更新たいへん遅くなってすみませんの追加クエストもどき後編です。前回のあらすじ、命を何度も狙われる姫の警戒心の無さをどうにかする為にインテリクラウンを持ってきてくれと七人のドワーフたちに頼まれたミミとイザヤール。依頼自体は簡単だが・・・。仰々しいタイトルの割に相変わらずなオチかも(笑)
インテリクラウンを用意する為、ミミとイザヤールは一度セントシュタインのリッカの宿屋に戻ることにした。インテリクラウンは、錬金でしか作ることのできない、なかなか貴重な装備品ではあるし、その材料も常人なら手に入れるのが困難な物ばかりだ。しかしそこは、百戦錬磨の元守護天使師弟コンビである。
「現在装備品袋に入っているインテリクラウンは、最近リッカが愛用しているから、新しいのを作ろうと思います」
錬金マニアであるミミは、楽しそうにイザヤールに告げた。作るのは朝飯前だ。
「インテリクラウンは確か、『ちりょくのかぶと』と『インテリのうでわ』と『けんじゃのせいすい』で作ることができるな」
これまたすっかり錬金マニアであるイザヤールも、楽しげに答えた。
ちりょくのかぶとは、この前スライムマデュラが落としていった物があるし、インテリのうでわはエルシオン卿のクエストを何度も受けていくつも持っているし、けんじゃのせいすいも文字通り売るほどある。今回のクエストも、カマエルの所に行けばすぐに解決できそうだ・・・依頼されたアイテムに関しての話だが。
「でも、インテリクラウンはすぐに用意できても・・・何度も命を狙われているお姫様を、放っておくわけにはいかないから、そっちもなんとかしないと・・・」
濃い紫の瞳に力強い光を浮かべ、ミミが呟いた。
「そうだな。いくら用心したとしても、根本的な解決にはならないしな。・・・しかし、どうもまどろっこしいやり方なのが気にかかる。娘の美貌が憎いのなら、命を奪う間でもなく、他に方法がいくらでもありそうなものだが」
イザヤールも考え込んで眉を寄せた。
「人の美貌ってそんなに妬ましいものなのかな・・・綺麗な人を眺めているって楽しいのに・・・」
ミミが悲しげに言うと、サンディが肩をすくめた。
「ミミ、みんながアンタみたいなお人好しじゃないわよ~。自分よりキレイな人が居るのが悔しくてガマンならないってヒトも居んのよ」
「羨ましいと思うのはわかる気がするけれど・・・。サンディはどうなの?」
「アタシ?アタシは世界一イケてるからそーゆー妬みゴコロはよくわかんないわ~」
「そっか」
「ちょっとその肯定リアクション逆に恥ずかしいんですケド」
「そんなことより、早くカマエルの所に行かないか」
イザヤールが苦笑しながら口を挟んで、ミミとサンディはきまり悪そうに照れ笑いした。だが彼は、ミミの体にそっと腕を回して引き寄せ、彼女にだけ聞こえる声で囁いた。
「本来美貌に優劣など無くて、ただ好みかどうかの違いだと私は思っている。・・・いずれにしてもおまえは、私にとって誰よりも綺麗だ」
それを聞いてミミの頬はみるみる薔薇色に染まり、セントシュタインに向けて唱えたルーラの声が、ほんの少し乱れた。
カマエルに材料を入れて、インテリクラウンはあっという間にできあがった。ひと休みする間もなくミミたちは、依頼人のところにとんぼ返りした。
「おお早かったなあ。インテリクラウンは手に入ったかい?」
そう言われてミミがドワーフたちにインテリクラウンを渡すと、彼らは手を叩いて喜んだ。
「さすが!いかにも頭が良くなりそうな冠だなあ。じゃあさっそく姫にかぶせてみっか」
その当の姫である少女は、髪に飾るリボンをどれにしようか悩んでいる最中だったが、呼ばれて素直に、そして楽しげに出てきた。
「まあ、私に贈り物をくださるの?ティアラみたいで綺麗ねえ、嬉しいわ」
彼女は弾んだ声で言って、インテリクラウンを受け取って頭に載せようとした。だが・・・。
