薄暗い洞窟の中を、逞しい体躯のパラディンが一人、歩いていた。
それは、修行のためにSキラーマシンと闘いに来た、イザヤールだった。
しかし修行というのは、半ば口実にすぎないのかもしれない。処分という名の殺戮のみを目的として動く、他に何の思考も感情もない機械と闘うことで、己の心も空にしたかった。
洞窟の最深部にたどり着くと、冷たい機械音が響いて、目的の敵が作動を始めた。
「・・・ショブン・・・ショブン・・・ヨケイナモノハハイジョセヨ・・・テンシハッケン・・・ショブン!」 Sキラーマシンは、大きな刃を振りかざして、イザヤールに襲いかかった。
(・・・私も、これでもまだ天使として認識されている訳か・・・)
うっすらと皮肉な笑みを浮かべると、イザヤールはまず「やまびこのさとり」を使った。敵は、刃で斬りつけてくる。それを、盾で弾き返す。衝撃と僅かな痺れが走る。
すかさずスカラを唱えると、やまびこのさとりの効果で、二回分作用し、守備力が一気に増した。これで当分はダメージのことを気にしないで済む。今日は、自分以外誰も居ない。回復してくれる者も、フォローしてくれる者もない。
・・・いつも仲間を、特にイザヤールが怪我をしないかとても注意を払ってくれるミミも・・・居ない。
降り注ぐ無数の矢に耐え、剣を構えると、イザヤールは「はやぶさ斬り」を繰り出した。金属が金属を噛む鋭い音。火花が飛び散った事で感じられる、激しい熱のかすかな匂い。
ぐっと唇を噛み締めた一瞬後、敵が放ったレーザーの直撃をくらった。苦痛と閃光に固く目を閉じるも、すかさずベホイミを唱える。傷の回復と共に、再び体勢を立て直す。
剣を振りかざし、刃に電撃を溜めていく。ギガスラッシュの構えだ。しかし、Sキラーマシンもまた、同時に同じ技の構えをしていた。
ほぼ同時に技は繰り出され、白刃と電撃がぶつかり合った衝撃で、洞窟内に激しい振動が走った。両者とも弾き飛ばされ、壁に打ち付けられた。
守備力を上げていたおかげで、イザヤールは致命的なダメージは免れたが、立ち上がるのによろめき、荒く息を吐いた。壁への激突の際に切った唇の血を、無意識に拭う。
その後はまたしばらく、刃をぶつけ合う応酬が続いた。まるで計算しつくされた剣舞のように、互いの攻撃を紙一重でかわし、刃を交差させる動きが続く。
間合いを取ると、イザヤールは床を蹴って宙に飛んだ。再び、刃に電撃が充たされていく。だが、今度の気配は、先ほどのギガスラッシュと格段に違った。
イザヤールは、剣の最終奥義、ギガブレイクを放った。
轟音とスパークとショートによる煙が充満し、Sキラーマシンは、動かなくなった。完全に滅ぼすことは不可能とはいえ、おそらく次にこの洞窟を訪れるまでは、動くことはないだろう。
彼は呼吸を整え、動かなくなった敵を見下ろした。そして、自戒を込めて呟いた。
「愛することを恐れるな・・・このような存在にならないためにも・・・」
感情を殺しすぎ、愛することさえ忘れてしまわぬように。
ふと気が付くと、Sキラーマシンは宝箱を落としていた。イザヤールはなんと「えいゆうのブーツ」を手に入れた!
