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日々冒険

船橋市在住のエディター、ライター陶木友治の活動記録および雑感

2010年1~6月期の私的読書ランキング

2010-07-03 13:10:18 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

2010年の上半期に読破した書物のランキングを発表します。計30作品35冊でした。年々、読書ペースが遅くなっており、焦りを感じている今日この頃です。以下、ランキングです。

1.「タニア18歳 世界一周(タニア・アーヴィ/新潮文庫)」
2.「将棋の子(大崎善生/講談社文庫)」
3.「えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる(小山田咲子/海鳥社)」
4.「人間における勝負の研究(米長邦雄/祥伝社)」
5.「成熟日本への進路 “成長論”から“分配論”へ(波頭亮/ちくま新書)」
6.「桜田門外の変 上・下(吉村昭/新潮文庫)」
8.「さらばアメリカ(大前研一/小学館)」
9.「半島を出よ 上・下(村上龍/幻冬舎文庫)」
11.「雲霧仁左衛門 上・下(池波正太郎/新潮文庫)」
13.「決断力(羽生善治/角川ONEテーマ21)」
14.「新・資本論(堀江貴文/宝島新書)」
15.「ぬしさまへ(畠中恵/新潮文庫)」
16.「突破するアイデア力(三谷宏治/宝島社新書)」
17.「内側から見た富士通“成果主義”の崩壊(城繁幸/光文社)」
18.「細野真宏の数学嫌いでも“数学的思考力”が飛躍的に身に付く本!(細野真宏/小学館)」
19.「密謀 上・下(藤沢周平/新潮文庫)」
21.「イン・ザ・プール(奥田英朗/文春文庫)」
22.「オイアウエ漂流記(萩原浩/新潮社)」
23.「長谷川恒男 虚空の登攀者(佐瀬稔/中公文庫)」
24.「遊ぶ奴ほどよくデキる!(大前研一/小学館文庫)」
25.「敵は海賊・海賊版(神林長平/ハヤカワ文庫)」
26.「本所しぐれ町物語(藤沢周平/新潮文庫)」
27.「生き抜くことは冒険だよ(長谷川恒男ほか/集英社文庫)」
28.「幻色江戸ごよみ(宮部みゆき/新潮文庫)」
29.「いつでも山を(田部井淳子/小学館)」
30.「ハカる考動学(三谷宏治/ディスカヴァー・トゥエンティワン)」
31.「咬ませ犬(後藤正治/岩波現代文庫)」
32.「この金融政策が日本経済を救う(高橋洋一/光文社新書)」
33.「山で元気に!田部井淳子の登山入門(田部井淳子/日本放送出版協会)」
34.「下天は夢か 3~4(津本陽/講談社文庫)」

1位の「タニア18歳 世界一周」は、著者(女性)が18歳の時に敢行したヨット単独世界一周の全貌を描いたノンフィクションで、著者自身の手でまとめられたものです。

こんなこと言うと女性から怒られそうですが、僕から見ると、女性が著した旅行記には中身が表層的で薄っぺらいものが多く、大半がつまらないものばかりなのですが(僕にとっては、です)、この作品は違いました。極めて内省的な内容で、著者の心情が赤裸々に吐露されています。しかも、心の軌跡や葛藤を表現した文章がひじょうに詩的で美しい。言葉の一つひとつが強く心に刻まれ、自分もこんな文章を書きたいなと思いました。お勧めです。

タニア18歳 世界一周―890日の青春航海記 (新潮文庫)
タニア アービィ
新潮社

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将棋の子 (講談社文庫)
大崎 善生
講談社

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2009年10~12月期の私的読書ランキング

2010-01-04 10:16:27 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

2009年第4四半期に読破した本とそのランキングを発表します。計32冊(24作品)でした。

いま取り組んでいる仕事の一つに歴史に関する書籍があり、その参考資料としてけっこうな数の歴史小説を読みました。期間中に読んだ本の半数以上を歴史小説が占めており、年が明けた今も引き続き歴史関連本を手にとる毎日を過ごしています。あと10冊は読まなければなりません。以下、ランキングです。