「あら?頭に合わないわ~。お返ししますわね」
どうやら装備できないようだ!まあ兜の一種であるこれを、お姫様に装備させる方が無理があるだろう。ドワーフたちはいっせいにがっくりと肩を落とした。
「こうなったら、現行犯で押さえた方が早くないか?姫が無事であることが知られたら、遅かれ早かれいずれまたやってくるのでは?」
イザヤールが言うと、ドワーフたちは頭を抱えた。
「でも、オイラたちは七人揃ってないと仕事で力を発揮できないから、姫を守っている間、仕事休みにしなきゃなんなくなるぞ、困ったなあ」
「僕たちの仕事の森の木の手入れができなくて、森が荒れ果てちまう」
「なああんたたち、しばらくの間、日中わしらが留守の間ここに通って姫を守ってくれないかい?」
「それは構いませんが」ミミは考え込みながら言った。「でも、誰かがついている間は、姿を現さないんじゃないですか?」
「あ、そーかあ・・・」
ドワーフたちはまた悩んだが、一人が何かを思いつきぽんっと手を打って言った。
「じゃあ悪いけど、隠れてこっそり見守ってくんないかい?お礼はもちろん、毎日おいしいお弁当つけるから」
いつやってくるのかわからない相手だけに、持久戦になりそうだ。お弁当はともかく、乗りかかった船とばかりに、ミミたちは少女のいわばボディーガード役を改めて引き受けた。
しかし、翌日。持久戦を覚悟し、夜明け頃、ドワーフたちが出かける前に小さな家にやってきたミミとイザヤールだったが、なんとその日のうちに犯人が現れた!
ドワーフたちは出かける前に、二人を部屋の様子が窺えるタンスの中に隠した。かなりぎゅうぎゅうだったが、ミミとイザヤールにとっては苦になるどころか、いつもよくしているような膝の上抱っこの幸せモードな状況であることはさておき。
「お二人とも、苦しくないですか~?」少女がタンスに向かって話しかける。
「お姫様、声かけちゃダメです、私たちが隠れているってナイショにしておかないと、犯人にわかってしまいます」ちょっと焦って返事をするミミ。
それから少女は部屋に花を飾ったり、のんびり刺繍をしたりしていたが、まだお昼にもならないうちに、窓をコツコツと叩く音がした。
「どなた?」
少女が問いかけると、外から低いくぐもった声で返事が聞こえた。
「菓子の行商です。『ごうかなクッキー』は如何?若いお嬢さんに大人気ですよ」
「クッキーは食べたいけど、お留守番の時は買い物しちゃダメって言われてますの」
少女の返答を聞いてミミとイザヤールは声を立てずによしよしと頷いた。ミミたちが居ない状況でこの返答では一人でいることのアピールになって危険だが、彼らがタンスに隠れている今日は、一人で留守番だと思わせた方が、もしこの行商人が少女の継母なら油断させることができるだろう。
「ではお味見だけでも如何?とってもおいしいですよ」
行商人の言葉に、少女は弾んだ声を上げた。
「本当に?嬉しいわ、ではお言葉に甘えて」
そこはお言葉に甘えちゃダメデショとミミの懐に居るサンディがツッコミを入れ、ミミとイザヤールも全く同感だった。昨日の今日で全然警戒しない辺り、人を信じきるいい子と言うべきか、忘れっぽいと言うべきか・・・。とにかく、もしもクッキーが毒入りだったりしたら危ないので、ミミとイザヤールは急いでタンスから飛び出した。
しかし一瞬遅かった。少女はクッキーを一口かじってしまい、たちまち床に倒れた。ミミは慌てて少女に駆け寄り、イザヤールは窓枠に手をかけひらりと飛んで、逃げようとした行商人の女を捕まえた。衣装やメイクで老けた変装をしているが、よくよく見ればクールな感じの美人のようだ。
ミミが今日も少女に「超ばんのうぐすり」を飲ませると、幸いなことに今回もばっちり効いて、少女はぱっちりと目を開けた。それを見て、行商人の女は呻くように呟いた。
