にビラをもらったり、呼び込みをされたりして、賑やかさに戸惑っているようだ。
彼は、ミミの差し出すビラを無造作にひったくるように取った。乱暴者というよりせっかちなのだろう。その拍子に、ミミの着けていた「やみわだのミトン」ごとビラを引っ張ってしまって、ミトンが脱げてしまった。若者に悪気はなかったらしく、彼は動揺し、もらったビラをばらまいてしまいあたふたしたので、ミミはしゃがんでそれらを拾い集めてあげた。
「す、すみません。ありがとうございます」
若者はまだ慌てながらミトンをミミに返し、ビラの束を受け取った。
「いいえ」
ミミが怒っていないことを示す為に優しく返事をすると、若者は何故かまた動揺したかのように固まって彼女をじっと見つめた。しかしミミがパンプキンヘッドの頭を傾けて首を傾げると、彼はみるみる真っ赤になって、走り去ってしまった。
私、何か変なことしたのかな?ミミは困惑しながら、やみわだのミトンを装備し直した。
その夜。ルイーダに頼まれたイザヤールが酒場の店番をしていると、一人の客がやって来て、カウンター席に座った。見ない顔だから、おそらく今日初めてセントシュタインに来た旅人なのだろう。まだ若く、そして不注意なのか慌て者なのか、座る際に椅子をひっくり返したりと落ち着きが無い。
客はとりあえず注文した酒を飲み干すと、イザヤールにおずおずと尋ねた。
「あの・・・この町で、人を探したい時は、どうしたらいいんだろうね?」
「それなら、ここの酒場の女主人ルイーダに聞くのが手っ取り早いと思うが。彼女は今少々外しているが、そろそろ戻る頃だ」
イザヤールが答えると、客の若者は、困ったような笑みを浮かべて言った。
「そうか、女主人さんなのか、ここの酒場は。じゃあキミは、従業員?」
「従業員という訳ではないが、世話になっているので、ときどき手伝っている」
「そうか、それなら、キミにお願いしたいな。男にならこの気持ち、わかってもらえると思うんだけど、女の人にこんな話をすると、笑われる気がするから」
「私でできることなら力は貸すが、冒険者やこの町の住人に詳しいのは、ルイーダだから、人探しなら彼女に相談した方が早そうだがなあ・・・」
イザヤールが少々困惑して若者に言うと、彼はもじもじしながら答えた。
「まあそう言わずに、聞いてよ。・・・ボクは、この町に来るのが今日初めてで、賑やかさにすごいびっくりしたんだけど、城下町歩いてたらほら、こんなにビラもらっちゃったしさ」
若者は何枚ものビラの束を取り出し、カウンターの上に置いた。イザヤールは、ビラが相談ごととどう繋がるのかわからなかったが、口を挟まず耳を傾けた。
「ビラを配ってる人、何人もハロウィンのかぼちゃ、なんていったかなあアレ、とにかくあのかぶり物しててマントにすっぽりくるまっててさ。ボク、そのうちの一人からビラを貰ったとき、うっかり彼女の手袋ごとビラを取っちゃって」
「彼女?」
パンプキンヘッドをかぶってマントにくるまっていた相手の性別をどうしてわかったのだろうとイザヤールが首を傾げると、若者は更にもじもじしながら言った。
「手袋が脱げて出てきた手がさあ・・・白くて小さくて、指もすらっと細っこくて、爪なんかピンクのサンゴみたいにつやつやしてキレイでさあ・・・すっごいキレイな手だなあ、って思ってぼーっとしてたらボク、もらったビラを落としちゃって。そしたらその子、しゃがんで拾ってくれて、ボクが謝罪とお礼言ったら『いいえ』って言ってくれて、その声で完全に女の子ってわかったんだけど、その声もめちゃくちゃキレイでカワイくてー!」
「なるほど」
「ドキドキしちゃってボク、思わずその場から逃げ出しちゃってさあ。後になって冷静に考えたら、どうして名前聞かなかったんだろうとか、せめてどこの店なのか聞けばよかったってものすごく後悔して、探したいって思ったのさ。・・・ね?こんな話、女性に話したら笑われそうじゃない?」