1.「岩倉使節団という冒険(泉三郎/文春新書)」
2.「鳴門秘帖1~3(吉川英治/吉川英治歴史時代文庫)」
3.「希望の国のエクソダス(村上龍/文春文庫)」
4.「裸でも生きる2 KeepWalking(山口絵里子/講談社BIZ)」
5.「ぼんくら 上・下(宮部みゆき/講談社文庫)」
6.「もう、きみには頼まない~石坂泰三の世界(城山三郎/文春文庫)」
7.「五分後の世界(村上龍/幻冬舎文庫)」
8.「賢い人ほど失敗する(高原慶一朗/PHP研究所)」
9.「ヒュウガ・ウィルス 五分後の世界Ⅱ(村上龍/幻冬舎文庫)」
10.「おとこの秘図 上・中・下(池波正太郎/新潮文庫)」
11.「日暮らし 上・中・下(宮部みゆき/講談社文庫)」
12.「難儀でござる(岩井三四二/光文社時代小説文庫)」
13.「東大を出ると社長になれない(水指丈夫/講談社BIZ)」
14.「洞窟オジさん 荒野の43年(加村一馬/小学館)」
15.「殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安1(池波正太郎/講談社文庫)」
16.「しゃばけ(畠中恵/新潮文庫)」
17.「下天は夢か1~2(津本陽/講談社文庫)」
18.「アヒルと鴨のコインロッカー(伊坂幸太郎/創元推理文庫)」
19.「質問力(飯久保廣嗣/日経ビジネス人文庫)」
20.「不屈者(後藤正治/新潮社)」
21.「女性の山(岩崎元郎、堀川虎男/かもがわ出版)」
22.「これだけは読んでおきたい名作時代小説100選(杉江松恋/アスキー新書」
23.「面白南極料理人(西村淳/新潮文庫)」
24.「モチベーションが上がるワクワク仕事術(小林英二/C&R研究所)」

1位の「岩倉使節団という冒険」を読んで、グローバル化についてあらためて考えさせられました。日本ではグローバル化の弊害(?)が叫ばれて久しいのですが、よくよく考えてみますと、日本が最初にグローバル化に直面したのは幕末~明治維新の頃です。押し寄せる大波に対処すべく、当時の明治政府は大久保利通、木戸孝允、伊藤博文、岩倉具視ら錚々たるメンバーを欧米視察旅行に派遣します。それも丸2年も──。

これほど長期にわたって政府首脳が国元を留守にするなど現在では考えられないことで、まさに乾坤一擲の「大冒険」だったと言えるでしょう。で、欧米をつぶさに眺めた使節団一行は一つの結論に達します。それが「日本の良さを残しながら、欧米の良いとこどりをする」というもの。その方針に従って、国づくりが進められていきます。当時と今では状況が異なるので、その考え方をそのまま現在に当てはめるわけにはいかないのでしょうが、維新の立役者たちが達したこの結論には考えさせられる点が少なくありませんでした。

2位の「鳴門秘帖」は、衝撃的な面白さでした。基本的には江戸中期を舞台とした時代小説なのですが、冒険小説、スパイ小説、ミステリー小説、恋愛小説としても優れており、そのスリリングな展開に思わず手に汗を握りました。あまりの面白さに、寝食を忘れて読み耽ったほどです。おススメです。

岩倉使節団という冒険 (文春新書)
泉 三郎
文藝春秋

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鳴門秘帖〈1〉 (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治
講談社

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2009年4~9月期の私的読書ランキング

2009-10-04 21:28:49 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

この半年間で読破した本のランキングを発表します。計31冊でしたから、月平均では約5冊。バタバタしていたことと大作が多かったことが影響したのか、読書ペースが大幅に落ちてしまいました。ああ、もっと早く本が読めるようになりたいな。以下、ランキングです。

1.「編集者という病い(見城徹/太田出版)」
2.「愛と幻想のファシズム 上・下(村上龍/講談社文庫)」
3.「銀嶺の人 上・下(新田次郎/新潮文庫)」
4.「食う寝る坐る永平寺修行記(野々村馨/新潮文庫)」
5.「不撓不屈 上・下(高杉良/新潮文庫)」
6.「日本経済を学ぶ(岩田規久男/ちくま新書)」
7.「八甲田山死の彷徨(新田次郎/新潮文庫)」
8.「セクシープロジェクトで差をつけろ!(トム・ピーターズ/阪急コミュニケーションズ)」
9.「泣き虫しょったんの奇跡(瀬川晶司/講談社)」
10.「アメリカ彦蔵(吉村昭/新潮文庫)」
11.「高度経済成長は復活できる(増田悦佐/文春新書)」
12.「女性職の時代(中川美紀/角川oneテーマ21)」
13.「大本営が震えた日(吉村昭/新潮文庫)」
14.「マイノリティーの拳(林壮一/新潮社)」
15.「経済危機“100年に1度”の大嘘(波頭亮、山崎元他/講談社BIZ)」
16.「HIS 机二つ、電話一本からの冒険(澤田秀雄/日経ビジネス人文庫)」
17.「ヒット力(長田美穂/日経BP社)」
18.「たった一人の生還 “たか号”漂流二十七日間の闘い(/新潮文庫)」
19.「最後の冒険家(石川直樹/集英社)」
20.「殺人の門(東野圭吾/角川文庫)」
21.「会社が放り出したい人 1億積んでもほしい人(堀紘一/PHP文庫)」
22.「テンカウント 奇跡のトレーナー(黒井克行/幻冬舎文庫)」
23.「ニューギニア水平垂直航海記(峠恵子/小学館文庫)」
24.「クラウド・コンピューティング(西田宗千佳/朝日新書)」
25.「戦争と平和 それでもイラク人を嫌いになれない(高遠菜穂子/講談社)」
26.「リクルート“創刊男”の大ヒット発想術(くらたまなぶ/日経ビジネス人文庫)」
27.「コンフリクト・マネジメント入門(鈴木有香/自由国民社)」
28.「会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ(斉藤正明/マイコミ新書)」