「ああ、なんてこと、今回もしくじるなんて」
その声を聞いて少女は目を見開き、まじまじと行商人の女を見つめて叫んだ。
「あら?お義母様!・・・では今まで私の命を狙っていたのは、やっぱりお義母様なんですの?」
すると、少女の継母は、強く頭を振って否定した。
「違うわ!命を狙うなんて!ただ仮死状態にしたかっただけよ!」
「事情を聞かせてもらおうか」
彼女の腕を押さえているイザヤールが、お馴染みの淡々としているが迫力満点の声で囁くと、女はしょんぼりとうなだれて頷いた。
少女はもうすっかり元気だが念のためソファに寝かせ、ミミとイザヤールと少女の継母はテーブル周りの椅子に座った。
「どうしてこんなことを?」
ミミが尋ねると、継母はきっ、と顔を上げて答えた。
「この子に幸せな結婚をさせる為よ」
それと仮死状態にすることとどう繋がるのかとミミとイザヤールが首を傾げると、彼女は説明を始めた。
「この子は本当に綺麗でいい子なんだけど、この子の父親が際限無く甘やかすものだから、何もできない状態のまま年頃になってしまって。このままじゃ一生お嫁に行けないんじゃないかと、心配になったの。それでわざと辛くあたって、城から追い出したけど、もちろんこっそり見守るつもりだったのよ。外でちょっと苦労していろいろなスキルを身に付ければ、器量だけでなく姫として恥ずかしくない者になれますからね。
でもかくまったドワーフたちも散々この子を甘やかして、ここもあんまりに居心地良さそうで、この子ったら全然何もしなくて。これじゃあ城に連れ帰ってお見合いさせても、ちょっと喋っただけで頭が空っぽってわかられてしまって婚約に至らない。今どきの女性は綺麗なだけじゃダメなのよ。知性も教養も無いと。だから強行手段に出ることにしたのよ」
少女は自分のことを言われているという自覚があるのか無いのか、あっけらかんとした顔をしている。そういえば、今朝も朝食や弁当をドワーフたちが作っている間、このお姫様はすやすや熟睡していたのをミミたちは思い出した。継母はそんな少女を見て溜息をついてから、また説明を続けた。
「この子は喋らなければ本当に綺麗だから、仮死状態にしてガラスの棺に入れて飾っておけば、魔法にかけられたお姫様というシチュエーションも相まって、おっちょこちょいでロマンチストの王子が一目惚れする可能性が高いと考えたのよ。目星をつけた王子が森に狩りに行くよう仕向ける手配もしてたのに、こうして何度も失敗してしまって」
なんとも回りくどいことを・・・とミミとイザヤールは思ったが、彼女が血の繋がらない娘の為に必死だったことはよくわかった。昨日倒れていた姫をわざわざ室内に移動させたのも、寒い中倒れさせておきたくない思いやりと判明した。最後に、継母はぽつりと付け加えた。
「継母だから・・・あんな頭が空っぽな姫になってしまったって、言われたくなかったの。だって悔しいじゃない、この子は・・・本当に優しくて人を疑うことを知らない、世界一のいい子なんだから」
その言葉を聞いて少女は目を潤ませて呟いた。
「お義母様・・・」
そんな様子を見て、ミミはにっこり笑って言った。
「それで、充分ではありませんか。無理に不向きなことをしたりするより、お姫様のいいところを見てくれる人と幸せになってもらう、それでいいと私は思います」
「確かに、そうね・・・」
継母は頷き、立ち上がって義理の娘を優しく抱きしめ、娘も嬉しそうに彼女を抱きしめた。
夕方になって帰って来たドワーフたちにも事情を説明し、彼らも姫を甘やかしていたことを少々反省して、相談の結果少女は改めてここで本格的に花嫁修行をすることに決めた。
「いやあ、人騒がせな継母さんだけど、ほんとの悪いヒトじゃあなくてよかった!あんたたちのおかげで丸く納まったよ、ありがとな!」
ドワーフたちはお礼にと「天使のソーマ」をくれた!
