セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

呪術師の娘(後編)

2013年12月07日 23時57分36秒 | クエスト184以降
追加クエストもどき後編。しかし収まりきらなかったので、エピローグに続きます。前回のあらすじ、メリア姫の頃より更に昔の、ルディアノの騎士と結婚した魔神を信奉する民の女性は、魔神と父に叛いたことで呪いをかけられ、その呪いを解く試練に耐えられる娘を待ち続けていた。ミミは彼女を救う決意をし、試練を受けることに。一方ミミの帰りが遅いことを心配したイザヤールは、ほろびの森に向かう。握りしめた手が次々変化していくところがこの話のメインでございます。

 ミミと、魔神を崇める民の娘の亡霊は、地底湖をその一部に湛えている洞窟の中に居た。そこは、ほろびの森の地下とは思えないほど水が清らかで、静かな場所だった。岩のところどころから澄んだ水が流れ落ち、小さなせせらぎの音を作っている。岩肌はやわらかな緑色の苔に被われ、雫の玉がところどころで星のように光っていた。
「ルディアノの地が滅び、この地の上が瘴気に覆われていてもなお、ここ洞内はずっと変わりませんでした。星がたくさん流れた夜を経て、魔神の気配を一切感じなくなってからは、いっそう穏やかで美しい洞窟となった気がします」
 彼女は言って、かすかに微笑んだ。
「綺麗な場所・・・。きっと、ルディアノの民の子孫が、この国を建て直そうとしているのが影響しているのだと思います。みんなで少しずつ、地の浄化もしているから」
 ミミが答えると、女性はいっそう優しく微笑んだ。
「嬉しいですわ。私の愛する人の国が、また甦るかもしれないなんて・・・いつか、ルディアノの地全部が、この洞窟のようになってくれたら・・・」
 それから彼女は、地底湖の畔に立つと、ミミにすらりとした手を差し伸べ、囁いた。
「それでは、お願い致します。・・・何があっても、私が何に変化しても、決して手を離さないでください・・・」

 一方イザヤールは、キメラの翼でエラフィタに到着すると、駆け足でルディアノ地方の方へと移動し始めた。すると、そんな彼の目の前に突然、可愛いピンク色の光の玉が立ちはだかり、くるりと回転して姿を変えた。
「サンディ!どうしてここに?!」
 それは、やはり全力疾走(この場合は飛行と言うべきか)で現れたらしく息を切らしているサンディだった。彼女は、苦しげに息を吐きながらようやくのことで説明した。
「新作ネイル完成したから、ミミに見てもらおって思って、アンタたちの部屋に行ったのよ。そしたら、もうとっくに帰ってるはずのミミが居なくて。
こりゃミミのコトだから絶対めんどくさいコトに巻き込まれたに決定って思ってさ~。しかも心配したイザヤールさんもルディアノに向かったってラヴィエルさんから聞いて、それでエラフィタから走るに間違いないよねって思って、箱舟ダッシュさせたワケ。
ドライブテク駆使したから、チョー疲れた~!さ、早く箱舟に乗って。いくらイザヤールさんでも、走るよりはずっと速いデショ」
「ありがとう、とても助かる。君がそんなに気が利くとは思わなかった」
「ちょっとナニそれ、言い方プチムカつくー!素直にありがとうだけでいーじゃん!・・・ま、テンチョーがエラフィタから行くんじゃねーかって教えてくれたんだケドね・・・」
 こうして箱舟のおかげでほろびの森には瞬く間に到着したが、もうすっかり夜で、ただでさえ視界が利きにくいこの地は、今や樅の木と普通の木の区別も覚束なかった。それでも、地道に探すしかない。
「手分けした方が早いよね。アタシはこっち探してみるから、イザヤールさんはあっちをお願い」
「わかった」
 サンディと別れると、イザヤールは瘴気漂うこの森の中を、淀んだ空気にもかかわらず走り続けて、ミミが居るかもしれないであろう樅の木の生えている場所を探した。
「ミミー!居たら返事をしなさいよー!」
 サンディが遠くで呼びかける声が、徐々に遠くなっていく。
 毒の沼地が、こぽこぽと音を立てているのが聞こえる。この辺りの魔物は、ミミの敵ではないし、慎重な彼女が沼にはまる筈もない。それでも悪い方に考えそうな己に腹が立って、イザヤールは唇を噛んだ。