1は、幻冬舎の見城社長がこれまで様々な媒体で発表してきた文章を寄せ集めたもので話の重複が著しいのですが、著者の仕事に懸ける執念やプロフェッショナルとしての生き様が十二分に伝わってきて感銘を受けました。読後、「自分もこういう生き方がしたいな」と憧れに近い感覚を抱きましたが、その一方で、著者の強靭な意志力と自分の不甲斐なさとのギャップに落胆し、ガラス細工のように脆い僕の心は平静さを失いました。僕の心を激しく動揺させたという意味で1位。

2は、壮大な構想力と驚異的な先見性、緻密な想像力、巧みな構成力、1000頁を超える大作にもかかわらず全編にわたって緊張感を持続させる筆力の高さに唸らされました。名作です。

編集者という病い
見城 徹
太田出版

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愛と幻想のファシズム〈上〉 (講談社文庫)
村上 龍
講談社

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2009年1~3月期の私的読書ランキング

2009-03-31 23:47:42 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

今日で2009年の第一四半期が終了しますので、いつものように期間中に読破した本のランキングを発表します。今期もちょっと少なめ、計22冊にとどまりました。

1.「日本はなぜ敗れるのか 敗因21ヵ条(山本七平/角川書店)」
2.「なんとなく、日本人(小笠原泰/PHP新書)」
3.「木を見る西洋人 森を見る東洋人(リチャード・E・ニスベット/ダイヤモンド社)」
4.「ちょっとピンぼけ(ロバート・キャパ/文春文庫)」
5.「収容所から来た遺書(辺見じゅん/文春文庫)」
6.「ラストシーン 夢を追いかけ散っていった冒険者たちの物語(小林誠子/バジリコ)」
7.「海馬 脳は疲れない(池谷裕二、糸井重里/新潮文庫)」
8.「“正しい戦争”は本当にあるのか(藤原帰一/ロッキング・オン)」
9.「ベーシック・インカム入門(山森亮/光文社)」
10.「みかん畑に帰りたかった 北極点単独徒歩日本人初到達・河野兵市の冒険(埜口保男/小学館)」
11.「マクロ経済学を学ぶ(岩田規久男/ちくま新書)」
12.「七つの海を越えて 史上最年少ヨット単独無寄港世界一周(白石康次郎/文春文庫)」
13.「容疑者Xの献身(東野圭吾/文春文庫)」
14.「朝日新聞血風録(稲垣武/文春文庫)」
15.「強欲資本主義 ウォール街の自爆(神谷秀樹/文芸春秋)」
16.「不肖・宮嶋 南極観測隊ニ同行ス(宮嶋茂樹、勝谷誠彦/新潮文庫)」
17.「農協の大罪(山下一仁/宝島社新書)」
18.「ヤクザが店にやってきた(宮本照夫/朝日文庫)」
19.「21世紀の国富論(原丈人/平凡社)」
20.「サニーサイドアップの仕事術(峰如之介 山崎祥之/日経BP社)」
21.「スープで、いきます(遠山正道/新潮社)」
22.「読み手志向の“書く技術”で成果をつかみ取る(デボラ・デュメーヌ/ファーストプレス)」

1位の「日本はなぜ敗れるのか」の内容には衝撃を受けました。

太平洋戦争時、フィリピン戦線に出征した著者が旧日本軍の敗因を自身の体験をもとに分析した力作で、組織としての旧日本軍の問題点を明らかにしています。驚いたのは、その問題点の一つひとつが現代の企業組織や官僚組織が抱えている問題にそのまま当てはまること。

この本を読むと、日本型組織あるいは日本人の本質が戦前と比べほとんど変わっていないことに気づかされ、空恐ろしさを覚えます。トヨタの元社長・奥田氏がこの本を読んで感銘を受け、トヨタの社員に対し「読むように」と強く勧めたのも頷ける内容です。組織を統率するリーダーや管理職、あるいはこれから起業を考えている方にとっては必読の一冊と言えるでしょう。

日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)
山本 七平
角川グループパブリッシング

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2008年に読んだ本のベスト10

2009-01-09 02:16:32 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

2008年中に、僕は計112冊の本を読みました。その中から特に面白かったもの、強く印象に残ったものを10冊ピックアップして、ランキング形式で紹介します。以下、ご参照ください。

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1.「クラッシュ 絶望を希望に変える瞬間(太田哲也/幻冬舎文庫)」

レース中の多重クラッシュ事故で全身の40%に三度熱傷を負った「日本一のフェラーリ遣い」の異名を持つ著者が、事故による肉体的・精神的ダメージを克服し、人生の意義や生きる意味を新たに見いだしていく過程を綴った感動的な自伝。燃えさかるフェラーリの中で遭遇した臨死体験に関する記述と考察も興味深い。
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2.「裸でも生きる(山口絵里子/講談社)」