帰り道、ミミはイザヤールと手を組んで森を歩きながら、楽しそうに呟いた。
「お姫様、幸せになれますよね、イザヤール様」
「たぶんな。多少ズレているが、ああして思ってくれる母が居れば」
結局事件でなくてよかったと、ミミは微笑んで、絡めた腕に幸せそうに頬をすり寄せた。〈了〉
インテリクラウンを用意する為、ミミとイザヤールは一度セントシュタインのリッカの宿屋に戻ることにした。インテリクラウンは、錬金でしか作ることのできない、なかなか貴重な装備品ではあるし、その材料も常人なら手に入れるのが困難な物ばかりだ。しかしそこは、百戦錬磨の元守護天使師弟コンビである。
「現在装備品袋に入っているインテリクラウンは、最近リッカが愛用しているから、新しいのを作ろうと思います」
錬金マニアであるミミは、楽しそうにイザヤールに告げた。作るのは朝飯前だ。
「インテリクラウンは確か、『ちりょくのかぶと』と『インテリのうでわ』と『けんじゃのせいすい』で作ることができるな」
これまたすっかり錬金マニアであるイザヤールも、楽しげに答えた。
ちりょくのかぶとは、この前スライムマデュラが落としていった物があるし、インテリのうでわはエルシオン卿のクエストを何度も受けていくつも持っているし、けんじゃのせいすいも文字通り売るほどある。今回のクエストも、カマエルの所に行けばすぐに解決できそうだ・・・依頼されたアイテムに関しての話だが。
「でも、インテリクラウンはすぐに用意できても・・・何度も命を狙われているお姫様を、放っておくわけにはいかないから、そっちもなんとかしないと・・・」
濃い紫の瞳に力強い光を浮かべ、ミミが呟いた。
「そうだな。いくら用心したとしても、根本的な解決にはならないしな。・・・しかし、どうもまどろっこしいやり方なのが気にかかる。娘の美貌が憎いのなら、命を奪う間でもなく、他に方法がいくらでもありそうなものだが」
イザヤールも考え込んで眉を寄せた。
「人の美貌ってそんなに妬ましいものなのかな・・・綺麗な人を眺めているって楽しいのに・・・」
ミミが悲しげに言うと、サンディが肩をすくめた。
「ミミ、みんながアンタみたいなお人好しじゃないわよ~。自分よりキレイな人が居るのが悔しくてガマンならないってヒトも居んのよ」
「羨ましいと思うのはわかる気がするけれど・・・。サンディはどうなの?」
「アタシ?アタシは世界一イケてるからそーゆー妬みゴコロはよくわかんないわ~」
「そっか」
「ちょっとその肯定リアクション逆に恥ずかしいんですケド」
「そんなことより、早くカマエルの所に行かないか」
イザヤールが苦笑しながら口を挟んで、ミミとサンディはきまり悪そうに照れ笑いした。だが彼は、ミミの体にそっと腕を回して引き寄せ、彼女にだけ聞こえる声で囁いた。
「本来美貌に優劣など無くて、ただ好みかどうかの違いだと私は思っている。・・・いずれにしてもおまえは、私にとって誰よりも綺麗だ」
それを聞いてミミの頬はみるみる薔薇色に染まり、セントシュタインに向けて唱えたルーラの声が、ほんの少し乱れた。
カマエルに材料を入れて、インテリクラウンはあっという間にできあがった。ひと休みする間もなくミミたちは、依頼人のところにとんぼ返りした。
「おお早かったなあ。インテリクラウンは手に入ったかい?」
そう言われてミミがドワーフたちにインテリクラウンを渡すと、彼らは手を叩いて喜んだ。
「さすが!いかにも頭が良くなりそうな冠だなあ。じゃあさっそく姫にかぶせてみっか」
その当の姫である少女は、髪に飾るリボンをどれにしようか悩んでいる最中だったが、呼ばれて素直に、そして楽しげに出てきた。
「まあ、私に贈り物をくださるの?ティアラみたいで綺麗ねえ、嬉しいわ」
彼女は弾んだ声で言って、インテリクラウンを受け取って頭に載せようとした。だが・・・。
「あら?頭に合わないわ~。お返ししますわね」
どうやら装備できないようだ!まあ兜の一種であるこれを、お姫様に装備させる方が無理があるだろう。ドワーフたちはいっせいにがっくりと肩を落とした。