 ミミは、差し出されたほっそりと美しい手を取り、しっかりと握りしめた。亡霊でも実体があるとはいえ、死者である女性の手は、辺りの岩壁よりも冷たく感じた。ミミは目蓋を閉じ、一心に祈りの言葉を唱え始めた。
「あたたかい・・・。生きている人は、こんなにもあたたかいのですね。忘れかけていましたわ・・・」
 そう呟く女性の声が、徐々に低くかすれて、不明瞭な喉音に変わっていく。そしてミミは、握りしめている女性の華奢な指が、骨が無くなったかのようにぐにゃりとし、気味悪く蠢くのを感じた。思わず閉じていた目を開くと、ミミが握りしめていたのは、美しい女性の手ではなく、目をぎょろりとさせたメーダの触手だった!
 ミミは思わずはっと息を飲んだが、手を離すどころかますますしっかりと握りしめて、祈り続けた。するとその間に、メーダは体をうねらせながら姿を変えていき、ミミの手の中の触手は、ウィングスネークの尻尾に変わった。ウィングスネークは牙を剥き、ミミに毒を吐きかけようとしたが、それでもミミは静かに祈りの言葉を呟き続け、決して手を緩めなかった。
 ウィングスネークは、しゅうしゅうと毒の息を吐きながら、また姿を変えていった。ミミの手の中の蛇の尻尾は、どろりと溶けた腐肉に変わっていく。つないだ手は、くさった死体のものになっていた。
 ミミは思わず身震いしたが、それでも手を離さない彼女の耳に、遠くからかすかに呼ぶ声が届いた。
「ミミー。ミミー!どこにいるのよー!」
 サンディの必死に呼ぶ声が聞こえる。心配をかけていると胸が痛んだが、返事をすることは禁じられている。ミミは無事を伝えたいのを堪えて、祈りの言葉を唱え続けた。やがてサンディは他の場所に行ったのか、呼ぶ声は聞こえなくなった。
 ふと気が付くと、ミミが握りしめているものは、おぞましい崩れた手から、硬くごつごつした木に変わっていた。その先端では、明明と火が燃え盛っている。手だった筈のものは、激しく燃える松明に変わっていた。松明の油は、柄を伝って垂れ落ち、それを伝って火も柄を焼き、ミミの手を焙り傷めた。焦がさんばかりの熱を感じながらも、ミミは歯を食い縛って松明を握り続けた。
「ミミ、ミミ、どこだ!居たら返事をしてくれ!」
 今度はイザヤールの声が聞こえてきた。ミミは、手を焼く痛みよりも強い心の痛みを感じながら、返事をせず懸命に堪えた。心の中で謝りながら、祈りの言葉を唱え続けた。

 その少し前。イザヤールは、ようやく樅の木が群生している場所を見つけた。ミミが居るかもしれないと、辺りをよく探すと、小さな木にミミの使っているスコップが立て掛けてあるのを見つけた。飛びつくようにそのスコップを拾い上げ、彼は声を限りに叫んだ。
「ミミ、ミミ、どこだ!居たら返事をしてくれ!」
 しかし返事は無く、彼の呼ぶ声は虚しく夜の闇に吸い込まれていくばかりだった。その声は実は彼女に届いているとは、知る由もない。
 スコップが置き去りにされていたことで、イザヤールの不安は更に増した。ミミなら大丈夫だ。そう信じる一方で、もしもたいへんなことに巻き込まれているのなら、手助けをできないことが辛く、もどかしいと思う。
 そのとき。彼は、急に強烈な睡魔に襲われた。抵抗する間もなく地面に崩れ折れる。
 意識が戻ると、イザヤールは自分が奇妙な場所に居ることを知り、跳ね起きた。巨大なガラス鉢の中に閉じ込められている。初めはそう思った。だが、ガラスのようなものの先の景色は、霧に覆われたように何も見えない。ミミの試練に利用される為に一時的に異空間に閉じ込められたのだが、もちろん彼にはそんなことはわからなかった。
 とにかくここから抜け出そうと剣を抜きガラス状に見える部分に斬りつけても、手応えはなく、そして・・・それどころか、どこからともなくゾンビ系モンスターが、次々と現れた!