イジメや非行、落ちこぼれからの慶應大合格、大学卒業後にバングラデシュでバッグブランドを起業…。数々の失敗や挫折、裏切りに遭いながらも歩みを止めず、途上国発のブランド「マザーハウス」を立ち上げた著者の半生記。文章がこなれていないものの、ありのままの自分をさらけ出した内容に清々しさと共感を覚える。
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3.「夜と霧 新版(V・E・フランクル/みすず書房)」

心理学者である著者がナチス強制収容所での収監体験を綴った古典的名著。単なる体験記ではなく、死の恐怖が日常的につきまとう状況下での人間心理を学者としての客観的な視点で観察して明らかにしている。壮絶かつ過酷な環境の中で「人間存在の真理」や「生きることの意味」を探求した内容もさることながら、作中に登場する数々の名文に心を打たれた。翻訳が素晴らしい。
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4.「沈まぬ太陽1~5(山崎豊子/新潮文庫)」

1985年の日航ジャンボ機墜落事故を軸に、日本航空の官僚的な経営体質を小説形式で浮き彫りにしたベストセラー。白眉は航空機事故の凄惨さを描いた第3巻の「御巣鷹山篇」で、事故現場の凄まじさが手に取るように伝わってくる。1行たりとも目が離せない内容で、著者の卓越した取材力と表現力、そして構成力に唸らされた。
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5.「漂流(吉村昭/新潮文庫)」

江戸時代、絶海の孤島に漂着した船乗りたちが12年間の無人島生活を経て国許に生還するまでの過程を描いた実話ベースの小説。真水も植物もほとんど存在しない過酷な環境の中で、知恵をフル活用して生き残っていく姿が具体的に描かれる。「強靭な意志と創意工夫があれば、どんな環境にも人間は適応できる」ことを教えてくれる示唆に満ちた1冊。
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6.「セーラが町にやってきた(清野由美/プレジデント社)」

長野県小布施町を訪れる観光客は年間で120万人と人口の100倍を数える。その高い集客力の秘密は、セーラという名のアメリカ人女性が発案した創業250年の造り酒屋の酒蔵を改造した和風レストラン「蔵部」。「台風娘」「女カルロス・ゴーン」の異名を持つ彼女が、抜群の行動力で日本の田舎町に旋風を巻き起こしていくプロセスが描かれる。「元気が出る本」という表現がぴったりの内容。
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7.「“普通がいい”という病(泉谷閑示/講談社現代新書)」

現役の精神科医である著者が、「自分とは何か」を心理学の側面から解説。ニーチェなど哲学者の言葉がたくさん引用されているので小難しい内容かと思いきや、心の問題を抱えた患者に対応する若いカウンセラーたちのために書いたテキストがベースになっているためかひじょうに分かりやすい。特に諸処に挿入されている図版の分かりやすさには驚かされた。
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8.「リーダーシップの旅(野田智義、金井壽宏/光文社新書)」

「リーダーシップについて研究するNPO法人の理事長」と「経営管理と組織行動の視点からリーダーシップを論じている神戸大学教授」という二人の著者による対談形式風のリーダーシップ論。リーダーシップが発現するプロセスを解き明かしている。特に「リーダーになろうと思ってリーダーになった人はいない」という記述に強い納得感を覚えた。
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9.「1997年 世界を変えた金融危機(竹森俊平/朝日新書)」

シカゴ大学の経済学者であるフランク・ナイトが提唱した「リスク」と「不確実性」をメインテーマに、以後の世界のマネーの流れを変える契機になったと言われる1997年のアジア通貨危機の詳細とそれ以降の世界を検証した一冊。「ナイトの不確実性」が経済の参加者を萎縮させ、それが金融危機をさらに悪化させる可能性を持つことに言及。金融・経済政策者に、危機を克服するには「不確実性への挑戦」が必要なことを説いている。たいへん勉強になった。
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10.「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて(佐藤優/新潮文庫)」

外務省勤務中に、いわゆる「鈴木宗男事件」で背任と偽計業務妨害の容疑で逮捕された著者が、512日間に及ぶ拘置・独房生活、省内の権力闘争、自民党の内部抗争、北方領土返還交渉の舞台裏などを赤裸々に綴った一冊。東京地検特捜部の凄腕検事とのやり取りを克明に再現している点がすごい。単なる言いがかりとしか思えない「国策捜査」の強引さに恐ろしさを覚えたが、それに屈することなく対抗していく著者の胆力に驚かされる。

2008年10~12月期の私的読書ランキング

2008-12-31 10:27:25 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

今日で2008年第4四半期(というか2008年)が終了します。いつものように、この3カ月のあいだに読破した本をランキング形式で紹介したいと思います。今期は読書量が減少し、計23冊にとどまりました。

