セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

首飾り

2012年05月23日 01時35分05秒 | クエスト163以降
また真夜中テンションの気配がちょっぴり入ってしまったようなイザ女主話。タイトルダイレクトすぎ。女主の着けてる首飾りは、一昨年のクリスマス時期話参照でございます。命の石、なんでザラキやメガンテ防がなくなったんだぶつぶつ。という訳で女主の首飾りの効果は捏造。イザヤール様、首飾りでふと自分の師匠のことを思い出します。星空の首飾りは、エルギオス様が自分で作った物かどうか実際は不明ですが、少なくとも首飾りの形にしたのはエルギオス様のような気がします。

 一日の終わり。別々の冒険に出かけた恋人たちは、それぞれ無事に帰ってきて、眠る前の今、互いの腕の中で今日の出来事を語り合っている。
「イザヤール様、今日もご無事でよかった」
「ミミ、おまえもな」
「だって私は、錬金の材料を集めに行っただけだもの」
「私も、スライムジェネラルと剣術試合をしてきただけだぞ。・・・まあ油断大敵だがな」
「でも・・・よかった」
 幸せそうな溜息をついて自分の胸の鼓動に頬をあてる彼女に、イザヤールは愛しさを込めて艶やかな髪にキスを落とした。
 指もまた滑らかな髪の中をくぐり、そのまま首筋に伝っていく。さらりと滑る熱い指の感触に、幸せそうな溜息は、かすかな甘く切ない溜息に変わった。ふと、ここ彼の指先は、繊細だが丈夫な鎖の上で止まった。
 鎖の先には、不思議な魔力の深い青の石が下がっている。以前のクリスマスに贈った、特別な命の石で作った首飾りだ。かつて古代の命の石は、身に着けている者に死の危険が及ぶと、身代わりになって砕け散る力があった。そんな特別な石を探して、愛しい恋人の為に作った物だ。
「今日も身に着けていてくれたのか」
 イザヤールが鎖と首の間に指を通してなぞると、ミミはくすぐったそうに小さくぴくりと身を震わせながらも、恥ずかしそうに微笑んで答えた。
「あ・・・お風呂に入る前に外すの、忘れちゃった・・・。いつも着けているの、ご存知なかったですか?」
「そういえばそうか。ありがとう」
「今日も壊れなくてよかった」
 ミミは濃い紫の瞳を輝かせて、大切そうに首飾りの石をなでた。
「おまえの身代わりになって壊れたら、また作ってやるから、心配するな」
「でも、とっても気に入っているの。・・・綺麗だし、イザヤール様が作ってくれたから」
 そう呟き、なんとも言えないうっとりした表情で石を見つめるミミに、イザヤールはまた愛しさが募り、彼女を抱えた腕に力を込めた。自分の贈った物までも、とても大切に思ってくれていることが、愛しく嬉しい。
 ここでふと彼は、遠い昔のことを思い出した。三百年以上前のことを。

 あるとき、イザヤールの師匠エルギオスは、天使界で長いこと利用されていなかった不思議な石を使い、それで首飾りを作った。
 エルギオス様、その石は?
 弟子の問いに、彼は優しい、だがどこかかすかに切ない微笑みを浮かべ、答えた。
 これは、天使が傍に居るとき、輝く性質を持つ石だ。遥か昔は、しばしば、信仰篤い人間に授けたこともあったそうだ。
 何故今、そのような物を使われるのです?
 すると、エルギオスは僅かに目を伏せ、黙ってしまった。自分で考えよという意味だと取ったイザヤールは、彼なりに考え、言った。
 そうか、信心深い人間にこれを与え、天使がいつも見守っていることを知らしめて、よりいっそう信仰心を高めて、結果、より星のオーラが手に入るという訳ですね。
 ・・・そうだな、そうでなくては、いけないな。
 師匠のその言い方が一瞬気になったが、さすがだと感心する方が強くて、疑問は押しやられた。

 ああ、だが。今にして思えば。

 イザヤールは、ふいに顔をうつむけて、ミミの顔に唇が触れそうなくらいに近付き、囁いた。
「・・・大切にしてくれて、嬉しいぞ」
 ミミは、突然とても顔が近付いたことに頬を赤らめながらも、幸せそうに微笑んで答えた。
「イザヤール様とお出かけできない日は、特に忘れないように身に着けるの。・・・近くに居られる気持ちになるから」
「・・・そうか」
 そう、物理的に傍に居られない時でも、守ってやりたい。心は傍に居てやりたい。そう思って男は、愛しい女に装身具を贈るのかもしれない。・・・だから、エルギオス様は。
 エルギオス様は、ご自分で気付いていたのだろうか。愛しい者に渡す為に首飾りを作ったのだと・・・。それとも、何だかわからない切ない思いに、胸を痛めていたのだろうか。
 ミミのもの問いたげな紫の瞳が、陰影を描いて間近で瞬いたことで、イザヤールは我に返った。そのまま目蓋を閉じて、彼はゆっくりと己の唇を彼女の唇に重ねた。
 それから、細い鎖に手を伸ばして、ミミの首からそっと首飾りを外した。
「今は本人が傍に居るから、外していいな」
 そう囁きながら、キスをしたばかりの唇は、今度は華奢な首筋を這う。そしてやわらかな耳朶に近付いた唇は、動きを止めて愛している、と囁く。私も、と答える小さな声に、満足げに吐息した。
 外された首飾りは、彼の手から滑り落ちて、クッションの上に音もなく落ちた。そのまま転がったそれが手の甲に触れて、ミミは指の間に落ちた鎖を優しく握りしめた。
「イザヤール様、今度、この特別な命の石を探しにいってもいい?・・・イザヤール様にもお守り、作りたいの」
「ああ、ありがとう」
 首飾りを握りしめた小さな手を、力強い大きな手が、優しく包み込んだ。〈了〉

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