「なるほど」
イザヤールは他人に余計な感想や口出しをしない主義だし、ポーカーフェイスが得意だ。今の彼の表情も、感情を特に何も表していなかった。
「キミもおかしいって思う?手と声しかわからない女の子が、気になるなんて」
「よほど綺麗な手と声だったのだろうな。・・・ただ、水を差すようで悪いが、実際に顔を見てみたらイメージとだいぶ違う、というのは充分あり得るぞ」
「いやいやいや!あんなにキレイな手と声なら、絶対すっごいカワイイって!間違いないよ!」
「はあ・・・。まあ、そう考える気持ちは、わからなくもないが・・・。しかし、それではつまり、顔もわからない人を探したいということか?」
「そうなんだよ」
「探してどうする?」
「告る!」
「・・・気が早い気もするが・・・」
「でも、見つかるかなあ・・・」
「ビラはもらったのだろう?それが手がかりになるのでは」
「いや、それがさあ・・・動揺してばらまいちゃったから、もらった順番わからなくなって、どのパンプキンからもらったビラか全然わからなくてさ」
「ビラの店一軒一軒あたれば良さそうなものだが」
「ボク、この町に来るのが初めてだから、どうも勝手がわからなくて」
「まあそうだろうな。では、拝見するぞ」
イザヤールはカウンターに置かれたビラをめくって、武器屋よろず屋菓子店その他に混じって、リッカの宿屋のイベント情報のビラもあることに気付いて、眉を片方僅かに上げた。・・・リッカの宿屋でビラ配りをするのはミミくらいだ。と、いうことは、その場にミミも居たかもしれない。何か知っているか、聞いてみるか・・・それにしても、何だか少々嫌な予感がするのは気のせいだろうか・・・。
リッカの宿屋のビラを若者も見て、彼は陽気に言った。
「そうそう、このビラ見て、この宿屋に泊まろうって思ったんだ。あ、もしかして、これ配ってたスタッフさんに話を聞く方向?それなら、ほんとの理由知られるとちょっと恥ずかしいんで、探してる人のかぶってるパンプキンなアレがすごい気になるから探してる、ってことにしてもらっていいかな?頼むよ」
イザヤールは承知して、ルイーダが戻るとすぐに、自室に戻ってミミに話を聞いてみることにした。
イザヤールが自室に戻ると、ミミはちょうど湯上がり直後だったらしく、お気に入りの暖炉の前の大きなクッションにくるまれるように座っていた。彼女はタオルで髪を優しく拭いていたが、彼の姿を見ると瞳を輝かせて立ち上がり、歩み寄ってきて抱きつき、囁いた。
「おかえりなさい、イザヤール様」
「ただいま、ミミ」
彼は愛しさを込めてミミを抱きしめたが、ふと彼女の手を取って、しげしげと眺めた。白く、滑らかで華奢な手。指先はほんのり薔薇色で、爪は何も着けなくても本当に桃色の珊瑚のような色と艶やかさだ。まさか・・・。基本ミミに隠し事はやめたイザヤールだが、頼まれたことでもあるので、若者に言われた通り、「パンプキンヘッドを探している」方向で話をすることにした。ミミは、手を取られてじっと見つめられて、不思議そうな顔をしている。
「ミミ、おまえはもしかして今日、パンプキンヘッドをかぶって呼び込みかビラ配りに行ったか?」
「?はい。でも、どうして?」
「実はな、先ほど酒場に来た客が、今日会ったビラ配りのうちの誰かのかぶっていたパンプキンヘッドをすごく気に入って、どこで手に入れたのか知りたいそうなのだが、手がかりがほとんど無くて困っているそうだ。だからそのパンプキンヘッドの持ち主を探して聞きたいそうなんだが、手伝ってくれるか?」
「喜んで!」
ミミはクエスト「愛しのパンプキンヘッド」を引き受けた!