1.「裸でも生きる(山口絵里子/講談社)」
2.「リーダーシップの旅(野田智義、金井壽宏/光文社新書)」
3.「1997年 世界を変えた金融危機(竹森俊平/朝日新書)」
4.「バルタザールの遍歴(佐藤亜紀/文春文庫)」
5.「楽天の研究(山口敦雄/毎日新聞社)」
6.「ネクストエコノミー~市場も企業も経験したことのない新たな顧客主義マーケティングが始まる(Elliott Ettenberg/東急エージェンシー出版部)」
7.「墜落遺体―御巣鷹山の日航機123便(飯塚訓/講談社プラスアルファ文庫」
8.「幻想曲 孫正義とソフトバンクの過去・今・未来(児玉博/日経BP社 )」
9.「アシモフの雑学コレクション(アイザック・アシモフ、星新一/新潮文庫)」
10.「ドラッカーの遺言(ピーター・ドラッカー/講談社)」
11.「“残業ゼロ”の仕事力(吉越浩一郎/日本能率協会マネジメントセンター)」
12.「知的複眼思考法(苅谷剛彦/講談社)」
13.「一流の人は空気を読まない(堀紘一/角川oneテーマ21)」
14.「モノ・サピエンス(岡本裕一朗/光文社新書)」
15.「“甘え”の構造(土居健郎/弘文堂)」
16.「リルケ詩集(リルケ/新潮文庫)」
17.「生物から見た世界(ユクスキュル、クリサート/岩波文庫)」
18.「女性の向上心(井形慶子/PHP新書)」
19.「黒猫館の殺人(綾辻行人/講談社文庫)」
20.「走る男(椎名誠/朝日文庫)」
21.「ICHIRO メジャーを震撼させた男(ボブ・シャーウィン/朝日文庫)」
22.「マジックミラー(有栖川有栖/講談社文庫)」
23.「発展する大学公開講座(瀬沼克彰/学文社)」

1位の「裸でも生きる」にはたいへん感銘を受けました。若くして起業した著者の自伝で、この種の本では得てしてサクセスストーリーが語られることが多いのですが、驚くべきことに著者はまだ成功を収めていません。自身のこれまでの人生における失敗をありのままに曝け出している内容で、その意味では「アンサクセスストーリー」をまとめた本と言えます。

多くの失敗や挫折、裏切りに打ちひしがれながらも、そのたびに著者は強い行動力とチャレンジ精神で困難を一つひとつ乗り越えていきます。起こるすべての事象を真摯に受け止め、目標達成や成功に向かって苦難を克服していくその姿勢には頭が下がりました。

はっきり言って文章がこなれておらず、拙い印象を受けるのですが、そんなことは全く気になりません。著者のとてつもないパワーや社会貢献に対する熱い思いに引っ張られるようにして、文字どおり「あっ」という間に読み終えてしまいました。

起業家の本にありがちな「うさん臭さ」は微塵も感じられず、伝わってくるのは誠実かつ不器用な著者の人柄とそれらをバックボーンにした類稀な七転び八起きの精神ばかり。本を出版したり起業したりする人には「すごい人」という先入観を抱いてしまいがちですが、著者は本当に普通の人という印象で、溢れんばかりの行動力と情熱を除けば我々とさして変わらない人間だという印象を覚えました。

だから読んでいて親しみを覚えますし、嫉妬心などのネガティブな感情も沸き起こってきません。心の底から応援したいと思いましたし、一方で大きなパワーももらいました。極めて陳腐な言い方をしてしまうと、「勇気を与えてくれる内容」です。何かにチャレンジしているすべての人にお勧めしたい本ですね。

個人的には、高校生のときに植村直己さんの「青春を山に懸けて」を読んだときのような感動や高揚感に近い感覚を読後に覚えました。やっぱり人間の価値を決定するのは行動ですよね。言葉は後からついてくるものです。

裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記 (講談社BIZ) (講談社BIZ)
山口 絵理子
講談社

