セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

年に一度の架け橋

2012年07月06日 23時23分37秒 | クエスト184以降
今週は間に合いました~捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。明日は七夕なので、七夕伝説に妖精話をミックスしたようなストーリーにしてみました。そして夏恒例?あまつゆのいとネタでもあります。今回主要登場人物が「青虫」です。その手の虫が苦手な方ごめんなさい。

 今日ミミは、とある邸の庭園に居た。イザヤールが、ここの主に荷を運ぶ隊商の護衛に雇われ、そろそろ帰ってくる頃だったからだ。彼女とも顔見知りな邸の主が、そろそろ夏の花が綺麗だから、イザヤール殿をお待ちついでにごゆっくり、とミミを招待し、その言葉に甘えさせてもらって庭園を見学しているという訳だった。
 主の妻が一緒についてきて、ミミに庭園の各区域のテーマを説明したり、自分の趣味の箱庭を見せてくれたりした。
「これはグビアナを再現しましたの。砂は、実際の砂漠の砂を取り寄せましたのよ」
 オアシスも、碧いガラスできちんと再現されている。陶器で拵えた小さな椰子の木もなんとも可愛らしい。ミミが瞳を輝かせて眺めたので、夫人は喜び、ダーマ神殿をモチーフにした箱庭や、エルマニオン雪原をモチーフにした箱庭など、次々と見せてくれた。
 やがて夫人は、傾いてきた日に気が付いて、慌てて言った。
「あら、もうこんな時間。夕食のメニューの変更を、料理人に言うのを忘れておりましたので、私は一度邸に戻りますわ。ミミさんも一緒に中に戻って、お茶でも如何?」
 ミミは名残惜しそうに庭園を眺め、遠慮がちに答えた。
「どうぞお構い無く。もし差し支えなければ、引き続き庭園を見せて頂けると嬉しいのですけれど」
 主の妻はミミが庭園を気に入ったことにまた喜び、何かあったら近くに居る庭師たちに言うように告げて、邸に戻っていった。

 ミミは箱庭たちだけでなく、季節の花々や青々とした木立を眺め、薔薇の枝を絡ませて作られたトンネルの下をゆっくり歩いたり、野草の為に作った一角に佇んだり、梢からの木漏れ日に目を細めたりした。
 やがて、小川の流れる敷地の隅にたどり着いた。小さな流れは、美しい大木を周囲から区切るように地面を横切っていて、大木とその周りを一種の島のようにしていた。木の根元には、野生の花がちらほら咲いている。
 風景の兼ね合いの故意なのか、それともたまたまなのか、大木のところに渡る橋や飛び石はない。だが流れは浅いし、ひとっ跳びすれば余裕で飛び越せそうな幅の小川だ。ミミはちょっと木の根元まで行ってみたかったが、よそのお宅の庭園なので我慢して、流れ越しに大木を見上げ微笑んだ。
(このお庭、また見せてもらえたらいいな。・・・イザヤール様と一緒に)
 イザヤールは、今日の宵にはこの邸に戻ってくる。もうすぐ会えるのだと思うと嬉しくて、胸が弾んだ。
(たった数日間会えないだけだったのに・・・私、おかしいのかな・・・)
 そう反省してみても、心がときめくのは止めようがない。知らず知らず微笑みが浮かび、ミミは軽やかな足取りで思わずちょっとステップを踏んだ。白いサマードレスの裾がふわりと広がり、夕日になりかけた日の光を受けたその姿は、眩しいくらいに愛らしい。
 すると、大木の方から突然声がした。小さな溜息と共に。
「いいなあ・・・。あなたは、これから好きな人に会えるのね・・・」
 ミミは驚いて声のした方に目を向けた。だが、誰も居るように見えない。
「ここよ、ここ。花の上よ」
 よくよく見ると、大木の根元の小さな花の上に、小さな小さな青虫が居た。
 喋る虫?魔物?!と、ミミは一瞬身構えそうになったが、その青虫は、モンスターと言うにはあまりにも小さすぎた。そして、どことなく可愛らしかった。
「流れを越えて、こっちに来て」
 青虫が頼んだので、ミミはふわりと跳んで流れを越え、青虫の居る花の傍にしゃがんだ。