「でも」ここでミミは心配そうに眉をひそめた。「パンプキンヘッドをかぶってビラ配りしていた人、私の他にたくさんいたの・・・。さすがに全部のお店はわからないかも・・・」
「それなんだが、そのパンプキンヘッドの持ち主は、ビラをもらった時に手袋が脱げてしまって、依頼人は慌てて返したそうだ」
そう言われてミミは、濃い紫の瞳を大きく見開き、呟いた。
「え?じゃあそれ、もしかして私・・・かも?そんなことがあったから」
「・・・そうか」
やはりミミのことだったのかー!と、イザヤールは彼女に顔を見られないように抱き寄せて、困惑混じりの苦笑を浮かべた。そんな彼の思いを知らず、ミミはあっさり終わりそうなクエストに、嬉しそうだが拍子抜けしたような顔で呟いた。
「じゃあそのお客さんに、この宿屋のショップで売っているパンプキンヘッドだって教えてあげたら、このクエスト終わりなんだ・・・。でもイザヤール様、パンプキンヘッドって、私がかぶっていたのとよそのお店の人がかぶってたのとで、そんなに差があるのかな?・・・?イザヤール様・・・?」
言葉の途中で、イザヤールが罪悪感に満ち溢れた顔で見つめてきたので、ミミは驚いた。
「すまん、ミミ。・・・おまえに、嘘をついていた。実は・・・」
依頼人の探している対象がミミだとはっきりわかった以上、パンプキンヘッドを探しているという偽の理由はもはや意味が無い。イザヤールは、本当の理由を話すことにした。嘘をついたとイザヤールに言われて更にびっくりしたミミだが、訳を聞いて安堵と困惑とでほっとしたりおろおろしたりした。
「そういうことなら、イザヤール様、依頼人さんの心の秘密も大事だもの、嘘は仕方ないの・・・。でも・・・まさか、私なんかを、手や声で気になる人が居るなんて・・・。実物見てがっかりしてくれればいいけれど、でも、それも何だか申し訳ないの・・・ロマンを壊すとかみたいで・・・」
「おまえが気に病むことは無いし、おそらくがっかりされることは絶対ないから」イザヤールは甘さと心配の入り交じった微笑みを浮かべて囁いた。「だから、ちゃんとお断りしてくれ、な?私も、おまえを渡すつもりは決して無いと、思い知らせ・・・いやきっぱり言うから」
翌朝、いきなり素顔で行っても誰とわからないと思われたので、ミミはパンプキンヘッドとやみのころもを装備して、イザヤールの後について依頼人のところに行った。ただし、やみわだのミトンはせず手は露にした。
イザヤールは若者に訳を説明し、ミミはせっかくだけれど気持ちにお応えできませんごめんなさいと告げると、彼はミミの華奢な手を見つめ、溜息をついて呟いた。
「まさか酒場のおにいさんの彼女さんとはねー・・・あ、そのかぼちゃ取らないで、顔を見たら、きっともっと好きになっちゃうから・・・さ」
若者は、お騒がせのお詫びにと「ゆめみの花」を置いて去っていった。物好きな人とミミが不思議そうにパンプキンヘッドの頭を傾げると、イザヤールは異論を込めて、彼女を優しくそっと引き寄せた。〈了〉
ハロウィンが近付いてくるにつれて、セントシュタインの城下町でも、パンプキンヘッドをかぶった店員や可愛らしい魔女の格好をした店員が、あちこちに出現し始めている。リッカの宿屋でも、ディスプレイやロクサーヌの店の商品はハロウィン仕様となり、スタッフ全員で魔女の格好をすることも検討したが、結局仮装はハロウィン当日のお楽しみにすることにして、みんなの服装はいつも通りだった。
ただしミミは、パンプキンヘッドをかぶってやみのころもなど黒いマントを装備し、リッカの宿屋のハロウィンイベントのお知らせのビラを配ったりしていた。今日もリッカに頼まれて、城下町の中央広場周辺に来て配り始めた。周囲にも、やはりパンプキンヘッドをかぶった他の店の臨時雇いや見習いらしい店員たちがかなりの人数居て、せっせと呼び込みやビラ配りをしている。