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2008年7~9月期の私的読書ランキング

2008-09-30 00:40:44 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

本日で2008年第3四半期が終了します。いつものように、この3カ月のあいだに読破した本をランキング形式で紹介したいと思います。29作品30冊でした。

1.「セーラが町にやってきた(清野由美/プレジデント社)」
2.「走れ!ニッポン人 一億三千万総アスリート計画(高野進/文芸春秋)」
3.「“普通がいい”という病(泉谷閑示/講談社現代新書)」
4.「“十五少年漂流記”への旅(椎名誠/新潮社)」
5.「なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか(北野一/ダイヤモンド社)」
6.「不毛地帯1~2(山崎豊子/新潮社)」
7.「企業参謀(大前研一/講談社)」
8.「落ちこぼれてエベレスト(野口健/集英社)」
9.「イチロー思考(児玉光雄/東邦出版)」
10.「伝わる・揺さぶる! 文章を書く(山田ズーニー/PHP新書」
11.「高く遠い夢 70歳エベレスト登頂記(三浦雄一郎/双葉社)」
12.「道をひらく(松下幸之助/PHP研究所)」
13.「孤闘(斉藤実/角川書店)」
14.「日本人への遺言 対談集(司馬遼太郎/朝日新聞出版)」
15.「あなたの話はなぜ“通じない”のか(山田ズーニー/筑摩書房)」
16.「映画の見方がわかる本(町山智浩/洋泉社)」
17.「世界最悪の旅 悲運のスコット南極探検隊(A・チェリー=ガラード/朝日文庫)」
18.「エコノミック恋愛術(山崎元/ちくま新書)」
19.「不動心(松井秀喜/新潮新書)」
20.「コンサルタントの“質問力”(野口吉昭/PHP研究所)」
21.「この地球を受け継ぐ者へ(石川直樹/講談社)」
22.「自動車業界の動向とカラクリがよ~くわかる本(住商アビーム自動車総合研究所/秀和システム)」
23.「自動車産業は生き残れるか(読売新聞クルマ取材班/中公新書ラクレ)」
24.「いじめられっ子のチャンピオンベルト(内藤大助/講談社)」
25.「中国の投資・会計・税務Q&A(監査法人トーマツ/中央経済社)」
26.「男なら、ひとり旅(布施克彦/PHP新書)」
27.「外国映画ぼくの500本(双葉十三郎/文春新書)」
28.「電力・ガス業界の動向とカラクリがよ~くわかる本(本橋恵一/秀和システム)」
29.「空の中(有川浩/角川書店)」

ランキングの順位はともかくとして、このところ「フィクション小説」が読破できなくて困っています。上記以外にも、この3カ月間で読み始めたものの途中で放棄したフィクション小説が10冊ほどあります。なぜ読破できないかというと、面白くないからです。

これは恐らくですね、現実の世界で起きていることのほうがはるかに予測不能でエキサイティングになってきていることが大きく影響していると思うんですよ。フィクション小説の面白さは、自分が決して経験できないことを疑似体験できたり、現実にはありえないような出来事を体感できたりすることにあると思うんですが、「事実は小説よりも奇なり」という言葉もあるように、最近では物事のスピードする変化が極めて速くなっていることもあって、リアルの出来事のほうがフィクションよりもはるかに面白いし興味深い。

だから小説を読んでも新鮮さがあまり感じられず、内容にいまいち入り込めなかったり途中で飽きたりしてしまうんでしょう。

インターネットの登場で出版産業が斜陽産業化するようになってから、「出版業界の未来は“小説”が切り開いていくことになるのかなぁ」などと漠然と考えることがあったのですが、どうやらそういうわけでもなさそうです。業界の先行きと自分の将来に希望を見いだせず、暗澹たる気持ちになっている今日この頃です。


セーラが町にやってきた
清野 由美
プレジデント社

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走れ!ニッポン人―一億三千万総アスリート計画
高野 進
文藝春秋

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2008年4~6月期の私的読書ランキング

2008-06-30 02:06:51 | 私的読書ランキング
こんにちは、陶木です。

本日で2008年の第2四半期が終了しますので、この期間中に読破した本とそのランキングを紹介したいと思います。延べ29作品31冊でしたから、およそ3日に1冊のペースで読んできたことになります。

世の中には1日に何冊も本を読むスーパーマンがいるようですが、どうやったらそんなにたくさんの本を読むことができるのでしょうか。やっぱり速読術を身につけているんでしょうかね? 僕も速読をマスターすることに興味はあるのですが、文字列を映像として網膜に焼き付ける方法だと内容に対する理解が薄れるような気がするので、どうしても二の足を踏んでしまいます。一目見ただけで即座に文章が理解できるほど頭が良ければいいんですが、僕はそんなシャープな頭脳を持っていません。けっきょく、1冊1冊ゆっくりと自分のペースで読んでいくしか手はなさそうです。

1.「夜と霧 新版(V・E・フランクル/みすず書房)」
2.「漂流(吉村昭/新潮文庫)」
3.「批評理論入門 “フランケンシュタイン”解剖講義(廣野由美子/中公新書)」
4.「合衆国再生 大いなる希望を抱いて(バラク・オバマ/楓書店)」
5. 「官僚国家の崩壊(中川秀直/講談社)」
6.「ハイ・コンセプト “新しいこと”を考え出す人の時代(ダニエル・ピンク/三笠書房)」
7.「羆嵐(吉村昭/新潮文庫)」
8.「強権と不安の超大国・ロシア(廣瀬陽子/光文社新書)」
9.「太平洋ひとりぼっち(堀江謙一/舵社)」
10.「調べる技術・書く技術(野村進/講談社現代新書)」
11.「アラブの大富豪(前田高行/新潮新書)」
12.「北方領土交渉秘録 失われた五度の機会(東郷和彦/新潮社)」
13.「3種類の日本教(島田裕巳/講談社α新書)」
14.「思考・論理・分析(波頭亮/産業能率大学出版部)」
15.「私はこうして発想する(大前研一/文春文庫)」
16.「私は魔境に生きた(島田寛夫/光人社NF文庫)」
17. 「千年、働いてきました(野村進/角川書店)」
18.「若者のリアル(波頭亮/日本実業出版社)」
19.「マッキンゼー式 世界最強の仕事術(イーサン・ラジエル/ソフトバンク文庫)」
20.「実戦! 問題解決法(大前研一・斉藤顕一/小学館)」
21.「日本人はなぜ無宗教なのか(阿満利麿/ちくま新書)」
22.「アトミック・ゴースト(太田昌克/講談社)」
23.「よくわかるコンサルティング業界(大石哲之/日本実業出版社)」
24.「大黒屋光太夫 上・下(吉村昭/新潮文庫)」
25.「西武争奪(日本経済新聞社/日本経済新聞社)」
26.「わらの女(カトリーヌ・アルレー/創元推理文庫)」
27.「女性署長ハマー 上・下(パトリシア・コーンウェル/講談社文庫)」
28.「よくわかる商社(中岡稲多郎/日本実業出版社)」
29.「IT業界がわかる(克元 亮/技術評論社)」