「ちょうどいい土産ができたな」
彼は呟き、今度は楽しそうに笑った。
セントシュタインに帰ると、もう夕方になっていた。リッカの宿屋に入ると、酒場の給仕を手伝っていたミミが振り返り、微笑みを浮かべて言った。
「おかえりなさい、イザヤール様」
天使だった時からずっと、このように迎えてくれていた。・・・人間になった時も。人間になってからも。
イザヤールも微笑み、言った。
「ただいま。・・・土産だ」
「えっ、これ・・・えいゆうのブーツ?まさかイザヤール様、一人でSキラーマシンやっつけちゃったんですか?!」
ご無事でよかった、と慌ててイザヤールに怪我がないか確かめるミミに、彼は笑って言った。
「まだまだおまえには負けられない」
「だからって・・・。あんまり危ないこと、一人でしちゃイヤです・・・」
少し膨れっ面をし、睫毛をしばたたかせて涙を引っ込めようとする彼女に、イザヤールは呟く。
「以後気を付けよう。・・・心配かけて、すまなかったな」
そしてそっと手を伸ばし、髪をなでる。危うく人目も憚らず抱き締めるところだった。内心呟き、彼はまた楽しそうに笑った。〈了〉
それは、修行のためにSキラーマシンと闘いに来た、イザヤールだった。
しかし修行というのは、半ば口実にすぎないのかもしれない。処分という名の殺戮のみを目的として動く、他に何の思考も感情もない機械と闘うことで、己の心も空にしたかった。
洞窟の最深部にたどり着くと、冷たい機械音が響いて、目的の敵が作動を始めた。
「・・・ショブン・・・ショブン・・・ヨケイナモノハハイジョセヨ・・・テンシハッケン・・・ショブン!」 Sキラーマシンは、大きな刃を振りかざして、イザヤールに襲いかかった。
(・・・私も、これでもまだ天使として認識されている訳か・・・)
うっすらと皮肉な笑みを浮かべると、イザヤールはまず「やまびこのさとり」を使った。敵は、刃で斬りつけてくる。それを、盾で弾き返す。衝撃と僅かな痺れが走る。
すかさずスカラを唱えると、やまびこのさとりの効果で、二回分作用し、守備力が一気に増した。これで当分はダメージのことを気にしないで済む。今日は、自分以外誰も居ない。回復してくれる者も、フォローしてくれる者もない。
・・・いつも仲間を、特にイザヤールが怪我をしないかとても注意を払ってくれるミミも・・・居ない。
降り注ぐ無数の矢に耐え、剣を構えると、イザヤールは「はやぶさ斬り」を繰り出した。金属が金属を噛む鋭い音。火花が飛び散った事で感じられる、激しい熱のかすかな匂い。
ぐっと唇を噛み締めた一瞬後、敵が放ったレーザーの直撃をくらった。苦痛と閃光に固く目を閉じるも、すかさずベホイミを唱える。傷の回復と共に、再び体勢を立て直す。
剣を振りかざし、刃に電撃を溜めていく。ギガスラッシュの構えだ。しかし、Sキラーマシンもまた、同時に同じ技の構えをしていた。
ほぼ同時に技は繰り出され、白刃と電撃がぶつかり合った衝撃で、洞窟内に激しい振動が走った。両者とも弾き飛ばされ、壁に打ち付けられた。
守備力を上げていたおかげで、イザヤールは致命的なダメージは免れたが、立ち上がるのによろめき、荒く息を吐いた。壁への激突の際に切った唇の血を、無意識に拭う。
その後はまたしばらく、刃をぶつけ合う応酬が続いた。まるで計算しつくされた剣舞のように、互いの攻撃を紙一重でかわし、刃を交差させる動きが続く。
間合いを取ると、イザヤールは床を蹴って宙に飛んだ。再び、刃に電撃が充たされていく。だが、今度の気配は、先ほどのギガスラッシュと格段に違った。
イザヤールは、剣の最終奥義、ギガブレイクを放った。
轟音とスパークとショートによる煙が充満し、Sキラーマシンは、動かなくなった。完全に滅ぼすことは不可能とはいえ、おそらく次にこの洞窟を訪れるまでは、動くことはないだろう。
彼は呼吸を整え、動かなくなった敵を見下ろした。そして、自戒を込めて呟いた。
「愛することを恐れるな・・・このような存在にならないためにも・・・」
感情を殺しすぎ、愛することさえ忘れてしまわぬように。
ふと気が付くと、Sキラーマシンは宝箱を落としていた。イザヤールはなんと「えいゆうのブーツ」を手に入れた!
「ちょうどいい土産ができたな」
彼は呟き、今度は楽しそうに笑った。
セントシュタインに帰ると、もう夕方になっていた。リッカの宿屋に入ると、酒場の給仕を手伝っていたミミが振り返り、微笑みを浮かべて言った。
「おかえりなさい、イザヤール様」
天使だった時からずっと、このように迎えてくれていた。・・・人間になった時も。人間になってからも。
イザヤールも微笑み、言った。
「ただいま。・・・土産だ」
「えっ、これ・・・えいゆうのブーツ?まさかイザヤール様、一人でSキラーマシンやっつけちゃったんですか?!」
ご無事でよかった、と慌ててイザヤールに怪我がないか確かめるミミに、彼は笑って言った。
「まだまだおまえには負けられない」
「だからって・・・。あんまり危ないこと、一人でしちゃイヤです・・・」
少し膨れっ面をし、睫毛をしばたたかせて涙を引っ込めようとする彼女に、イザヤールは呟く。
「以後気を付けよう。・・・心配かけて、すまなかったな」
そしてそっと手を伸ばし、髪をなでる。危うく人目も憚らず抱き締めるところだった。内心呟き、彼はまた楽しそうに笑った。〈了〉
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