天使界時代、いつものように秘めた想いで師弟でうだうだ悩むの、イザ→←女主話。要約すると、とげを抜いてもらう話ですw今回、女主の「痛いのキライ」性質が如実に表れております。とげの痛みって、たいしたことなくても、何か落ち着かない感じがします。
平和な天使界でも、薬草類管理は大切な仕事だ。怪我や病気から人間たちを助ける為や、魔物と戦って負傷することのある守護天使たちの為に、日々効き目のある草の研究が勧められている。
今日見習い天使ミミは、やはり見習い天使である友人たちと一緒に、香草や薬草の保管の手伝いをしていた。複雑な調合はできないが、保存の為に乾燥してある草を粉末にしたり、香りのいい草を束にしたりするくらいなら、見習い天使でも充分手助けできる。
ハーブ類のいい香りに包まれながら、ミミは楽しげに数々の草を種類ごとに分類して束にしていた。こうしていい香りの草に触れるのも好きなのだ。薬草園の管理をする上級天使が、薬草を大量に煮詰めてエキスにすると、更に傷の治りに効くのだと教えてくれた。こういう知識を得られることも、とても楽しい。
しかし見習い天使全員がミミのように考えている訳ではなく。単調な作業に飽きてあくびをしたり、こっそりおしゃべりを始めたりするのも、当然の成り行きと言えた。
ひそひそ話題はやがて、見習い天使たちの師匠自慢へと移った。ミミは作業に夢中になっていてあまり聞いていなかった。ちょうどそのとき少々毒性のある草を束にしていて、慎重に指を動かしていたからだ。粉にして撒いておけば、その僅かな毒性が、虫除け効果があるのだと言う。
「ミミのところのお師匠様はどうなの?」
急に話を振られて、ミミは驚いて手に持っていた草の束を取り落としそうになった。それで慌てて束を握りしめた。そのとき一瞬、右手の薬指に、ちくりとした痛みを覚えたが、慌てすぎていて、気に留めなかった。
「ご、ごめん、何?」
「だからさ、ミミのとこのお師匠様はどうなの?でもイザヤール様だもんね、ちょっと怖そう・・・」
お師匠様自慢をしていたらしいとミミもようやく気が付いて、思わず答えた。
「イザヤール様、とっても優しいもの。怖くなんかないんだから」
ムキになってしまったとミミは顔を赤らめうつむいたが、そのとき、運よくと言うか、薬草園担当の上級天使の軽い叱責が飛んだ。
「ほらほら、口ばかりでなく手も動かす!」
これで見習い天使たち全員飛び上がって慌て、直立不動で作業に戻った。
作業を終えて、剣術特訓をしようとイザヤールの部屋に向かったミミは、ふと指の疼きに気付いた。右手の薬指がずきずきとする。見ると、そこに小さなとげが刺さっていた。
小さいが、かなり深く刺さっていて、とても自然に抜けそうもない。しかし、とげ抜きを使って抜くときのことを思うと、ミミは怖くて身を震わせた。うまく抜けなくてもっと痛くなったらどうしよう。
そして、抜くときに手が震えてちくちくと酷い痛みに遭うことを思うと、更に身がすくんだ。きっと震えてしまうに違いない。そうしたら、とげが指の中で意地悪く動いて、余計に痛くするのだろう。それを思うだけで、もう彼女の目には、うっすらと涙が浮かぶ。
かと言って、このまま放っておいて、今のこのずきずきが続くのも耐え難かった。気を紛らすにはこのずきずきは、あまりに強すぎた。鼓動の度に、痛くなっていく気がする。
睫毛に涙を溜めて指を見つめていたら、いつの間にかイザヤールの部屋の前に着いていた。ノックをしようとしたら、後ろから声をかけられた。
「ミミ、どうした?」
こちらも今ちょうど部屋に戻ってきた、イザヤールだった。振り返って見上げるミミの涙目と、震える指を見て、彼は目を見開いた。そして、呟いた。
「とりあえず、中に入りなさい」
部屋に入ると、イザヤールは再び呟いた。
「どうした?」
ミミはうつむいた。小さなとげを刺したくらいで涙目になってしまうなんて、情けなくて言えない。優秀な守護天使の弟子失格だ。右手を隠すように後ろにやると、イザヤールはそっと近寄り、静かな声で命じた。
「見せなさい」
ミミが反射的におずおずと手を差し出すと、彼は優しくその手を取って、見つめた。そして、薬指のとげを見つけた。
なるほど。イザヤールは内心呟いた。ミミは、痛みが極度に苦手だ。今も、さぞかし痛い思いをしているだろう。いやむしろ、痛みより痛いかもしれないという恐怖にさぞかし怯えているのだろう。
彼は戸棚を開けて、とげ抜きと薬草と清潔な布地を用意した。そして、ミミを椅子に座らせて、その隣に腰かけた。
「すぐ済むからな」
そう囁くと、再び彼女の右手を取り、とげ抜きを薬指に当てた。そのひんやりした感触だけで、思わずミミはぎゅっと目を閉じた。だが、目を閉じたら、自分の手を優しく掴むイザヤールの手のあたたかさにふいに気付いた。