以前から漠然と感じていたことなのですが、どうも僕は極限状況下における人間心理にとても興味があるようです。「夜と霧」と「漂流」がランキングの1位~2位に来ていることからも、そのことがよく分かります。恐らく、自分がそういう状況を体験したことがないからでしょう。加えて、人間の本質は極限状況にこそ現出すると思っていることも理由の一つと考えられます。

「夜と霧」は、ナチス強制収容所での体験を心理学者である著者が綴った古典的名著。単なる体験記ではなく、死の恐怖が日常的につきまとう状況下での人間心理を学者としての客観的な視点で観察して明らかにした1冊です。壮絶かつ過酷な環境の中で「人間存在の真理」や「生きることの意味」を探求した内容もさることながら、作中に登場する数々の名文に僕は強く心を打たれました。

一方の「漂流」は、台風で船が操縦不能になり、漂流の末に絶海の孤島(現在の鳥島)へたどり着いた江戸時代の水夫が国元に生還するまでを描いた実話ベースの小説。島には真水がないうえに植物もほとんど生えておらず、さらに食料も群生していたアホウドリだけという絶望的環境の中で主人公は12年間も過ごして最終的に生還を果たします(アホウドリを食いまくります)。この手の本は得てして内容が単調になりがちなのですが、次から次へと危難が降りかかり、状況が刻々と移り変わっていく中で主人公が知恵を駆使しながら環境変化に対応して生き残っていく姿が具体的に描かれていくので全く飽きません。「強靭な意志と創意工夫があれば、どんな環境にも人間は適応できる」ことを教えてくれる示唆に満ちた1冊です。

さらにこの話が面白いのは、仲間がどんどん増えていくこと。鳥島は海流の通過点に位置しているらしく、難破した船が数年おきに漂着して「島民」が徐々に増えていきます。ただ先着者は数年におよぶサバイバル生活の中で風貌や身なりが極端に変化していることもあり、後から漂着した人々は先着者の変わり果てた姿を見て日本人とは気づかず「ここは人食い人種の住む島だ」と誤解・警戒して最初は逃げようとします(笑)。一方の先着者は、久々にやって来た人間と話をしたいがために必死の思いで新参者に呼びかける(笑)。このあたりの描写がひじょうに面白いので、読んだ人は思わず笑ってしまうに違いありません。

どちらもおススメです。未読の方はぜひ手にとって読んでみてください。

夜と霧 新版
ヴィクトール・E・フランクル
みすず書房

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漂流 (新潮文庫)
吉村 昭
新潮社

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2008年1~3月期の私的読書ランキング

2008-03-29 08:30:19 | 私的読書ランキング
 こんにちは、陶木です。

 2008年の第一四半期が終わるので、この期間中に僕が読破した本を紹介したいと思います。延べ24作品28冊でした。3カ月で28冊ということは1カ月に約9冊。要するに1週間で2冊強を読んだ計算になります。うーむ、ちょっと少ないですね。ちなみに購入した本の数自体は51冊でしたから、半分くらいしか読めていないことになります。

 それはさておき、24作品の私的ランキングを作成してみました。ジャンルは小説からノンフィクション、ルポルタージュ、自己啓発本まで多岐にわたり、これらをまとめて一緒くたに評価するのもどうかとは思うのですが、まあ気にしないことにしましょう。ランキングは、「印象度」や「お勧め度」の観点で作成しています。