 ミミは、目を閉じ歯を食い縛って祈り続けていたが、炎の熱を感じなくなって、思わず目を開いて、手にした物を見た。そして、思わず鋭く息を吸い込んだ。手にしていたのは、水を湛えた丸いガラス鉢、ミミが呼吸を乱したのは、滑り落とし手から離しそうなその形状と材質ゆえではなく、その湛えた水が水鏡となり、血の気の引く光景を映し出していたからだった。
 その光景は、イザヤールがたくさんの死霊系モンスターに囲まれ、戦っているというものだった。剣を振るい斬り続けていても、モンスターたちは次々に現れ続ける。包囲の輪は、じりじりと狭まっていく。
 この洞窟の外で囲まれているのか、否、これは幻で手を離させようとしているのだと言い聞かせて、ミミは祈りの言葉を唱え続けた。だが、幻だと言い聞かせても、震えと動揺は収まらない。すぐに探しに、助けに行きたい。目を閉じればこんな幻を見なくても済むが、ミミは水鏡から目を離せなかった。
 ああ、ミミは内心呟いた。イザヤール様が、これ以上危険な目に遭ったら。幻だろうとなんだろうと、私はこの手を離して、探しに行ってしまう・・・。このままでは・・・。どうしたら、いいの・・・。

 イザヤールは、倒しても倒しても現れ続ける魔物たちに次第に追い詰められていったが、それでも彼は、決して退こうとはしなかった。そんな彼に、どこからともなく声が聞こえてきた。
『おまえの愛しい者に助けを求めよ。そうすれば、楽になれる』
「どういうことだ?」
『おまえの愛しい者は、今のおまえの状態を見て、苦しんでいる。ひとこと、助けを求めよ。そうすれば、おまえはここから出ることができる。彼女の死ぬほどの不安を、取り除いてやれる』
 どこで見ているのかはわからないが、ミミが今の自分のこの危機的状況を見て、不安で苦しんでいる。それをイザヤールは理解した。だが。それならと、彼はふいに不敵な笑みを浮かべた。見ていてくれているのなら。不安を、取り除いてやればいい。助けを求めるのではなく、自らの力で危地を乗り越えれば。
 イザヤールはライトフォースを発動させ、そして更にテンションブーストを発動させた。そして、会心の一撃の、凄まじい威力のギガブレイクを放った!さすがのゾンビ系モンスターの大群も、この桁外れの一撃で全て消失し、それと同時にイザヤールはまた睡魔に襲われ、気が付くとサンディに揺り起こされていた。
「イザヤールさん、なにこんなとこで寝てんのヨ!風邪ひくわよ!」
 彼は、先ほどと同じ、スコップの立て掛けてある樅の木の根元に横たわっていた。夢を見ていたのか。首を傾げながらも、イザヤールはゆっくりと身を起こした。

 ミミは、水鏡の中のイザヤールが、彼を取り囲んでいた魔物を全て倒したのを見て、安堵の吐息をし、座り込んだ。その途端ガラスの鉢は元の女性の姿に戻り、ミミは急いで彼女の額の呪いの文字に唇を付けた。すると、呪いの文様はたちまち消え失せた。
「ありがとうございます」女性の亡霊は、晴れやかな顔で囁いた。「試練は終わり、私は父の呪いから、自由になることができました。・・・試練の為に、あなたの大切な方を巻き込んだこと、お許しください」
「ええっ、じゃあ映っていたのは、本当のイザヤール様・・・」
「ええ。でも、あなたの愛しい方は、あなたに不安を与えまいと、自らの力で魔を蹴散らし、あなたに試練をやり遂げさせた・・・。あなた方は、本当に素晴らしい方たちですわ」
「でも、私は・・・」ミミは目を伏せた。「イザヤール様が助けを求めていたらきっと・・・試練はやり遂げられなかったの・・・」
「けれど、そうはなりませんでしたもの」女性は微笑んだ。「本当に、本当にありがとうございます。これで、ようやく私は・・・愛しい人の傍らで、安らかに眠ることができます・・・ありがとう・・・」〈エピローグに続く〉
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