「こうなったら、現行犯で押さえた方が早くないか?姫が無事であることが知られたら、遅かれ早かれいずれまたやってくるのでは?」
イザヤールが言うと、ドワーフたちは頭を抱えた。
「でも、オイラたちは七人揃ってないと仕事で力を発揮できないから、姫を守っている間、仕事休みにしなきゃなんなくなるぞ、困ったなあ」
「僕たちの仕事の森の木の手入れができなくて、森が荒れ果てちまう」
「なああんたたち、しばらくの間、日中わしらが留守の間ここに通って姫を守ってくれないかい?」
「それは構いませんが」ミミは考え込みながら言った。「でも、誰かがついている間は、姿を現さないんじゃないですか?」
「あ、そーかあ・・・」
ドワーフたちはまた悩んだが、一人が何かを思いつきぽんっと手を打って言った。
「じゃあ悪いけど、隠れてこっそり見守ってくんないかい?お礼はもちろん、毎日おいしいお弁当つけるから」
いつやってくるのかわからない相手だけに、持久戦になりそうだ。お弁当はともかく、乗りかかった船とばかりに、ミミたちは少女のいわばボディーガード役を改めて引き受けた。
しかし、翌日。持久戦を覚悟し、夜明け頃、ドワーフたちが出かける前に小さな家にやってきたミミとイザヤールだったが、なんとその日のうちに犯人が現れた!
ドワーフたちは出かける前に、二人を部屋の様子が窺えるタンスの中に隠した。かなりぎゅうぎゅうだったが、ミミとイザヤールにとっては苦になるどころか、いつもよくしているような膝の上抱っこの幸せモードな状況であることはさておき。
「お二人とも、苦しくないですか~?」少女がタンスに向かって話しかける。
「お姫様、声かけちゃダメです、私たちが隠れているってナイショにしておかないと、犯人にわかってしまいます」ちょっと焦って返事をするミミ。
それから少女は部屋に花を飾ったり、のんびり刺繍をしたりしていたが、まだお昼にもならないうちに、窓をコツコツと叩く音がした。
「どなた?」
少女が問いかけると、外から低いくぐもった声で返事が聞こえた。
「菓子の行商です。『ごうかなクッキー』は如何?若いお嬢さんに大人気ですよ」
「クッキーは食べたいけど、お留守番の時は買い物しちゃダメって言われてますの」
少女の返答を聞いてミミとイザヤールは声を立てずによしよしと頷いた。ミミたちが居ない状況でこの返答では一人でいることのアピールになって危険だが、彼らがタンスに隠れている今日は、一人で留守番だと思わせた方が、もしこの行商人が少女の継母なら油断させることができるだろう。
「ではお味見だけでも如何?とってもおいしいですよ」
行商人の言葉に、少女は弾んだ声を上げた。
「本当に?嬉しいわ、ではお言葉に甘えて」
そこはお言葉に甘えちゃダメデショとミミの懐に居るサンディがツッコミを入れ、ミミとイザヤールも全く同感だった。昨日の今日で全然警戒しない辺り、人を信じきるいい子と言うべきか、忘れっぽいと言うべきか・・・。とにかく、もしもクッキーが毒入りだったりしたら危ないので、ミミとイザヤールは急いでタンスから飛び出した。
しかし一瞬遅かった。少女はクッキーを一口かじってしまい、たちまち床に倒れた。ミミは慌てて少女に駆け寄り、イザヤールは窓枠に手をかけひらりと飛んで、逃げようとした行商人の女を捕まえた。衣装やメイクで老けた変装をしているが、よくよく見ればクールな感じの美人のようだ。
ミミが今日も少女に「超ばんのうぐすり」を飲ませると、幸いなことに今回もばっちり効いて、少女はぱっちりと目を開けた。それを見て、行商人の女は呻くように呟いた。
「ああ、なんてこと、今回もしくじるなんて」
その声を聞いて少女は目を見開き、まじまじと行商人の女を見つめて叫んだ。
「あら?お義母様!・・・では今まで私の命を狙っていたのは、やっぱりお義母様なんですの?」
すると、少女の継母は、強く頭を振って否定した。
