セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

魔力を持つ羽根ペン

2010年11月19日 23時06分57秒 | クエスト184以降
 ミミとイザヤールがリッカの宿の図書室で調べものをしていると、隣の本棚の前に立っている青年の独り言が聞こえてきた。
「麗しの君よ、汝の前には、世界中の全ての花も色を失うであろう・・・ううっ、ダメだこんな文句ではっ!」
 思わず見ると、青年は詩集や歌を集めたコーナーの前に立っており、古めかしい革表紙の本をめくりながら、頭をかきむしっていた。
 二人の視線に気が付き、青年は顔を赤らめた。
「す、すみません。実は、ある方にその・・・手紙で想いを伝えようと思ったんですが、僕、どうも文才なくて。で、詩の本をヒントにしようとしたんですが・・・どれもどうもイマイチで・・・」
 彼はしばらくうつむいていたが、急にイザヤールの腕を掴んで言った。
「あなたは・・・このお嬢さんを、どうやって口説いたんですかっ?!その名セリフぜひ詳しくっ」
「いや、その、まだ口説いた覚えはないのだが・・・」
 鬼気迫る様子で揺すぶられ、戸惑うイザヤール。すると、青年はがっくりと肩を落とし、呟いた。
「やっぱり・・・アレの力を借りるしかないのかな・・・」
 彼はきっ、と顔を上げて続けて言った。
「宝の地図の洞窟最深部に居る、鳥の魔物アウルートをご存知ですか?奴の魔力がこもった羽根を使ってペンを作ると、どんな名文も思いのままだそうです。
あなた方はかなり腕の立つ冒険者とお見受けしました、どうかアウルートの羽根を取ってきて頂けないでしょうか?もちろんお礼は致します」
 お願いしますお願いします、と、再びがくがくと揺すぶられるイザヤール。こうしてクエスト「魔力を持つ羽根ペン」を引き受けたのだった。

 アウルートはなかなか強敵である。そのうえ今回は、「バードシュート」を使い続けて倒さなければならない、という厳しい条件だった。弓スキルを究めているミミ、イザヤール、ルイーダ、そして回復役にロクサーヌのパーティー編成となった。
 ようやく目的の相手にたどり着くと、ミミは一同に号令を出した。
「ではロクサーヌさんは適宜回復で、後のみんなはひたすらバードシュート、お願いしますっ」
 こうして戦闘は始まった。凍てつく波動に鬼な呪文攻撃、そして、催眠攻撃。ロクサーヌのザメハや、回復に助けられ、ひたすら弓を引き続ける。
 とどめの一撃が炸裂し、ようやく長かった戦闘は終わった。アウルートは一片の羽根を落としていった。内側に隠れていた羽根なのか、ほのかに金色を帯びている。
「みんな、ありがとう。どうやら目的の物を手に入れたみたい」
 ミミは羽根を拾い上げ、にっこり笑った。
「へ~え、これが名文を書けるペンになるなんてねえ」とルイーダ。
「ショップの商品にぜひ欲しいですわ」とロクサーヌ。
「ではあの青年に早く届けてやるか。また揺すぶられてはかなわない」
 イザヤールが呟くと、ミミは思わずクスッと笑った。

 青年にアウルートの羽根を届けると、彼は有頂天で受け取った。
「ありがとうございます!これで歴史に残るほどの最高傑作恋文を書いてみせます!」
 そして彼はお礼に・・・と、「命のきのみ」をくれた。
 青年が去っていくと、サンディが腕組みして呟いた。
「あのコ・・・カワイソーだけどフラレるわネ」
「え?どうして?」
「だってさー、どーゆーラブレター書くかばっかし考えてて、どーやって気持ちを一生懸命伝えようって考えてないモン」
「サンディ・・・いいこと言うのね・・・」
 ミミがすっかり感心した顔をしたので照れたサンディは、思い切りミミの頭を小突いた。
「あったりまえデショ!ナニよ、それじゃアタシが普段あんまりいいこと言わないみたいじゃないッ」
(そうだよね、形式とかにこだわるんじゃなくて、どれだけその人のことを大切に思っているかを一生懸命伝えなきゃ・・・私も・・・)
「えっ、ちょっとー、ミミ、ドコ行くのー?」
 いきなり走り出したミミを、サンディは呆気に取られて見送った。

