セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

呪術師の娘(前編)

2013年12月07日 03時48分34秒 | クエスト184以降
今週もなんと前後編になってしまいましたの捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。最近どうも前フリが長くてすみません。さて今回は、予告記事でも書きましたがスペインの民話をベースにしてみた呪い解きクエストですが、類話はあちこちにあるようです(イギリスの妖精譚とか)。よって特にスペイン感出てません(笑)呪い解きって「異端」から「救う」ことと解釈される行為かもしれませんが、本当は異端正当関係なく苦しむ人を純粋に救う行為だといいな、なんて思っております。

 クリスマスシーズンになり、セントシュタイン城下町のあちこちにも、それぞれ趣向を凝らしたクリスマスツリーが飾られ始めた。リッカの宿屋にもロビーはもちろん、食堂や図書室、冒険者の控えの間にもそれぞれ心尽くしのツリーが飾られ、そして各部屋のテーブルの上にも、小さな可愛らしいツリーが置かれている。
 今年はロビーのツリーは、スタッフ一同で流行のアイシングクッキーをたくさん作って飾っている。イザヤールが相変わらず妙な職人気質を発揮して、クリスマスモチーフの他にスライム属やモーモンなどの人気モンスターのクッキーも作っていた。定番のステッキ型キャンディや銀紙にくるまれたボンボン等も下げられていて、クリスマス当日に宿泊客に配られる予定だ。
 そんな折、ミミはフィオーネ姫から、彼女の部屋に飾るクリスマスツリーの材料の調達を頼まれた。王女だからどんな贅沢なツリーも作らせることができそうだが、そういう豪華なものは城のエントランスに置いて民や観光客に自由に見物して楽しんでもらいたいから、自室のものはささやかでいいのだと彼女は言った。
「ただ、申し訳ございませんが、調達になかなか手間のかかる木をお願いしたいのです」フィオーネ姫はミミに言った。「ルディアノの『ほろびの森』から、小さな樅の若木を鉢植えにして持って来て頂きたいの。そのままにしていたら枯れてしまいそうな小さな木を、助けるつもりで選んできて頂けたら嬉しいですわ」
 フィオーネ姫らしい優しさだとミミは思い、承諾してさっそく「ほろびの森」に出かけることにした。ルディアノの地には、エラフィタから天の箱舟を使えばすぐに到着するし、帰りはルーラで帰ってくればいい。どんなに時間がかかっても夕食までには戻れるだろうと踏んで、今日はたまたまラヴィエルと出かけて留守にしているイザヤールに置き手紙を残し、張り切って出発した。