そこへ、一人の旅人らしい若者が歩いてきた。辺りをきょろきょろ物珍しげに見回す様子からして、おそらくセントシュタインを訪れるのは初めてなのだろう。次々にビラをもらったり、呼び込みをされたりして、賑やかさに戸惑っているようだ。
彼は、ミミの差し出すビラを無造作にひったくるように取った。乱暴者というよりせっかちなのだろう。その拍子に、ミミの着けていた「やみわだのミトン」ごとビラを引っ張ってしまって、ミトンが脱げてしまった。若者に悪気はなかったらしく、彼は動揺し、もらったビラをばらまいてしまいあたふたしたので、ミミはしゃがんでそれらを拾い集めてあげた。
「す、すみません。ありがとうございます」
若者はまだ慌てながらミトンをミミに返し、ビラの束を受け取った。
「いいえ」
ミミが怒っていないことを示す為に優しく返事をすると、若者は何故かまた動揺したかのように固まって彼女をじっと見つめた。しかしミミがパンプキンヘッドの頭を傾けて首を傾げると、彼はみるみる真っ赤になって、走り去ってしまった。
私、何か変なことしたのかな?ミミは困惑しながら、やみわだのミトンを装備し直した。
その夜。ルイーダに頼まれたイザヤールが酒場の店番をしていると、一人の客がやって来て、カウンター席に座った。見ない顔だから、おそらく今日初めてセントシュタインに来た旅人なのだろう。まだ若く、そして不注意なのか慌て者なのか、座る際に椅子をひっくり返したりと落ち着きが無い。
客はとりあえず注文した酒を飲み干すと、イザヤールにおずおずと尋ねた。
「あの・・・この町で、人を探したい時は、どうしたらいいんだろうね?」
「それなら、ここの酒場の女主人ルイーダに聞くのが手っ取り早いと思うが。彼女は今少々外しているが、そろそろ戻る頃だ」
イザヤールが答えると、客の若者は、困ったような笑みを浮かべて言った。
「そうか、女主人さんなのか、ここの酒場は。じゃあキミは、従業員?」
「従業員という訳ではないが、世話になっているので、ときどき手伝っている」
「そうか、それなら、キミにお願いしたいな。男にならこの気持ち、わかってもらえると思うんだけど、女の人にこんな話をすると、笑われる気がするから」
「私でできることなら力は貸すが、冒険者やこの町の住人に詳しいのは、ルイーダだから、人探しなら彼女に相談した方が早そうだがなあ・・・」
イザヤールが少々困惑して若者に言うと、彼はもじもじしながら答えた。
「まあそう言わずに、聞いてよ。・・・ボクは、この町に来るのが今日初めてで、賑やかさにすごいびっくりしたんだけど、城下町歩いてたらほら、こんなにビラもらっちゃったしさ」
若者は何枚ものビラの束を取り出し、カウンターの上に置いた。イザヤールは、ビラが相談ごととどう繋がるのかわからなかったが、口を挟まず耳を傾けた。
「ビラを配ってる人、何人もハロウィンのかぼちゃ、なんていったかなあアレ、とにかくあのかぶり物しててマントにすっぽりくるまっててさ。ボク、そのうちの一人からビラを貰ったとき、うっかり彼女の手袋ごとビラを取っちゃって」
「彼女?」
パンプキンヘッドをかぶってマントにくるまっていた相手の性別をどうしてわかったのだろうとイザヤールが首を傾げると、若者は更にもじもじしながら言った。
「手袋が脱げて出てきた手がさあ・・・白くて小さくて、指もすらっと細っこくて、爪なんかピンクのサンゴみたいにつやつやしてキレイでさあ・・・すっごいキレイな手だなあ、って思ってぼーっとしてたらボク、もらったビラを落としちゃって。そしたらその子、しゃがんで拾ってくれて、ボクが謝罪とお礼言ったら『いいえ』って言ってくれて、その声で完全に女の子ってわかったんだけど、その声もめちゃくちゃキレイでカワイくてー!」
「なるほど」