 イザヤールは、冒険から帰る度の恒例、装備品手入れをしていた。やはり神々の武器は素晴らしいな、と弓の弦を確かめていると、ミミが息を弾ませて、急に部屋に入ってきたので、少し驚いた。
「い、イザヤール様っ・・・」
 彼女は、彼の座っている長椅子の側に立ち、頬を上気させ、陰影と煌めきを増した瞳でイザヤールを見つめた。
「これだけは・・・お伝えしたいことが」
「ああ、何だ?」
 ただならぬ様子に、彼もまたミミをじっと見つめた。
「私・・・私も、イザヤール様がとっても大切で・・・幸せでいてほしいと願ってます・・・。これだけは・・・お伝えしたかった・・・」
 突然の出来事にイザヤールは僅かの間呆然としたが、すぐに微笑んで答えた。
「ありがとう。・・・嬉しいぞ」
「迷惑でなくて・・・よかったです」
「迷惑なものか」
 だが、彼があまりに穏やかな微笑みを浮かべているので、ミミの不安が一気に増した。
(やっぱり・・・仲間として大切、って意味だと思われているのかな・・・。恋心って知られたら・・・こんな・・・こんな顔・・・してくれないんじゃ・・・)
「突然、すみませんでした!」
 ミミは叫ぶように言うと、部屋を飛び出した。

 イザヤールは、ミミが走り去るのをじっと見つめていた。そして、ぽつりと独りごちた。
「ふっ切れたつもりだったが・・・まだまだ・・・だな・・・」
 唇に自嘲の笑みが浮かぶ。
 ミミへの想いを隠すことはやめると決めた筈だった。・・・しかし、本当にそう思っていたら、今・・・走り去ろうとする彼女を引き留めて、詰問した筈だ。
 それは仲間としてなのか恋人としてなのかどちらなのだ、と。
 恋人としてではない、というのを確かめるのに臆する己が居る。どう思われようと、何があろうとも見守っていく筈ではなかったか。無償の想いの筈では、なかったか。
 ・・・彼女の愛が欲しい。そう貪欲になりつつある己が居る・・・。その弱さが、確かめることをためらわせた。
「私こそ・・・きちんと伝えなくては・・・な。『おまえに恋心を抱いている』と・・・」
 愛されぬことを臆する弱さで、どうして命を懸けて守ることができるだろう。

 ミミは、誰も使っていない客室に隠り、少しの間だけ泣いた。逃げるようにして去ってしまった、自分の弱さに。
(お慕いしてます、こう言えば、何も・・・何も誤解を与えることもなく・・・想いを伝えられたのに・・・)
 無意識のうちに言葉を、逃げ道のある言葉を選んでいた。
 そして大切だと伝えればそれでいい筈だったのに胸が痛むのは。愛されたいと・・・愛するだけでは物足りないと、愛しい人を欲しいと、望んでしまうから。そして、希望が打ち砕かれるよりは、曖昧なままでいいと、逃げるから。だから・・・苦しい。
(逃げちゃ・・・きっとまた後悔するから・・・)
 もう一度あの後悔を繰り返しては駄目。
「せ・・・せめてデートのお誘いくらいできるようにしなきゃ・・・ね・・・」
 無理やり冗談めかした口調で呟き、彼女は涙を払って笑った。そう、そして、今度こそ伝えるの。イザヤール様に恋をしていると。どう解釈しても他に取り様のない言葉で、逃げないで、ちゃんと。

 夕食の頃には、二人とも、いつもの二人に戻っていた。・・・少なくとも表面上は。
 けれど、注意深い者がよく見れば。互いの瞳があまり熱を隠さなくなったと、気付いたことだろう。そして、その視線が交差する度に、不安と希望、決意とためらいが入り交じり、切ない吐息をかすかにつくことも。〈了〉

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