(イザヤール様の手が、私の手に触れてる・・・)
そう意識した途端、痛みの恐怖は薄らいだ。代わりに、心拍数が一気に上がった。心臓の音が、手を通して聞こえてしまいそう。今度は、それに怯え、だが一方で、彼の手の感触に陶酔した。
イザヤールは、素早くとげを抜いたが、幹部が少し腫れていることに気が付いて眉をひそめた。雑菌が入ったのか、それともとげに毒性があったのか。とげの抜けた痕からは、うっすらと血がにじんでいる。
今すぐ血を少し吸い出してやれば、腫れはすぐ引くだろう。そう思ってミミの手を持ち上げかけて、彼は唇を噛んでその手を止めた。
白くて華奢で、先は綺麗な薔薇色の、ミミの指。それを唇にあてて、ただ治療だけで済ませられる自信がなかった。自制心が崩れていきそうで、辛かった。
(なんてことを。ミミは痛い思いをしているのに・・・そんなことを考えている場合ではないというのに・・・)
彼は眉をひそめながら、薬草と毒消し草を合わせてとげを抜いた痕に貼り、細い包帯で固定した。
許されぬ想いを抱いているのでなければ、何のためらいもなく、すぐに毒を吸い出してやれるのに。・・・毒消し草が効き目が出るまで、疼きは続くだろう。すまない、ミミ。決して口にできない謝罪を心の中で呟いて、イザヤールはゆっくりと包帯を結んだ。
「終わったぞ」
イザヤールの声で我に返り、ミミは閉じていた目を開いた。
「ありがとうございました。もう、痛くないです」
イザヤールの手を意識してから、痛みのことを忘れていた。それくらい、彼の手の感触に酔っていた。・・・そんなことを知られたら。許されない想いも、知られてしまう。ミミは指先の包帯に視線を落とした。イザヤール様は、治療してくれただけなのに。私は・・・。
互いの手に触れられた幸せ感と、しかしその幸せを感じることへの罪悪感が、二人の胸に巣食う。その罪悪感は、小さな、だがいつまでも疼き続ける、刺。〈了〉
平和な天使界でも、薬草類管理は大切な仕事だ。怪我や病気から人間たちを助ける為や、魔物と戦って負傷することのある守護天使たちの為に、日々効き目のある草の研究が勧められている。
今日見習い天使ミミは、やはり見習い天使である友人たちと一緒に、香草や薬草の保管の手伝いをしていた。複雑な調合はできないが、保存の為に乾燥してある草を粉末にしたり、香りのいい草を束にしたりするくらいなら、見習い天使でも充分手助けできる。
ハーブ類のいい香りに包まれながら、ミミは楽しげに数々の草を種類ごとに分類して束にしていた。こうしていい香りの草に触れるのも好きなのだ。薬草園の管理をする上級天使が、薬草を大量に煮詰めてエキスにすると、更に傷の治りに効くのだと教えてくれた。こういう知識を得られることも、とても楽しい。
しかし見習い天使全員がミミのように考えている訳ではなく。単調な作業に飽きてあくびをしたり、こっそりおしゃべりを始めたりするのも、当然の成り行きと言えた。
ひそひそ話題はやがて、見習い天使たちの師匠自慢へと移った。ミミは作業に夢中になっていてあまり聞いていなかった。ちょうどそのとき少々毒性のある草を束にしていて、慎重に指を動かしていたからだ。粉にして撒いておけば、その僅かな毒性が、虫除け効果があるのだと言う。
「ミミのところのお師匠様はどうなの?」
急に話を振られて、ミミは驚いて手に持っていた草の束を取り落としそうになった。それで慌てて束を握りしめた。そのとき一瞬、右手の薬指に、ちくりとした痛みを覚えたが、慌てすぎていて、気に留めなかった。
「ご、ごめん、何?」
「だからさ、ミミのとこのお師匠様はどうなの?でもイザヤール様だもんね、ちょっと怖そう・・・」
お師匠様自慢をしていたらしいとミミもようやく気が付いて、思わず答えた。
「イザヤール様、とっても優しいもの。怖くなんかないんだから」
ムキになってしまったとミミは顔を赤らめうつむいたが、そのとき、運よくと言うか、薬草園担当の上級天使の軽い叱責が飛んだ。
「ほらほら、口ばかりでなく手も動かす!」
これで見習い天使たち全員飛び上がって慌て、直立不動で作業に戻った。
作業を終えて、剣術特訓をしようとイザヤールの部屋に向かったミミは、ふと指の疼きに気付いた。右手の薬指がずきずきとする。見ると、そこに小さなとげが刺さっていた。
小さいが、かなり深く刺さっていて、とても自然に抜けそうもない。しかし、とげ抜きを使って抜くときのことを思うと、ミミは怖くて身を震わせた。うまく抜けなくてもっと痛くなったらどうしよう。
そして、抜くときに手が震えてちくちくと酷い痛みに遭うことを思うと、更に身がすくんだ。きっと震えてしまうに違いない。そうしたら、とげが指の中で意地悪く動いて、余計に痛くするのだろう。それを思うだけで、もう彼女の目には、うっすらと涙が浮かぶ。
