久々の「ぬくもり」シリーズ、Rではたぶん無いけれどオトナな文章を目指しましたが、結局中学生になったような気もするイザ女主話。タイトル珍しく英語入りなのは床の中、など日本語だとビミョーだったので、そういう名前のカクテルから取った為。実はイザヤール様が先に起きている時はミミ言うところのプチ鍛錬ではなくて寝顔にみとれたり飲み物淹れてたり洗面器にお湯を持ってきたりなことがほとんどという文中には出てこない設定有り。過保護だ・・・。
目蓋の上に落ちる朝の光が、夢から覚めかけの微睡みを更に静かに追いやる。ミミは長い睫毛をゆっくりともたげてから、眩しそうに濃い紫の瞳を細めた。それから、そろそろと腕を伸ばして、シーツの上に指先をさらりと滑らせた。一人寝なら、己の身が触れないところはひやりとする冬のシーツの手触り。でも、今は。確かにあの人がつい先ほどまで居た証の、あのぬくもりが、指先にほんのりと感じられる。
イザヤール様、私が寝坊したから、一人で朝のプチ鍛錬に行っちゃったかな。ミミはまだ少しぼんやりとした頭で思った。彼女とて寝起きはさほど悪くはない方だけれど、短時間でも深い睡眠を取ってすっきり目覚められる恋人と比べると、ほんの少しお寝坊さんだ。たまに彼女が目を覚まさずよく眠っているときは、起こすのは可哀想だからと、彼はこうしてそっと出かけることがある。
でも、そんなときは、目を覚ましたミミが、悲しい夢や怖い夢を見たときでも怯えないようにと、すぐに戻るという意思表示の何かしらの印を残していってくれている。枕元にかけられたかすかに石鹸の香が残るタオルとか、夕べ散らばったのをきちんとまとめてベッドサイドに置かれたミミの肌着や部屋着とか、小卓に置かれた、温かい飲み物を注がれるのを待っている、二人分の空のカップなどで。そういうものを見るとミミは、イザヤールと暮らしていることが夢ではないとわかって、安心して微笑むのだ。
ミミの隣に残していってくれているぬくもりも、そんな印のひとつ。むき出しの腕に触れる彼の体温の名残が、とても心地いい。彼の腕に包まれているような気分になって、またとろとろと眠くなる。こんなに眠いのは、ベッドの中と外の温度差のせいと、そして・・・夕べのイザヤール様のせいなんだからと、ミミはほんの少し顔を赤らめる。
さすがにもう一度眠ってしまったら、本当に寝坊になってしまう。起きなくちゃ。シーツの間で赤子のように身体を丸めながら、ミミは瞬きをする。でも、あと、もうちょっと。本当に、あと少しだけ。イザヤール様のぬくもりが消えてしまう間だけ、と、長い睫毛がゆっくりと下りていく。
ミミが再び完全に目を瞑ったのとほぼ同時に、静かに寝室の扉が開く気配、続いてコーヒーの香りが部屋に漂ってきた。静かに歩いていてもわかる。ああ、イザヤール様。ミミは声を出さず唇だけで呟いた。空のカップに、液体がそっと注がれる音がする。本当に、もう起きなきゃ。でも、今起きるのは、なんだか少し恥ずかしい。イザヤール様が座ってコーヒーを飲み始めるのを待ってから起きようと、ミミは目蓋を閉じたままでいた。
すると、イザヤールがゆっくりと、本当に音を立てず近寄ってくる気配がした。臆病な森の動物さえ逃げないくらい、穏やかで、静かな忍び足。でもきっと、もういい加減起こされてしまう。大好きなあの大きな手で、そっと頭をなでてきて、ミミ、朝だぞ、と呼びかけるだろう。どうせならその瞬間まで狸寝入りを決め込もうと、ミミは目を閉じてじっとしていた。
ミミの艶やかな髪にあたたかな手が触れる。ああ、とうとう起きなきゃと、ミミは思わずかすかに緊張して、「朝だぞ」の声を待った。
けれど、その起こす声はなかなか発せられず、頭をなでている手は、ビロードのような手触りの淡い薔薇色の頬に移動して、羽が触れるような優しさで愛撫を始めた。くすぐって起こすつもりなのかな。くすぐったいというより甘い感覚にうっとりして、ミミは気付かれないように小さく熱い息をついた。
やがて顔の近くに、彼の頭がゆっくりと降りてくる気配。今度こそ囁かれる。朝だぞ、と。
