いやぁ、もうこんな時間ですか。わたくしの最終講義もそろそろ終わりの時間を迎えようとしています。大学での講義が最後…、本当に感慨深いものがありますね。まぁ、学生諸君にとってはとても嬉しいことだと思いますが(笑)。さて、もうそろそろまとめに入りましょうか…。
今まで、日本の下等生物学の進化とその歴史をわたくしの視点でお話してきました。こうやって振り返っていくと、わたくし自身も多くのことに気づかされました。まず、一番大切なこととして下等生物学は少しずつ着実に広がりと深みを見せているということです。先ほどもお話ししたように、わたくしがイギリスから帰ってきた時、日本で下等生物学という言葉を知っている人は研究者も含めて皆無と言っていい状況でした。その後、わたくしは大学に奉職し、その中で集めた仲間たちと下等生物研究会を設立し、そこに沢山の人々が集まってきました。加藤先生とわたくしで下等生物学を学ぶための通年セミナーを催し、仲間たちが増え、現在も増え続けています。着実に下等生物学を学ぶ若い人たちが増えてきているということです。そしてその結果として下等生物学の研究もかなり進んできています。これはわたくしにとってはとても嬉しいことです。
しかし、下等生物学を学ぶ人が増えているということは、上等生物が現実の場面で下等生物に困らされる機会が増えているということを表している可能性があります。つまり、上等生物の生活環境がシビアになってきているということですね。これはとても重大なことだとわたくしは思っています。わたくしは加藤先生ほど過激ではないにせよ、下等生物による上等生物の人権蹂躙は許されないことだと言い続けてきました。その人権蹂躙がかなりシビアに起こってきているのであれば、下等生物学者としてそれを放っておく訳にはいきません。下等生物学者として立ち上がらねばならないとも思っています。
日本の下等生物学を取り巻く現状については、広がりは見せているというものの、まだまだ厳しいものがあるのも事実です。日本国民の多くが下等生物学を差別の学問であり、下等生物学者を差別主義者と罵る現状があります。これはわたくしたちの学問が社会に対して開かれておらず、学問の実態を伝えていないことからくる誤解が根底にあります。今後は、もっと下等生物学を広めなくてはいけないとわたくしは思っています。そのためには下等生物学の基本を、本当にわかりやすく市民の皆さんに伝えていく必要があるのだろうと考えています。そして何より、若い人たちにもっと下等生物学を学んで欲しい。差別をなくすためには、未来を担う若い力にこそこの学問を徹底的に学んで欲しいと思います。未来は無限です。その無限の中で何を形作っていくかは、若いあなたたちに託されている。それを忘れないで欲しいですね。
下等生物学は本当に素晴らしい学問です。決して差別のための学問などではありません。先ほども申し上げましたが、下等生物学の基本は、下等生物の禁止ありきではないのです。もちろん、下等生物を処理することは大切なことです。しかし、それ以上に大切なことがあることを忘れてはいけない。それは何かといえば、上等生物の保護です。上等生物をどのように手厚く保護するのか、そこをまず考えなくてはいけません。その前提の上で、下等生物を処理・処罰していくという議論が出てくるのです。下等生物学という学問の素晴らしい所は、下等生物が愚かであるということを教えてくれることと、それと同様にわたくしたち上等生物の中にもそのような愚かな部分があるということを教えてくれることなのです。少なくともわたくしは、わたくしたち上等生物のことも顧みていくという下等生物学に心を惹かれ、今まで研究をしてきました。下等生物の処理・処罰だけがクローズアップされるような下等生物学は間違っていると思います。
差別に負けず、暗闇の中、光を探しもがきながら歩み、生きていくことが下等生物学者の使命だと思うのです。最後に本学の諸先生方や、今までわたくしの講義を我慢強く聞いてくれた学生の諸君、そしてお忙しい中わたくしのために駆けつけてくれた卒業生諸君に感謝いたします。わたくしの最終講義は以上です。ご清聴ありがとうございました。(拍手)
【質疑応答につづく】