かと言って、このまま放っておいて、今のこのずきずきが続くのも耐え難かった。気を紛らすにはこのずきずきは、あまりに強すぎた。鼓動の度に、痛くなっていく気がする。
睫毛に涙を溜めて指を見つめていたら、いつの間にかイザヤールの部屋の前に着いていた。ノックをしようとしたら、後ろから声をかけられた。
「ミミ、どうした?」
こちらも今ちょうど部屋に戻ってきた、イザヤールだった。振り返って見上げるミミの涙目と、震える指を見て、彼は目を見開いた。そして、呟いた。
「とりあえず、中に入りなさい」
部屋に入ると、イザヤールは再び呟いた。
「どうした?」
ミミはうつむいた。小さなとげを刺したくらいで涙目になってしまうなんて、情けなくて言えない。優秀な守護天使の弟子失格だ。右手を隠すように後ろにやると、イザヤールはそっと近寄り、静かな声で命じた。
「見せなさい」
ミミが反射的におずおずと手を差し出すと、彼は優しくその手を取って、見つめた。そして、薬指のとげを見つけた。
なるほど。イザヤールは内心呟いた。ミミは、痛みが極度に苦手だ。今も、さぞかし痛い思いをしているだろう。いやむしろ、痛みより痛いかもしれないという恐怖にさぞかし怯えているのだろう。
彼は戸棚を開けて、とげ抜きと薬草と清潔な布地を用意した。そして、ミミを椅子に座らせて、その隣に腰かけた。
「すぐ済むからな」
そう囁くと、再び彼女の右手を取り、とげ抜きを薬指に当てた。そのひんやりした感触だけで、思わずミミはぎゅっと目を閉じた。だが、目を閉じたら、自分の手を優しく掴むイザヤールの手のあたたかさにふいに気付いた。
(イザヤール様の手が、私の手に触れてる・・・)
そう意識した途端、痛みの恐怖は薄らいだ。代わりに、心拍数が一気に上がった。心臓の音が、手を通して聞こえてしまいそう。今度は、それに怯え、だが一方で、彼の手の感触に陶酔した。
イザヤールは、素早くとげを抜いたが、幹部が少し腫れていることに気が付いて眉をひそめた。雑菌が入ったのか、それともとげに毒性があったのか。とげの抜けた痕からは、うっすらと血がにじんでいる。
今すぐ血を少し吸い出してやれば、腫れはすぐ引くだろう。そう思ってミミの手を持ち上げかけて、彼は唇を噛んでその手を止めた。
白くて華奢で、先は綺麗な薔薇色の、ミミの指。それを唇にあてて、ただ治療だけで済ませられる自信がなかった。自制心が崩れていきそうで、辛かった。
(なんてことを。ミミは痛い思いをしているのに・・・そんなことを考えている場合ではないというのに・・・)
彼は眉をひそめながら、薬草と毒消し草を合わせてとげを抜いた痕に貼り、細い包帯で固定した。
許されぬ想いを抱いているのでなければ、何のためらいもなく、すぐに毒を吸い出してやれるのに。・・・毒消し草が効き目が出るまで、疼きは続くだろう。すまない、ミミ。決して口にできない謝罪を心の中で呟いて、イザヤールはゆっくりと包帯を結んだ。
「終わったぞ」
イザヤールの声で我に返り、ミミは閉じていた目を開いた。
「ありがとうございました。もう、痛くないです」
イザヤールの手を意識してから、痛みのことを忘れていた。それくらい、彼の手の感触に酔っていた。・・・そんなことを知られたら。許されない想いも、知られてしまう。ミミは指先の包帯に視線を落とした。イザヤール様は、治療してくれただけなのに。私は・・・。
互いの手に触れられた幸せ感と、しかしその幸せを感じることへの罪悪感が、二人の胸に巣食う。その罪悪感は、小さな、だがいつまでも疼き続ける、刺。〈了〉
お互い、この時、既に両想いなのにお互い気付いていないって切ない。真面目な二人と言うこともあり、もし一歩踏み出せば師弟としての関係も崩れ一緒にいれなくなってしまうかもしれない…
クエスト163後のバカップルと言いたくなる程ラブラブなイザミミもいいけどこういう切ないイザミミも大好きです。
うちの師匠は完全に遊ばれマスコット(!?)なので…特にクエスト163後はギャグ要員になってしまいます(笑)基本、女主と男二人に遊ばれています。愛ゆえに…
こんばんは☆うわ、まさかの刺で負傷でいらっしゃいましたか!しかも利き手じゃない方で抜くってたいへんで痛そうです(汗)
くれぐれもお大事に、ベホマズン!
当サイトは、時系列を行ったり来たり好き放題で書いているので、バカップルと忍ぶ恋が混在しております。どちらもお気に召して頂いて嬉しいです♪
そちらの師匠は愛ゆえの!いじられキャラでいらっしゃるのですよね☆よかった~、師匠嫌われてなくて♪
サイトの数だけ様々なイザヤール様・・・同じキャラでもそれぞれ違う、だから楽しいですね☆