「違うわ!命を狙うなんて!ただ仮死状態にしたかっただけよ!」
「事情を聞かせてもらおうか」
彼女の腕を押さえているイザヤールが、お馴染みの淡々としているが迫力満点の声で囁くと、女はしょんぼりとうなだれて頷いた。
少女はもうすっかり元気だが念のためソファに寝かせ、ミミとイザヤールと少女の継母はテーブル周りの椅子に座った。
「どうしてこんなことを?」
ミミが尋ねると、継母はきっ、と顔を上げて答えた。
「この子に幸せな結婚をさせる為よ」
それと仮死状態にすることとどう繋がるのかとミミとイザヤールが首を傾げると、彼女は説明を始めた。
「この子は本当に綺麗でいい子なんだけど、この子の父親が際限無く甘やかすものだから、何もできない状態のまま年頃になってしまって。このままじゃ一生お嫁に行けないんじゃないかと、心配になったの。それでわざと辛くあたって、城から追い出したけど、もちろんこっそり見守るつもりだったのよ。外でちょっと苦労していろいろなスキルを身に付ければ、器量だけでなく姫として恥ずかしくない者になれますからね。
でもかくまったドワーフたちも散々この子を甘やかして、ここもあんまりに居心地良さそうで、この子ったら全然何もしなくて。これじゃあ城に連れ帰ってお見合いさせても、ちょっと喋っただけで頭が空っぽってわかられてしまって婚約に至らない。今どきの女性は綺麗なだけじゃダメなのよ。知性も教養も無いと。だから強行手段に出ることにしたのよ」
少女は自分のことを言われているという自覚があるのか無いのか、あっけらかんとした顔をしている。そういえば、今朝も朝食や弁当をドワーフたちが作っている間、このお姫様はすやすや熟睡していたのをミミたちは思い出した。継母はそんな少女を見て溜息をついてから、また説明を続けた。
「この子は喋らなければ本当に綺麗だから、仮死状態にしてガラスの棺に入れて飾っておけば、魔法にかけられたお姫様というシチュエーションも相まって、おっちょこちょいでロマンチストの王子が一目惚れする可能性が高いと考えたのよ。目星をつけた王子が森に狩りに行くよう仕向ける手配もしてたのに、こうして何度も失敗してしまって」
なんとも回りくどいことを・・・とミミとイザヤールは思ったが、彼女が血の繋がらない娘の為に必死だったことはよくわかった。昨日倒れていた姫をわざわざ室内に移動させたのも、寒い中倒れさせておきたくない思いやりと判明した。最後に、継母はぽつりと付け加えた。
「継母だから・・・あんな頭が空っぽな姫になってしまったって、言われたくなかったの。だって悔しいじゃない、この子は・・・本当に優しくて人を疑うことを知らない、世界一のいい子なんだから」
その言葉を聞いて少女は目を潤ませて呟いた。
「お義母様・・・」
そんな様子を見て、ミミはにっこり笑って言った。
「それで、充分ではありませんか。無理に不向きなことをしたりするより、お姫様のいいところを見てくれる人と幸せになってもらう、それでいいと私は思います」
「確かに、そうね・・・」
継母は頷き、立ち上がって義理の娘を優しく抱きしめ、娘も嬉しそうに彼女を抱きしめた。
夕方になって帰って来たドワーフたちにも事情を説明し、彼らも姫を甘やかしていたことを少々反省して、相談の結果少女は改めてここで本格的に花嫁修行をすることに決めた。
「いやあ、人騒がせな継母さんだけど、ほんとの悪いヒトじゃあなくてよかった!あんたたちのおかげで丸く納まったよ、ありがとな!」
ドワーフたちはお礼にと「天使のソーマ」をくれた!
帰り道、ミミはイザヤールと手を組んで森を歩きながら、楽しそうに呟いた。
「お姫様、幸せになれますよね、イザヤール様」
「たぶんな。多少ズレているが、ああして思ってくれる母が居れば」
結局事件でなくてよかったと、ミミは微笑んで、絡めた腕に幸せそうに頬をすり寄せた。〈了〉
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