 青虫は、近くで見ると、翡翠のような色をしていて、なかなか綺麗だった。虫嫌いの女の子ならそれでも嫌がるかもしれないが、ミミは芋虫系は何とか大丈夫だったので(触るとかぶれる毛虫は苦手だが)、その宝石のような色にみとれた。
「私に何かご用?」
 ミミが尋ねると、小さな青虫はまたかすかに溜息をつき、頷くように動いた。
「ねえ、あなた、今ここに来る時に、金色の私みたいな形の虫を見なかった?」 青虫はそう尋ねた。
「金色の青虫?!・・・あ、金色なら青虫って言わないか・・・。いいえ、見てないわ」
 すると青虫は、また溜息をついた。
「やっぱり。・・・あのひとはきっと、最後まで諦めないで、蜘蛛の糸を探してくれているのね・・・」青虫のつぶらな黒い目から、ぽとりと雫が落ちた。泣いているようだ。「なのに私は・・・何もできないのよ。年にたった一度だけの、逢うことを許された日なのに」
 青虫は明らかにさめざめと泣き出したので、ミミは穏やかな優しい声で言った。
「訳を話してくれる?力になれるかもしれないから」
 青虫は花びらで涙を拭うと、こくりと頷いて話し始めた。
「私ね、ほんとは妖精なの。すごく地位が低くて非力なんだけどね。遠い昔、この辺りの森を治める妖精王の息子に、恋をしたの。彼も、私を好きになってくれたわ。でもね、私たちは恋に夢中になってて、大切な仕事を怠って、妖精王の怒りを買った。私の愛するひとは金色の飛べない虫に、私はこんな青虫に変えられて、この小川で囲まれた木の下から出ることを禁じられたの。許される前に出たら、永久に元の姿に戻れないと言われたわ。
小川でも、虫に変えられた私たちにはたいへんな流れよ。私たちは、川越しにただ見つめ合って話すことしかできなかった。あのひとは、小さな体で懸命に父親である妖精王のところまで行って、せめて彼女と一緒に居させてほしいと何度も頼み込んでくれた。
それで妖精王は、一年に一回だけ、私たちが逢うことを許してくれた。一年に一度だけ、自分たちで作った『あまつゆのいと』を編んで作った橋の上でなら、逢っていいって。
こうして私も、彼も、一年のほとんどを蜘蛛の糸と清らかな露を集めることに費やして、それであまつゆのいとを作って、互いにせっせと編んで、鳥たちに編んだものを繋いでもらって橋にして、年に一度だけその上で逢うことを繰り返してきたわ。仲間たちも手伝ってくれたけど、妖精王の怒りが怖くて、あまりおおっぴらには手伝えなかったの。
でも、もちろん、雨で川幅が増えたら糸が足りなくて無理だし、どうしても集まらない年もあって、逢えない年も何度も繰り返されたわ。・・・今年も・・・今日はお天気いいけど、昨日までの雨で川幅が増して、やっぱり糸が足りないの。私の居るこの場所にはもう蜘蛛の糸はないし、彼も夜までに集められるとは思えないわ」
 ここまで一気に語って、青虫はまた泣き出した。ミミは胸をいっぱい痛めて話を聞いていた。一年に一度しか互いに傍らに居られないなんて、どんなに切ないだろう。自分とイザヤール様がそうなったら・・・そう考えるだけで体が震えた。
 そして、妖精関連なら、サンディが居てくれればよかったのに・・・とタイミングの悪さを残念に思った。サンディは、一週間ほどネイル武者修行に行くと言って、出かけてしまっていたのだ。もちろん行き先不明だ。
 ちょっと考えてから、ミミは言った。
「私、錬金釜が友達だから、あまつゆのいとを作れるわ。急いで材料を集めて、できるだけたくさん作って持ってきたら、役に立つ?」
「ほんとに?!」青虫の顔が明らかにわかるほど希望で輝いた。「人間のあなたにあまつゆのいとが作れるなんて!お願いしていい?」
 こうしてミミはクエスト「年に一度の架け橋」を引き受けた!