「ドキドキしちゃってボク、思わずその場から逃げ出しちゃってさあ。後になって冷静に考えたら、どうして名前聞かなかったんだろうとか、せめてどこの店なのか聞けばよかったってものすごく後悔して、探したいって思ったのさ。・・・ね?こんな話、女性に話したら笑われそうじゃない?」
「なるほど」
イザヤールは他人に余計な感想や口出しをしない主義だし、ポーカーフェイスが得意だ。今の彼の表情も、感情を特に何も表していなかった。
「キミもおかしいって思う?手と声しかわからない女の子が、気になるなんて」
「よほど綺麗な手と声だったのだろうな。・・・ただ、水を差すようで悪いが、実際に顔を見てみたらイメージとだいぶ違う、というのは充分あり得るぞ」
「いやいやいや!あんなにキレイな手と声なら、絶対すっごいカワイイって!間違いないよ!」
「はあ・・・。まあ、そう考える気持ちは、わからなくもないが・・・。しかし、それではつまり、顔もわからない人を探したいということか?」
「そうなんだよ」
「探してどうする?」
「告る!」
「・・・気が早い気もするが・・・」
「でも、見つかるかなあ・・・」
「ビラはもらったのだろう?それが手がかりになるのでは」
「いや、それがさあ・・・動揺してばらまいちゃったから、もらった順番わからなくなって、どのパンプキンからもらったビラか全然わからなくてさ」
「ビラの店一軒一軒あたれば良さそうなものだが」
「ボク、この町に来るのが初めてだから、どうも勝手がわからなくて」
「まあそうだろうな。では、拝見するぞ」
イザヤールはカウンターに置かれたビラをめくって、武器屋よろず屋菓子店その他に混じって、リッカの宿屋のイベント情報のビラもあることに気付いて、眉を片方僅かに上げた。・・・リッカの宿屋でビラ配りをするのはミミくらいだ。と、いうことは、その場にミミも居たかもしれない。何か知っているか、聞いてみるか・・・それにしても、何だか少々嫌な予感がするのは気のせいだろうか・・・。
リッカの宿屋のビラを若者も見て、彼は陽気に言った。
「そうそう、このビラ見て、この宿屋に泊まろうって思ったんだ。あ、もしかして、これ配ってたスタッフさんに話を聞く方向?それなら、ほんとの理由知られるとちょっと恥ずかしいんで、探してる人のかぶってるパンプキンなアレがすごい気になるから探してる、ってことにしてもらっていいかな?頼むよ」
イザヤールは承知して、ルイーダが戻るとすぐに、自室に戻ってミミに話を聞いてみることにした。
イザヤールが自室に戻ると、ミミはちょうど湯上がり直後だったらしく、お気に入りの暖炉の前の大きなクッションにくるまれるように座っていた。彼女はタオルで髪を優しく拭いていたが、彼の姿を見ると瞳を輝かせて立ち上がり、歩み寄ってきて抱きつき、囁いた。
「おかえりなさい、イザヤール様」
「ただいま、ミミ」
彼は愛しさを込めてミミを抱きしめたが、ふと彼女の手を取って、しげしげと眺めた。白く、滑らかで華奢な手。指先はほんのり薔薇色で、爪は何も着けなくても本当に桃色の珊瑚のような色と艶やかさだ。まさか・・・。基本ミミに隠し事はやめたイザヤールだが、頼まれたことでもあるので、若者に言われた通り、「パンプキンヘッドを探している」方向で話をすることにした。ミミは、手を取られてじっと見つめられて、不思議そうな顔をしている。
「ミミ、おまえはもしかして今日、パンプキンヘッドをかぶって呼び込みかビラ配りに行ったか?」
「?はい。でも、どうして?」
「実はな、先ほど酒場に来た客が、今日会ったビラ配りのうちの誰かのかぶっていたパンプキンヘッドをすごく気に入って、どこで手に入れたのか知りたいそうなのだが、手がかりがほとんど無くて困っているそうだ。だからそのパンプキンヘッドの持ち主を探して聞きたいそうなんだが、手伝ってくれるか?」
「喜んで!」
ミミはクエスト「愛しのパンプキンヘッド」を引き受けた!