 エラフィタから天の箱舟に乗ると、サンディはちょうど、自分の爪どころかアギロの片手の爪まで実験台にして、クリスマス仕様の新しいネイルの開発に勤しんでいた。
「え?ほろびの森にクリスマスツリーを取りに行くって?やだ、ネイルする前に言ってよね~!う~ん、それに、あそこの沼地のガス、超テンション下がるんですケド」
 そう言って渋るサンディ、マニキュアの匂いだってテンション下がるぜと側でぼやくアギロ。
「でも、木を取りに行くだけだしステルスも使うから、サンディは着いてこなくて大丈夫よ」
 ミミはにっこり笑って言い、そう?じゃあお言葉に甘えて・・・とサンディは、さっそくまた別のクリスマスデザインのネイルを、今度はアギロの残った方の手に施し始めたのであった。
 ミミは地上に降りると、樅のありそうな場所を探してほろびの森の中を歩き始めた。元々ルディアノには針葉樹は少ないが、それでも多少はあったと記憶している。
 記憶を頼りに森を歩いていったが、あいにく樅の木ではなかった。ルディアノ城からだいぶ離れ、樅がいくらか群生している場所を見つけた頃には、冬の短い日は沈んでしまい、月が白く輝き始めていた。夕食にはまだ間があるが、ただでさえ見通しの悪いこの森、日が沈めば視界がますます悪くなる。ミミは少し気が急いて思わず空を見上げた。
 ここの樅の木たちは、大概は瘴気にも負けず伸びていたが、一本だけ小さくて弱々しい木があった。ミミはまずその樅の根元に聖水をかけてその辺りの土を浄化した。それからスコップを取り出し(いたずらもぐら印の優れものである)、根を傷つけないようそっと掘り起こそうとした。
 するとそのとき、背後に誰かが居る気配がした。先ほどまでは感じなかった気配に、ミミがはっとして振り返ると、いつの間に現れたのか、白い服をまとった黒髪の美しい女性が立っていた。彼女に邪悪さは全く感じなかったが、めったに人が訪れないこの瘴気だらけの森に、この場にふさわしくない美女が居ることに、警戒心を抱いた。
 だが、ミミが口を開く前に、女性の方から話しかけてきた。
「滅亡した人の訪れぬこの地で、あなたのような心が清らかな方にお会いできるなんて。神様は哀れな異教徒の娘の魂も、お見捨てにならなかったということですのね」
 彼女の声は深く姿同様美しかったが、どこか儚く物寂しげに聞こえた。
「あなたは・・・」
 問いというより半ば断定でミミは呟いた。女性は見た目こそ常の人間のようにはっきりと見えるものの、亡霊だと気付いたからだ。
「ええ、私は生きている人間ではありません。でもどうか、忌み嫌わず話を聞いてくださいませ。私は、元々はルディアノの民ではありません。邪神を信奉する故に世界をさすらうことを運命付けられた、流浪の民の娘でございます」
 そう言われてミミは、女性の肌が美しくも浅黒いことに気が付いた。それは、ミミが今まで会ったルディアノの血を引く者たちの誰にもない特徴だった。北の地だからか、ルディアノの子孫たちの肌色は、程度の差はあれ大概白かった。
「私の父は」女性は悲しげにすうと目を細めて続けた。「魔神を崇め信奉する呪術師であり、流浪の民の長でもありました。遠い昔、ここルディアノに流れ着いた私たち民は、魔神の教えを広めようとして、ルディアノの騎士たちとしばしば戦になりました。
そんな戦いの最中、私はルディアノの騎士の一人に捕らえられ、捕虜となりました。でも父は、民の長として信者として、肉親よりも魔神を選び、私を見捨てて、民を連れて何処かへと去っていきました。
騎士はそんな私を哀れみ、やがて私を愛するようになり、そして、私も・・・。私は、自分たちの神である魔神も、肉親も、民も全て捨てて、私を捕らえた騎士の妻となりました。・・・父が先に、私のことを見捨てたのですから、私だって・・・そんな思いもありましたことは否定しません。
生きている間は本当に幸せでした!・・・でも、その幸せは、長くは続かなかった。私は産褥熱で命を落とし、そして・・・。死んだ後、ルディアノの守護天使様の救いの手が届く前に、魔神の命を受けた父の亡霊が、私に恐ろしい呪いをかけたのです」
 女性はここで、額に着けていたサークレットを外した。すると、サークレットの下に隠されていた広く滑らかな額には、奇妙な文字のようなものが刻まれていた。見ているだけで嫌悪感を覚えるような、嫌な形をしている文様だった。
「父も民の大部分も、長い戦や放浪で命を落としておりました。しかしそれでも魔神への信仰が失われることはなく、むしろ信仰は増していたのです。
父は、民の裏切り者である私に、この呪われた象形文字を刻むことで、私を天国へも煉獄へも行けなくしました・・・。この呪いで、聖なる結界がある、町や集落にも入れなくなりました。呪いは、ある試練を乗り越えられる勇気と優しさを持った、心清らかな娘にしか解けないと告げて、父の魂は魔神の元へと去っていきました。
こうして長い年月私は・・・愛する人や我が子の居る天に行くことも叶わないまま、皮肉にも死んでからもこの地をさすらうことしかできませんでした。試練を越えられる娘は現れず、その間に魔神は、長い長い年月の後、ついに私の愛する人の国ルディアノも滅ぼし、私の望みはほぼ絶たれたと思っておりました・・・今宵あなたと会えるまでは。魔神はルディアノを滅ぼした後、何者かに封印されたようですが、私の呪いはそれでも解けることはなかったのですから」
 ミミは女性の話にじっと聞き入っていて、その過酷な運命に胸を痛めた。ルディアノの地はしばしば訪れたが、城から離れたこの場所を訪れることはめったになかった。こんなことが起きていたと知っていたなら。もっと早く、この辺りに来て彼女の手助けをできたのではないかと悔やんだ。メリア姫やレオコーン、そしてイシュダルよりもずっと長い間、苦しんでいた魂が居たのだ。
 ミミは、濃い紫の瞳の陰影を、決意で更に濃くして、静かな、だが力強さを秘めた声で告げた。
「私、必ずあなたの呪いを解いてみせます。試練の内容を、教えてください」
 ミミはクエスト「呪術師の娘」を引き受けた!