 ミミは急いで邸に戻り、事情を簡単に説明した手紙を走り書きし、邸の主にイザヤールに渡してくれるよう託して、アギロホイッスルを吹いて「あまつゆのいと」の材料集めに出発した。
 幸い「きよめの水」はたくさん落ちていたし、こちらは道具袋にかなりの手持ちもあったが、問題は「まだらくもいと」だった。拾い集めただけではまだ少なそうだ。ミミはセントシュタイン城近くでかつ「ボーンスパイダ」が比較的浅い層に居る洞窟の宝の地図を引っ張り出して、ボーンスパイダからまだらくもいとを集める決心をした。
 まだらくもいとが急ぎでたくさん必要と聞いて、夕食前時の忙しい時間にもかかわらず、宿屋メンバーも協力してくれた。こうして皆でかなりの数のボーンスパイダと戦ったり「ぬすむ」コマンドをしていると、同じフロアに、他にも冒険者が居ることに気が付いた。とても見覚えのある、バトルマスターが。
「イザヤール様!」ミミは驚いて声を上げた。「どうしてこちらに?!」
「おまえの手紙を読んだ後庭園に行ったら、金色の虫に会って、まだらくもいと集めを懇願されてな」そう答えて彼は微笑んだ。「地図の写しを持っていてよかった」
 こうしてたくさんのまだらくもいとが集まり、カマエルも奮闘し、あまつゆのいとがかなりの量出来上がった。

 ミミが今度はイザヤールも一緒に先ほどの庭園の隅に戻ると、黄昏の淡い光の中、小川越しに、翡翠色の虫と金色の虫が互いに見つめ合っているのが見えた。互いに希望と絶望が入り交じっているような様子だったが、ミミたちの姿を認めると、希望に変わった。
「これで足りるといいけれど」
 そう言ってミミがあまつゆのいとを差し出すと、青虫はさっそくせっせと編み始めた。対岸で金色の虫も、イザヤールの差し出したあまつゆのいとを急いで編んだ。編みながら何度も、ありがとう、と礼を繰り返した。
 星明かりが輝き出した頃、あまつゆのいとで作った橋は完成した。今夜は鳥の代わりにミミが繋いでやった。虫たちは初めはおずおずと、だがやがてスピードを上げて橋を歩き、真ん中で翡翠色と金色が抱き合うように絡み合ったのを見届けてから、ミミとイザヤールは微笑んで頷き合って静かにその場を離れた。
 邸の方に戻りながら、イザヤールが呟いた。
「ここの主も奥方も、まさか自分たちの庭園に、罰で呪いを受けた妖精たちが居るとは、夢にも思うまいな」
「そうですね。でも、何かを感じて、あの場所は敢えて手を加えていない、そんな気がします。こんなにすてきな庭園の持ち主ですもの」
 ミミが瞳を輝かせてそう答えると、イザヤールも楽しそうに笑って頷いた。

 翌日になって、サンディが「ネイル武者修行」から帰ってきた。そして、ミミから罰を受けた妖精の恋人たちの話を聞き、驚いたり、腹を立てたりした。
「ヤだ、仕事ちょっとサボったくらいでそんな厳罰するなんて、そこの妖精王ひどくない?王様権力のらんよーもいいトコよ!おねーちゃんに言って、ちょいシメちゃおーかな」
「サンディ、セレシア様に言いつけるのも、『女神の妹権力』の濫用ではないのか?」
 イザヤールが少し眉をひそめると、サンディはいくらかムキになって羽をぱたぱたさせた。
「だってさ~、カワイソーじゃん、一年に一度しか傍に居られないって」
 まあまあ、とミミがなだめようとしたところへ、開いていた窓から鳥が飛び込んできて、何かをくるんだ葉っぱを落として、すぐに飛び去った。驚きながらミミが葉の包みを拾い上げると、中から「まもりのたね」が転がり出て、葉っぱには懸命にかじったりして刻んだらしい、文章が彫り込んであった。
『あなた方のおかげで、今年も無事橋の上で逢うことができました。ありがとう。ささやかなお礼です。橋にしたあまつゆのいとが所定の量たまったら許してくれると、王様は言ってくれました。その日も遠くないでしょう。本当にありがとう』
 よかった、とミミは呟き、イザヤールとサンディにも手紙を見せ、にっこり笑った。そしてミミは、イザヤールの肩に頭をもたせかけ、イザヤールはそんな彼女の髪を優しくなでた。
「またイチャつく~。妖精のノロイかけちゃうワヨ」
 サンディがからかうと、イザヤールはいたずらっぽく笑って答えた。
「我々は一応、守り人の使命を果たしているから、罰を受ける言われはないぞ。なあ、ミミ」
「はい、イザヤール様」
 ミミも再びにっこり笑う。んも~、と言いながらも、やがてサンディも楽しそうに笑った。〈了〉

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