「でも」ここでミミは心配そうに眉をひそめた。「パンプキンヘッドをかぶってビラ配りしていた人、私の他にたくさんいたの・・・。さすがに全部のお店はわからないかも・・・」
「それなんだが、そのパンプキンヘッドの持ち主は、ビラをもらった時に手袋が脱げてしまって、依頼人は慌てて返したそうだ」
そう言われてミミは、濃い紫の瞳を大きく見開き、呟いた。
「え?じゃあそれ、もしかして私・・・かも?そんなことがあったから」
「・・・そうか」
やはりミミのことだったのかー!と、イザヤールは彼女に顔を見られないように抱き寄せて、困惑混じりの苦笑を浮かべた。そんな彼の思いを知らず、ミミはあっさり終わりそうなクエストに、嬉しそうだが拍子抜けしたような顔で呟いた。
「じゃあそのお客さんに、この宿屋のショップで売っているパンプキンヘッドだって教えてあげたら、このクエスト終わりなんだ・・・。でもイザヤール様、パンプキンヘッドって、私がかぶっていたのとよそのお店の人がかぶってたのとで、そんなに差があるのかな?・・・?イザヤール様・・・?」
言葉の途中で、イザヤールが罪悪感に満ち溢れた顔で見つめてきたので、ミミは驚いた。
「すまん、ミミ。・・・おまえに、嘘をついていた。実は・・・」
依頼人の探している対象がミミだとはっきりわかった以上、パンプキンヘッドを探しているという偽の理由はもはや意味が無い。イザヤールは、本当の理由を話すことにした。嘘をついたとイザヤールに言われて更にびっくりしたミミだが、訳を聞いて安堵と困惑とでほっとしたりおろおろしたりした。
「そういうことなら、イザヤール様、依頼人さんの心の秘密も大事だもの、嘘は仕方ないの・・・。でも・・・まさか、私なんかを、手や声で気になる人が居るなんて・・・。実物見てがっかりしてくれればいいけれど、でも、それも何だか申し訳ないの・・・ロマンを壊すとかみたいで・・・」
「おまえが気に病むことは無いし、おそらくがっかりされることは絶対ないから」イザヤールは甘さと心配の入り交じった微笑みを浮かべて囁いた。「だから、ちゃんとお断りしてくれ、な?私も、おまえを渡すつもりは決して無いと、思い知らせ・・・いやきっぱり言うから」
翌朝、いきなり素顔で行っても誰とわからないと思われたので、ミミはパンプキンヘッドとやみのころもを装備して、イザヤールの後について依頼人のところに行った。ただし、やみわだのミトンはせず手は露にした。
イザヤールは若者に訳を説明し、ミミはせっかくだけれど気持ちにお応えできませんごめんなさいと告げると、彼はミミの華奢な手を見つめ、溜息をついて呟いた。
「まさか酒場のおにいさんの彼女さんとはねー・・・あ、そのかぼちゃ取らないで、顔を見たら、きっともっと好きになっちゃうから・・・さ」
若者は、お騒がせのお詫びにと「ゆめみの花」を置いて去っていった。物好きな人とミミが不思議そうにパンプキンヘッドの頭を傾げると、イザヤールは異論を込めて、彼女を優しくそっと引き寄せた。〈了〉
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