 1.「クラッシュ 絶望を希望に変える瞬間(太田哲也/幻冬舎文庫)」
 2.「沈まぬ太陽1~5(山崎豊子/新潮文庫)」
 3.「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて(佐藤優/新潮文庫)」
 4.「戦艦武蔵(吉村昭/新潮文庫)」
 5.「超・格差社会アメリカの真実(小林由美/日経BP社)」
 6. 「嘘つきアーニャの真っ赤な真実(米原万理/角川文庫)」
 7.「“社会調査”のウソ(谷岡一郎/文春新書)」
 8.「哲学の道場(中島義道/ちくま新書)」
 9.「美学 vs.実利 “チーム久夛良木”対任天堂の総力戦15年史(西田宗千佳/講談社)」
 10.「いまだ下山せず(泉康子/宝島社文庫)」
 11.「第二段階レンズマン(E・E・スミス/創元SF文庫)」
 12.「カブールの本屋 アフガニスタンのある家族の物語(アスネ・セイエルスタッド/イースト・プレス)」
 13.「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか(城繁幸/ちくま新書)」
 14.「世界で一番いのちの短い国(山本敏晴/白水社)」
 15.「世界は“使われなかった人生”であふれてる(沢木耕太郎/幻冬舎文庫)」
 16.「ダイバー漂流 極限の230キロ(小出康太郎/新潮文庫)」
 17.「野中広務 差別と権力(魚住昭/講談社文庫)」
 18.「経済ってそういうことだったのか会議(佐藤雅彦・竹中平蔵/日経ビジネス人文庫 )」
 19.「垂直の記憶 岩と雪の7章(山野井泰史/山と渓谷社)」
 20.「いま生きているという冒険(石川直樹/理論社)」
 21.「効率が10倍アップする新・知的生産術(勝間和代/ダイヤモンド社)」
 22.「無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法(勝間和代/ディスカヴァー・トゥエンティワン)」
 23.「交渉人(五十嵐貴久/幻冬舎文庫)」
 24.「レバレッジ人脈術(本田直之/ダイヤモンド社)」

 ランキングトップではありませんが、2位の「沈まぬ太陽」と4位の「戦艦武蔵」には驚かされました。どちらも実話ベースの小説です。

 日本のバルザックこと山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」は、10年ほど前の大ベストセラー。皆さんもご存知のとおり、1985年の日航ジャンボ機墜落事故を軸に据えながら日本航空の官僚的な経営体質を小説形式で浮き彫りにした名作で、作者の取材力と表現力の高さに心底から驚嘆しました。

 白眉は、やはり航空機事故の凄惨さを描いた第3巻の「御巣鷹山篇」でしょう。事故現場の凄まじさが手に取るように伝わってきて、1行たりとも目が離せない内容になっています。緻密かつ丹念に拾い集めた関係者の証言をうまくまとめ、よくぞここまでリアルに表現しきったものだと感嘆しました。
 これまで僕は、他人に何かを伝えたいときには「映像」で訴えかけるのが最も効果的な方法だと勝手に思ってきたのですが、この本を読んで「活字の力」を再認識しました。文章による表現も、まだまだ捨てたものではないなと思った次第です。

 一方、吉村昭氏の「戦艦武蔵」は40年ほど前のベストセラー。戦艦武蔵とは第二次大戦中に建造されたいわゆる「大和型戦艦」の一つで、世界最大の規模と威容を誇った戦艦です。この本では、武蔵の建造から沈没に至る経緯が丹念に描かれています。

 メッセージ性や娯楽性をいっさい排除し、歴史的事実をそのまま綴った作品ですから、読む人によって感想や評価が大きく分かれると思うのですが、個人的には「反戦小説」との印象を強く持ちました。それも、「物質的な無駄」という側面から戦争の無意味さを訴えかけた作品です。

 武蔵は当時の日本の最高軍事機密で、建造していることを誰にも悟られてはなりません。他国のスパイはもちろんのこと、民間の日本人にも秘密にしておく必要があります。建造の事実を隠すために当時の日本政府はありとあらゆる対策を打つのですが、その「隠蔽工作」に費やされる資金と労力、物質量がハンパではありません。

 さらに武蔵は当時の水準で考えれば「ありえない」くらいの超巨大戦艦ですから、投入される資源の量も破格の規模で、また設計から組立、進水に必要な人員と設備も膨大です。このように莫大なエネルギーを投入して日本政府は史上最強の戦艦の完成に漕ぎ着けるのですが、武蔵はほとんど活躍することなく米軍に撃沈され、海の藻屑となります。この経緯が淡々と描かれていくのですが、建造過程を描くことにページの大半が費やされており、戦闘のシーンは最後にほんのちょっと出てくるだけ。しかも、瞬く間に沈没します。

 それだけに、読後は「いったい何のために作ったんだ…」といった一種の虚無感や疲弊感のようなものに襲われます。恐らくは作者の狙いもそこにあり、「戦争の本質とは、資源とお金とエネルギーの浪費である」ということを強調するために敢えてそういう体裁にしたんでしょう。僕自身もこの本を読んで「戦争って本当に無意味だなぁ」とあらためて思いました。まあ、安直かつ幼稚な感想ですけどね。

クラッシュ―絶望を希望に変える瞬間 (幻冬舎文庫)
太田 哲也
幻冬舎

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沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)
山崎 豊子
新潮社

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戦艦武蔵 (新潮文庫)
吉村 昭
新潮社

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