 女性は、ミミの目をじっと見つめてから、すがるような眼差しをして言った。
「試練そのものは、とても単純なものです。でも、勇気が欠けて果たせないか、優しさが邪魔をして果たせないか、どちらも起こりうるものなのです。優しい方、勇猛な方はいらっしゃいますが、両方併せ持つ方は・・・。ああ、あなたが本当に、そんな方でいらっしゃいますように!」
 ミミは唇を軽く引き結んだ。苦手な痛いことであろうと、難しいことであろうと、諦めず耐え抜く覚悟を決めていた。
「私、必ずやり遂げてみせます。さあ、私がすることを、教えてください」
 ミミが改めて促すと、女性は頷いて言った。
「これから、あなたと私は、この近くにある洞窟に入ります。万が一誰かの邪魔が入らないようにする為です。私の手を握って、何が起ころうと決して離さないでください。その間祈りの言葉を唱え続けてください。誰かに呼ばれても、決して返事をせず、祈り続けてください」
「はい。いつまでそうしていればいいのですか?」
 すると女性は、悲しげな目をして答えた。
「私は、試練の間様々な物に姿を変えます。おぞましいものはもちろん、あなたの心を乱す様々なものに変化するでしょう。あなたがそれらに決して手を離さず耐え抜いたら、私はやがて元の姿に戻ります。そうなったら、額のこの呪いの文字にキスをしてください。そうすれば、呪いは解けます」
「わかりました」
「でも」女性はかすかに震える声で呟いた。「お願いして今さらですけれど・・・あなたに本当に苦しい思いをさせるかもしれません・・・。本当に、ごめんなさい・・・。あなたが途中で耐えられななったら、すぐに止めてください。そうしてももちろん私は、あなたを恨んだりなど致しませんわ」
 ミミはかすかに微笑んで首を振り、言った。
「では、洞窟に案内してくださいますか」
 こうして二人は、洞窟の中へと入っていった。

 一方こちらは、セントシュタイン、リッカの宿屋。冷めないよう太陽の石で保温したシチューポットを見つめながら、リッカが心配そうに呟いた。
「ミミ、遅いね。手紙には、夕食までに戻るって書いてあったんでしょ?」
「・・・ああ」
 イザヤールは返答し、手紙に視線を落とした。淡々とした声で、僅かにひそめられた眉以外は表情に動きは無いが、その方がかえって彼の心配の深さを表していた。
「・・・フィオーネ姫のところにもまだ来てないんだよね」
「・・・ああ」
 遅いのはてっきりフィオーネ姫に引き留められているからだと思っていた。だが、先ほどセントシュタイン城に行って確認したところ、ミミはまだ来ていないことがわかった。
 では天の箱舟に居るのかもしれないが、今日アギロホイッスルはミミが持っている。ホイッスルが無ければ天の箱舟を呼べないから、今のイザヤールに確認の術は無い。
「ルディアノに、ちょっと様子を見てくる。入れ違いになるかもしれないから、リッカ、ミミが帰ったら先に夕食を済ませて、部屋で待っているよう言っておいてくれ」
 そう言ってイザヤールは、立ち上がり、ひらりとマントを羽織って外に出て、とりあえずエラフィタに向けてキメラの翼を放り投げた。〈続く〉
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