だが、降ってきたのは、言葉ではなかった。イザヤールは、そのまま更に顔を寄せて、ミミの頬より濃い薔薇色の唇に、キスをした。〈了〉
目蓋の上に落ちる朝の光が、夢から覚めかけの微睡みを更に静かに追いやる。ミミは長い睫毛をゆっくりともたげてから、眩しそうに濃い紫の瞳を細めた。それから、そろそろと腕を伸ばして、シーツの上に指先をさらりと滑らせた。一人寝なら、己の身が触れないところはひやりとする冬のシーツの手触り。でも、今は。確かにあの人がつい先ほどまで居た証の、あのぬくもりが、指先にほんのりと感じられる。
イザヤール様、私が寝坊したから、一人で朝のプチ鍛錬に行っちゃったかな。ミミはまだ少しぼんやりとした頭で思った。彼女とて寝起きはさほど悪くはない方だけれど、短時間でも深い睡眠を取ってすっきり目覚められる恋人と比べると、ほんの少しお寝坊さんだ。たまに彼女が目を覚まさずよく眠っているときは、起こすのは可哀想だからと、彼はこうしてそっと出かけることがある。
でも、そんなときは、目を覚ましたミミが、悲しい夢や怖い夢を見たときでも怯えないようにと、すぐに戻るという意思表示の何かしらの印を残していってくれている。枕元にかけられたかすかに石鹸の香が残るタオルとか、夕べ散らばったのをきちんとまとめてベッドサイドに置かれたミミの肌着や部屋着とか、小卓に置かれた、温かい飲み物を注がれるのを待っている、二人分の空のカップなどで。そういうものを見るとミミは、イザヤールと暮らしていることが夢ではないとわかって、安心して微笑むのだ。
ミミの隣に残していってくれているぬくもりも、そんな印のひとつ。むき出しの腕に触れる彼の体温の名残が、とても心地いい。彼の腕に包まれているような気分になって、またとろとろと眠くなる。こんなに眠いのは、ベッドの中と外の温度差のせいと、そして・・・夕べのイザヤール様のせいなんだからと、ミミはほんの少し顔を赤らめる。
さすがにもう一度眠ってしまったら、本当に寝坊になってしまう。起きなくちゃ。シーツの間で赤子のように身体を丸めながら、ミミは瞬きをする。でも、あと、もうちょっと。本当に、あと少しだけ。イザヤール様のぬくもりが消えてしまう間だけ、と、長い睫毛がゆっくりと下りていく。
ミミが再び完全に目を瞑ったのとほぼ同時に、静かに寝室の扉が開く気配、続いてコーヒーの香りが部屋に漂ってきた。静かに歩いていてもわかる。ああ、イザヤール様。ミミは声を出さず唇だけで呟いた。空のカップに、液体がそっと注がれる音がする。本当に、もう起きなきゃ。でも、今起きるのは、なんだか少し恥ずかしい。イザヤール様が座ってコーヒーを飲み始めるのを待ってから起きようと、ミミは目蓋を閉じたままでいた。
すると、イザヤールがゆっくりと、本当に音を立てず近寄ってくる気配がした。臆病な森の動物さえ逃げないくらい、穏やかで、静かな忍び足。でもきっと、もういい加減起こされてしまう。大好きなあの大きな手で、そっと頭をなでてきて、ミミ、朝だぞ、と呼びかけるだろう。どうせならその瞬間まで狸寝入りを決め込もうと、ミミは目を閉じてじっとしていた。
ミミの艶やかな髪にあたたかな手が触れる。ああ、とうとう起きなきゃと、ミミは思わずかすかに緊張して、「朝だぞ」の声を待った。
けれど、その起こす声はなかなか発せられず、頭をなでている手は、ビロードのような手触りの淡い薔薇色の頬に移動して、羽が触れるような優しさで愛撫を始めた。くすぐって起こすつもりなのかな。くすぐったいというより甘い感覚にうっとりして、ミミは気付かれないように小さく熱い息をついた。
やがて顔の近くに、彼の頭がゆっくりと降りてくる気配。今度こそ囁かれる。朝だぞ、と。
だが、降ってきたのは、言葉ではなかった。イザヤールは、そのまま更に顔を寄せて、ミミの頬より濃い薔薇色の唇に、キスをした。〈了〉
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